上 下
136 / 210

棘 1

しおりを挟む
 美織と何も会話の無いまま、空港に着いたオレは車から荷物を下ろす。

「涼くん、帰る時はちゃんと連絡入れるのよ」

「わかってるよ。子供扱いすんな」

ドスッ
「うっ!」

 すかさず美織の蹴りが腹に入る。

「人をタクシー代わりにしといて偉そうにしてんじゃないわよ」

「すいません。アリガトウゴザイマス。連絡ちゃんとします」

 うう、痛てぇ。人前で蹴るんじゃねーよ!ゴリラばばぁ!

「じゃあ、元気でね。たまにはお母さんに電話くらいしてあげなさいよ」

「ハイ。じゃあオレ行きます」

「・・・私は、青はあんたの事、本気だったと思う」

 本気?そんなわけない。
 いつも『俺のもの』って言ってたのはそのままの意味だった。
 青にとって、オレは『物』でしかなかった。

「もう行くわ。後輩待ってるし。ありがとな、ねーちゃん」

 美織と別れ、出国ロビーに入ってすぐにタケルの姿があった。

「涼太さん、おはようございます。・・・なんか、涼太さん雰囲気変わりましたね」

「そんなことないよ。海外とか修学旅行以来だし緊張してるだけ」

 タケルは鋭い。

「とりあえず、手続きして中でなんか食べましょう」

 出国手続きをして、カフェで軽食をとることにしたが、どうしても飲み物以外喉を通ってくれない。

「青さんと、なんかあったんですね?言いたくないならいいですけど」

「えっと・・・」

 どうせ、いつかは分かってしまう事だ。

「今度こそ、終わった。青と」

「・・・そうですか」

 タケルは、以前のように驚くことはなかった。
 オレたちが別れる事を予想していたかのように思えた。

「まあ、別れてよかったのかもな。もう、物扱いされなくていーし」

「強がってるんですか?それとも、それが涼太さんの本音ですか?」

 なんでこう、いつも返事に困る事言うんだよ。

「わかんねぇ・・・」

 わからない。本当に。
 でも

「飯も食えないほど、ダメージ食らってるって事は確かみたいだ」

「俺の支えは、いらないですか?」

 青と別れて、タケルと・・・?
 笑えねぇだろ、それ。

「イヤ。だいじょうぶ。ありがとな」

 いらない。青以外は。

 青に突き放されるような事を言われても、もう考えたくなくても、結局思うのは青の事だ。
 オレは、スマホを取り出して通話履歴から青の番号を探す。

 ・・・無い。
 電話帳の中にも、メッセージの履歴も、青のだけが無い。
 おそらく青が消去したのだろう。
 青の連絡先を知る術が無いわけじゃない。だけど、オレはそのままスマホをポケットに入れた。
 
 本当に終わったんだ・・・。






二年後  上海

「もう!なんでそんな急なの!涼太は私の事なんて全然好きじゃない!全然会えないし、もういい!さよなら!」

 ・・・ああー・・・。また振られた。
 なんで、オレ長続きしねぇんだろ。

 上海に来て以来、付き合って振られたの5人目なんですけど!

 1人目は、初めての彼女というものにビビりすぎて、なかなか手を出せず、シビレを切らした彼女に激怒されて振られた。

 2人目には、キスが下手だと言われて振られた。

 3人目は、オレの裸を見た彼女にドン引きされて振られた。

 4人目は、いざ挿入って時にまたもビビってしまい、萎えてしまうという失態をしてしまい振られた。

 5人目は、まだ付き合って一ヵ月も経っていないのに、帰国するのが来週だと言った途端に・・・。しょうがねぇじゃん。本社への移動命令が急に出たんだから。

 はあ・・・。上海にいる日本人女性とは、うまくいかねぇのかな。
 だからといって、言葉もほとんど通じない相手と付き合う自信ねーし。
 結局、童貞のままなのが悲しいぜ・・・。

「涼太さん、また振られたんですか?」

 隣の部屋を借りているタケルが、オレの部屋を覗いて呆れた顔をする。壁が薄いせいで、会話がいつも筒抜けてしまうのだ。

「うるせえ。オレだって好きで振られてるわけじゃねぇよ」

 タケルがオレの部屋に入ってきて、ベッドに腰掛けるオレに手を伸ばしてくる。

「いつもみたいに、慰めてあげましょうか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕達の過ち

真田晃
BL
『鈴、好きだ』 『…ん、僕も……』 『なら、一緒に遠くへ行こうか……』 まだ中学生の僕達は ……駆け落ちした その先には、夢のような生活が待っていると思っていた… でもそれは、浅はかな考えだったと 直ぐに思い知らされた

TS陸上防衛隊 〝装脚機〟隊の異世界ストラテジー

EPIC
SF
陸上防衛隊のTS美少女部隊(正体は人相悪い兄ちゃん等)と装脚機(ロボット歩行戦車)、剣と魔法とモンスターの異世界へ―― 本編11話&設定1話で完結。

たまには働かないと、格好がつかないし、ね?

氷室ゆうり
恋愛
さて、今回は異形化、というか融合系ですね。少しばかり男体化要素もあるかなぁ?杏理君はなんだかんだ私の小説では頑張ってくれます。ちょっとばかり苦手な人もいるかもしれませんが、なるべくマイルドに書いたつもりです。…たぶん。 ああ、ダークにはしていないのでそこはご安心ください。 今回も、r18です。 それでは!

どいつもこいつもかかって来やがれ4th season

pino
BL
頭悪し口悪しのヤンキー絶体絶命!?夏休み中に伊織と浮気をしてしまったが、その時の現場を何者かに盗撮されていて、浮気シーンが写った数々の写真が学校中にばら撒かれてしまう。新学期早々生徒指導室に呼び出されて、今度こそ退学か!?面倒くさがりな貴哉に今回降りかかる面倒事は過去最大級だった。 「誰だよ犯人!見つけ出してぶん殴ってやる!」 出席日数ギリギリの貴哉は無事退学を免れる事が出来るのか!? 他にも球技大会もある二学期編スタートです! 青春ドタバタラブコメディ。 貴哉総受け。総愛され。 他にもカップル出てきます。 BLです。 今回の表紙は、学校一の問題児の一条紘夢くんです。 こちらは4th seasonとなっております。 前作の続きとなっておりますので、より楽しみたい方は、完結している『どいつもこいつもかかって来やがれ』『どいつもこいつもかかって来やがれ2nd season』『どいつもこいつもかかって来やがれ3rd season』を先にお読み下さい。 貴哉視点の話です。 ※印がついている話は貴哉以外の視点での話になってます。 今作は途中、視点が色々な人物に変わる時があります。読みにくくなってしまうかもですが、ご了承ください( ; ; )

気弱な男子と強気な女性が入れ替わる話。

氷室ゆうり
恋愛
うーん、最近人気がちょっぴり減ったかもですね。鉄板の入れ替わりで逆転を図ります! 男女の入れ替わりは大人気なはずなので、今後に期待します! ああ、r18ですので、どうぞよろしく! それでは!

ゲイの修羅場に鉢合わせてしまいまして。

ミヒロ
BL
大学も休みの昼下がり。カフェで優雅に過ごしていた孝介は隣の席のゲイの修羅場に鉢合わせ。見て見ぬふりしていよう、と考えていた筈なのに。 ※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)

キセキなんか滅んでしまえ!〜ようやくドロドロに溶けた肉体が戻ったと思ったら、美少女と肉体が入れ替わっている〜

マグローK
青春
 かつて体が溶ける不運に見舞われたぼっち体質の主人公遠谷メイト(とおたにめいと)は、クラスだけでなく学校でも浮いている美少女、成山タレカ(なりやまたれか)と肉体が入れ替わってしまう!  過去の伝手を頼り、今回も本人の願いが歪んだ形で叶ってしまうキセキだと判明。  願いを処理してタレカを元の体に戻るため、メイトはタレカの願いを叶えようと奔走する。  果たして、二人は元の体に戻れるのか!? この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません この小説は他サイトでも投稿しています。

菊松と兵衛

七海美桜
BL
陰間茶屋「松葉屋」で働く菊松は、そろそろ引退を考えていた。そんな折、怪我をしてしまった菊松は馴染みである兵衛に自分の代わりの少年を紹介する。そうして、静かに去ろうとしていたのだが…。※一部性的表現を暗喩している箇所はありますので閲覧にはお気を付けください。

処理中です...