マネジメント!

Hiiho

文字の大きさ
上 下
103 / 131

独占欲 3

しおりを挟む
  翌週、スケジュールを詰めに詰めて何とかもぎ取ったのは5日間のオフ。その初日の早朝。新幹線のホームに俺達はいた。

  シウが希望した一週間は生収録の関係上どうしても取ってやれなかったが、それでもありがとう、と喜んでいた。


「マジ、一人で大丈夫か?」

「大丈夫だよ!向こうに着いたらハラボジが迎えに来てくれるし。俺もう大人なんだよ?」

  どの口が言ってんだよ。
  大人になってから、迷子になって櫻子に保護されたくせに。

「俺も明日の打ち合わせが終わり次第、金沢向かうから」

「・・・うん。でも本当に無理しないで、俺一人で大丈夫だから。万里もたまにはゆっくり休んでよ。俺より働いてるじゃん」

  シアンの瞳を黒のコンタクトで覆い隠し、伊達メガネを掛けただけのシウ。
  パッと見は超イケメンのお兄さん。が、3秒も見続ければシウだとわかる。

  道に迷わなくたって、こんなんじゃファンに囲まれて身動きが取れなくなるだろ・・・。

    夏場のマスクは暑いから嫌だと言うシウに、俺は無理矢理マスクを装着させる。

「もぉ、暑苦しいんだって!どうしてもつけてなきゃダメ?」

「俺が傍にいないんだから、外出時は絶対に外すなよ。いいな?」

  シウの頭のてっぺんに片手を置くと、素直に わかった と返事が帰ってくる。
  上目遣いで見上げてくるシウは立派に成人男性の姿をしているのに、なんだか仔犬みたいだ。

  そう見えるのは、ただ俺が過保護になり過ぎているだけなのか、それともたった1日でもシウと離れていたくないと思うからなのか。


「じゃあ俺行くね」

「ああ、気を付けてな」

「帰ったらさ、俺・・・きっと万里にもっと近付いてるから・・・じゃあ行ってきます!」

  と言って新幹線に乗り込むシウ。

「あ、おいっ、どういう意味・・・」

  ドアが閉まって、シウは窓越しに広げた手を上げる。

  徐々にスピードを上げる車輌はあっという間に見えなくなってしまった。


  もっと近付いてる?どういう意味だ?


  シウの考えている事が分からないなんてのはよくある事で、それはいつも俺なんかじゃ想像すらできないこと。つまり、あいつの言葉にどんな意味があるかなんて、考えるだけ無駄だってことだ。


  にしても、明日には俺も金沢に行くって言ってんのに「帰ったら」ってなんだよ。
  いつもは離れたがらないくせに「一人で大丈夫」なんてまるで、俺に来て欲しくないような・・・

  って、え!?

  まままさか、俺とずっと一緒にいるのが苦痛で、無理矢理オフ入れて離れたかったとか!?
  あ、それとも何か?結局一度も俺が後ろ掘らせなかったから、地方でウブなネコでも探して遊んで来ようってアレか?
  もしかして、女とヤリたいとか?

  ダメだ。シウと離れた途端、ネガティブ思考が止まんねぇ!


  ああ、くっそぉ・・・。
  明日のレコード会社との打ち合わせがなきゃ、すぐにでも追いかけるのに!

  ホームに残された俺はその場で頭を抱えてしゃがみ込む。


  いや、ひとまず落ち着け、俺。あいつにそんな器用な事ができる訳ないだろ。

  大きい方がいっぱい食べた気がするとかいう理由で大根を二等分にして鍋に入れるような男なんだぞ。
  仕事以外じゃドが付くほどの不器用で、恋愛の駆け引きすらできない猪突猛進型で、放っておけば綺麗な顔とはまるで不釣り合いの怠惰な生活態度だし。


  ・・・あいつなりに、俺との事を何か考えてるのかもしれない。じゃなきゃ、もっと近付いてるなんて言わないはず。

  気を取り直して立ち上がり、改札を目指して歩き出す。


「ねー、このリップ可愛くない?ね、買ってよぉ」

「はあ?この前同じみたいなの買ってただろ」

  前を歩いている手を繋いだ男女の会話が耳に入ってくる。

「色ちで欲しいんだってば。シウがつけてるこの色も欲しいの!」

  ん? シウ?

  彼女が彼にかざして見せたスマホの画面に、唇から頬にかけて大胆にオレンジレッドの口紅を引いたシウの顔。

  シウのプロデュースしているコスメ商品を強請っているのか。いいぞ、もっとやれ。

「あのなぁ、お前にシウくらいこの色似合えばいいけどさ。・・・にしてもコイツマジで色気ヤバくね?男でも抱けるレベル」

  何だと!?

  彼氏の言葉に、俺の背中を冷や汗が伝う。

「えー、ひっどぉい普通に傷付くんだけど!でもさ、シウ前にBL映画出てたじゃん、金子ヒロムと。あれ超エロくてさ、男もガチのファンになっちゃうくらいだったんだよ~」

「こんなん一人でいたら、声掛けてホテル連れ込んでるわ俺」

「何それ、あたしがいるのにサイッテー!」

「怒んなよ。シウが一人でいるわけねーじゃん、事務所だってこんな超絶美人一人にしたりしねーって。俺みたいなのがいたら襲われちゃうからな~」


  ふざけんなよ!


  と一般人相手に怒鳴ることもできずに、遠ざかる二人。

  おいおいおい、事務所はシウを一人にしない、だって!?今さっき一人で行かせちゃったんですけど!?

  つーかなんだよ、男でも抱けるって!

  ネットでそんな書き込みを何度も見たけど、どうせネタだろうと気にもしていなかった。しかし、こうやって生の声を聞くと、それは一気に現実味を帯びて、俺の不安を大きく煽る。

  シウをそういう目で見ているのは、俺のようなゲイだけじゃない。女はもちろん、男からも性的な目で見られているなんて、恋人として面白いはずが無い。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

出産は一番の快楽

及川雨音
BL
出産するのが快感の出産フェチな両性具有総受け話。 とにかく出産が好きすぎて出産出産言いまくってます。出産がゲシュタルト崩壊気味。 【注意事項】 *受けは出産したいだけなので、相手や産まれた子どもに興味はないです。 *寝取られ(NTR)属性持ち攻め有りの複数ヤンデレ攻め *倫理観・道徳観・貞操観が皆無、不謹慎注意 *軽く出産シーン有り *ボテ腹、母乳、アクメ、授乳、女性器、おっぱい描写有り 続編) *近親相姦・母子相姦要素有り *奇形発言注意 *カニバリズム発言有り

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

上司に連れられていったオカマバー。唯一の可愛い子がよりにもよって性欲が強い

papporopueeee
BL
契約社員として働いている川崎 翠(かわさき あきら)。 派遣先の上司からミドリと呼ばれている彼は、ある日オカマバーへと連れていかれる。 そこで出会ったのは可憐な容姿を持つ少年ツキ。 無垢な少女然としたツキに惹かれるミドリであったが、 女性との性経験の無いままにツキに入れ込んでいいものか苦悩する。 一方、ツキは性欲の赴くままにアキラへとアプローチをかけるのだった。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

とろけてなくなる

瀬楽英津子
BL
ヤクザの車を傷を付けた櫻井雅(さくらいみやび)十八歳は、多額の借金を背負わされ、ゲイ風俗で働かされることになってしまった。 連れて行かれたのは教育係の逢坂英二(おうさかえいじ)の自宅マンション。 雅はそこで、逢坂英二(おうさかえいじ)に性技を教わることになるが、逢坂英二(おうさかえいじ)は、ガサツで乱暴な男だった。  無骨なヤクザ×ドライな少年。  歳の差。

処理中です...