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hold hands 1
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「なーシウ、俺がどんなすげー俳優か わかっただろ?」
ホテルの最上階にあるラウンジで、金子さんにしつこく絡まれる俺。
パーティが終わってすぐに帰れると思ったのに・・・。倉持さんと金子さんに、打ち上げに無理やり連れて来られるし、万里は奥さんにベッタリだし、マジで気分悪い。
「あー、腹痛てぇな。青くなってんじゃないかな。シウ見てくんない?二人きりになれる場所で」
「嫌です」
倉持さんはどこ行っちゃったんだよ!
万里の所に行くわけにもいかず、親しい知り合いもいない。金子さんがずっと張り付いているせいなのか、事務所のスタッフも芸能人達も遠巻きにこっちを見ているだけ。
「とりあえず飲めよ。酒は覚えたばっかだろ?飲みやすいカクテルだからさ」
結んだ唇に強引にグラスの縁が押し付けられて、グラデーションがかった夕焼け色の液体が口に入らずに顎を濡らした。
金子さんから顔を逸らし、手の甲で濡れた顎を拭う。
「飲めって」
ああ!もう!しつこい!
「いーやーでーす!飲みたくない!」
大先輩だろうが、もう知るか。俺は今めちゃくちゃ機嫌が悪いんだからな!
「さっき思いっきり俺の腹蹴っただろー。悪いと思ってるなら飲めよ。ほら」
肩を抱き掴まれて、またグラスが口元に迫ってくる。
「俺は悪くない!」
金子さんの腕からなんとか逃れて、もういっそこの人を怒らせて嫌われてしまいたいと思った俺は、完全に拒否体勢に入る。
それでも懲りずに自分の方へ引き寄せようとする金子さん。
何度振り払っても捕まり、移動する事も許さないと言わんばかりに、カウンターの下で金子さんの足でホールドされる自分の足。
「シウさん、無駄っすよ。金子さんの手癖の悪さは業界じゃ有名なんで。気に入った相手は落ちるまで口説くんで。あ、部屋取っときました」
いつの間にか戻って来ていた倉持さんが、金子さんにカードキーをこっそりと渡す。
「ちょっと待ってよ!倉持さんまで・・・」
「我慢すんのは一晩だけっすよ。それに、抱かれた人はみんなご利益あるって話です。大きな役もらえたりするらしいですよ」
倉持さんは小さな声で耳打ちをしてくる。
は・・・?なんだそれ。
自分の芸歴を、人間関係をそんな風に利用してんの?信じられない。
「俺の言う事聞いて、酒、飲む?」
「・・・飲みません」
絶対こんなやつの言いなりになんかならない。
「俺に媚び売っといて損は無いと思うけど。酒が飲めないって言うなら、体で相手してくれてもいいんだよ?」
ヒラヒラとカードキーで仰がれて前髪が揺らされる。
今日は厄日かなんかなの?
万里の奥さんに嫉妬して、こんなクソみたいな変態に口説かれて。
それとも、このままこいつに いい様に抱かれてしまえば、嫉妬で狂いそうな醜い心から少しでも解放されるのかな。
もし金子さんについて行ったら、奥さんを置いて、万里は俺を追いかけて来てくれる・・・?
金子さんを最低だなんて言えない。こんな事を考えている自分の方が最低だ。
自己嫌悪に陥って、俯いて唇を噛み締める。
・・・万里。ねえ、俺どうしたらいいの?自分の感情がコントロールできないよ。
「・・・!」
突然、背後から上腕を引かれ、椅子が回転する。浅く腰掛けていた俺はバランスを崩しよろけながら立ち上がらされ、すぐ後ろに立つ誰かの肩に寄りかかる形になった。
見上げると、その誰かが万里だった事に、一瞬で体が熱を上げる。
嘘だ。どうして?奥さんは?
「オイ、邪魔すんなよな。いくら社長の息子だからって・・・」
金子さんが万里を睨みつける。
こんな事して自分の立場が悪くなったらどうするんだよ。俺のせいで万里に迷惑かけたくない。
「シウは明日早いんでもう連れて帰ります。あまり羽目を外しすぎないよう気をつけた方がいいですよ」
俺には何も言わずに金子さんを一瞥する万里。
万里に手を引かれてラウンジを出る。
金子さんが何か言っていたけど、俺の耳を通過するだけの音にしかならなかった。
振り返って奥さんを見ると、呆れ顔でそっぽを向いていた。
どちらも俺にとっては、ただの背景でしかない。
だって、万里が隣にいる。
「なにニヤけた顔してんだよ。金子に口説かれたのがそんなに嬉しかったか」
俺の手を握って大股で歩く万里。
「どうしてそうなるんだよ!万里こそ何怒ってんの?・・・俺のせいで奥さんを置いて来ちゃったから?」
エレベーターに乗って、扉が閉まりかける。
「どうしたらそうなるんだよ」
大きな手で額を押されながら前髪を掻き上げられ、万里に下唇を、ちゅ、と吸われる。
「っ、まだ閉まってな・・・」
「誰も見てない」
扉の隙間からは人影は見えなくて、ホッとする暇も与えてくれない性急な唇で塞がれて、二人だけになった空間が下降する。
「は・・・ば、ん・・・」
「おまえの事しか考えらんねぇから腹が立ってんだよ」
そんなの・・・それは俺の方なのに。
「おまえも俺で一杯になればいい」
「ぅん・・・っ・・・」
吐息も出せないくらいに貪られて、それだけで崩れ落ちそうになるのに、髪の隙間に滑り込まれている両手は体を支えてくれない。
万里のジャケットの胸元を握ってふらつく体を支えた。
「シウがちゃんとしがみついてないと。唇、離れるけど?」
頬に落とされる口付け。そこじゃ物足りなくて、もっと塞いで欲しくて、俺は万里の背中に手を回す。
髪を梳く指にすら感じてしまう。
俺は万里でいっぱいだ。これ以上好きになったら溢れてしまう。
「なーシウ、俺がどんなすげー俳優か わかっただろ?」
ホテルの最上階にあるラウンジで、金子さんにしつこく絡まれる俺。
パーティが終わってすぐに帰れると思ったのに・・・。倉持さんと金子さんに、打ち上げに無理やり連れて来られるし、万里は奥さんにベッタリだし、マジで気分悪い。
「あー、腹痛てぇな。青くなってんじゃないかな。シウ見てくんない?二人きりになれる場所で」
「嫌です」
倉持さんはどこ行っちゃったんだよ!
万里の所に行くわけにもいかず、親しい知り合いもいない。金子さんがずっと張り付いているせいなのか、事務所のスタッフも芸能人達も遠巻きにこっちを見ているだけ。
「とりあえず飲めよ。酒は覚えたばっかだろ?飲みやすいカクテルだからさ」
結んだ唇に強引にグラスの縁が押し付けられて、グラデーションがかった夕焼け色の液体が口に入らずに顎を濡らした。
金子さんから顔を逸らし、手の甲で濡れた顎を拭う。
「飲めって」
ああ!もう!しつこい!
「いーやーでーす!飲みたくない!」
大先輩だろうが、もう知るか。俺は今めちゃくちゃ機嫌が悪いんだからな!
「さっき思いっきり俺の腹蹴っただろー。悪いと思ってるなら飲めよ。ほら」
肩を抱き掴まれて、またグラスが口元に迫ってくる。
「俺は悪くない!」
金子さんの腕からなんとか逃れて、もういっそこの人を怒らせて嫌われてしまいたいと思った俺は、完全に拒否体勢に入る。
それでも懲りずに自分の方へ引き寄せようとする金子さん。
何度振り払っても捕まり、移動する事も許さないと言わんばかりに、カウンターの下で金子さんの足でホールドされる自分の足。
「シウさん、無駄っすよ。金子さんの手癖の悪さは業界じゃ有名なんで。気に入った相手は落ちるまで口説くんで。あ、部屋取っときました」
いつの間にか戻って来ていた倉持さんが、金子さんにカードキーをこっそりと渡す。
「ちょっと待ってよ!倉持さんまで・・・」
「我慢すんのは一晩だけっすよ。それに、抱かれた人はみんなご利益あるって話です。大きな役もらえたりするらしいですよ」
倉持さんは小さな声で耳打ちをしてくる。
は・・・?なんだそれ。
自分の芸歴を、人間関係をそんな風に利用してんの?信じられない。
「俺の言う事聞いて、酒、飲む?」
「・・・飲みません」
絶対こんなやつの言いなりになんかならない。
「俺に媚び売っといて損は無いと思うけど。酒が飲めないって言うなら、体で相手してくれてもいいんだよ?」
ヒラヒラとカードキーで仰がれて前髪が揺らされる。
今日は厄日かなんかなの?
万里の奥さんに嫉妬して、こんなクソみたいな変態に口説かれて。
それとも、このままこいつに いい様に抱かれてしまえば、嫉妬で狂いそうな醜い心から少しでも解放されるのかな。
もし金子さんについて行ったら、奥さんを置いて、万里は俺を追いかけて来てくれる・・・?
金子さんを最低だなんて言えない。こんな事を考えている自分の方が最低だ。
自己嫌悪に陥って、俯いて唇を噛み締める。
・・・万里。ねえ、俺どうしたらいいの?自分の感情がコントロールできないよ。
「・・・!」
突然、背後から上腕を引かれ、椅子が回転する。浅く腰掛けていた俺はバランスを崩しよろけながら立ち上がらされ、すぐ後ろに立つ誰かの肩に寄りかかる形になった。
見上げると、その誰かが万里だった事に、一瞬で体が熱を上げる。
嘘だ。どうして?奥さんは?
「オイ、邪魔すんなよな。いくら社長の息子だからって・・・」
金子さんが万里を睨みつける。
こんな事して自分の立場が悪くなったらどうするんだよ。俺のせいで万里に迷惑かけたくない。
「シウは明日早いんでもう連れて帰ります。あまり羽目を外しすぎないよう気をつけた方がいいですよ」
俺には何も言わずに金子さんを一瞥する万里。
万里に手を引かれてラウンジを出る。
金子さんが何か言っていたけど、俺の耳を通過するだけの音にしかならなかった。
振り返って奥さんを見ると、呆れ顔でそっぽを向いていた。
どちらも俺にとっては、ただの背景でしかない。
だって、万里が隣にいる。
「なにニヤけた顔してんだよ。金子に口説かれたのがそんなに嬉しかったか」
俺の手を握って大股で歩く万里。
「どうしてそうなるんだよ!万里こそ何怒ってんの?・・・俺のせいで奥さんを置いて来ちゃったから?」
エレベーターに乗って、扉が閉まりかける。
「どうしたらそうなるんだよ」
大きな手で額を押されながら前髪を掻き上げられ、万里に下唇を、ちゅ、と吸われる。
「っ、まだ閉まってな・・・」
「誰も見てない」
扉の隙間からは人影は見えなくて、ホッとする暇も与えてくれない性急な唇で塞がれて、二人だけになった空間が下降する。
「は・・・ば、ん・・・」
「おまえの事しか考えらんねぇから腹が立ってんだよ」
そんなの・・・それは俺の方なのに。
「おまえも俺で一杯になればいい」
「ぅん・・・っ・・・」
吐息も出せないくらいに貪られて、それだけで崩れ落ちそうになるのに、髪の隙間に滑り込まれている両手は体を支えてくれない。
万里のジャケットの胸元を握ってふらつく体を支えた。
「シウがちゃんとしがみついてないと。唇、離れるけど?」
頬に落とされる口付け。そこじゃ物足りなくて、もっと塞いで欲しくて、俺は万里の背中に手を回す。
髪を梳く指にすら感じてしまう。
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