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特別 2

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 雄大さんは、セクハラしない、という言葉通りに、ただ焼肉を奢ってくれて、ただオレの話を聞いてくれただけだった。

 なんか、調子狂うな。オレが玉潰すって言ったのが効いてたか?

 マンションの部屋の前で挨拶をして別れる。

「涼太」

 お互いに自分の部屋のドアを開けたのと同時に雄大さんの声。

「はい?」

「お前はさ、見た目の割には鈍くて酷いやつだよな」

 ええ?別れ際に悪口かよ。

「だけど、結構いい子ちゃんだったりする」

 は?なに?雄大さんなりのツンデレ?

「家と青くん、どちらか選べないのはお前がいい子ちゃんだからだ。でもな、もっとわがままにならないと、本当に欲しいものは手に入らなくなるぞ」

「わがまま、ですか?」

「・・・何言ってんだろうな、俺。・・・らしくないわ、アホらし。じゃあな、お疲れ」

「お疲れ様です」

 ・・・なんだったんだ。




 その日から、青の帰りが遅くなった。仕事が忙しくなったらしい。
 今までのオレだったら気にも留めなかったかもしれない。
 でも、毎日のように1時間2時間減った青との時間が、やけに不安に感じるようになってしまった。オレの帰りが遅かった時、青もこんな気持ちだったんだろうか。





 そんな生活が1ヵ月ほど続いて・・・遂に親父からあの連絡が来てしまう。

 今度の日曜日、つまり明後日。親父の行きつけの料亭で待つ、と・・・。
 正装で来いって言われたし、飯時を避けた午前中の待ち合わせ。
 これは確実に、見合い、って事だよな。

 青に、言うべきだよな・・・。気が重い。

 時計を見ると、22時前。もうすぐ帰って来るはず。
 そう思ってすぐに玄関のドアの音がする。

「ただいま」

「お、おかえり・・・」

 青は、ソファに座るオレに軽くキスをして自室へ入っていく。

 疲れてるよな・・・。毎日遅いし。最近セックスもしてない。
 青が仕事で大変な時に、こんなくだらない話すんのも悪いか。怒らせるだけだし。

 それに、雄大さんに言われて、自分なりに決めたんだ。親父の気の済むまで見合いはするけど、誰とも結婚なんかしないって。

 青に余計な負担かけたくねーし、これは自分でどうにかしなきゃなんない問題だ。



 寝室に入ってベッドに横になっていると、風呂から上がった青がオレの部屋に入ってくる。

「おやすみ、涼太」

 ただいまのキスと同じ、ただ触れて離れてしまう青の唇。

 なんだよ・・・。疲れてんのわかるけど、そんだけ?

 全然足りない。もっと・・・

「あお、寝んの?」

 部屋を出て行こうとする青を呼び止める。

「なんで?」

 もう一度傍まで来た青が、ベッドの横にしゃがんでオレの頭に手をのせてくる。

「寝れない?」

 青は大きな手でゆっくりと頭を撫でてくれる。 

「そんなことないけど・・・」

 頭を撫でてくれるだけ?・・・もっと求めてくんねーの?

「涼太が寝るまでいてやるから、もう目瞑れよ」

「・・・うん」

 明日オレは休みだけど、青は仕事だもんな・・・。わがまま言えないよな。

 目を閉じてみても、眠れそうにない。だけど、青にずっと撫でててもらう訳にもいかないし・・・。
 ・・・あー、セックスしてーな。でも我慢。


しばらくして

「涼太?寝た?」

 確認する青に、寝たフリをするオレ。

 撫でてくれていた手が離れて、瞼に柔らかい感触が落とされた。

 青は、音を立てないように静かに部屋を出ていく。

「・・・ムラムラしてんの、オレだけ?」

 青が求めてくんなきゃ、オレがここにいる意味無くなるじゃん。
 あんだけ親父に啖呵切っといて、結局、体すら使えねーんじゃん、オレ。

 雄大さんが言う「わがまま」ってなんだ?
 どこまでが許されるんだ?

 オレが今、青の部屋に夜這いに行くのは許されるわがまま?

 見合いなんかしたくないって親父に駄々こねるのは?

 そういうわがまま全部やったら、青と一緒にいられる?

 あーもうわっかんねーよ!オレ、頭悪ぃんだから分かるように教えてくれよ!


 ・・・にしてもムラムラすんな・・・。1ヶ月、キスしかしてねぇ。しかもフレンチなやつ。
 ・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・ちょっとだけ・・・

 下着の中に手を入れて、握ってみる。

 記憶の中で青の手や舌が這う場所を自分の指でなぞると、すぐに反応してガチガチになって、溢れてくる液体で手が濡れてくる。

 こんなに出てきちゃうのかよ・・・。オレがこうなるって、青はもちろん知ってるんだよな・・・。今更だけど、恥ず・・・。

 この体のことはきっと、オレより青の方が知ってる。どこを触ったら気持ちよくなるのか、どうしたらオレが堪えられなくなるのか、全部。

 ・・・足りない。

 後ろにも手を伸ばすけど・・・どうしても青が欲しくてたまらなくなりそうで、伸ばした手を引っ込めた。

 自分の手と指で前を弄っても、青の手と比べて小さくて細くて、あんまり気持ち良くない。

「・・・くっそ」

 両手で強く握って何度も上下させて、ただ事務的に動かすだけ。それだけでも溜まった欲望を放出する事はできた。

 だけど、体の火照りはおさまらなくて、虚しさだけが残る。

 オレはもう、青じゃなきゃダメなのに。
 青だけがオレの特別なのに。なんで求めてくんねぇの?

 どんなに酷くされてもいい。いっそヤリ殺されてもいいから・・・

「バカじゃん、オレ。まじで・・・」



 この時のオレは何も知らずに、青の帰りが遅い理由を、仕事だと信じていた。
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