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独占欲 3
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翌週、スケジュールを詰めに詰めて何とかもぎ取ったのは5日間のオフ。その初日の早朝。新幹線のホームに俺達はいた。
シウが希望した一週間は生収録の関係上どうしても取ってやれなかったが、それでもありがとう、と喜んでいた。
「マジ、一人で大丈夫か?」
「大丈夫だよ!向こうに着いたらハラボジが迎えに来てくれるし。俺もう大人なんだよ?」
どの口が言ってんだよ。
大人になってから、迷子になって櫻子に保護されたくせに。
「俺も明日の打ち合わせが終わり次第、金沢向かうから」
「・・・うん。でも本当に無理しないで、俺一人で大丈夫だから。万里もたまにはゆっくり休んでよ。俺より働いてるじゃん」
シアンの瞳を黒のコンタクトで覆い隠し、伊達メガネを掛けただけのシウ。
パッと見は超イケメンのお兄さん。が、3秒も見続ければシウだとわかる。
道に迷わなくたって、こんなんじゃファンに囲まれて身動きが取れなくなるだろ・・・。
夏場のマスクは暑いから嫌だと言うシウに、俺は無理矢理マスクを装着させる。
「もぉ、暑苦しいんだって!どうしてもつけてなきゃダメ?」
「俺が傍にいないんだから、外出時は絶対に外すなよ。いいな?」
シウの頭のてっぺんに片手を置くと、素直に わかった と返事が帰ってくる。
上目遣いで見上げてくるシウは立派に成人男性の姿をしているのに、なんだか仔犬みたいだ。
そう見えるのは、ただ俺が過保護になり過ぎているだけなのか、それともたった1日でもシウと離れていたくないと思うからなのか。
「じゃあ俺行くね」
「ああ、気を付けてな」
「帰ったらさ、俺・・・きっと万里にもっと近付いてるから・・・じゃあ行ってきます!」
と言って新幹線に乗り込むシウ。
「あ、おいっ、どういう意味・・・」
ドアが閉まって、シウは窓越しに広げた手を上げる。
徐々にスピードを上げる車輌はあっという間に見えなくなってしまった。
もっと近付いてる?どういう意味だ?
シウの考えている事が分からないなんてのはよくある事で、それはいつも俺なんかじゃ想像すらできないこと。つまり、あいつの言葉にどんな意味があるかなんて、考えるだけ無駄だってことだ。
にしても、明日には俺も金沢に行くって言ってんのに「帰ったら」ってなんだよ。
いつもは離れたがらないくせに「一人で大丈夫」なんてまるで、俺に来て欲しくないような・・・
って、え!?
まままさか、俺とずっと一緒にいるのが苦痛で、無理矢理オフ入れて離れたかったとか!?
あ、それとも何か?結局一度も俺が後ろ掘らせなかったから、地方でウブなネコでも探して遊んで来ようってアレか?
もしかして、女とヤリたいとか?
ダメだ。シウと離れた途端、ネガティブ思考が止まんねぇ!
ああ、くっそぉ・・・。
明日のレコード会社との打ち合わせがなきゃ、すぐにでも追いかけるのに!
ホームに残された俺はその場で頭を抱えてしゃがみ込む。
いや、ひとまず落ち着け、俺。あいつにそんな器用な事ができる訳ないだろ。
大きい方がいっぱい食べた気がするとかいう理由で大根を二等分にして鍋に入れるような男なんだぞ。
仕事以外じゃドが付くほどの不器用で、恋愛の駆け引きすらできない猪突猛進型で、放っておけば綺麗な顔とはまるで不釣り合いの怠惰な生活態度だし。
・・・あいつなりに、俺との事を何か考えてるのかもしれない。じゃなきゃ、もっと近付いてるなんて言わないはず。
気を取り直して立ち上がり、改札を目指して歩き出す。
「ねー、このリップ可愛くない?ね、買ってよぉ」
「はあ?この前同じみたいなの買ってただろ」
前を歩いている手を繋いだ男女の会話が耳に入ってくる。
「色ちで欲しいんだってば。シウがつけてるこの色も欲しいの!」
ん? シウ?
彼女が彼にかざして見せたスマホの画面に、唇から頬にかけて大胆にオレンジレッドの口紅を引いたシウの顔。
シウのプロデュースしているコスメ商品を強請っているのか。いいぞ、もっとやれ。
「あのなぁ、お前にシウくらいこの色似合えばいいけどさ。・・・にしてもコイツマジで色気ヤバくね?男でも抱けるレベル」
何だと!?
彼氏の言葉に、俺の背中を冷や汗が伝う。
「えー、ひっどぉい普通に傷付くんだけど!でもさ、シウ前にBL映画出てたじゃん、金子ヒロムと。あれ超エロくてさ、男もガチのファンになっちゃうくらいだったんだよ~」
「こんなん一人でいたら、声掛けてホテル連れ込んでるわ俺」
「何それ、あたしがいるのにサイッテー!」
「怒んなよ。シウが一人でいるわけねーじゃん、事務所だってこんな超絶美人一人にしたりしねーって。俺みたいなのがいたら襲われちゃうからな~」
ふざけんなよ!
と一般人相手に怒鳴ることもできずに、遠ざかる二人。
おいおいおい、事務所はシウを一人にしない、だって!?今さっき一人で行かせちゃったんですけど!?
つーかなんだよ、男でも抱けるって!
ネットでそんな書き込みを何度も見たけど、どうせネタだろうと気にもしていなかった。しかし、こうやって生の声を聞くと、それは一気に現実味を帯びて、俺の不安を大きく煽る。
シウをそういう目で見ているのは、俺のようなゲイだけじゃない。女はもちろん、男からも性的な目で見られているなんて、恋人として面白いはずが無い。
シウが希望した一週間は生収録の関係上どうしても取ってやれなかったが、それでもありがとう、と喜んでいた。
「マジ、一人で大丈夫か?」
「大丈夫だよ!向こうに着いたらハラボジが迎えに来てくれるし。俺もう大人なんだよ?」
どの口が言ってんだよ。
大人になってから、迷子になって櫻子に保護されたくせに。
「俺も明日の打ち合わせが終わり次第、金沢向かうから」
「・・・うん。でも本当に無理しないで、俺一人で大丈夫だから。万里もたまにはゆっくり休んでよ。俺より働いてるじゃん」
シアンの瞳を黒のコンタクトで覆い隠し、伊達メガネを掛けただけのシウ。
パッと見は超イケメンのお兄さん。が、3秒も見続ければシウだとわかる。
道に迷わなくたって、こんなんじゃファンに囲まれて身動きが取れなくなるだろ・・・。
夏場のマスクは暑いから嫌だと言うシウに、俺は無理矢理マスクを装着させる。
「もぉ、暑苦しいんだって!どうしてもつけてなきゃダメ?」
「俺が傍にいないんだから、外出時は絶対に外すなよ。いいな?」
シウの頭のてっぺんに片手を置くと、素直に わかった と返事が帰ってくる。
上目遣いで見上げてくるシウは立派に成人男性の姿をしているのに、なんだか仔犬みたいだ。
そう見えるのは、ただ俺が過保護になり過ぎているだけなのか、それともたった1日でもシウと離れていたくないと思うからなのか。
「じゃあ俺行くね」
「ああ、気を付けてな」
「帰ったらさ、俺・・・きっと万里にもっと近付いてるから・・・じゃあ行ってきます!」
と言って新幹線に乗り込むシウ。
「あ、おいっ、どういう意味・・・」
ドアが閉まって、シウは窓越しに広げた手を上げる。
徐々にスピードを上げる車輌はあっという間に見えなくなってしまった。
もっと近付いてる?どういう意味だ?
シウの考えている事が分からないなんてのはよくある事で、それはいつも俺なんかじゃ想像すらできないこと。つまり、あいつの言葉にどんな意味があるかなんて、考えるだけ無駄だってことだ。
にしても、明日には俺も金沢に行くって言ってんのに「帰ったら」ってなんだよ。
いつもは離れたがらないくせに「一人で大丈夫」なんてまるで、俺に来て欲しくないような・・・
って、え!?
まままさか、俺とずっと一緒にいるのが苦痛で、無理矢理オフ入れて離れたかったとか!?
あ、それとも何か?結局一度も俺が後ろ掘らせなかったから、地方でウブなネコでも探して遊んで来ようってアレか?
もしかして、女とヤリたいとか?
ダメだ。シウと離れた途端、ネガティブ思考が止まんねぇ!
ああ、くっそぉ・・・。
明日のレコード会社との打ち合わせがなきゃ、すぐにでも追いかけるのに!
ホームに残された俺はその場で頭を抱えてしゃがみ込む。
いや、ひとまず落ち着け、俺。あいつにそんな器用な事ができる訳ないだろ。
大きい方がいっぱい食べた気がするとかいう理由で大根を二等分にして鍋に入れるような男なんだぞ。
仕事以外じゃドが付くほどの不器用で、恋愛の駆け引きすらできない猪突猛進型で、放っておけば綺麗な顔とはまるで不釣り合いの怠惰な生活態度だし。
・・・あいつなりに、俺との事を何か考えてるのかもしれない。じゃなきゃ、もっと近付いてるなんて言わないはず。
気を取り直して立ち上がり、改札を目指して歩き出す。
「ねー、このリップ可愛くない?ね、買ってよぉ」
「はあ?この前同じみたいなの買ってただろ」
前を歩いている手を繋いだ男女の会話が耳に入ってくる。
「色ちで欲しいんだってば。シウがつけてるこの色も欲しいの!」
ん? シウ?
彼女が彼にかざして見せたスマホの画面に、唇から頬にかけて大胆にオレンジレッドの口紅を引いたシウの顔。
シウのプロデュースしているコスメ商品を強請っているのか。いいぞ、もっとやれ。
「あのなぁ、お前にシウくらいこの色似合えばいいけどさ。・・・にしてもコイツマジで色気ヤバくね?男でも抱けるレベル」
何だと!?
彼氏の言葉に、俺の背中を冷や汗が伝う。
「えー、ひっどぉい普通に傷付くんだけど!でもさ、シウ前にBL映画出てたじゃん、金子ヒロムと。あれ超エロくてさ、男もガチのファンになっちゃうくらいだったんだよ~」
「こんなん一人でいたら、声掛けてホテル連れ込んでるわ俺」
「何それ、あたしがいるのにサイッテー!」
「怒んなよ。シウが一人でいるわけねーじゃん、事務所だってこんな超絶美人一人にしたりしねーって。俺みたいなのがいたら襲われちゃうからな~」
ふざけんなよ!
と一般人相手に怒鳴ることもできずに、遠ざかる二人。
おいおいおい、事務所はシウを一人にしない、だって!?今さっき一人で行かせちゃったんですけど!?
つーかなんだよ、男でも抱けるって!
ネットでそんな書き込みを何度も見たけど、どうせネタだろうと気にもしていなかった。しかし、こうやって生の声を聞くと、それは一気に現実味を帯びて、俺の不安を大きく煽る。
シウをそういう目で見ているのは、俺のようなゲイだけじゃない。女はもちろん、男からも性的な目で見られているなんて、恋人として面白いはずが無い。
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