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長い気の迷い
④
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***
ローシュが飛行訓練の際に噴水の中に落ちたというニュースは、翌日には城全体に広まっていた。
あんなに飛行訓練を避けていたローシュ王子が無関心だった弟に教えを乞い、自主的に訓練を再開させたこと。噴水に落ちたあと、エアルと言い合いになっていたこと。
この二つの出来事が、城に従事する使用人たちの目に物珍しく映ったようだった。
それもそのはずだ。ローシュは他の分野が苦手というわけではないのに、自分の得意分野である剣技や馬術、数学にしか興味を示さない。興味のない科目の能力が低いわけでもないのに、まず興味や自信のあることしか挑戦しない頑固者として知られている。
そんなローシュが唯一苦手な飛行訓練に挑戦した裏には、何が隠れているのだろう。噂好きの多い侍女を中心に、使用人たちの間でローシュの話題は熱いものになっていた。
エアルに関しても似たようなものだ。庭師のヨハンを除き、エアルは王族を含む城の人間に対して、常に一線を引いた態度を貫いている。そんなエアルがローシュを相手に声を荒げている――その姿が意外だったようだ。
翌日、カリオから「エアルがあんな風に誰かに怒鳴るところ、僕初めて見たよ」と恐々とした笑顔を向けられた。
あの日以来、エアルを見る使用人たちの目が良くも悪くも変わった気がする。前は王族の教育係、もしくは王族の玩具としてしか見られていないように感じていたものだ。だが、ローシュと言い争った日を境に、好奇心や親近感、怪訝に塗られた彩り豊かな視線に晒されるようになったと肌で感じる。
今さら城の人間にどう思われようが知ったことではない。エアルにとって、人の目や噂というのは移ろいやすい空の機嫌より不確かなものなのだ。
そんなことより、エアルにとってはこの三日間の方が苦痛以外の何ものでもなかった。
事前に命じられていた通り、エアルは三日三晩と連日レイモンド王の寝室に赴いた。そこで繰り広げられる行為――それはこれまでにも増して激しいものだった。
初日の夜、レイモンド王はエアルを後ろ手に紐で拘束し、布で目隠しをして行為に及んだ。その程度はこれまでにもあったが、今までと違ったのはレイモンド王の手がエアルの翼に伸びてきたことだ。
「邪魔だな。いっそのこと、この羽根をすべて毟ってしまおうか」
翼の根元を弱い力で引っ張られながら耳元で低い声に囁かれた瞬間、エアルの全身に鳥肌が立った。翼を捥がれるのは、骨を折られるより痛くて苦しみが続くという。先の戦争で死んでいった同胞が、人間たちに翼を捥がれて絶叫しながら死んでいった光景が頭に過り、エアルの体はガタガタと震えた。
「それだけはご勘弁ください」と懇願したものの、王はニタリと笑ってエアルの双丘を力の限り鷲掴んだ。全体重をぶつけるが如く、一気に体内の奥まで男杭で抉られる。
衝撃で息もできなかった。カハッと息と涎を垂らして耐えることしかできなかったエアルの体に、王は容赦なく欲望の注挿を繰り返した。
暴力ともいえる行為を受け続けた三日間だった。手首には紐の痕がつき、肌の上には叩かれた痕や痣が残った。行為後、自身へと掛ける回復魔法のおかげで痛みは消える。
しかし、休む間もない怒涛の三日間で体内に残る魔力が底をつきかけているのか、回復魔法を自身に唱えても痕や痣までは完全には消えなくなっている。
前から優しいセックスをするような男ではなかったが、ここまで乱暴を強要してくるようになるなんて。レイモンドにどんな心境の変化があったんだろう。
肩まで湯に浸かりながら、エアルは首を倒して天井を見上げた。四つん這いの体勢が多かった体が、じわじわと弛緩していくのを感じた。
この三日間はレイモンドに身を捧げるため、湯浴みをしてきた。
この時間が憂鬱で仕方がなかった。今夜はどんなことを強要されるのだろう。本当に翼を捥がれてしまうんじゃないか。いろんな不安を抱きながら、催淫効果のある香油を腫れあがった後ろの秘部に塗り込んだものだ。
だが、今夜は相手がローシュだ。四日連続で性の捌け口として駆り出されるのはさすがに気持ちの面で疲労が溜まってきているが、相手がローシュならまだいい。手綱をこちらの手で握ることができるからだ。
湯で全身を温めたあと、エアルはいつものように後孔に男を受け入れるための準備を施した。準備を億劫に感じないのは、久しぶりのことだった。
薄いローブに身を纏い、湯殿を出てローシュの寝室に向かって歩き出す。無意識にレイモンドと比べているからだろうか。ローシュに会えるのが、ちょっとだけ楽しみにさえ感じていた。
執事のアンドレに呼び止められたのは、二階の吹き抜けの廊下を歩いているときだ。王の寝室がある四階から、「エアル様」としわがれた声が降ってきた。
手にしていたオイルランプを上に掲げると、片眼鏡を反射させたアンドレが無表情のままこちらを見下ろしていた。アンドレが自分に声を掛けてくる理由は、決まって一つしかない。エアルはごくりと唾を呑む。
「今夜はローシュ様とのお約束が先です。王にはご容赦いただけないでしょうか」
ダメ元で訴えるが、アンドレは無言でこちらを見下ろしたままだ。エアルは俯き、ぐっと下唇を噛んだ。
なんで今日……今日なんだ。
いつもなら急な呼び出しがかかっても何とも思わないのに、今日に限っては酷く落胆した。約束したときのローシュの嬉しそうな顔が脳裏にチラつく。
勝手に決めるなよ。こちらの気も知らないで……と、何かに苛立ちをぶつけたい気分だった。
王の命令は絶対だ。ローシュやカリオとの間に交わした約束があったところで、第一に優先されるべきは王の命令。
悔しいが、さっさと王を満足させてローシュの寝室に向かう方が賢明だと判断した。
「……承知いたしました。今すぐ王の元へ向かいます」
エアルは語気を強めて言い、王の犬を下から睨みつけた。
ローシュが飛行訓練の際に噴水の中に落ちたというニュースは、翌日には城全体に広まっていた。
あんなに飛行訓練を避けていたローシュ王子が無関心だった弟に教えを乞い、自主的に訓練を再開させたこと。噴水に落ちたあと、エアルと言い合いになっていたこと。
この二つの出来事が、城に従事する使用人たちの目に物珍しく映ったようだった。
それもそのはずだ。ローシュは他の分野が苦手というわけではないのに、自分の得意分野である剣技や馬術、数学にしか興味を示さない。興味のない科目の能力が低いわけでもないのに、まず興味や自信のあることしか挑戦しない頑固者として知られている。
そんなローシュが唯一苦手な飛行訓練に挑戦した裏には、何が隠れているのだろう。噂好きの多い侍女を中心に、使用人たちの間でローシュの話題は熱いものになっていた。
エアルに関しても似たようなものだ。庭師のヨハンを除き、エアルは王族を含む城の人間に対して、常に一線を引いた態度を貫いている。そんなエアルがローシュを相手に声を荒げている――その姿が意外だったようだ。
翌日、カリオから「エアルがあんな風に誰かに怒鳴るところ、僕初めて見たよ」と恐々とした笑顔を向けられた。
あの日以来、エアルを見る使用人たちの目が良くも悪くも変わった気がする。前は王族の教育係、もしくは王族の玩具としてしか見られていないように感じていたものだ。だが、ローシュと言い争った日を境に、好奇心や親近感、怪訝に塗られた彩り豊かな視線に晒されるようになったと肌で感じる。
今さら城の人間にどう思われようが知ったことではない。エアルにとって、人の目や噂というのは移ろいやすい空の機嫌より不確かなものなのだ。
そんなことより、エアルにとってはこの三日間の方が苦痛以外の何ものでもなかった。
事前に命じられていた通り、エアルは三日三晩と連日レイモンド王の寝室に赴いた。そこで繰り広げられる行為――それはこれまでにも増して激しいものだった。
初日の夜、レイモンド王はエアルを後ろ手に紐で拘束し、布で目隠しをして行為に及んだ。その程度はこれまでにもあったが、今までと違ったのはレイモンド王の手がエアルの翼に伸びてきたことだ。
「邪魔だな。いっそのこと、この羽根をすべて毟ってしまおうか」
翼の根元を弱い力で引っ張られながら耳元で低い声に囁かれた瞬間、エアルの全身に鳥肌が立った。翼を捥がれるのは、骨を折られるより痛くて苦しみが続くという。先の戦争で死んでいった同胞が、人間たちに翼を捥がれて絶叫しながら死んでいった光景が頭に過り、エアルの体はガタガタと震えた。
「それだけはご勘弁ください」と懇願したものの、王はニタリと笑ってエアルの双丘を力の限り鷲掴んだ。全体重をぶつけるが如く、一気に体内の奥まで男杭で抉られる。
衝撃で息もできなかった。カハッと息と涎を垂らして耐えることしかできなかったエアルの体に、王は容赦なく欲望の注挿を繰り返した。
暴力ともいえる行為を受け続けた三日間だった。手首には紐の痕がつき、肌の上には叩かれた痕や痣が残った。行為後、自身へと掛ける回復魔法のおかげで痛みは消える。
しかし、休む間もない怒涛の三日間で体内に残る魔力が底をつきかけているのか、回復魔法を自身に唱えても痕や痣までは完全には消えなくなっている。
前から優しいセックスをするような男ではなかったが、ここまで乱暴を強要してくるようになるなんて。レイモンドにどんな心境の変化があったんだろう。
肩まで湯に浸かりながら、エアルは首を倒して天井を見上げた。四つん這いの体勢が多かった体が、じわじわと弛緩していくのを感じた。
この三日間はレイモンドに身を捧げるため、湯浴みをしてきた。
この時間が憂鬱で仕方がなかった。今夜はどんなことを強要されるのだろう。本当に翼を捥がれてしまうんじゃないか。いろんな不安を抱きながら、催淫効果のある香油を腫れあがった後ろの秘部に塗り込んだものだ。
だが、今夜は相手がローシュだ。四日連続で性の捌け口として駆り出されるのはさすがに気持ちの面で疲労が溜まってきているが、相手がローシュならまだいい。手綱をこちらの手で握ることができるからだ。
湯で全身を温めたあと、エアルはいつものように後孔に男を受け入れるための準備を施した。準備を億劫に感じないのは、久しぶりのことだった。
薄いローブに身を纏い、湯殿を出てローシュの寝室に向かって歩き出す。無意識にレイモンドと比べているからだろうか。ローシュに会えるのが、ちょっとだけ楽しみにさえ感じていた。
執事のアンドレに呼び止められたのは、二階の吹き抜けの廊下を歩いているときだ。王の寝室がある四階から、「エアル様」としわがれた声が降ってきた。
手にしていたオイルランプを上に掲げると、片眼鏡を反射させたアンドレが無表情のままこちらを見下ろしていた。アンドレが自分に声を掛けてくる理由は、決まって一つしかない。エアルはごくりと唾を呑む。
「今夜はローシュ様とのお約束が先です。王にはご容赦いただけないでしょうか」
ダメ元で訴えるが、アンドレは無言でこちらを見下ろしたままだ。エアルは俯き、ぐっと下唇を噛んだ。
なんで今日……今日なんだ。
いつもなら急な呼び出しがかかっても何とも思わないのに、今日に限っては酷く落胆した。約束したときのローシュの嬉しそうな顔が脳裏にチラつく。
勝手に決めるなよ。こちらの気も知らないで……と、何かに苛立ちをぶつけたい気分だった。
王の命令は絶対だ。ローシュやカリオとの間に交わした約束があったところで、第一に優先されるべきは王の命令。
悔しいが、さっさと王を満足させてローシュの寝室に向かう方が賢明だと判断した。
「……承知いたしました。今すぐ王の元へ向かいます」
エアルは語気を強めて言い、王の犬を下から睨みつけた。
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