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涼くんのパパ 1

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「おかえりなさい、青くん」

「た、ただいま・・・です」

 21時ちょっと前。帰宅した俺は、涼太の母親に笑顔で出迎えられた。

「青くん、すっかり大人っぽくなっちゃって~。おばちゃんなんだかときめいちゃう~!きゃっ」

 おばちゃん、には見えない若々しくて綺麗な小林母。

「はは。ご無沙汰してます。すみません、一度ご挨拶にとは思ってたんですが・・・」

 ええ~・・・昼間の電話の事だよな、コレ。まさかと思うけど、涼太の父親も・・・?

 リビングのドアを開けると、バツが悪そうな顔で腕と足を組んでソファに座る涼太・・・の横に同じポーズで座るスーツ姿の中年男性。

 おいおいおい、やっぱり来ちゃってるよ父も!実家に顔出せっつー話じゃなかったか?
 突撃お宅訪問には、さすがにビビるぞ、俺も。

「君が、青くんか」

 小林父が立ち上がり、俺に歩み寄ってくる。

「あ、はい。すみません、本来ならこちらから伺わなければいけないのに・・・。山田 青と申します。涼太くんとは、真剣にお付き合いさせて頂いてます」

 頭を下げる俺を、目を見開いて凝視する小林父。初対面でこのガン見・・・。これは・・・値踏みされてるな・・・。
 お父上、細身で身長もそんなに高くはないけど、堂々とした貫禄があって、何より視線がこえーよ、マジで~。
 
 小林父、よく見ると目元が涼太と似てるな。涼太みたいな中性的な感じは無いけど、端正な顔立ちだ。
 小林母も昔から綺麗で年齢不詳な美魔女だし、さすがは涼太の両親だな。


「パパぁ?なんにも言わないの?」

 小林母の呼びかけに、ハッと我に返るようにして小林父は話し出す。

「青くん、君はなぜ男の涼太と?顔か?顔なのか?ん?父の私から見ても、美しい人形のようだと思う時があるからな。・・・それともなんだ、まさか涼太の、かっかっ、体が目当てなのか?ああ?」

 食い気味に顔を近付けて来た小林父に捲くし立てられる俺。

「・・・イヤ、決してそんな・・・」

 顔にも体にも溺れてます、なんて言える訳ねーだろ!
 つーかなんかヤバそうだぞ、この人。

 涼太の方を横目で見る。目が合って、涼太は首を覆うニットを口元が隠れるくらいまで引き上げ、ふいっと目を逸らす。

 何も言うなって事か?

「君のその容姿で女性に不自由しているようには到底見えないんだが・・・・・・・・・君は、研修医とはいえ医者だそうだな?じゃあ何か?うちの病院が狙いか?そのために涼太を利用しているのか?」

 ・・・は?
 そりゃあ、涼太の祖父や父に医者として認められたい気持ちがあるのは確かだ。

 涼太の曾祖父が築いて、現在は祖父が理事長、父が院長の総合病院。在籍する医師達は皆腕が良く、スタッフ達の対応も丁寧だと専らの評判。そのブランド力に魅力が無いわけじゃない。だけど・・・

 悪い、涼太。何も言わないなんてできない。

「もし、お義父さんが考えている通りだとしたら、涼太ではなく美織さんを口説いてます」

「なっ、お義父さんと呼ぶな!」

「病院が目当てなら、医療にも従事していない男の涼太を好きになんてなってない。涼太を愛してるんです。ただそれだけです」

 どう伝えていいか分からない。
 でも、家が目当てだなんて、絶対に思って欲しくない。

「・・・今は好きにやらせているが、美織が開業医に嫁ぐ以上、いずれは理事として涼太に病院を継がせるつもりだ。涼太にはそれなりの相手をあてがう。もちろん男などではない」

「ちょっと待てよ親父!ふざけんな!」

 今まで黙って聞いていた涼太が、突然立ち上がって小林父に詰め寄る。
 涼太の勢いに圧されて、一歩後退る小林父。

「ふ、ふざけてなんかいない!もうお前しか跡取りはいないんだぞ!恨むなら、家を出る美織を恨め!」

「美織はカンケーねぇだろ!オレの相手を親父が決めるのがおかしいって言ってんだよ!クソハゲが!」

「禿げてなんかいない!このフサフサがお前には見えていないのか!」

「心がハゲてんだよ!親父は心の髪が枯れて腐ってハゲてるっつってんだよ!」

 ・・・なんの言い合いになってるんだよ・・・。


「涼くん!本当にわからないのか?お前は昔からそうだっただろう?」

 小林父も涼くんて呼んでんのか・・・。

「ああ!?何がだよ!?」

「パパは心配なんだ!幼い時、家政夫の男に誘拐されたじゃないか!」

 ええ!?マジで!?・・・つーか、パパって。

「美織が警察に知らせて、結局未遂だったじゃねーか」

「小学校の時に近所の大学生に何年もストーキングされてただろう、気持ちの悪い男だった・・・」

 ええ!?また男!?

「それだって、美織がボッコボコにして・・・」

「まだあるぞ。空手の指導者にセクハラだってされたじゃないか!」

 ・・・もちろん男だよな、この流れ。
 涼太が空手を辞めたのは、それが原因だったのか。

「涼くんは男からそういう対象として見られているんだ!この男だって奴らと変わらない。お前をいやらしい目でしか見てない・・・」

「うるっせぇ!!わかってんだよ、そんな事言われなくたって!!」

「涼くん、落ち着いて」

 小林母が、宥めるように涼太の背中を撫でる。

「わかってるよ、青にもそう思われてるって。けど、それでもいいよ。オレなんかの体で、青が満足して一緒にいてくれるなら、それでいい」

 涼太は握った拳を口元に持っていき俯いた。表情はよく見えなかったが、少しだけ震えている声が、いつもは強気な涼太を弱々しく感じさせた。

 すぐにでも抱き締めたい。

 そんな状況じゃないのはわかっている。今の俺の言動や行動は、きっと小林父の神経を逆撫でするだけだ。

 何も言えず、動けない自分がもどかしい。
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