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神の旋律
月夜の幻想曲(ファンタジア)/6
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始発駅のホーム。線路は行き止まり。夜の線路へと飛び出したら、闇と混じり込んでしまいそうな濃い藍色の列車。大きな革のトランクが駅員によって、中へ詰め込まれている。
プシュプシュっと蒸気が抜けるような音が車体の下から聞こえてくる。長い列車で先頭ははるか遠くで小さく尖っているように見えた。
アンティークな造りの入り口から中へ少しだけ入ると、車掌が立っていて、切符をそれぞれ渡す。
銀の長い前髪を揺らして、鋭利なスミレ色の瞳が客室へ振り返ろうとした刹那、霧の中から不意に現れる車のライトのように、赤い目がふたつ浮かび上がった。
黒い細身のズボンとロングコートの間に、滑り込むように手が入り、フロンティアを取り出し、迷わず車掌の額に銃口を向けて、ダブルアクションで、重いトリガーを引く。
ズバーンッッッ!
「ぎゃあぁぁぁっっ!!!!」
断末魔は響くのに、頭部は破裂せず、血も飛び散らず、黒い蛆虫の塊が形をたもてなくなり、くねり回る体をボトボトと落として、床を染めてゆく。
「無事に着けるのかしら?」
リョウカは切符を指先に挟んだまま、ロングブーツの脇で蛆虫を払いのけて、あきれたため息をついた。
ボックス席の斜向かいに、レンとリョウカは座る。あんなにトラブル続きだったが、列車は不自然なほど、時刻通り駅員の笛がピーっと発車の合図を出して、闇の中へ向かって走り出した。
乗り換えのある大きな駅近くのポイント通過の横揺れが何度か続いていたが、それもやがてしなくなり、ビルがいつしか民家の密集へと変わり、田園地帯へと列車は躍り出た。
暗闇の中に列車の黄色く四角い光が郊外へと滑ってゆく。ガタンゴトンと音を立てながら木でできた電信柱が何本も通り過ぎても、レンとリョウカは話すこともなく、ひとつ目の停車駅を目指して、加速する列車に揺られる。
肘掛にもたれかかっていたリョウカがうつらうつらとし始めて、肘がガクッと落ちて一気に目覚めるかと思いきや、眉間を指で押さえて、あくびをもらす。
「また眠くなっちゃったわね。昼間寝たはずなのに、おかしいわね」
ガタガタと揺れる車内でも、リョウカはぐらつくこともなく、席から立ち上がった。
「顔洗ってこようかしら? ちょっと席外すわね」
「ん」
レンが気のない返事を返すと、リョウカのロングブーツは空席ばかりの通路を後ろへ向かって歩き出した。かかとを鳴らしながら。
一人きりになった座席で、窓に映る自分を見ている。薄闇ばかりで、鏡のような車窓。鋭利なスミレ色の瞳と銀の長い前髪。見慣れた顔を眺めていたが、ふと異変を感じた。
腕時計を確認する。もうすでに日付が変わっている。
零時十四分――
朝起きた時刻はわからない。だが、自分はあれからまったく眠っていない。それなのに少しも眠いと思わない。おかしい……。
ちょうどその時だった、列車が途中駅に停車するため減速し始めたのは。車窓から前をのぞきこむと、ホームの光がポツリと浮いていた。
プシュプシュっと蒸気が抜けるような音が車体の下から聞こえてくる。長い列車で先頭ははるか遠くで小さく尖っているように見えた。
アンティークな造りの入り口から中へ少しだけ入ると、車掌が立っていて、切符をそれぞれ渡す。
銀の長い前髪を揺らして、鋭利なスミレ色の瞳が客室へ振り返ろうとした刹那、霧の中から不意に現れる車のライトのように、赤い目がふたつ浮かび上がった。
黒い細身のズボンとロングコートの間に、滑り込むように手が入り、フロンティアを取り出し、迷わず車掌の額に銃口を向けて、ダブルアクションで、重いトリガーを引く。
ズバーンッッッ!
「ぎゃあぁぁぁっっ!!!!」
断末魔は響くのに、頭部は破裂せず、血も飛び散らず、黒い蛆虫の塊が形をたもてなくなり、くねり回る体をボトボトと落として、床を染めてゆく。
「無事に着けるのかしら?」
リョウカは切符を指先に挟んだまま、ロングブーツの脇で蛆虫を払いのけて、あきれたため息をついた。
ボックス席の斜向かいに、レンとリョウカは座る。あんなにトラブル続きだったが、列車は不自然なほど、時刻通り駅員の笛がピーっと発車の合図を出して、闇の中へ向かって走り出した。
乗り換えのある大きな駅近くのポイント通過の横揺れが何度か続いていたが、それもやがてしなくなり、ビルがいつしか民家の密集へと変わり、田園地帯へと列車は躍り出た。
暗闇の中に列車の黄色く四角い光が郊外へと滑ってゆく。ガタンゴトンと音を立てながら木でできた電信柱が何本も通り過ぎても、レンとリョウカは話すこともなく、ひとつ目の停車駅を目指して、加速する列車に揺られる。
肘掛にもたれかかっていたリョウカがうつらうつらとし始めて、肘がガクッと落ちて一気に目覚めるかと思いきや、眉間を指で押さえて、あくびをもらす。
「また眠くなっちゃったわね。昼間寝たはずなのに、おかしいわね」
ガタガタと揺れる車内でも、リョウカはぐらつくこともなく、席から立ち上がった。
「顔洗ってこようかしら? ちょっと席外すわね」
「ん」
レンが気のない返事を返すと、リョウカのロングブーツは空席ばかりの通路を後ろへ向かって歩き出した。かかとを鳴らしながら。
一人きりになった座席で、窓に映る自分を見ている。薄闇ばかりで、鏡のような車窓。鋭利なスミレ色の瞳と銀の長い前髪。見慣れた顔を眺めていたが、ふと異変を感じた。
腕時計を確認する。もうすでに日付が変わっている。
零時十四分――
朝起きた時刻はわからない。だが、自分はあれからまったく眠っていない。それなのに少しも眠いと思わない。おかしい……。
ちょうどその時だった、列車が途中駅に停車するため減速し始めたのは。車窓から前をのぞきこむと、ホームの光がポツリと浮いていた。
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