拗らせΩは恋を知らない

Hiiho

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番外編 藤と莉央と・・・ 4

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一晩明けて、俺はソファの上で目を覚ます。
正確には無理矢理起こされる。

「ふじー、あそぼー!」

「ぐあっ」

可愛い悪魔が容赦なく腹の上に乗っかってきて、昨日莉央の体重が刺さったのと同じところにダメージを受ける俺。

時計を見ると午前6時ジャスト。
通常ならとっくに起きて旦那様のお召し物を揃えている時間。けど昨夜は、トイレに起きた藤莉を寝かせに行った莉央が戻って来るのを待っていて・・・明け方まで悶々としながら待ち続けていた俺はかなりの寝不足。
結局莉央は戻って来なくて、目を開ければそこにいるのは自分の子供時代と生き写しのようなチビの顔だ。

「こーら藤莉!藤まだ眠そうだろ。無理言っちゃだめ!」

キッチンカウンターの向こうから聞こえる莉央の声。

「だってあそびたいもん、ふじとうみいくのー」

「海に行ったってこの時期はまだ泳げないの!いいから早くご飯食べな」

「え~・・・」

藤莉は俺の腹から下りて、がっかりしながらカウンターテーブルに向かう。

「夏になったら、一緒に海行こうな」

「うん!ぜったい!」

藤莉の大きな声を聞きながら瞼が重くて再び目を閉じると、急激に込み上げる幸福感。
なんか、『家族の会話』って感じがする・・・


「藤、できない約束はしないで。ずっと一緒にいられるわけじゃないんだから」


眠気も夢心地も一気に覚める莉央の言葉。
そうだ。俺はこのままここにずっと居られるわけじゃないんだ。旦那様に無理を言ってもぎ取った1週間の休暇は既に2日費やしている。
ここ数ヶ月 旦那様達が拠点として滞在しているイタリアまでの移動を考えると、俺がここにいられるのは長くてもあと4日。
次に帰国できるのがいつかなんて、明言もできなければ約束もできないんだ。

『家族になりたい』なんて思わず言ってしまったけど、その前にやらなきゃいけない事が山ほどある。


「なあ莉央。俺と一緒に、来て・・・」

「行かない」

ですよね~・・・

「今までずっと父のおかげで遊んで暮らせてたんだ。小さい頃から藤莉に色んな世界を見せてやれ、って言ってくれて。でもここに住むって決めたのは、自分たちの力で生きていかなくちゃって思ったから」

「とーり、おともだちとあそびたい!」

「ここだったらIターン定住や子育て支援に力を入れてる市でもあるし、もう就職先も子どもを受け入れてくれる保育園も決めてある。藤と一緒に行くことはできないよ」

「ふじ、かえっちゃうの?」

藤莉は寂しそうにトーストを齧る。

帰りたくない。けど何もかもを投げ出してここに居たいと駄々を捏ねるほどもう子供じゃない。
莉央がこの場所を選んだのなら、俺は・・・

「そうだな。もう少しだけここにいて、一旦帰って・・・それでまた戻ってきていいか?」

「うん!やったあ!ぜったいぜったいもどってきてね!」

「今日も泊まるつもり!? つーか戻ってくるって、まさか一緒に住むつもりなの!? 勝手に決めんなよ!」

喜ぶ藤莉とは対照的に何故か怒る莉央。
まあそりゃ怒るよな。転がり込む形になるんだし。
それでも莉央達を逃がすくらいなら、多少情けなくても図々しくても食らいついてやる。

「あと2泊するからよろしくな。それに家族になるんだから、俺がここに住むのだって別におかしくないだろ?」

「ちょ、ちょっと待ってよ!家族になるなんてひとことも・・・っ」

「違った?俺が好きだって頷いただろ」

うっ、と莉央はたじろぐ。

「頷いただけで、言ってはない」

「キスしてくれたじゃん。それに、項噛んだだけでイッてたし、ふるふるって震えるくらい・・・」

「ば・・・ッかなの!? 子供の前で何言ってんだよ!わかったからっ、好きにしていいから、もうこの話はおしまいっ!起きたなら藤もゴハン食べなさい!」

顔を真っ赤にして、トーストと目玉焼きとコーンサラダを乗せた皿を ドンッ とキッチンカウンターに置く莉央。
プイッと背中を向けプンスカ怒った後ろ姿。顔と同じくらい赤くなった彼の項には、痣のような歯形と、真新しい歯形が重なりを少しずらして残っている。


ソファから起き上がり、藤莉の横に座ると

「えー、ふじとパパ、ちゅーしたの?」

と無垢な瞳が見上げてくる。

「したよ」

「えー、だめだよ。とーりのパパなんだから」

ぶす っと餅のような頬を膨らませる。
いっちょ前にヤキモチか?パパを盗られたみたいで拗ねてんのか?可愛いだけだな。

「藤莉のパパだけど俺のでもあるんだよ。そんで俺は藤莉とパパのだし、藤莉はパパと俺のなんだ。わかる?」

「わかんない」

「そっか。・・・うん、まあ今はまだいっか。俺がもっとちゃんとしてから、改めて言うことにするな」

「でもパパと もうちゅーしたらだめだよ」

「なんでだよ、するよ。いっぱい」

「だめってゆってるでしょっ。ふじ、とーりにいじわるいけないんだよ?おとななんだからぁ」

「そうだな。大人だから、パパには大人のちゅーしてやんなきゃな~」

「だめぇー!・・・ふぇ・・・」


「もお!!いい加減にしろ、ケンカすんなら二人ともしない!」

「やだやだっ、なかよしするからちゅーしてパパぁ」

怒鳴る莉央に駆け寄り脚に ぎゅっ としがみつく藤莉。

「やだやだー。仲良くするから、俺もちゅー♡」

負けじと俺も莉央を抱きしめる。

「ちょ、調子狂うしなんかキモイから、藤はそういうの止めてって!」

怒ってみせる莉央の眉尻が下がっていて、こんなにも幸せな瞬間があるんだって初めて知った。
この瞬間のためなら、俺はキモイと言われてもきしょいと言われてもいい。

「藤莉、一緒にパパにちゅーしよっか」

「うんっ」

莉央の肩を抱き屈ませると、すかさず藤莉は莉央の頬をめがけ突進するように『ちゅー』をする。その隙をついてガラ空きの唇を素早く奪ってから反対側の頬に口付ける。

「ふ・・・っ!ズル・・・」

ズルイと言いかけた莉央は呆れて溜息を零す。

狡くなるのは仕方ない。これからは可愛い自分の息子が最大のライバルでもあるんだから。
昨夜だっていいところで莉央を持って行かれてしまったし。

くっそ、泊まっていいってお許しも出たし、今日こそは・・・!今日だけじゃなく、明日も・・・!





と思った下心を見抜かれしまったのか、残りの二晩とも藤莉はパパを独占し、俺はひとり寂しくソファで眠ることになった。

別れ際、「いかないで」と泣きじゃくる藤莉に気付かれないように

「次は絶対に抱くから」

と莉央に耳打ちすると、頬を火照らせ

「・・・待ってる」

と、小さく返事が返って来た。


あと少しだけ、待ってて。
今度 莉央達に会う時はきっと、「もう離さない」と言える俺になって戻ってくるから──────







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