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悪意 3

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「じゃあ、涼太さん、俺こっちなんで。お疲れ様です」

「お疲れ様。気をつけて帰れよ」

「俺より、涼太さんですよ。気をつけてくださいね。どんな奴がいるかわかんないですから・・・」

 タケルと駅で別れて、うちへ向かう。

 青もう寝てっかな?
 24時過ぎちゃったし、遅くなったことになんのか?
 何時過ぎたらお仕置きなんだよ・・・

 ドンッ

「いてっ」

 アパートの前で誰かとぶつかり、相手が倒れる。

「すいません。だいじょぶですか?暗くてよく見てなくて・・・」

 倒れた女性に声をかける。
 あれ・・・この人、どっかで・・・

 女性は、着ている服が乱れていて、ブラウスのボタンが取れているのか、胸元がはだけている。

 目が合って、ばっと胸元を隠した女性が立ち上がって走って行ってしまう。

 え?なに?なんかやばそーだったよな・・・
 にしても、どっかで見たことあるんだよな。

 誰だったっけ?と考えながら部屋の前まで来て、何かを踏んだことに気づいて、足元の物を拾うと、パール調のボタンだった。

 なんでこんなとこに落ちてんだろ。

 あ!今、思い出した。あの女の人、『加藤さや』じゃん!

 え、もしかして、このボタン・・・
 加藤さやの服が乱れていた事と、落ちていたボタンが繋がってる気がする・・・。
 
 嫌な予感がしつつ、ドアの鍵を開け中に入る。

「涼太おかえり」

「・・・ただいま」

 青がすぐに近づいてきて、キスしようと顔を寄せてくる。

「待って、青」

「ん?」

 聞きたくない。けど、確かめないと・・・

「もしかして、加藤さん、来てた?」

「なんで知ってんの?待ち伏せされて、部屋の前までついてきて、マジ怖かったわ」

 やっぱり・・・

「青さ、女と付き合ったことあるんだよな?」

「あー、まあ、短いけどな」

 青は、女とセックスしたこともある。男じゃなくても、オレじゃなくても・・・できるって事。

「さっき、そこで加藤さんと出会った」
 
「マジで?涼太、なんもされなかったか?」

「なんかしてたの、青なんじゃねぇの?」

「どういう意味だよ」

「加藤さん、服乱れてたけど。このアパートから出てきたみてーだし」

「知らねーし。ビッチの事だし、誰かとなんかしてたんじゃねーの?」

「コレ、部屋の前に落ちてた」

 拾ったボタンを青に渡す。

「服が乱れてて、部屋の前にそれが落ちてたって事は、そーゆー事なんじゃねえの?」

「は?何言ってんの涼太。話見えねんだけど」

 ヤバイ。疑い出してしまったら、青の言葉全部が、白々しく思えてくる。

「もういい」

 違う。よくない。
 ・・・けど、青を疑ってる自分が嫌だ。

「涼太!」

 腕を掴まれて、青に引き寄せられる。

「ちょ、やだ。離せ」

 青から離れようとするが、がっちり腕の中に閉じ込められて動けない。

「俺の事、信じらんない?」

 信じたい。でも一度疑ってしまったら、黒いモヤモヤが心臓から全身を侵食していくみたいだ。

「青、離せって」

「俺が逃がすと思ってんの?」

 青に無理やり唇を塞がれる。

 嫌だ。今はこういう事したくねぇのに・・・

「やだ。ほんとにやめろって・・・」

「なんなんだよ!いいかげんにしろ!俺が何したんだよ!?」

 珍しく青が声を荒らげる。

「もういいよ。俺の事信じらんないんだろ?好きにしろ」

 青が寝室に入っていく。

 もしかして、オレ、青を傷付けたのか・・・?


 オレ達は、付き合って初めての壁にぶち当たろうとしていた。 
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