上 下
177 / 210

本命くんと愛人さん 1

しおりを挟む
「あおー、今日買い物行かねぇ?」

 昼前になってようやく起きてシャワーを浴びた涼太が、タオルで髪を拭きながらソファに座る。

「いいけど。なんか欲しいもんでもあんの?」

「うん。スニーカー。服はうちの着なきゃダメだけど、靴は他社のやつでもいいから」

「じゃあ俺も買おっかな。涼太とお揃いで」

「やめろよ。お揃いとかきもい」

 冷めた眼差しで俺を見る涼太。
 ちっ。いつも一緒に行動してるわけじゃねーんだから、ちょっとくらい恋人らしいことしたってバチ当たんねーのに。





 部屋を出てエレベーターを待っていると、止まったエレベーターの中から見覚えのある人物が出てきた。

「雄大さん」

「よー涼太。・・・とその本命」

 本命・・・。嫌味なんだろうけど、正直気分は悪くない。

「どっか出掛けんの?」

「ちょっと買い物に。雄大さんは?」 

「引っ越したばっかだし足りないもの、色々買ってきた」

「そうなんすね。あ!昨日ミートパイご馳走様でした。めっちゃうまかったです」

「ああ。そっか、よかった」

 佐々木は、涼太にニコッと笑顔を向ける。
 フン、お前が持ってきたミートパイは俺が涼太に口移しで食わせてやったぞ、ざまぁみろ。

「・・・にしても、おまえら仲良いんだな。昼も、・・・夜も」

「夜?」

 佐々木の言葉に、涼太は不思議そうな顔をする。

「はは、なんでもないよ。じゃあまたな」

 すれ違いざまに俺の方を一瞬見て、佐々木は自分の部屋へと向かっていった。

 昨夜の涼太の声を、佐々木は聞いていたんだと確信した。

「夜って・・・夜なんか出会ってねーよな?ボケたか、雄大さん」

 涼太は酔っ払っていたせいで、自分がどんな声で抱かれていたかもわかっていない。
 ・・・俺が仕向けたってバレたら、蹴られるだけじゃ済まないな・・・、黙っておこう。





 結局、涼太とお揃いで買うことを許可してもらえず、同じスニーカーのモデル違いを買って、涼太の好きなハンバーグを食べて帰った。

「あ!やっべぇ!帰りに炭酸買ってくんの忘れてた・・・」

 冷蔵庫を開けた涼太は、ガックリと肩を落とす。

「・・・また下まで行くのめんどくせぇ・・・青ぉ・・・」

「ハイハイ!買ってくればいいんだろ!」

 こうやって涼太の事を甘やかして、自らパシリになってしまう俺。
 でも、可愛いから仕方ない・・・

「や、こんばんは、本命くん」

 マンションのエントランスを出たところで、本日二度目の佐々木に出会ってしまった。

 ついてねぇ・・・。イヤ、逆に良かったかも。涼太を行かせなかった俺の判断は正しかった。

「どーも」

 軽く会釈して去ろうとする俺を、引き止めるように佐々木は話し出す。

「昨夜は、引越し祝いにあんな声聞かせてくれたのかな?」

「あー、聞こえましたか?すみません。うるさくて寝れなかったですか?ご迷惑でしたね」

 俺は白々しく笑顔を作る。

「安物のAVより興奮したよ。涼太の声で危うく勃つところだった」

「そうですか。刺激してしまってすみません」

「でも、あんなにヤダヤダ言わされてんのは可哀想で萎えちゃったな」

 俺に負けないくらいの白々しい佐々木の笑顔に、苛立ちが溜まり始める。

「俺だったら、イヤだ、なんて言わせないくらい気持ちよく抱いてやれるのになぁって思ったよ。下手なのかな?青くん?」

 いっらぁ~・・・マジでムカつく。
 でも、ここで挑発にのる訳にはいかない。

「そう、ですね。でも、イヤだ、はもっと欲しいって意味だと教えてありますから」

「へぇ。じゃあ、最中にそんな事考える余裕あるんだね、涼太に。もっと何も考えられないくらいになってるんだと思ってたよ」

 ダメだ。これ以上こいつと話してたら、眼窩前頭皮質が損傷してしまう!

「はは、じゃあ俺急いでるんで失礼します」

「引き止めて悪かったね、じゃ」

 佐々木に浅く頭を下げ、コンビニへ向かう。

 クッソ腹立つ!ふざけんな佐々木~!


 イライラを噛み殺しながら、カゴいっぱいに入れた炭酸水を買って部屋へ戻った。

「さんきゅー・・・って何だよ!この量!何本買ってくんだよ、冷蔵庫入りきらねーし」

 大量に買ってきた炭酸水に涼太が戸惑っている。

「そんなことより!なあ、俺って下手!?」

「はあ?なに?下手って・・・」

 詰め寄る俺に、ますます戸惑った様子の涼太。

「決まってんだろ、セックスだよ。なあ、俺、下手クソ!?」

「し、知らねーよ!だいたい、青以外とヤッた事もねぇオレに聞くな!」

「死んでも俺以外とヤらせるかよ!」

「は?意味わっかんねぇ。エレベーターに頭でも挟まれたか?」

 涼太の呆れた声が聞こえたが、俺はそれに答える余裕もないくらい、佐々木に対して腹が立っていた。佐々木の一言一言に、いちいち心を乱されている自分にも。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[R-18] 奴隷のレッスン:騎士団所属の末っ子王子は、イケメン奴隷に身も心も奪われる

山葉らわん
BL
【縦読み推奨】 ■ 第一章(第1話〜第9話)  アラディーム国の第七王子であるノモクは、騎士団長ローエの招きを受けて保養地オシヤクを訪れた。ノモクは滞在先であるローエの館で、男奴隷エシフと出会う。  滞在初日の夜、エシフが「夜のデザート」と称し、女奴隷とともにノモクの部屋を訪れる。しかし純潔を重んじるノモクは、「初体験の手ほどき」を断り、エシフたちを部屋から追い返してしまう。 ■ 第二章(第1話〜第10話)  ノモクが「夜のデザート」を断ったことで、エシフは司祭ゼーゲンの立合いのもと、ローエから拷問を受けることになってしまう。  拷問のあと、ノモクは司祭ゼーゲンにエシフを自分の部屋に運ぶように依頼した。それは、持参した薬草でエシフを治療してあげるためだった。しかしノモクは、その意図を悟られないように、エシフの前で「拷問の仕方を覚えたい」と嘘をついてしまう。 ■ 第三章(第1話〜第11話)  ノモクは乳母の教えに従い、薬草をエシフの傷口に塗り、口吻をしていたが、途中でエシフが目を覚ましてしまう。奴隷ごっこがしたいのなら、とエシフはノモクに口交を強要する。 ■ 第四章(第1話〜第9話)  ノモクは、修道僧エークから地下の拷問部屋へと誘われる。そこではギーフとナコシュのふたりが、女奴隷たちを相手に淫らな戯れに興じていた。エークは、驚くノモクに拷問の手引き書を渡し、エシフをうまく拷問に掛ければ勇敢な騎士として認めてもらえるだろうと助言する。 ◾️第五章(第1話〜第10話)  「わたしは奴隷です。あなたを悦ばせるためなら……」  こう云ってエシフは、ノモクと交わる。 ◾️第六章(第1話〜第10話)  ノモクはエシフから新しい名「イェロード」を与えられ、またエシフの本当の名が「シュード」であることを知らされる。  さらにイェロード(=ノモク)は、滞在先であるローエの館の秘密を目の当たりにすることになる。 ◾️第七章(第1話〜第12話)  現在、まとめ中。 ◾️第八章(第1話〜第10話)  現在、まとめ中。 ◾️第九章(第一話〜)  現在、執筆中。 【地雷について】  「第一章第4話」と「第四章第3話」に男女の絡みシーンが出てきます(後者には「小スカ」もあり)。過度な描写にならないよう心掛けていますが、地雷だという読者さまは読み飛ばしてください(※をつけています)。  「第二章第10話」に拷問シーンが出てきます。過度な描写にならないよう心掛けていますが、地雷だという読者さまは読み飛ばしてください(※をつけています)。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

怖いお兄さん達に誘拐されたお話

安達
BL
普通に暮らしていた高校生の誠也(せいや)が突如怖いヤグザ達に誘拐されて監禁された後体を好き放題されるお話。親にも愛されず愛を知らずに育った誠也。だがそんな誠也にも夢があった。だから監禁されても何度も逃げようと試みる。そんな中で起こりゆく恋や愛の物語…。ハッピーエンドになる予定です。

純粋な男子高校生はヤクザの組長に無理矢理恋人にされてから淫乱に変貌する

麟里(すずひ改め)
BL
《あらすじ》 ヤクザの喧嘩を運悪く目撃し目を付けられてしまった普通の高校生、葉村奏はそのまま連行されてしまう。 そこで待っていたのは組長の斧虎寿人。 奏が見た喧嘩は 、彼の恋人(男)が敵対する組の情報屋だったことが分かり本人を痛めつけてやっていたとの話だった。 恋人を失って心が傷付いていた寿人は奏を試してみるなどと言い出す。 女も未体験の奏は、寿人に抱かれて初めて自分の恋愛対象が男だと自覚する。 とはいっても、初めての相手はヤクザ。 あまり関わりたくないのだが、体の相性がとても良く、嫌だとも思わない…… 微妙な関係の中で奏は寿人との繋がりを保ち続ける。 ヤクザ×高校生の、歳の差BL 。 エロ多め。

監禁されて愛されて

カイン
BL
美影美羽(みかげみう)はヤクザのトップである美影雷(みかげらい)の恋人らしい、しかし誰も見た事がない。それには雷の監禁が原因だった…そんな2人の日常を覗いて見ましょう〜

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

俺の番が変態で狂愛過ぎる

moca
BL
御曹司鬼畜ドS‪なα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!! ほぼエロです!!気をつけてください!! ※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!! ※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️ 初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀

処理中です...