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神の旋律
落日の廃城/8
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フローリアが死んだ日から何日過ぎたのだろう。ヴァイオリンを弾いていないのはどのくらいだろう。部屋から出ていないのはいつからだろう。
意識が深く深く海底へ沈んでゆくように堕ちてゆく。きちんと座っているはずなのに、頭が右へ左へ前へ後ろへ引っ張られる。ソファーへ横倒しになって、崩れるように床に落ちた。まぶたが勝手に閉じてゆく。
自分はもう死ぬのだ……。
その時だった。鍵を閉めていなかったのか、
「レン! レン!」
たった一人、自分を責めることもせず、離れることもせずそばにいた、親友コレタカのまだら模様をした声が聞こえた気がした――――
*
レンを乗せたストレッチャーが集中治療室へ運び込まれると、エレベータの扉が開いた。茶色の革靴に連れられて、ピンクのスーツを着たすらっとした体躯のコレタカが病院の廊下を歩き出した。
胸元に黄色のサングラスをかけて、山吹色のボブ髪は両手で気だるくかき上げられ、ガラス張りの病室へやってきた。宝石のように異様に輝く黄緑色の瞳は、意識のないレンをずっと見つめていたが、
「そうね……?」
長い足をクロスさせて、山吹色のボブ髪を両手で大きくかき上げると、不思議なことにその場からすうっと姿を消した――
*
謁見の間――
天井窓を雨がつたうたびに、真紅の絨毯に黒い筋が引かれてゆく。鳴り響いていたパイプオルガンの旋律は消え去り、代わりにリョウカの問いかけが舞った。
「フローリアって女と私が似てたってことかしら?」
知らないはずなのに、見覚えがある。過去と現在という二枚のトレースシートがピタリと重なり、乱れていたレンの呼吸は嘘のように平常に戻った。
カチャッと金属のかすれる音がして、朦朧としていた意識が戻った目の前では、今まさにリョウカが銃口を、パイプオルガンを弾く髪の長い悪魔に向けたところだった。
ズバーンッッッ!
それと数秒遅れて、フロンティアの照準が、スミレ色の鋭利な瞳の前に持ち上がり、その先で銃声がうなった。
ズバーンッッッ!
銀の長い前髪から銃弾はみるみる離れてゆく、鋭い鉛色の線を引いて。ブラウンの長い髪へと石火のごとく近づいて、リョウカの頬をギリギリで交わし、白いローブの悪魔へと迫る。
敵を撃ったはずのリョウカは、ロングブーツに隠された右足首に痛みが走った。
「っ!」
バランスを崩し、ブラウンの長い髪が宙に舞うように浮かんだ奥で、玉座に座っているローブの悪魔へと、レンの放った銃弾は順調に向かっていたが、
カツン!
張り詰めた空気に一石投じるように、悪魔が金の王笏を大理石の上で響かせた。すると、レンは腹に激痛が走り、いきなり息がつまり思わず、
「くぁっ!」
脱力したように両膝を大理石に打ちつけて、前に倒れこんだ。唇の端から血がポタポタと落ち、乳白色を真っ赤に染めてゆく。
「な……ぜだ?」
敵に攻撃をしたはずなのに、負傷したのは自分の腹で、かなりの致命傷。王笏を振るったのが原因なのか。
白のシャツが血の赤でにじんでいる左肩も気にせず、リョウカはもう一度パイプオルガンの前に座る悪魔に向かって発砲した。
ズバーンッッッ!
だが、自身の右太もも後ろに鋭い痛みが走り、
「っ!」
前に転んだように真紅の絨毯を巻き込んで、大理石の上に倒れこんだ。悪魔に攻撃された覚えがないのに、銃弾が足に当たっている。激痛を通り越して、ひどい痺れの中で考える。
(さっきから、自分たちばかりが怪我してるのはどうしてかしら?)
血はどんどん流れ出して、レンとリョウカのまわりを染め出した。
意識が深く深く海底へ沈んでゆくように堕ちてゆく。きちんと座っているはずなのに、頭が右へ左へ前へ後ろへ引っ張られる。ソファーへ横倒しになって、崩れるように床に落ちた。まぶたが勝手に閉じてゆく。
自分はもう死ぬのだ……。
その時だった。鍵を閉めていなかったのか、
「レン! レン!」
たった一人、自分を責めることもせず、離れることもせずそばにいた、親友コレタカのまだら模様をした声が聞こえた気がした――――
*
レンを乗せたストレッチャーが集中治療室へ運び込まれると、エレベータの扉が開いた。茶色の革靴に連れられて、ピンクのスーツを着たすらっとした体躯のコレタカが病院の廊下を歩き出した。
胸元に黄色のサングラスをかけて、山吹色のボブ髪は両手で気だるくかき上げられ、ガラス張りの病室へやってきた。宝石のように異様に輝く黄緑色の瞳は、意識のないレンをずっと見つめていたが、
「そうね……?」
長い足をクロスさせて、山吹色のボブ髪を両手で大きくかき上げると、不思議なことにその場からすうっと姿を消した――
*
謁見の間――
天井窓を雨がつたうたびに、真紅の絨毯に黒い筋が引かれてゆく。鳴り響いていたパイプオルガンの旋律は消え去り、代わりにリョウカの問いかけが舞った。
「フローリアって女と私が似てたってことかしら?」
知らないはずなのに、見覚えがある。過去と現在という二枚のトレースシートがピタリと重なり、乱れていたレンの呼吸は嘘のように平常に戻った。
カチャッと金属のかすれる音がして、朦朧としていた意識が戻った目の前では、今まさにリョウカが銃口を、パイプオルガンを弾く髪の長い悪魔に向けたところだった。
ズバーンッッッ!
それと数秒遅れて、フロンティアの照準が、スミレ色の鋭利な瞳の前に持ち上がり、その先で銃声がうなった。
ズバーンッッッ!
銀の長い前髪から銃弾はみるみる離れてゆく、鋭い鉛色の線を引いて。ブラウンの長い髪へと石火のごとく近づいて、リョウカの頬をギリギリで交わし、白いローブの悪魔へと迫る。
敵を撃ったはずのリョウカは、ロングブーツに隠された右足首に痛みが走った。
「っ!」
バランスを崩し、ブラウンの長い髪が宙に舞うように浮かんだ奥で、玉座に座っているローブの悪魔へと、レンの放った銃弾は順調に向かっていたが、
カツン!
張り詰めた空気に一石投じるように、悪魔が金の王笏を大理石の上で響かせた。すると、レンは腹に激痛が走り、いきなり息がつまり思わず、
「くぁっ!」
脱力したように両膝を大理石に打ちつけて、前に倒れこんだ。唇の端から血がポタポタと落ち、乳白色を真っ赤に染めてゆく。
「な……ぜだ?」
敵に攻撃をしたはずなのに、負傷したのは自分の腹で、かなりの致命傷。王笏を振るったのが原因なのか。
白のシャツが血の赤でにじんでいる左肩も気にせず、リョウカはもう一度パイプオルガンの前に座る悪魔に向かって発砲した。
ズバーンッッッ!
だが、自身の右太もも後ろに鋭い痛みが走り、
「っ!」
前に転んだように真紅の絨毯を巻き込んで、大理石の上に倒れこんだ。悪魔に攻撃された覚えがないのに、銃弾が足に当たっている。激痛を通り越して、ひどい痺れの中で考える。
(さっきから、自分たちばかりが怪我してるのはどうしてかしら?)
血はどんどん流れ出して、レンとリョウカのまわりを染め出した。
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