上 下
102 / 210

手に入れるためなら 4

しおりを挟む
 例え涼太を、自分を、その他大勢を傷付けても、俺は涼太を手放す気は無い。

「男欲しいなら、他当たれよ」

「待って!青くんっ!」

 立ち上がって玄関に向かう俺を加藤が呼び止める。

「あの・・・もう、こんな事しない。だから、削除してくれるよね?」

 加藤が震えた声で問いかけてくる。

「悪いな、加藤。俺にとって、涼太と、涼太が大切にしてるもの以外は全部ゴミだから。ゴミの言ってる事よくわかんねーわ」

「・・・最低」

 加藤が涙を流す。
 その光景を見ても、俺は何一つ心が動かなかった。

「やっと気付いてくれたみたいで良かったよ。じゃあな」

 俺は、泣き崩れる加藤を見ない振りで部屋から出た。





 青のいない真っ暗な部屋に帰ってくるのも、もう何日目なんだろう。
 ただいま、と言っても迎えてくれる青がいない事が、淋しい。
 体の一部分が抉られてるみたいだ。

 昇進して、今まで以上にしっかりしなきゃなんないのに・・・。いつまでこんな状態引き摺ってんだ。

 青に会いたい。顔が見たい。声が聞きたい。青の手で、指で、唇で、触ってほしい。
 もう、叶わないのかもしれないけど・・・。

 ジャケットをソファに掛け、青の部屋に入る。

 少しでも青がいた気配を感じたくて、青のベッドに横になって頭まで毛布を被る。

 オレ、こんなに青の事好きだったんだな・・・。
 いなくなるまで、知らなかった。

 電話、したいけど・・・

 毛布にくるまって、スマホを見るけれど、電話をかける勇気は、オレには無かった。






 加藤の部屋を出た俺は、実家ではなくアパートへ向かっていた。

 涼太に早く会いたい。あの顔に、唇に、肌に触れたい。
 俺を待ってくれているかは、わからないけれど。

 部屋の前まで来て、ドアを開ける手が躊躇する。

 別れると言った俺を、今更涼太が受け入れてくれるのかが不安だ。

 意を決してドアを開けると、部屋の中は真っ暗だった。
 玄関に片付けられていない靴がある。もう寝た?
 涼太の部屋を覗くが、姿がない。

「どこ行ってんだ、あいつ」 

 もしかして、俺の部屋・・・?

 俺は自分の部屋のドアを開ける。

「なんでここにいるんだよ・・・」

 ベッドの上に丸まっている毛布の塊がある。
 頭から毛布を被っているため見えないが、それが涼太だと分かって、胸が締め付けられたみたいにぎゅっとなる。

 頭にかかっている毛布をそっと捲ると、スマホを握ったままの涼太が静かな寝息を立てていた。

 冷たい空気に触れたせいか、涼太が更に体を丸くする。

「ん、あ・・・お・・・」

 寝言で名前を呼ばれて、心臓が鷲掴みにされたみたいになる。

 やべぇ。久しぶりに見る涼太が、俺の夢見てるとか、マジでプレミア感・・・。かわいすぎ!

 寝かせておいてやりたいけど、無理そうだ。

 俺は、涼太の体を上から四つん這いで囲む。

「涼太、起きて」

「んー。青・・・」

 耳元で声をかけると、涼太が薄ら目を開く 。

「あ、青・・・なんでいんの?」

 覆いかぶさっている俺を、不思議な顔で見上げる涼太。

「涼太こそ、なんで俺のベッドにいるんだよ」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕達の過ち

真田晃
BL
『鈴、好きだ』 『…ん、僕も……』 『なら、一緒に遠くへ行こうか……』 まだ中学生の僕達は ……駆け落ちした その先には、夢のような生活が待っていると思っていた… でもそれは、浅はかな考えだったと 直ぐに思い知らされた

TS陸上防衛隊 〝装脚機〟隊の異世界ストラテジー

EPIC
SF
陸上防衛隊のTS美少女部隊(正体は人相悪い兄ちゃん等)と装脚機(ロボット歩行戦車)、剣と魔法とモンスターの異世界へ―― 本編11話&設定1話で完結。

たまには働かないと、格好がつかないし、ね?

氷室ゆうり
恋愛
さて、今回は異形化、というか融合系ですね。少しばかり男体化要素もあるかなぁ?杏理君はなんだかんだ私の小説では頑張ってくれます。ちょっとばかり苦手な人もいるかもしれませんが、なるべくマイルドに書いたつもりです。…たぶん。 ああ、ダークにはしていないのでそこはご安心ください。 今回も、r18です。 それでは!

どいつもこいつもかかって来やがれ4th season

pino
BL
頭悪し口悪しのヤンキー絶体絶命!?夏休み中に伊織と浮気をしてしまったが、その時の現場を何者かに盗撮されていて、浮気シーンが写った数々の写真が学校中にばら撒かれてしまう。新学期早々生徒指導室に呼び出されて、今度こそ退学か!?面倒くさがりな貴哉に今回降りかかる面倒事は過去最大級だった。 「誰だよ犯人!見つけ出してぶん殴ってやる!」 出席日数ギリギリの貴哉は無事退学を免れる事が出来るのか!? 他にも球技大会もある二学期編スタートです! 青春ドタバタラブコメディ。 貴哉総受け。総愛され。 他にもカップル出てきます。 BLです。 今回の表紙は、学校一の問題児の一条紘夢くんです。 こちらは4th seasonとなっております。 前作の続きとなっておりますので、より楽しみたい方は、完結している『どいつもこいつもかかって来やがれ』『どいつもこいつもかかって来やがれ2nd season』『どいつもこいつもかかって来やがれ3rd season』を先にお読み下さい。 貴哉視点の話です。 ※印がついている話は貴哉以外の視点での話になってます。 今作は途中、視点が色々な人物に変わる時があります。読みにくくなってしまうかもですが、ご了承ください( ; ; )

気弱な男子と強気な女性が入れ替わる話。

氷室ゆうり
恋愛
うーん、最近人気がちょっぴり減ったかもですね。鉄板の入れ替わりで逆転を図ります! 男女の入れ替わりは大人気なはずなので、今後に期待します! ああ、r18ですので、どうぞよろしく! それでは!

ゲイの修羅場に鉢合わせてしまいまして。

ミヒロ
BL
大学も休みの昼下がり。カフェで優雅に過ごしていた孝介は隣の席のゲイの修羅場に鉢合わせ。見て見ぬふりしていよう、と考えていた筈なのに。 ※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)

キセキなんか滅んでしまえ!〜ようやくドロドロに溶けた肉体が戻ったと思ったら、美少女と肉体が入れ替わっている〜

マグローK
青春
 かつて体が溶ける不運に見舞われたぼっち体質の主人公遠谷メイト(とおたにめいと)は、クラスだけでなく学校でも浮いている美少女、成山タレカ(なりやまたれか)と肉体が入れ替わってしまう!  過去の伝手を頼り、今回も本人の願いが歪んだ形で叶ってしまうキセキだと判明。  願いを処理してタレカを元の体に戻るため、メイトはタレカの願いを叶えようと奔走する。  果たして、二人は元の体に戻れるのか!? この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません この小説は他サイトでも投稿しています。

菊松と兵衛

七海美桜
BL
陰間茶屋「松葉屋」で働く菊松は、そろそろ引退を考えていた。そんな折、怪我をしてしまった菊松は馴染みである兵衛に自分の代わりの少年を紹介する。そうして、静かに去ろうとしていたのだが…。※一部性的表現を暗喩している箇所はありますので閲覧にはお気を付けください。

処理中です...