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第四章
エピローグ
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アニエスがルカーとの結婚式を終えた頃には、すでにサンユエリでの異世界の聖女にまつわる事の顛末は、広くリヒゾーナまで伝わって来ていた。
サンユエリの第一王子であり王太子でもあるジュールが、異世界の聖女から結婚を拒否されるどころか、婚約解消を訴えられてしまったということは、アニエスもすでに聞かされていたが――。
結婚後、ほどなくして届いた父親からの手紙には、異世界の聖女を暴漢に襲わせたというアニエスの罪は、冤罪だったと証明されたと書かれていた。
その原因は異世界の聖女――コハルだった。
彼女は自分の立場を賢く利用し、多くの貴族女性と接触を図ると、リヒゾーナで教えられた聖女の詩の解釈を広めていったのだと言う。
また、コハルは事実“大聖女”と呼ばれるほどの強い“聖なる力”を持っていたらしく、ほとんどの貴族が彼女の意見、意思を無視することができなかった。
彼女は賢い立ち回りであっという間に自身の立場を確かなものとした上で、今の自分があるのは国外追放されたアニエス・モアヅィのお陰だと触れ回った。
アニエスが異世界の聖女を、暴漢を使って襲わせようとしたのは間違った情報であり冤罪であったと、被害者である彼女自身が証言したのだ。
そのため改めて調査が入ったところ、コハルを襲おうとした暴漢が『“尊い方”に「アニエスが首謀者だ」と言えと指示された』と証言を変えた。
暴漢が“尊い方”の名前を出さなかったのか、取り調べをした人物が名前を伏せたのかは分からないが、この話が広まると第一王子ジュールが企てたものだという噂が囁かれるようになった。
さらに、その第一王子ジュールが王太子を剥奪されたことによって、その噂はより真実味を増すこととなった。
それらの顛末によりアニエスの疑いは晴れ、国外追放という国王の処断は取り消され、モアヅィ家も彼女の勘当を取り下げた。
晴れてアニエスは失った名誉を取り戻すことができたのだった。
そしてその年、サンユエリでもアニエスは大聖女コハルとともに有名になる。
閉ざされていたサンユエリの文化を開き、聖女を悪しき慣習から救った一人として、アニエスの名前が挙げられるようになったのだ。
アニエス自身は「畏れ多い」と恐縮するばかりだったが、彼女がきっかけになったのは間違いなかった。
何よりも大聖女コハル自身が、“聖女の詩”の話を語るときにアニエスの名前を挙げるのだ。
アニエスは大聖女のように強い“聖なる力”を持ってはいなかったが、大聖女と並び語り継がれる人となったのだった。
サンユエリの第一王子であり王太子でもあるジュールが、異世界の聖女から結婚を拒否されるどころか、婚約解消を訴えられてしまったということは、アニエスもすでに聞かされていたが――。
結婚後、ほどなくして届いた父親からの手紙には、異世界の聖女を暴漢に襲わせたというアニエスの罪は、冤罪だったと証明されたと書かれていた。
その原因は異世界の聖女――コハルだった。
彼女は自分の立場を賢く利用し、多くの貴族女性と接触を図ると、リヒゾーナで教えられた聖女の詩の解釈を広めていったのだと言う。
また、コハルは事実“大聖女”と呼ばれるほどの強い“聖なる力”を持っていたらしく、ほとんどの貴族が彼女の意見、意思を無視することができなかった。
彼女は賢い立ち回りであっという間に自身の立場を確かなものとした上で、今の自分があるのは国外追放されたアニエス・モアヅィのお陰だと触れ回った。
アニエスが異世界の聖女を、暴漢を使って襲わせようとしたのは間違った情報であり冤罪であったと、被害者である彼女自身が証言したのだ。
そのため改めて調査が入ったところ、コハルを襲おうとした暴漢が『“尊い方”に「アニエスが首謀者だ」と言えと指示された』と証言を変えた。
暴漢が“尊い方”の名前を出さなかったのか、取り調べをした人物が名前を伏せたのかは分からないが、この話が広まると第一王子ジュールが企てたものだという噂が囁かれるようになった。
さらに、その第一王子ジュールが王太子を剥奪されたことによって、その噂はより真実味を増すこととなった。
それらの顛末によりアニエスの疑いは晴れ、国外追放という国王の処断は取り消され、モアヅィ家も彼女の勘当を取り下げた。
晴れてアニエスは失った名誉を取り戻すことができたのだった。
そしてその年、サンユエリでもアニエスは大聖女コハルとともに有名になる。
閉ざされていたサンユエリの文化を開き、聖女を悪しき慣習から救った一人として、アニエスの名前が挙げられるようになったのだ。
アニエス自身は「畏れ多い」と恐縮するばかりだったが、彼女がきっかけになったのは間違いなかった。
何よりも大聖女コハル自身が、“聖女の詩”の話を語るときにアニエスの名前を挙げるのだ。
アニエスは大聖女のように強い“聖なる力”を持ってはいなかったが、大聖女と並び語り継がれる人となったのだった。
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turarin 様
ご感想いただき、ありがとうございます!
ホント最低ですよね、王太子。
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うっひゃー!!
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sakikaname 様
ご感想いただき、ありがとうございます!
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