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千変万化のクレセント

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 国の首都、ルドルカシティー。その最寄り駅、スタッドの改札前の広場を従えるスクランブ交差点の多方向の人の往来を、どこかいってしまている黄緑色の瞳で、個性の強さを感じさせる黄色の顔半分を覆うサングラスの奥から眺めては、携電話の通話ボタンを押し、明るい黄色がかった橙、萱草かんぞう色のボブ髪を携帯ごと避け、コール音を何度も聞いては、軽くため息をついていた。

「…………」
(あいつ、わざと出ないで……。
 What do you mean? /どういうつもり?)

 意識化でつながっているはずの携帯電話の切るのボタンをタッチして、通話を終了するをさっきから繰り返していて、全面ガラス張りのカフェのカウンター席から人混みを眺め、もう一度電話をかけ、同じ行動を取るが相手は出ない。

「…………」
(彼は故意に出ないで……。
 What do you mean? /どのようなおつもりですか?)

 コーヒーの紙コップの横に携帯を投げ置いてサングラスを外すと、宝石のように光り輝く純真無垢で高貴でサディスティックで皇帝で子供で大人で柔らかで鋭くてナンパで真摯で軽薄で千変万化の黄緑色の瞳がはっきりと現れた。

 絡みつく蛇のデザインの指輪をしている手で、萱草色のボブの髪を乱暴にかき上げ、少し高めの丸い椅子から足が長過ぎて、床にしっかり落ちているそれを膝下で軽く組み、手元に視線を落とすと、スティックシュガーの袋の残骸がいくつも散らばっていた。

(女は話が長い……。
 武術の彼が言ってた通り……)

 もう一度携帯をかけようと、変わった形のブレスレットが幾重にも巻きつけられた手を伸ばそうとした。だが、思考が急変。

(それとも、こうしちゃう?
 入れ変え……うっそ~!)

 清らかな湧き水のような笑みを浮かべると、待っていたというようにすぐ近くに人影が立ち、女物の香水が立ち込めた。信号待ちをする人々の後ろ姿を包み込む夜色が広がるガラス窓に店内が鏡のように映り込むそこには、ブランド物の服とバッグを持った、人が思わず振り向くほどのスタイル抜群の女がいたが、黄緑色の瞳は一度も向けられることはなく、女を無視していたが、相手から声をかけてきた。

「イクストールさんですよね?」

 柔らかな物腰でニッコリの微笑みだったが、どこかおかしい感じがする女。幾重にもかけられたシルバーのゴシックなネックレスの前で、両手はイラついた様子で組まれ、高貴でありながら軽薄で惹きつけるようで突き放すような男の声がそっけなく、初めて会った女にタメ口を突きつけた。

「そうだけど、何?」

 男の背は異様に高く、立っている女とほとんど視線の位置が変わらず、うつむき加減で黄緑色の瞳の横を見つめ返して、控えめに言葉を紡ぐ。

「あ、あの実は、あなたの作品がとても――」

 相手の言葉を平気で遮り、ボブ髪の男は春風のように柔らかに微笑んで、晴れ渡る空のような澄んだ声でこんな言葉を口にした。

「あなたの濁った魂には興味がありません。まるで老婆です」

 雰囲気と言葉の内容がありえない組み合わせだったため、数々の男が振り向いてきただろう女は言葉をなくした。

「え……?」

 どこかいってしまっている宝石みたいな黄緑色の瞳は今初めて自分のすぐそばに来た女に向けられ、軽薄的な男の声に急に変わり、鼻で軽く笑った。

「こう言ったほうが伝わる? お前の濁った魂には興味がない、まるで老婆だ」
(俺の前から消えて。
 俺は綺麗な人なら年齢性別問わないけどさ)

 屈辱どころではない言葉を浴びせられた女の目は信じられないものに変わった。

「え……?」

 男は今度は無邪気な子供みたいに微笑んで、高貴で丁寧な物腰で言ったが、

「私の人生です。私の時間は私が選んだ方とだけで過ごしたいのです。愛想を振りまくつもりはありません」

 最後だけ口調が押しつぶすような威圧感に変わった。

「お前みたいにね」
(俺の人生だ。
 俺の時間は俺が選んだ人とだけ過ごす。
 媚びを売るつもりはない。
 あなたみたいにね)

 言われたことのない断りの言葉を、これ以上ないくらいはっきりと突きつけらた女は、ショックで震えた手を上品なピンク系の唇紅の前に当てる。

「それって……」

 相手がどんな反応をしようと、椅子に座っている男にはどうでもよく、今度は絶対服従のどこかの国の皇帝みたいな威圧感のある雰囲気に激変したが、螺旋らせん階段を滑り落ちるようにグルグルと目が回るような声で、口調が変わりに変わりながら言葉を飛び散らせた。

「事実は事実です。本当のことを相手に伝えるのは親切なことです。それを受け入れられないのはお前の弱さ。そちらはあなたが努力して変えるものではありませんか? それとも、おべっかを使うの? 綺麗でもないものに綺麗だと言えないだろう。そちらは嘘をつくことになります。すなわち、結果的に人を傷つけることになります。違いますか?」

 死の淵へ追いやるように次々に容赦のない言葉を浴びせられた女は涙目になり、同情、弱者といううつむきを始めたが、刺し殺すような冷たい黄緑色の瞳の男は、血も涙もなくバッサリと切り捨て、店にいた他の客の視線が集中しようと、自分の言いたいことで女を滅多斬りにした。

「泣いても何も解決しませんよ。そんな暇があるんだったら自分の中身を磨くことをしたら? 見抜く目のある方から見れば、どのように飾りたてても中身がないものは中身がありません。その服似合ってないよ。アンバランスもいいところだ」

 ボロボロと泣き始めた女のブランド物の服を上から下まで一べつして、スクランブル交差点の人の流れを男は眺め始め、さらに吐き捨てるように言葉を続けようとしたが、

「時間と労力の無駄――」

 投げ置いた携帯がふと振動した。

「……電話?」

 すぐさま耳に当て意識化で通話にすると、向こう側から遊線ゆうせんが螺旋を描く優雅で芯のある男の声が待ちに望んだことを言ってきた。

『彼女が帰ります』

 撃破された女は床にしゃがみ込み泣き出したが、強引に踏み潰すようにどうでもよく、他の客から刺されるような非難の視線を背中に浴びせられていたが、萱草色のボブ髪の男は皇帝みたいに堂々と椅子に座り、残り少ないコーヒーの紙カップを蛇が巻きつく指輪をした手でもてあそぶ。

「そう。お前は帰るの?」

 軽薄的な声が聞き返すと、流暢であり的確な言葉が電話の向こうからやって来た。

『いいえ、屋敷とリムジンへの移動を繰り返しますよ。彼女を敵から守らなくてはいけませんからね』

 他の客に慰められている女の隣で、異常に長い足が軽く組み替えられ、ボブの髪をクシャクシャとかき上げ、どこかいっている感の黄緑色の瞳はガラスに映った自分のそれをサディスティックな視線で見返す。

「いいよ、俺が見てる」
(私が対処します。
 お前は休みなよ)

 おどけた感じの声が聞こえて来た。

『おや? そちらを信じることにしたのですか?』
(能力を使うのですか?)

 威圧感この上ない瞳の先で店外の人間が異変を感じて大きく回り込み避けて歩き出すが、その人は気にした様子もなく幾重ものブレスレットをした手で、首元の何重にもかけられているペンダントを自分から離して胸元に落としをし遊んで、曖昧な言葉を軽々しく言った。

「そうかもね~」
(そうかもしれませんね。
 うっそ~!
 俺が了承してるから、100%、確定です!)

 向こうからくすくす笑う声が聞こえる。

『おかしな人ですね、あなたは』
(自身で言ってきたのに、不確定で言うのですから……)

 自分と同じスマートな頭脳を前にして、ボブ髪の男は春風のように微笑み、言語がいきなり変わって短く言い返した。

「You too」
(お前もね)

 流暢な英語が即行返ってきた。

『Well then, please  protect her from the enemy』
(それでは、よろしくお願いします)

「わかったよ」

 ナンパするように軽く受け応えると意識化で電話を切った。楽しい会話が終わったが、まだそばで泣いている女がいて、まわりに集まっていた男の1人が黄緑色の瞳をした男の肩を偽物の正義感を持って叩いた。

「ちょっと、女性を泣かすって、どういう――」
「何?」

 首だけで振り返ったが、店の中が一瞬にして、どこかの国の城のように高貴と威厳に変わり、萱草色のボブ髪の人はまるで立派な玉座に座る皇帝のような威圧感この上なく、地上にいる人々全てをひれ伏すような雰囲気に激変し、くだらない女の涙に騙されている男は気軽に話しかけていけない身分の高い人に間違って声をかけてしまった感を抱き、無言のまま後ずさりし始めた。店にいた他の客も店員も手が震え出した、男が何もしていないのに。

 流れ落ちる滝のような透明感のある黄緑色の瞳をした人にはよくある光景で気にすることなく、静まり返った店内で1人飲み残したコーヒーの中に、空になったスティックシュガーの袋を入れて席を立ち上がると、全ての人の頭の位置が自分よりもかなり低い位置になり、萱草色のボブ髪のすぐ横にペンダントライトのきらめきが入り込んで、手で邪魔というように押し避ける。

(このデザインどうなの?
 俺だったらこれにしない。
 それとも、私でしたら別の方法にいたしましょうか?
 それとも、僕だったらこうしちゃう?)

 変幻自在に1人称が変わる男は未だに泣いている女の横を不要物というように通り過ぎ、ゴミ箱へコーヒーカップを入れているカフェの店内の外の歩道に、モルガナイトのヘアアクセサリーをつけた金の髪が酔いという絶妙な揺れを起こしながら、その両脇を漆黒の長い髪とふわふわの藤色のウェーブ髪が他の人々に混じり、路上に駐車していた黒塗りのリムジンに近づいていった――――


 ――――黄緑色の瞳がすぐそばの店内から向けられているとも知らないミヌアたちは、運転手がドアを開けて待っている黒塗りのリムジンの前で、ふさふさの毛皮のコートの下からボディコンの太ももが悩殺全開で出ているカエデは、親友の変わりっぷりに盛大に感心。

「あんた、すごいわ、リムジンなんて」

 裾がふわっと広がったポンチョコートのコリアンはにっこり微笑む。

「先輩、一気にお金持ちになりましたね」

 信号が青になったスクランブル交差点を渡る人混みが3人の脇をゾロゾロと過ぎてゆく。ビールのアルコールにノックアウトされかけ、ポワンとしていたミヌアの酔いは一気に覚め、深緑のベルベットロングブーツに視線を落とし、やりきれないため息をついた。

「あぁ……」
(お金持ちね……)

 昔からの付き合いのカエデは胸の谷間をさらに強調させるように、シルバーのマニュキュアをした腕を組み、優しく微笑んだ。

「あんたらしい反応だね」

 ピンクのミニスカートの下に出ていたグレーのタイツの小さな両膝に、コリアンのビーズの指輪をした両手は乗せられ、前かがみになる。

「そうですね、先輩らしいです。そこがいいところだと思います」

 茶色の太く低めのヒールのショートブーツと黒のエナメルのSMチックな女王様ピンヒールのそれを歩道の石畳の上で見つめながら、ミヌアの吐く息は力なく地面へ落ちてゆく。

「あぁ、うん……」
(最低限のお金があればいいから、自分は……)

 姫妻が乗り込もうとしているリムジンを好奇な目で見ながら通り過ぎてゆく人々を色気のあるしっかりしたブルーグレーの瞳で見渡して、両腕をあきれたように顔の高さに上げた。

「普通、楽して多額の資産手に入れたって大喜びするところだよ~。心の濁ってる人間はさ」

 運転手のタキシードをとぼけているサファイアブルーの瞳に映しながら、コリアンはがっくりと下に落ちている金の髪の持ち主を励ますように言った。

「でも、そこをしないのが先輩です。お金で買えないものを大切にする」

 グロスをきつめにつけた赤い唇のカエデからこんな言葉が出てきた。

「あんた、本当、どっかの修道院にいる聖女みたいだよね」

 誰かさんと同じことを言われている姫妻は困った顔を上げ、乱れた髪を手櫛で直す。

「そこまではさすがにね……」
(聖書は読むけど……)

 そうして、冬の夜空に親友と後輩からミヌアの弱点、いつまでも前に進めないもう1つの原因が仁愛という名でもたらされた。

「あんた、人のことばかり優先で一体いつになったら自分の人生歩むつもり~?」
「そうですよ。先輩、いつも自分のこと後回しにし過ぎです」
「今回はそうならないようにしっかりしなさいよ~」
「そうです! 今回は自分のことも大切にしてください」

 ミヌアのベビーピンクの瞳は涙でにじみ始めたが、無理やり笑顔を作った。

「……ありがとう」
(2人とも優しいね……)

 カエデとコリアンが微笑み返した時、全ての動きがスローモーションになった、まるで永遠の別れを連想させるように。

(何だろう?
 2人が遠く思える……。
 もう二度と会えないような気がする……。
 どうして、そう思うんだろう?)

 リムジンを避けるように流れてゆく人の往来も色褪せ、途絶えることのない足音の行進も人の話し声も、大画面テレビからの音楽も何もかも、別世界のように遠くに聞こえ、ミヌアは1人ぼんやり立ち尽くした、まるで自分だけが切り取られてしまったみたいに。

「濃厚なセックス話聞かせてね~」
「先輩、エロ待ってますでござりまする~」 

 通常のスピードでカエデとコリアンの会話が再生され、ミヌアは我に返り慌てて手を振った。

「……じゃあ、またね」

 運転手が待っているのも忘れたまま、ミヌアは人混みに紛れ離れてゆく漆黒の長い髪とふわふわの藤色の髪をいつまでも見送っていた。金の髪から遠のき始めたカエデとコリアンはそれぞれのブーツで石畳を仲良く歩いてゆく。

「あの子さ、何で離婚を選ばないかね?」
「先輩のいつものあれじゃないですか?」

 光る龍のような電車がホームへ斜め上から滑り込む背景の中、カエデとコリアンの声は同時に響いた、都会の騒音に少しだけ紛れながら。

「神様のお導き、全てに意味がある!」

 濁った雑路の空気に聖なる言葉が白い息とともに舞い上がると、2人は微笑み合い、どんどんミヌアから背を向けたまま小さくなってゆく。178cmの背丈の上にピンヒールのカエデ、158cmでローヒールのコリアンはまるで男女の恋人同士のような身長差で漆黒の髪が横にかがみ込んだ。

「もう1軒行かな~い?」

 コリアンのショートブーツは歩幅の違うカエデに合わせるため小走りになりながら、断りを口にする。

「明日早いので、これで失礼でござりまする~」

 カエデはヘアバンド代わりのサングラスを手で直しながら、まわりにいる男に照準を合わせ始めた。
「あぁ、そう。じゃあ、男でも引っ掛けて朝帰りしちゃおうかしら~?」

 コリアンのあきれた吐息が白く舞い上がる。

「またですか?」
「人生はセックスするためにあんの!」

 高層ビル群の窓明かりを見上げてカエデが人生論を語ると、とうとう姫妻から漆黒の髪と藤色のふわふわウェーブ髪は人混みにかき消され見えなくなった。

 ミヌアはぼんやりしていたが、やがてすぐ近くで運転手が待っていることを思い出し、深緑色のベルベットロングブーツは歩道の石畳の上をくるっと反転し、人が注目する中でリムジンに乗り込もうとするのをすぐ近くのカフェの店内から見ている黄緑色の瞳の男が運転手の顔を見て取って、ミヌアの金の髪がリムジンに乗るためかがみ込むのを見つけた。

(あの女……?
 乗り込もうとしてる……可能性が97.89%。
 じゃあ、こうしちゃう?)

 歩道で車に乗り込もうとしているミヌアを、どうやっても店内を出て引き止めることは間に合わないはずなのに、ボブ髪の男は焦る様子もなく、流れ続ける人の群れからモルガナイトのヘアアクセサリーの一番近くを通っていたサラリーマンに目をつけ、幾重のブレスレットをつけた手をパチンと鳴らすと、その男は店内から消え、代わりにサラリーマンが同じ場所に現れ、びっくりしてビクッとしカフェを不思議そうに見渡し始めた。

(あ、あれ……?
 さっきまで外を歩いてたのに……。
 何で店の中に……?)

 店の自動ドアが戸惑いという名で開き、サラリーマンが出てゆくのを背にして、ピンクのトレンチコートは開けられていたリムジンのドアに乗ろうとしたところで、すぐ近くに突然現れた白の毛皮のファアが縦に長く2本落ちている服が容赦なく突進してきた。

「っ!」

 ミヌアの深緑ベルベットロングブーツは横によろけ、リムジンへの乗車を阻まれ、紳士的な男の声が丁寧な物腰でかなり上の方から響いた、騒音も何もかもを押し分けるように。

「これは失礼、前を見ていなかったので……」

 酔っているところでの不意打ちの横攻撃を受けたミヌアは何とかバランスを立て直し、手のひらをその人に向けて横に振る。

「あぁ、いいんです」
(自分がぼうっとしてたからね)

 どこかズレているベビーピンクの瞳の先には座り心地のよいクリーム色のリアシートが映っていたが、ぶつかってきた人の視線はピンクのトレンチコートの上空に向けられ何かを見つけ、軽薄なナンパするような声に急に変わった。

「そう」
(あぁ、そういうこと。
 だから、あいつ、この女と結婚したのか)

 ミヌアを挟んで立っている運転手の瞳に、黄緑色の瞳は有無を言わせない感じで向けられ、視線を右から左へ動かしただけで命令を下した。

(彼女と話したいから戻って)

 運転手の視界には、光沢のあるワインレッドのゴシックな貴族的でありながら、わざと裾を逆三角に切り込みを入れた動くたびに、人を惹きつけるムーブメントを作るタキシードを着て、凛々しい顔つきだがイエローのサングラスが目元に遊びというようにかけられている。その奥に潜む黄緑色の瞳は一度見たら忘れられない強烈な印象のもので、運転手は足をそろえて頭を丁寧に下げた。

(かしこまりました)

 リムジンの後ろから回り込み、2人を残して車の中に消えた。貧困層のミヌアは気にした様子もなくそのまま自力で乗り込もうとしたが、バタンとリムジンのドアが閉められた。

「え……?」
(乗ろうとしてたんだけど……何で?)

 リアシートが消え、黒塗りの綺麗に磨かれた車のボディーに視界の色が変わり、ミヌアは自分が映り込む車窓を見つめていたが、視界の上の方に蛇が絡みつく指輪をした手がもたれかかるように置かれているのを見つけ、左横へ視線を上げた。

 そこには、丁寧で紳士的な物腰とは程遠い男が立っていた。まわりを通り過ぎてゆく人々はその人の異様な背丈に釘付けになったまま、すれ違いやって来るを繰り返す。

 何重にもかけられたペンダントが下がる襟元はフリルで縦のラインを膝下まで強調させるようなシャツに、白いファアを首から膝上まで下げおろし、長いベルボトムのズボンの下には光沢がある先が尖ったつま先の革靴。

 耳元には二箇所で止められたチェーン付きのピアス。腰元からも黒のファアが2本揺れ動きゴージャスさを強調させるように下げられ、ゴシックで高貴なイメージだが、どこからどう見てもチャラい男が立っており、酔っ払って少し目が座っているミヌアは心の中で密かにツッコミ。

(……その服装、ホストですか?)

 男から視線をはずし、ミヌアは右人差し指を左へすっと向ける。

(1本道間違えてませんか?
 あっちにある、スタジオ何とかの前で声をかけてる人……)

 ぼんやりしてて、自分が運転手を追い払ったことも気づいていないミヌアを見つめ、男は閉めたリムジンのドアから手をそっと離すが、なぜかその仕草が不自然でなく思えて、さっきまで好奇の目で見られていたリムジンは人混みの視線にさらされなくなり、いや別のところに興味を奪われていた、正確には惑わされていた。

 スクランブル交差点を渡ってくる人々は最初はリムジンを見つけて、色めき立ちながら近づいてくるが、途中でそんなことはどうでもよくなり、いや何かに忘れさせられリムジンとミヌアたちをスルスルとすり抜けてゆく。

 萱草色のボブ髪の人はミヌアの奥深くを見て、幾重にもブレスレットをした手で、髪をクシャクシャにかき上げる。

(そう……。
 初めて会った……こんな女に……。
 あいつと約束したから……)

 人混みの死角で男が指をパチンと鳴らすと、ミヌアを取りくように集まっていた黒い霧はすうっと去っていった、まるで標的が突然いなくなったみたいに。

 服装はどこからどう見てもチャラいのに、春風のように微笑み丁寧で純真無垢な雰囲気を持つ男は紳士的な言葉を口にした。

「お怪我はありませんか?」
(それなら、俺はこうしよう)

 矛盾だらけの相手。それなのに、ミヌアは何かにつられるように普通に返事をした。

「い、いえ、ないです……」

 だが、おかしいことを見つけた。異様に背の高いホストみたいな男のまわりに、常人では決して見えないものが入り込み、ベビーピンクの瞳はその男から視線を外し、あたりをうかがう、その正体を知りたくて。

(何だろう? これ。
 目の前に金の粉がふわふわ舞ってる気がする……?)

 ミヌアの取っている態度は、男にとってはよくある光景で気にした様子もなく、言葉を変幻自在に操り、次々と話を進めてゆく。

「これから、どちらへいらっしゃるのですか?」
(それとも、私はこちらのようにしましょうか?)

 一旦ここで、宝石のように輝く黄緑の瞳の奥に隠された人の心理と言葉は統一され、戸惑いという動きを取っていたモルガナイトの蝶々のヘアアクセサリーは、今会ったばかりの男に警戒心も持たず飛び止まった。

「あぁ……家に帰ります」

 何を話していたのかがわからなくなっていき、ミヌアは金の髪に手を当て、男の白いファアが冬の風で揺れるのを見つめる。

(あれ?
 金の粉が何だか頭を混乱させて……?)

 相手を敬う言葉をさっきから言っていた男の口調が急に変わった。鼻で少し笑い、指先をミヌアの前で下から上にすうっと持ち上げる。

「そう。俺と一緒にいいところに行かない?」
(それとも、僕はこうしちゃう?
 戸惑わせて遊んで差し上げます!)

 ごちゃまぜの心を前にして、男の言葉の豹変などどうでもよく、ミヌアは右手を胸の前に縦に置いた。

「え……?」

 さっきからどうもおかしい自分たちを包んでいる見えない何かに気を奪われていたが、動きがあった。空中道路が走るルドルカシティー、今夜は三日月。都会のきらびやかな光に星たちのまたたきはかき消されていたが、男の真上に流星みたいなものがすっと落ちてきた。

 どこかズレているベビーピンクの瞳は男のファアから幾重にもかけられたネックレスを通り過ぎ、凛々しい顔と黄色のサングラスも素通りし、ウェーブのボブ髪のてっぺんへ上げられる。

(ん?
 今空から何か落ちてきた気がする……。
 何だろう?)

 黄色味かがった橙色の髪の持ち主は気にした様子もなく、ミヌアの顔に自分の凛々しいそれを近づけ、軽い感じでありながら高貴でサディスティックな声で、話す言葉と思考回路が別々なのに同時進行し始める。

「俺と結婚しない?」
(お前のIDの写しは簡単に手に入るっていうか。
 俺様の彼が管理してるから)

 都会の雑音、クラクションの海の中でのいきなりの高波警報に、ミヌアの視線は凛々しい男の顔にすっと戻され、予測不可能なことはしてくるし、不可思議な現象がまわりで起こるはの戸惑いばかりの嵐に見舞われながら、黄色のサングラスの奥に隠されたどこかいってしまっている感満載の黄緑色の瞳をじっと見つめ返した。

「…………」
(ナンパですか?
 プロポーズですか?
 どっち?)

 真意がつかめにうちに、絡みつく蛇の指輪をしている指を頭より上に縦に持ち上げ、軽薄でナルシスト的に微笑んだ。

「それとも、こうがよかった?」

 相手の独特の雰囲気とペースから何とか抜け出し、自分に向かって話しかけてきている以上、ミヌアは戸惑い気味に聞き返す。

「……どうですか?」

 男はかがみ込み、ミヌアの真正面に黄色のサングラスをかけた顔を近づけて、天使のような神聖さを持った笑顔を向けて、純真無垢でありながら立派な剣で脳天から切りつけるような声で小首を傾げた、まるで子供がおねだりするように。

「君と結婚したいの、ダメ~?」
(君の名前は優雅な彼に聞けばわかる)

 男の思いっきりホストみたいな言動を前にして、ミヌアは顔をカチンとまではいかないが怒り色で歪め、冷ややかな眼差しを向けた。

「…………」
(母性本能はくすぐられません)

 ミヌアの態度などどこ吹く風で、男は彼女から一旦体を離し、また蛇の指輪をした指をボブ髪の高さに縦にして上げる。

「それとも、これ?」

 高貴に微笑むと、まわりを歩いていた女性が全員その人に釘付けになった。

(こんなにかっこいい人がいるんだ……)

 憧れの眼差しをまるでスポットライトのように浴びながら、黄緑色の瞳を持つ男は高い声をわざと低くし、まだら模様みたいなそれで、まるで王子様がひざまずいたみたいに右手を斜め上に上げ、華麗にお辞儀をすると同時に左下へすっと下ろし、ファアも個性的なタキシードの裾も最敬礼という動きを取った。

「姫、私と結婚していただけませんか?」
(あなたの許可なしで勝手に役所に婚姻届は出させていただきます!
 強制送還です、私の妻に)

 だが、男の心の内は姫妻の意思を完全無視し絶対服従なもので。勝手にまた結婚させられそうになっているミヌアは、さっきから変化に変化を続けている男の萱草色のボブの髪が重力に逆らえず落ちているのをきっと睨み返し、プロポーズの返事では到底ないものを返した。

「もう埋まってます!」
(姫はドン引きです!)

 ズレた回答をしたばかりに、他の人たちが注目している中、男から公然わいせつ罪まっしぐらの言葉が、子供と同じ無邪気な声色を持って返ってきた。

「俺のペニスで君の膣を埋めてあげようか?」
(俺のは本当にすごいよ)

 自分の性器を自画自賛している男の前で、重力を克服した電車が斜め上に向かって登ってゆくのを背にして、ミヌアは唇をぎゅっと噛み締める。

(むむむ……。
 負けるか!)

 まわりを歩いていた人々が思わず足を止め、男とミヌアを見るためにちょっとした人だかりが出来ていた。男からのエロ発言を突き付けられたミヌアに人混みの視線は集中していたが、ピンクのトレンチコートの両腕は胸の前で組まれ、男の腰前を挑むように見た。

「どんな立派なものなんですか?」
(もう3本同時に見てるから、これ以上増えても全然平気だ)

 ミヌアはさっきからリムジンのドアの銀のアウターハンドルを自分で引いて開けて乗れば、この男から逃げられる位置、車の後方に立っているのに、運転席を背にして立っているホストみたいな人物の言動と雰囲気に知らないうちに引き込まれ、逃げる機会を逃し続けていた。

 このままいくと、男がズボンのチャックを下ろして、スクランブル交差点の歩道で本当に性器を披露しそうな雰囲気が漂っていた。

「そう」
(じゃあ、こうする)

 だが、男が指をパチンと鳴らすほんの少し前に、さっきと同じように萱草色のボブ髪の中央を目指して、遠い空の彼方からすっと入り込んだものを見つけた。

(ん?
 また、上から何か落ちてきた……。
 金の光……?)

 気がつくと、ミヌアのピンクのトレンチコートが運転席を背後にして立ち、男がリムジンのドアのアウターハンドル側で、車のルーフに右腕でだるそうにもたれかかっている状態に激変。ワインレッドのベルボトムの長い足は石畳の上で、余裕というように軽くクロスされ、白いファアが冬風に揺れる向こうに広がる景色は、ミヌアが背にしていたスタッド駅のホームへ電車が空から降りてくる風景に一変していた。

 歩いたわけでも、手を引っ張られ、位置を変更させられたわけでもない。一瞬ブラックアウトしたわけでもない。それなのに景色が急に変わり、ミヌアは戸惑った。

「え……?」
(あれ?
 駅が見えるようになった……)

 男の異様にキラキラと輝く黄緑色の瞳から視線を外し、振り返ると様々な店が立ち並ぶ横で人の往来の向こうに、街の奥へ入ってゆく通りがいくつもクモ型のように広がっているのを見つける。

(さっき見てた景色が背中の方にある?
 この人と私の立ってる位置が逆になった?)

 混乱しているうちに、男のワインレッドの個性的な裾が広がるタキシードの背中は、リムジンのドアの前に通せんぼするようにつけられ、白いフェアを揺らして、両肘をリムジンの屋根の上に、まるでソファーの背もたれに腕を横向きでリラックスした感じで乗せた。

「帰りたいんだったら俺とセックスしたら?」
(何を使ったか~、わかる?
 彼らと俺は違うよ)

 さっきからふざけて遊んでばかりの男。自分の行方は男のホストのような服にさえぎられ、余裕の笑みで言ってきた言葉が言葉なだけに、ミヌアは顔を怒りで歪めうなり声を上げる。

「ん~~~っ!」
(ヒュラルさんたちに迷惑かけちゃうから。
 急がないと……)

 その時だった。ミヌアの空想世界で聖なる鐘の音がゴーンゴーンと鳴ったのは。

(よし、来た!
 こうしてやる!)

 だが、相手の方がはるかに上手うわてだった。

(視線が左後方へ向いた)

 素直で正直なベビーピンクの目線の動きを、どこかいってしまっている黄緑色の瞳は情報収集という名の追跡をするが、それは自分の意識していないところ、潜在意識、いや無意識の直感で、ヒュラルと同じ思考回路を瞬時に展開した。

(リムジンを後ろから回り込んで反対側から乗るという可能性が98.78%。
 じゃあ、こうしちゃう?)

 ミヌアの深緑のベルベットロングブーツは男のチャラさ全開の靴の前を急いで通り過ぎ、リムジンのテールランプ2つを通り抜け、反対側のドアの前までやって来たが、既にそこにはさっきそばにいたワインレッドの個性的なタキシードが車のドアに斜めにもたれかかるように立っていた。2人がさっきまでいた歩道側のリムジンのドアの前では、モヘアの帽子をかぶった女がキョロキョロしている。

(あれ……?
 私、こっちの方向に歩いてたっけ?)

 まわりがどう動こうと何が起きようと、自分自身は見失わず、相手を混乱の渦に巻き込む男は今度は高貴でサディスティックで高めの声をわざと低くさせ、まだら模様みたいなクルクルと目を回すようなそれで誘った。

「ねぇ?」

 交わしたはずの人が目の前に立っていて、ミヌアは思わず目を見開いた。

「っ!」
(あれ?
 何で、またいるの?)

 だが、一瞬にして激変したまわりの異様な空気を感じ取った。

 脅威と威圧感。
 神聖と荘厳。

 2人の横をギリギリで歩いていた人全員の手足が震え、ドーナツ化現象が巻き起こり、ミヌアと男を避けて歩き出した。近づいてきた人は驚きで目を止め、後ずさりし警戒心を強く持って、静かに立ち去ってゆくを繰り返す。

 すっかり酔いも覚めたミヌアのベビーピンクの瞳は男からまた視線を外し、高層ビルに四角く切り取られた星空と歩道の石畳を交互に見るをリピート、

(これって、あの時に似てる……。
 さっき、カエデたちが言ってたトゥクフアの駅のホームで感じた……。
 空の高いところと地面の深いところに、1本の線が通ったみたいなやつ……。
 どうして、ここで感じるんだろう?)

 他の人より頭1つ分上に出ている人は、黄色のサングラスをすうっと取り去り、宝石みたいな輝きを持つ黄緑色の瞳をミヌアのそれと同じ目線にするためかがみこんで、視線だけで緊縛するような威圧感この上ない感じで懇願こんがんする。

「俺と結婚して」

 断ったはずの言葉をさっきとと違う様子で言ってくる男。ミヌアはあきれた顔に変わって、肩がけのバックの紐を強く握る。

「どうして、そうなるんですか?」
(断りました!
 笑いですか!)

 形のいい男らしい唇は何の戸惑いもなく動く。

「綺麗だから……」

 王子夫、武術夫、俺様夫どころか、今までそんなことを言われたこともなく、言われたいとも思っていないミヌアは盛大にため息をついた。

「何で、そんなに急に好きになるんですか?」
(今度は絶対に断る!)

 その時だった、駅前のスクランブル交差点が、まるでどこかの国の城に変わり、謁見の間で立派な玉座に座る皇帝が、地上にいる全ての人々をひれ伏せさせるような威圧感と高貴さを発揮したのは。街ゆく人は思わず立ち止まったが、男はそれさえもにし、ミヌアに真剣な眼差しを向けた。

「人を愛するのに時間が必要なのかい?」

 ベビーピンクの瞳と黄緑色の瞳は一直線に交わり、大画面テレビの音量も小さくしてしまうほどのイニシアチブを取って、独特の価値観で次々にものを言ってくる男とキスをしそうな位置で見返したまま、きっぱり断ろうとする。

「名前も知らないです!」

 ミヌアが騒ごうが男にとってはそんなの赤子の手をひねるよりも簡単なことで、狂気でありながら神聖な萱草色のボブ髪の人は、ミヌアの瞳、いやもっと奥にあるものをじっと見つめ、さらに独創的な意見をはっきりと主張した。

「名前がいるの? 愛してるって真実の心があるのに?」
(肉体の名前が大切なのかい?
 心じゃないの?
 死んで残るのは心だけだ)

 空想世界の謁見の間で他の人々は中央に敷かれた絨毯の両脇に跪いているように2人を見守っているが、ミヌア1人は玉座の前に座る皇帝男の黄緑色の瞳をじっと見据え、『誠に僭越ながら』をすっ飛ばし下克上を放った。

「私にはないです!」
(愛してません!)

 だが、大人の常識を覆す、子供の純粋無垢な発想が高貴でサディスティックな声の持ち主からやって来た、押しつぶしそうな畏怖を持って、相手に話す暇を与えることなく立て続けに。

「なぜ、みんな仲良しじゃいけないの? みんなが相手のことを愛してたら傷つく人は誰もいなくなるだろう? 違うかい? 国境なんかいらない。1つに統一すればいい。高度技術を持ってるところが、持ってないところに無償で教えればいいんだ。そうしたら、困ってる人はいなくなるだろう? お金だってそうだ。私利私欲で動いてるやつがいるから世の中おかしくなってるんだろう? そう思わないかい?」
(自分勝手な人間はいらない)

 全ての人々を抑えて自分の意見を強制的に通す、絶対君主制を自身の人生でやり遂げているている男を前にして、ミヌアの顔は痙攣したみたいに左右に揺れ、どこかズレているベビーピンクの瞳は涙で歪み、唇は噛みしめられた。

「…………」
(この人……)

 スクランブル交差点の人々の視線が集中する中、目に溜められなくなった雫が静かに頬を伝い、たくさんの靴が集まる中でミヌアの涙は石畳に落ちたが、男は幾重のバングルがついた手であきれたように萱草色のボブ髪をかき上げる。

「お前も泣くの? 何で?」
(俺の勘は外れないんだけど……。
 このレベルだったら、ついてこれる話だと思ったから言ったんだけど……)

 カフェの店内と同じことが起き、予想外の出来事を前にして、男はリムジンのルーフに両腕を乗せて、まるで窓枠から景色を眺めるように人の往来を視線で追い、放置や無視をせず、ただただ相手の返事を待った。

 ミヌアは涙を手でささっと拭い去り、男の黄緑色の瞳を真っ直ぐ見つめて、こんな言葉を口にした。

「あなたの心が尊いから感動してるんです……」
(あの、強制労働をさせられてる子供を助けるPVと一緒。
 国境がなければ……みんな幸せになれるかもしれない。
 確かにそうだ)

 褒められた男はそんなの当たり前のことで気のない返事。

「そう」

 リムジンのルーフから両腕を離し、泣いているミヌアの真正面に立った。

(魂が綺麗ってこういうことなんだよ。
 レベルの低い人間には通じない、俺の話は。
 そんなやつと話してる暇はないだろう、人生は短いんだからさ。
 1人でも多くの人を助けて死んでいけばいい)

 この男には感情も落ち着きもない。ヒュラルたちとは全く違う性質を持っている。同情そんなものはない。人が泣こうが死のうが自分は自分、人は人で生きている。自身の死期が迫ろうが関係なく生きている。どこまでも冷血無残、自分も他人にも。

 ミヌアが泣いていようが手を貸すこともなく声をかけることもなく。ただ、話が出来るまで待ち続ける。非難の視線がまわりから降り注いでも、それを伝説の剣、エクスカリバーで蹴散らすように皇帝の権力を持って。

「…………」

 ミヌアの涙が頬を伝わらなくなったのを見て取って、男は顔を前にかがませて、充血したベビーピンクの瞳を純粋無垢でサディスティックな黄緑色の瞳で真っ直ぐ見据え、螺旋階段を滑り降りるようなグルグルと目が回る感があるのに静かな声で言葉を紡ぐ。

「だから、俺は嘘は言ってない」
(真面目にプロポーズしてる)

 男のブレスットのついた腕がすうっとミヌアのピンクのトレンチコートに伸びてゆき、泣いたことによって火照った頬に白いふわふわしたものが当たった。

「そうですか……」

 うなずいた自分の声がくぐもったものに変わっていて、視界は斜めに傾き、誰かの鼓動が耳のすぐ近くで聞こえ、自身がどうなっているのか気づいた。

(あれ……?
 何で、抱きしめられてるのかな?
 何だか、この人のペースに巻き込まれてる感があるのは気のせい?)

 1つの動作がミヌアも知らないうちに行われ、相手の罠かと思いきや、本人も意識しておらず気づかないまま時は進んでゆく。ワインレッドの個性的なタキシードの中に、ピンクのトレンチコートを埋もれさせながら、さっきまで微塵の欠片もなかった、もっともらしい理由が心の中に浮かび上がる。

(泣き止むまでに、俺はこうする)

 絡みつく蛇の指輪をした手で携帯を上着のポケットから出し、異様にキラキラしている黄緑色の瞳の中に電車が夜空へ斜め上に登ってゆくのを映り込ませながら、1コールで出た相手に軽々しく伝える。

「あぁ、行くことにしたから」

 向こうで優雅な声が返ってきて、男は縦列駐車の車に視線を落とした。

「海の見えるところにして」

 鼻をすすりながら、ミヌアは男の腕の中で何の電話かを考える。

(宿泊の予約ですか?)

 そうして、話がどんどんおかしくなってゆく。縦に真っ直ぐ流れ星が落ちるように、金の光が男のボブ髪の中へすっと入り込んだ。

「浴室はガラス張りがいいんだけど……」
(ついでに、これで泣き止んじゃう?)

 ふざけ過ぎている無意識の策略が、その人の形のよい男らしい唇からくすりという小さな笑い声をともなって、こんな注文をつけた。

「あと大人のオモチャも」

 R指定がいきなり出てきて、ミヌアの涙はすっかり引っ込み、男の胸の中で目を大きく見開いた。

「え……?」
(ラブホの予約っ!?)

 思わず上を見上げると、綺麗なラインのあごと様々な種類のペンダントが見え、男が遠くの景色を眺めなら全てを帳消しにする言葉を放った。

「うっそ~!」

 電話の向こうからくすくす笑い声がかすかに聞こえ、ミヌアは男の胸の中から脱出し首を傾げると、金の髪がさらっと歩道と直角の位置を取った。

「え……?」
(男の人と話してる……。
 この笑う声って、誰かに――)

 答えにたどり着く前にさらにエロワードがやって来た、どこかいってしまっている黄緑色の瞳が純粋無垢でありながら魔術師のようにくすりと笑って、こんなことを口走る。

「そう、カーセックス、リムジンでね」

 相手の言ってくる言葉に引きずり回され始めたミヌアは、不思議そうに顔を前に突き出した。

「ん?」
(あれ?
 今何考えたかな?
 え~っと……)

 そんなことは全然気にせず、また帳消しにする言葉を軽々しく口にした。

「それも、うっそ~!」

 明らかに電話の相手は男なのに、ホストみたいな人は新妻に言うように、

「じゃあ、あとで。愛してるよ~」

 どこかへ向かって投げキッスをすると、男は携帯電話をポケットにしまい、リムジンのドアのアウターハンドルを引っぱり開けて、ミヌアに先に乗るように視線だけで促した。

「一緒に帰ろう?」

 相手のペースという乱気流に巻き込まれっぱなしのミヌアは急展開な言動についていけず、異様に背の高い男の耳についているピアスのチェーンを凝視する。

「どういうことですか?」
(どうして行き先が一緒なの?)

 ブレスレットをいくつもした手でミヌアの背中をそっと押しながら、男は当たり前というように言う、こんなことを。

「俺もステリア荘の住人になったから、今」

 知らない名前がいきなり出て来て、ミヌアは一緒に乗り込もうとしている男にパッと振り返り、目をパチパチさせた。

「すて……?」
(固有名詞……覚えられない……)

 どうやっても理解していない感を見て取った男は、軽薄でナンパな感じの声で短く相づち。

「そう」
(言ってないんだ。
 あそこが誰の屋敷で何て名前かも。
 じゃあ、俺も情報漏洩は避けようかな。
 それとも、これ?)

 そうして、さっきからエロ暴言を吐きまくっている男はリムジンのドアの上に肘を引っ掛け手の甲を前へ軽く押し出し、自分よりも38cm背の低い女にふざけた感じで、こんな言葉を浴びせた。

「セクハラさせてくれたら教えるけど……」
(交換条件で情報漏洩させようか?)

 モラルハザードの海に撃沈されそうだったが、ミヌアは乙女の鉄壁を発動し攻撃を回避した。

「うっそ~ですか?」

 男の手は彼女のあごにすうっと伸びてゆき、黄緑色の瞳が惑わせという色で輝く。

「そう。勘かい?」
(俺もたまに使うんだけど……。
 っていうか、知らないうちに使ってるが正しいかも!)

 子供みたいなハイテンションな心を持つ男。ミヌアは自分のあごをどさくさ紛れで触っているその手をしっかりつかんで投げ落とした。

「何となく……です」
(何でセクハラしてるんですか?
 了承してません!
 いやいや、了承してたらセクハラにならない!)

 矛盾が生じていた、リムジンとスクランブル交差点の境界線の上で。男は気にした様子もなく懲りもせず、ナルシスト的ににっこり微笑んで軽薄でナンパな感じだった。

「そう、じゃあ、俺も何となく……」

 しかし、心の中はヒュラルと一緒だが、途中から真意をかき消すように豹変。

(相手に合わせると、罠が成功しやすくなるという可能性が99.99%。
 だから、俺は言葉と態度を変える……うっそ~かも!)

 慣れないながらもミヌアはリムジンのクリーム色のリアシートの奥に進行方向を向いて座る場所を決めようとすると、背後からまだら模様の声がさっき視線だけで車に戻るよう命令を下した相手に軽い感じで声をかける。

「久しぶり」
「お久しぶりでございます」

 ピンクのトレンチコートは戸惑いという動きでシートに腰掛けた。

「え……?」
(知ってる……どういうこと?)

 自分と違って慣れた感じでリムジンに乗り込んだ斜め前にいた男の顔を、意見求めます的にミヌアは見ていたが、相手からはとんでもない会話、いや言葉、いやマニアックなものが返ってきた。どこかいっているみたいな瞳に変わり、ボブの髪をアンニュイな感じでかき上げ、少し囁き感があるまだら模様の声で自分に酔っているように叫んだ。

「違う! 君の旦那になりたいだけなんだ」
(情報提供していただきます!)

 この男の罠はヒュラルのはるか上をいっていて、情報収集は基本疑問形だが、ホストみたいな人はふざけている感の中で、ゴットハンド的にデータを引き出し始めた。

 ミヌアは男がしてきたマニアックなロングシュートをゴール前でしっかりチャッチ。右手をさっと上げ、男の何かを素早く遮り、正確にきっちりイエローカード。

「違います! 彼氏です、そこは」
(何で、勝手に変えてセリフ言ってるんですか!)

 クイズ番組のブブーッという不正解音とピポンピポン! の正解音がこの先繰り返すことになる、なぜか初対面のはずなのに以外と馴染んでしまっているミヌアと男の心の内で。

(旦那×。彼氏◎)

 知っている人は知っているが、知らない人は知らない曲の話が進んでゆく。表面上はふざけて歌っているのに、天才的な頭脳の中へ初対面の女の情報収集という名で。

 ボブの前髪を下へ引っ張り、黄緑色の瞳はそれを焦点が合わないなりに見つめながら軽い感じで微笑んだ。

「あ、そう。知ってるんだ」
(少しマニアックなところだったんだけど……。
 そうなると、個性が強いという傾向がある。
 詳細は武術の彼が後日説明するよ~)

 人に説明を勝手に回した男の斜め前で、ミヌアはバッグを膝の上に乗せて、曲のタイトルを口にした。

「知ってます。『聖書バイブル』ですよね、そのセリフ?」

 男は異様に長い足を組み替える。

「俺は彼の曲も好きだからさ」
(君は音楽に興味がある。
 情報をいただきました)

 どんどん情報漏洩していた。さらに歌い出しが始まる前のセリフ部分を勝手にスキップして、男は最後の箇所をいきなりナルシスト的に言い出した。

「君に他の旦那がいてもかまわないんだ
 僕は他のやつには絶対できないキスのやり方を知ってるからね
 さあ 目と閉じて 今から見せるよ」
(俺、実際にうまいよ。
 情報渡したよ~)

 情報提供もどんどんされ始める。ふざけ過ぎていてミヌアにはついていけず、バッグの中に手を入れて探し物をしながら、心の中でさっきと同じ間違いにイエローカード、ブブー、ピポンピポン! を鳴らしながら。

(だから、旦那×。彼氏◎
 おかしくなってます!
 さっき会ったばかりです!
 プロポーズも了承してないです!
 しかも、不倫になってます!
 歌うんですか! この先を)

 どこかズレているベビーピンクの瞳は訴えかけるような視線を男に送ったが、彼は歌い出しをすっ飛ばして、途中から熱唱し始めた。

「♪まだ本当の愛じゃない 
 だからそう 僕が一番になる
 従兄弟だし――」

 次々に罠が放たれる、マニアックな曲という旋律の上で。ミヌアはバッグから手をさっと上げ、素早くさえぎり、イエローカード。

「待ってください! 同級生です、そこは」
(従兄弟×。同級生◎)

 ブブー、ピポンピポン! が脳裏で鳴っていたが、男はミヌアに黄緑色の瞳を向け短く聞き返す。

「そう?」
(嘘は言ってないんだけど……。
 情報渡したよ、君に)

 冗談と真剣の線引きが非常に難しい手強い男。ここは本気で取っていかないと、相手が誰かがわからないまま、5時間の道のりを無駄に過ごすことになるが、ミヌアは螺旋階段を突き落とされたみたいに惑わせられ続ける。

 男はメロディーを少し飛ばし、必要な箇所だけ歌った。

「♪実際愛してるし 背が201!! ♪」

 だが、ミヌアの右手はまた勢いよく上がり、イエローカード。

「違います! 179cmです」
(201×。179◎)

 異様に背の高い人は足を軽く組み替え、正直に答えた。

「そう? 俺は201cmだから、変えてるんだけど」
(また、情報渡したよ~)

 それも見逃していまい、ミヌアはバッグの中をまた探そうとしたところで、男から2番の歌詞が歌われ始める。

「♪High×12-3=me
 待てないんだ 今すぐそばに♪」
(君の番)

 ワンツーパス、男からミヌアへ。

 威圧感この上ない黄緑色の目線を感じ取って、ミヌアのどこかズレているベビーピンクの瞳はその真意を見極めるように上げられた。

(その視線は歌えってことですか?)

 唯一の女性パートの部分を、ミヌアは肩と背中でリズムを取りに取り生意気でポップな感じの声で、右手を胸の前に当てて突き出すをした。

「♪会ったばかりで 困るのよ
 あたしの自由でしょ 誰から好きになるなんて♪」

 ワンツーパス、ミヌアから男へ。  

 すんなり男に旋律は戻っていったが、

「♪だけど Baby 恋に落ちるよ そんなに――」
(ふ~ん、ノリがいい傾向がある。
 従って、勢いをつけた言葉で……。
 他へ注意をそらすことが出来るという可能性が98.78%。
 すなわち、罠を仕掛けやすい傾向がある)

 次々に情報漏洩をしている中で、ミヌアからマニアックな阻止、スライディングタックルがやって来た。

「次、『忘れてしまいたい』歌わないでください!」
(出番、増えるのでやめてください)

 201cmの身長を持つ男は歌うのを止め、こっちもこっちでしっかりイエローカード。

「それは別の人の曲だろう?」
(自分から話して来る傾向がある。
 同時に以下の傾向が出て来る。
 先を促せば情報を勝手に話して来る)

 詳しい人でないとわからない歌の話が、2人きりのリムジンのリアシートの上に舞う。ミヌアは身を乗り出した。

「知ってるんですか?」
(カバーつながりだったんだけど……)

 『聖書』という曲のオリジナルの人から、カバーをした人の別の曲に話は飛んだが、男の脳裏には銀の長い前髪の向こうに隠された鋭利なスミレ色の瞳の超不機嫌俺様ひねくれな人の面影が、自分の性器を覚醒するように浮かんでいた。

「知ってるよ、だけど、俺はユリアが1番かな」
(俺様の彼を1番愛してるから、俺は。
 情報渡したよ~)

 1番の意味が違っていることにミヌアは気づかなかった。

「そうですか」
(ユリアさんの曲が好きなんですね)

 再び探し物をするためにバッグに視線を落とした向こうで、男の問題行動、レッドカードが当たり前のように始まった。

「ん~、いらない、これ」

 ワインレッドの個性的なタキシードを腕から抜き取り、シャツのボタンを外し始め、ベルドのバックルに手をかけ、カチャカチャいい出した中で、ミヌアは手を止める。

「何で脱いでるんですか?」
(今度は何をするつもりですか!)

 綺麗な線を描くセミヌードになり、ズボンから足を引き抜きながら、子供みたいな言い訳がやって来た。

「俺、服着るの好きじゃないの」

 モラルに反して脱衣が行われてゆく前で、ミヌアは空想世界でホイッスルを懸命に吹きつつ必死に訴えかけた。

「着てください!」
(裸族ですか!)

 だが、全裸になった男は春風のように微笑んで、柔らかで丁寧な物腰で聞き返して来た。

「なぜ、服を着なくてはいけないのですか?」
(じゃあ、自己紹介を8個先でするよ)

 別のことを話しながら、違うものが同時進行で進んでゆく。服を着る理由を問われている。当たり前のことが当たり前ではない男。聞き返されるとは思わなかったミヌアは凛々しい男の顔をじっと見つめた。

「え……?」

 男は白のファアをつかみ、それが消えると細く短いタイプの葉巻、ミニシガリロの箱に変わっていた。そこから、茶色のロメオ イ フリエタをそっと取り出し、ジェットライターで灼熱色に染めながら、容赦なく疑問形。

「なぜ、そう思うの? 公共の場所じゃないけど、ここは」

 複雑な知恵の輪が次々と現れるが、外す機会を理論だけではなく、もう1つ別の方法、フェイントをやって来る男。聞かれている、答えなくてはいけない、普通は。ヒュラルのように疑問形でディフェンスする手もあるが、感覚のミヌアはそのまま素直に正直にドリブルした。

「私がいるので公共です」

 だが、相手の生きている時間が人を超え神並みの長さ、まるで何百億年も存在しているような余裕を持って、ミニシガリロを口の中にさっと入れた。

「そう? 俺は平気だけど……」
(どこで君は見てるんだい? 物事を)

 ミヌアは唇を噛みしめ全裸の男に向かって、リムジンのリアシートという狭い空間の中で、この言葉を浴びせた。

「オーバーヘッドキックしましょうか?」
(バク転して、蹴りましょうか!)

 しかし、相手の方がさらに上だった。自分の性器の前の膝に両肘をもたれ掛けるように落として、全ての人々をひれ伏せるような威圧感に激変。

「死ななければいいだろう? 何をしても。違うかい?」
(死ぬ寸前、最大限の中で生きる。
 俺はいつもそうしてるけど……)

 いきなり変わる相手。ふざけて話しているかと思いきや、人生を語るほど真剣になり、戸惑うことなく自分のルールの中で生き方を選び、人々を何かの原因でひれ伏せさせて生きている男。それは物が消えて、別のものが現れるのとは違うことが引き金。

 自分を隠すものが何もなくても堂々としている男を、ミヌアはぼうっと見つめて、ポツリとつぶやく。

「死ぬ気で挑戦する……」

 だが、空中道路の渋滞に巻き込まれ始めたリムジンの中は、まるで神聖と威厳を持つ聖堂に変わり、自分をはるかにしのぐ存在の畏敬をビリビリと感じさせるものになった。

(まただ。
 縦に線が入った……。
 この人が急に変わるのと関係する……?)

 青白い煙を吐き出し長い足を組み直して、あきれたようなため息をつき、異常なほど厳しい言葉を口にした。

「レベルの低い話はやめてよ、人を傷つけるとか。そんなのしないに決まってるだろう? してるやつなんか死ねばいい。そんなやつはいらない」

 勝手に婚姻届を出そうとしている男の千変万化の前に跪き戸惑いの竜巻きに巻き込まれっぱなしだったが、対等な立場に信仰という名の階段を使って乗り上がった。

「必要ないとは言い切れないです」
(言ってることはあってると思います。
 だけど……)

 紺の長い髪を持ち、優雅で中性的な男の遊線が螺旋を描く声があることの葉を持って脳裏に鮮明に蘇った。

『本当にいらないのであれば、神が既に何らかの手を下しています。違いますか?』

(4年前、俺が22歳であいつが21歳。
 12月3日、火曜日、15時18分59秒に言ってた言葉)

 長い言葉を一字一句間違えずに思い出しながら、ボブ髪の男は顔色1つ変えず聞き返す。

「なぜだい?」
(お前も同じ?)

 刺すような威圧感のある瞳を平然を見返し、ミヌアは自分の意見をしっかりとした。

「人のレベルでは相手の全てを見ることは難しいです。だから、その人の存在も心の清らかな人のために何かの理由で必要なんだと思います。必要がなくなったら、神様が天に召します」
(人は神様に生かされてる)

 既に3人の夫と結婚している女。その人物を前にして、男は両手で顔を覆い下へするっと下ろす、そこにどんな意味があるのかわからない返事を返しながら。

「そう」

 自分と同じ思考回路を持つが、激情という名の獣を飼いならしている男が、瞬間移動の魔法で戻っていった方角を車窓から眺めた。

(似た者夫婦?
 あいつの可能性幾つなんだろう?)

 王子夫が気にしているものと同じものを男は気になり出したが、人の心の内はわからない。デジタルに切り捨て、どこかいってしまっている感のある黄緑色の瞳は車内に戻される。

(じゃあ、最後から2番の俺の会話)

 ミヌア側にある足を向かいのシートの上に膝を立てて乗せ、性器がバッチリ見える姿勢で、こんなことをわざと聞く。

「俺の触りたい?」
(断るという可能性が98.76%。
 うなずいた時は別の言葉でかわしちゃう?)

 会話の回数を調節し、次へつながるように言ってきている言葉。高度なことを相手がしてきているとは知るよしもなく、特にすごそうでもない男性器をミヌアは凝視して、負けずに言い返した。

「かじりましょうか?」
(再起不能にしましょうか?)

 こうして、男が予言した通り、8番目の会話が歌という旋律でやって来た。

「♪触れちゃいたいかい?
 僕のトーテムポール
 君のその指先で 手で
 ローザちゃんが待っているよ――」
(何でもいいんだよ、間の会話は。
 最後の1つに持っていけば……。
 優雅な彼もそうしてるだろう? 言葉のすり替えの罠は)

 ここで男のフルネームは登場しきったが、ミヌアはファミリーネームは聞いておらず、さらには性器を披露している状態で自己紹介してきているとは思わず、右手をパッと上げ、イエローカード。

「違います! そこは、それを歌ってる人の名前です」
(誰の名前ですか?)

 意味ありげに男は微笑む。

「そう?」
(情報渡したよ~)

 さらに違う曲を歌い出した、高い声をわざと低くした声で、横に円を描くようなグルーブ感で。

「♪ブレーキなんで壊せばいい
 だってそうじゃん
 エブリデーで人生はステップアップする
 だから 僕はこうなったんだ
 わかるだろう? ♪」
(俺、世界的な有名人だから。
 情報渡したよ~)

 独特の雰囲気に気圧され、情報を逃しに逃しているミヌアは、未だに片足を上げ、性器を堂々と見せている男の横顔を無言で見つめた。

「…………」
(その人のメドレーですか?
 今度は別の曲、歌い出して……)

 今回は旋律が飛ぶことはなくサビを歌い出した。バンッと! 弱拍のはずの2拍目を強拍にする意表というメロディーをノリノリで歌う、ボブ髪の全裸の男。

「♪何でもありでいいんじゃない
 進めるだけ進んで
 何でもありでいいんじゃない
 僕はステップアップするため
 物理と数II 学びたい×3 
 そうさ♪」

 ミヌアはあきれたため息をつき、放置を決めた。

「…………」
(勝手に学んでください!)

 カバンの中に再び手を入れる。

(小説、小説……。
 あった、ずっと読んでなかったから……)

 屋敷に勝手に運び込まれた段ボール箱をかたっぱしから開け見つけてきた小説、Legend of kiss 3を取り出したミヌアの手元を、ヒュラルと同じような冷静な視線で、男は見つめる。

(日付と時間……いいえ、そちらは間違っています!
 時刻と時間は意味が違います。
 時刻はいっときの時を表す言葉です。
 時間とはAという時刻からBまでの間のことを指します。
 ですが、言い方は人に合わせるのです。
 なぜなら、相手が油断して……。
 自分の思惑通りに動かせる可能性が高くなるからね。
 俺と優雅な彼は自分の中では時刻を使います。
 ですが、人の前では時間と言うことが多い。
 日時は記憶を整理するインデックス。
 そうじゃないと、いくら俺と優雅な彼でも混乱するからね。
 だって、俺と彼は思い出せないことが人より少ないんだ)

 ここまでの思考時間、約1秒。幾重のペンダントの中に混ざりこんでいたヘッドが時計のものを手に取った。

(11月29日、火曜日、22時01分19秒。
 以下のことが事実として確定、100%です!
 ――女が小説、Legend of kiss 3を見始めた。
 『読んでる』じゃないんだよ、ここは。
 『見てる』……そうじゃないと、事実じゃないんだ。
 わかる~? 俺が言ってること)

 ここまでの思考時間、約0.5秒。真下に広がるルドルカシティーの都会の光の海に視線を落として、全裸の男は車窓の枠に肘をつき、他の人が混乱することをし始める。いきなり流暢りゅうちょうな英語でしっとりと歌い出した。

 Feel so, feel so good baby
 Feel so, feel so good baby
 Because we are one
 We become brand new baby

 ミヌアはしおりも折り目もつけていない小説を開く。

(しおりどこかに行っちゃったね。
 どこからだったかな?)

 We finally came here
 In the room watching the two
 Let's get started, nice things
 Is it the one that moves first, or me?
 Let's get started, all from now――

 口ずさまれた曲が耳に入り込んできたミヌアは、凛々しい男の横顔を見せている人を睨みつけた。

(確かに、夜景を見ながら聞くといい曲ですけど……。
 こういう歌詞が出てくるので、やめてください!)

 Do it as it was born, for what we got planned
 生まれたままの姿でいいんだ これから2人ですることには
 Oh girl I will absolutely obey you when you are asked for it.
 あぁ~ お前にお願いされると 絶対服従なのさ
 Treat you like a princess, oooh girl you're so delicious
 お姫様みたいに大切にするよ お前はとてもデリシャス
 Like chocolate on a summer day, gonna eat you before you melt away 
 夏の日のチョコみたいだ 溶ける前に食べなくちゃ

 エロ満載の曲を歌っているまだら模様の歌声を無視しようと、ミヌアは小説を最初のページからめくった。 
 歌い続け、さっきの理論の続きを男は自分の性器をいじりながら平常運行。

(これが理解出来ないと……。
 俺と優雅な彼の思考回路にはとてもじゃないけど、ついてこれない。
 それは、凡人の頭脳ってこと!
 ここでわかった人には、200点満点差し上げます!)

 行間が空いて指示語がいきなり出てきた時点で誰もついていけなくなったが、ヒュラルとこの男ならば簡単に話題を再開出来る。ミヌアが小説を手に取って本を開いたのを前にして、『読んでいる』ではなく、『見ている』に事実を確定しないといけないという話の続き。

 車窓越しに情報を持っていかれているとは思っていないミヌアは、英語の歌声を聞き流しながら、ページをめくり始めた。

(え~っと……。
 先生が夢を見て、いつもより早く起きて……。
 いつも通り学校に行って……。
 朝のホームルームで出席を取って……。
 亮ちゃんぼうっとしてて、返事し忘れて……)

 男はボブ髪を首に左右に激しく降るをして乱れを直しながら、今度は別の歌を口ずさむ、教会の鐘が鳴り響き、せり上がるような楽器たちの中で。

「♪俺なんかもっと探せばきっと
 女なんかゾクゾク見つかるさ
 やっぱ マニュアル通りに惑わせそんでもって
 マンション×2♪」
(俺、女によく声かけられるよ。
 この国じゃないけど、高層マンションの最上階に住んでる。
 情報渡したよ~)

 さっき終わったはずの情報漏洩を始めた。ミヌアは小説から顔を上げて、無言だが心の中で猛ツッコミ。

「…………」
(いやいや!
 家に連れ込むのやめてください!)

 黄緑色のどこかいってしまっている瞳から得た視覚という情報を使う。

(……ページをめくった。
 読んでるという可能性が出てきた。
 この先、女がページをめくるたびに可能性の数値は上がり続ける。
 ですが、どんなに可能性が上がっても99.99%までです。
 事実として確定、100%にはなりません。
 0.01%は別のことが起こっているという可能性が残ります。
 なぜ、事実として確定出来ないかわかる~?
 ここでわかった人には、100点満点差し上げます!)

 ミヌアは再び視線を小説に落とし、ページをめくりながら物語を回想中。

(4時間目が終わると……。
 八神先生、女子生徒にお昼に誘われるんだけど……。
 断るんだよね、誰かと約束してるからって。
 で、廊下を歩いていくと如月きさらぎ君が走ってきて……)

 既に読んでいるページを2枚一緒に送り、場面が思いっきりスキップしたところで、ミヌアはくすくす笑う。

(それで、そうそう。
 先生と約束してる人って、ルー君だった)

 続々と登場人物が出ている妄想癖のある姫妻の小説世界。全裸の男は男で待っていましたとばかりに歌のサビに入った。

「♪どぉなっちゃってんの
 人生楽しむんだよ
 前向きって素敵そうじゃん♪」

 そうして、男の思考回路が再び展開、熱唱し続けつつ、自分の性器を大切そうに触りながら。

(じゃあ、最後に俺からヒント。
 女が小説を読んだ――
 この事実に確定すると、今の状況とズレが出る。
 すなわち、間違った情報収集になってしまうのです。
 なぜか?
 本を持って見てるのは女だ、俺じゃない。
 俺はその姿を見てるだけ。
 ここでわかった人には、50点差し上げます!)

 ミヌアは男の歌声を出来るだけBGMにする努力をしながら、ページをめくるがまだ読み進めたところまで到達出来ずにいた。

(で、5時間目になって……。
 亮ちゃん、よそ見してて、先生に叱られる……。
 それで、先生、動揺して……)

 日付がかなり過ぎ、小説の内容が穴だらけになっているミヌア。その斜め前の席で男は長い足を組み直し、勃ち始めた性器を自慰しながらさらに歌い続ける。

「♪どぉなっちゃってんの
 人生フリーダムなんだよ
 ベランダ立って胸をはれ♪」

 小説の世界にワープし損ねているミヌアは、マスターベーションしている男の横顔をきっと睨んだ。

「…………」
(全裸でベランダに立つのやめてください!
 公然わいせつ罪で捕まります!)

「あぁ……」

 ザバッと音を立てて、射精するとリムジンの屋根に白く濁った水たまりが出来、そこからポタポタと滴り落ちるが、それでも収まらずそのあともビュビュッと出続ける。

「っ……っ! あぁ……!」

 男は精液の雨が降る中で、車窓から屋敷がある方向を黄緑色の宝石のような輝きを持つ瞳で捉えて神経を研ぎ澄ました。

(お前もそれ、読んでるの?
 あいつとお前、本当に似てるね。
 俺が出掛ける前……10月27日、木曜日、10時47分18秒以前。
 シリーズ1の128ページを開いてた……。
 あいつの頭と仕事の忙しさから計算すると……。
 シリーズ3の7ページ目、『激情の渦』でも読んでるんじゃないの?
 今頃、屋敷で……)

 夫たちのBL3Pと無限のIn a biblical senseを知っている妻は、男の自慰行為が異常なはずなのに普通に思えてしまい、ズレてる感でふんわり飛び越え、歌の2番に進みそうな予感を覚えて、素早くさえぎった。

「待ってください! 『どぉなっちゃってんの』を歌うって、どぉなっちゃってんるんですか?」
(笑いを振ったので取ってください!)

 即行返ってきた、男から。軽薄的でナンパで高貴でサディスティックな声で。

「お前もどぉなっちゃってんの?」
(俺の1回で収まらない射精、スルーして。
 歌の話にいくって、どうなの?
 面白いね、お前)

 男の砕けた口調と態度のせいで、さっき会ったばかりなのに、なぜか距離感が近い2人を乗せて、黒塗りのリムジンは渋滞を抜け、北へ向かって空中道路を高速で走り出した、クレセント、三日月の止まる夜空の下で。

(俺、眠くなったから、おやすみ~。
 まだわからない人は、優雅な彼の説明を後日聞いて~。
 っていうか、補習していただきます!)

 なぜ、ミヌアが本を『読む』ではなく、『見る』にしか事実を確定出来ないのかの理由について、遊線が螺旋を描く優雅で芯のある声と冷静な水色の瞳の持ち主、ヒュラル先生の特別講義が近日開校する。
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