907 / 967
Dual nature
夢の欠片/9
しおりを挟む
オーバーリアクションのクラスメイトの女子を置いて、孔明は大きくあくびをする。
「ボクも眠くなっちゃった。おやすみ~」
聡明な瑠璃紺色の瞳もまぶたの裏に隠されて、颯茄はあっけに取られた。
「え、孔明くんまでここで寝るの?」
すぐさま心地のよい寝息がふたつになる。
「……ZZZ」
颯茄は悔しそうに唇を噛みしめた。
「膝枕という魅惑の拘束である……うぅぅ……」
この昼休みは何なのだと、颯茄は思うのだ。涙がちょちょぎれる、意味不明すぎて。月と孔明のそれぞれの思惑がわからないばかりに。
動きたくても動けない。屋上の上に貼り付けみたいな昼休み。颯茄は食べる気も失せて、ため息をつき、青空をただただ仰ぎ見る。
目を閉じて、夏の風を感じる。昼休みが終わるまでには、ふたりには是非とも起きてほしいと強く願いながら。そこで、突然キャピキャピとした少女の声が飛び込んできた。
「見ましたよ~!」
颯茄はびっくりして、慌てて目を見開くと、赤茶のふわふわウェーブの髪をした後輩が意味ありげに微笑んでいた。
「うわっ! 知礼」
どこかとぼけている黄色の瞳は、先輩の上になだれ込んでいるふたつの長い髪を交互に見る。マゼンダ色と漆黒。
「右膝に眠り王子。左膝にイケメン神主」
「イケメン神主?」
月に夢中で、話はしていたが、神主見習いさえも聞き逃している颯茄は、自分の膝の上を見下ろして、天まで届くような大声を上げた。
「あぁっ! 本当だ、今ごろ気づいた。イケメンだった」
類は友を呼ぶなのか。こんな身近に、綺麗な男子がふたりそろっている。夢の共演である。
「膝の上にふたりも乗せてます」
「正確には乗られた。乗せてない」
ここはきちんと主張しておかないと、濡れ衣である。
「学園の女子が黙ってないかもしれませんね。午後からは、昼休みのこの事件で話は持ちきりです」
容易に想像がつく。颯茄はため息しか出てこなかった。
「はぁ……」
だが、取り越し苦労かもしれない。そう割り切って、知礼の顔を見上げた。
「お昼食べた?」
「いいえ、まだです」
「じゃあ、一緒に食べよう。私も全然食べてないから」
颯茄は紙袋から再びサンドイッチを取り出して、知礼は向かいのコンクリートの上にきちんと足をそろえて横座りした。ランチボックスを包んでいた黄色の布の結び目を解く。
「久しぶりですね、先輩とご飯食べるなんて」
「そうだね」
パクッとパンをひとかじりして、
「あっ、そうだ。知礼、夢占いってあったよね?」
フォークに唐揚げを刺したまま、黄色の瞳はどこかずれているクルミ色のそれをまっすぐ見つめた。
「あぁ、ありますね。先輩、昔はまってましたよね? 今はとんとやらなくなりましたが……」
「そうだ、調べてみよう。さっきの夢……」
サンドイッチを口にくわえたまま、颯茄はポケットから携帯電話を取り出した。
「どうかしたんですか?」
「ちょっと気になる夢があってね」
もぐもぐと器用に噛みながら、パンの白は颯茄の口の中へ入ってゆく。インターネットのブラウザ画面を、彼女は見つめる。
「兄弟……。実際にいない兄弟は、自分の一面を指す。ということは……?」
タップしていた手を画面から離して、颯茄は紙パックの飲み物を飲んだ。
「月くんの幼い面ってことかな?」
画面をバックして、別の項目をタッチする。
「ボールで遊ぶ……。丸は完成、達成を指す。ということは……?」
足し算してみて、颯茄が首をかしげると、ブラウンの長い髪がワイシャツの背中でサラサラ揺れた。
「月くんの幼い面が完成する????」
はてなマークが頭の中を大行進。携帯電話をスリープにして、スカートのポケットに放り込む。
「たぶん違うな、これ……」
惨敗した颯茄だった。
「他から探さないと、救えないや……」
今はとりあえず、ランチである。颯茄は気を取り直して、男子高校生をふたり膝に乗せたまま、まぶしく目に染む青空を見上げた。
「いい天気だね」
「はい。気持ちがいいです」
それぞれ手を動かしながら、女子トークが始まる。
「知礼、最近何してるの?」
「学校の取材をしてます」
「ボクも眠くなっちゃった。おやすみ~」
聡明な瑠璃紺色の瞳もまぶたの裏に隠されて、颯茄はあっけに取られた。
「え、孔明くんまでここで寝るの?」
すぐさま心地のよい寝息がふたつになる。
「……ZZZ」
颯茄は悔しそうに唇を噛みしめた。
「膝枕という魅惑の拘束である……うぅぅ……」
この昼休みは何なのだと、颯茄は思うのだ。涙がちょちょぎれる、意味不明すぎて。月と孔明のそれぞれの思惑がわからないばかりに。
動きたくても動けない。屋上の上に貼り付けみたいな昼休み。颯茄は食べる気も失せて、ため息をつき、青空をただただ仰ぎ見る。
目を閉じて、夏の風を感じる。昼休みが終わるまでには、ふたりには是非とも起きてほしいと強く願いながら。そこで、突然キャピキャピとした少女の声が飛び込んできた。
「見ましたよ~!」
颯茄はびっくりして、慌てて目を見開くと、赤茶のふわふわウェーブの髪をした後輩が意味ありげに微笑んでいた。
「うわっ! 知礼」
どこかとぼけている黄色の瞳は、先輩の上になだれ込んでいるふたつの長い髪を交互に見る。マゼンダ色と漆黒。
「右膝に眠り王子。左膝にイケメン神主」
「イケメン神主?」
月に夢中で、話はしていたが、神主見習いさえも聞き逃している颯茄は、自分の膝の上を見下ろして、天まで届くような大声を上げた。
「あぁっ! 本当だ、今ごろ気づいた。イケメンだった」
類は友を呼ぶなのか。こんな身近に、綺麗な男子がふたりそろっている。夢の共演である。
「膝の上にふたりも乗せてます」
「正確には乗られた。乗せてない」
ここはきちんと主張しておかないと、濡れ衣である。
「学園の女子が黙ってないかもしれませんね。午後からは、昼休みのこの事件で話は持ちきりです」
容易に想像がつく。颯茄はため息しか出てこなかった。
「はぁ……」
だが、取り越し苦労かもしれない。そう割り切って、知礼の顔を見上げた。
「お昼食べた?」
「いいえ、まだです」
「じゃあ、一緒に食べよう。私も全然食べてないから」
颯茄は紙袋から再びサンドイッチを取り出して、知礼は向かいのコンクリートの上にきちんと足をそろえて横座りした。ランチボックスを包んでいた黄色の布の結び目を解く。
「久しぶりですね、先輩とご飯食べるなんて」
「そうだね」
パクッとパンをひとかじりして、
「あっ、そうだ。知礼、夢占いってあったよね?」
フォークに唐揚げを刺したまま、黄色の瞳はどこかずれているクルミ色のそれをまっすぐ見つめた。
「あぁ、ありますね。先輩、昔はまってましたよね? 今はとんとやらなくなりましたが……」
「そうだ、調べてみよう。さっきの夢……」
サンドイッチを口にくわえたまま、颯茄はポケットから携帯電話を取り出した。
「どうかしたんですか?」
「ちょっと気になる夢があってね」
もぐもぐと器用に噛みながら、パンの白は颯茄の口の中へ入ってゆく。インターネットのブラウザ画面を、彼女は見つめる。
「兄弟……。実際にいない兄弟は、自分の一面を指す。ということは……?」
タップしていた手を画面から離して、颯茄は紙パックの飲み物を飲んだ。
「月くんの幼い面ってことかな?」
画面をバックして、別の項目をタッチする。
「ボールで遊ぶ……。丸は完成、達成を指す。ということは……?」
足し算してみて、颯茄が首をかしげると、ブラウンの長い髪がワイシャツの背中でサラサラ揺れた。
「月くんの幼い面が完成する????」
はてなマークが頭の中を大行進。携帯電話をスリープにして、スカートのポケットに放り込む。
「たぶん違うな、これ……」
惨敗した颯茄だった。
「他から探さないと、救えないや……」
今はとりあえず、ランチである。颯茄は気を取り直して、男子高校生をふたり膝に乗せたまま、まぶしく目に染む青空を見上げた。
「いい天気だね」
「はい。気持ちがいいです」
それぞれ手を動かしながら、女子トークが始まる。
「知礼、最近何してるの?」
「学校の取材をしてます」
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
4人の王子に囲まれて
*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。
4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって……
4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー!
鈴木結衣(Yui Suzuki)
高1 156cm 39kg
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。
母の再婚によって4人の義兄ができる。
矢神 琉生(Ryusei yagami)
26歳 178cm
結衣の義兄の長男。
面倒見がよく優しい。
近くのクリニックの先生をしている。
矢神 秀(Shu yagami)
24歳 172cm
結衣の義兄の次男。
優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。
結衣と大雅が通うS高の数学教師。
矢神 瑛斗(Eito yagami)
22歳 177cm
結衣の義兄の三男。
優しいけどちょっぴりSな一面も!?
今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。
矢神 大雅(Taiga yagami)
高3 182cm
結衣の義兄の四男。
学校からも目をつけられているヤンキー。
結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。
*注 医療の知識等はございません。
ご了承くださいませ。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
義母ですが、若返って15歳から人生やり直したらなぜか溺愛されてます
富士とまと
恋愛
25歳で行き遅れとして実家の伯爵家を追い出されるように、父親より3つ年上の辺境伯に後妻として嫁がされました。
5歳の義息子と3歳の義娘の面倒を見て12年が過ぎ、二人の子供も成人して義母としての役割も終わったときに、亡き夫の形見として「若返りの薬」を渡されました。
15歳からの人生やり直し?義娘と同級生として王立学園へ通うことに。
初めての学校、はじめての社交界、はじめての……。
よし、学園で義娘と義息子のよきパートナー探しのお手伝いをしますよ!お義母様に任せてください!
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる