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Dual nature
夢の欠片/8
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颯茄が驚き声も上げる暇なく、右の膝に月の頭が、左の膝に孔明の頭が乗ってしまった。いわゆる、ダブル膝枕である。
「いや~! 何でふたりでしてるんですか!」
ここは学校の屋上だ。今は昼休みだ。しかも、ただのクラスメイトだ。膝枕で動きをなぜか封じられた颯茄は、何とかこの状況を打破しようとすると、凛とした儚げな声が小さくつぶやいた。
「君は暖かい……」
「え……?」
ヴァイオレットの瞳は長いまつ毛のついたまぶたに隠されていて、今にも眠ってしまいそうな月。
颯茄は違和感を強く持った。蝉は鳴いていないが、蜃気楼ができるほど熱せられた遠くのコンクリート。盛夏とまではいかないが深い青の空。
(何で、あったかいなんてわざわざ言うんだろう? 冬ならまだわかるけど、今七月だよね? どういう意味なんだろう?)
暑いはずなのに、寒気がする。真逆の感覚。颯茄はぼうっと包み紙を開けて、サンドイッチを食べようとしたが、奇妙な何か……何か……。何かに似ている、どこかでこの感覚は味わったことがある。今感じていることは、どこで……。
沈んでいたものが水面に浮かび上がってくるように、颯茄の脳裏に輪郭をくっきりと持った。誰もいないはずなのに、視線を感じる墓地――
肝試しみたいな気持ちになっている颯茄の耳に、孔明の間延びした声が入り込んできた。
「月~?」
「おや? いきなり呼び捨てですか~? 僕も負けませんよ~。孔明、何ですか~?」
同じ膝の上を右と左で共有している男子高校生に、提供者の女子高校生はツッコミを入れた。
「何でそこを張り合うんですか!」
だが、答えることもなく、髪が長い王子と転校生は勝手に話し始める。
「夜はきちんと寝てるの?」
「えぇ、寝ていますよ」
「そう。夢を見たりする?」
「えぇ、します」
「どんな夢?」
「それが、いつも同じ夢なんです~」
やけに引っかかった。颯茄は食べるのも忘れて、ふたりの会話に耳を傾ける。
「同じ夢?」
月は目を閉じたまま、鈴をシャンと鳴らしたような声で「えぇ」と相づちを打ち、
「夏の日の公園で、僕に弟は実際にいないのに、夢の中には出てくるんです」
頬に触れる夏風がやけに遠くなり、颯茄は蝉時雨に包まれた真昼の見知らぬ公園に、空想世界で立っていた。月の続きを話す声が聞こえてくる。
「ボールで遊んでいるんですが、いつも途中で視界が真っ暗になって、大きな物音が聞こえて、そこで終わるんです~」
学校の屋上へと意識は戻ってきて、月のような綺麗な横顔を見せて、目を閉じたままの月を颯茄は見下ろした。
「それは、いつから見てるの?」
「幼い頃からです」
聞いてきた割には、孔明は返事もせず、それ以上追求もせず、三人の会話はそこで途切れた。睡魔はとうとう眠り王子を夢の世界へと連れ去った。
「……ZZZ」
颯茄はコンクリートの上に散らばったサンドイッチの包み紙を拾い上げながら、ため息をついた。
「あぁ、結局食べないで寝てしまった……」
食事もまともにしない。それほどの眠気。死線の境目でかろうじて生きている。颯茄はそう思うと、少しだけ視界が涙でにじんだ。それでも昼食を拾い集めて、紙袋へ入れると、孔明が話しかけてきた。
「颯ちゃん?」
「ん?」
「薬か何かを飲んでるって言ってなかった?」
「あぁ、言ってたけど……。飲んだ覚えがないのに、数は減ってるって」
「そう」
腕組みしたっきり、孔明は何も言わなくなった。
今聞いた夢の話もさっぱりだった。颯茄はまた途方にくれそうになるのを、原動力に無理やり変換して考え続ける
「どうすればわかるのかな?」
雲ひとつない青空が聡明な瑠璃紺色の瞳を明るく染める。
(月がいるところで、話さない方がいいかもしれない)
女子の膝の上で、他の男子の寝息を近くで聞く。そうそうないシチュエーション。
だが、孔明の心のうちはかなり深刻だった。今までの話をごまかすような言葉が、陽だまりみたいな柔らかな声で出てくる。
「こうすればいいかも~?」
「ん? どうするの?」
「颯ちゃん、パンツ見せて~?」
「見せないわっ!」
チェック柄のスカートの裾をめくられそうになって、颯茄は慌てて抑えた。空振りに終わった手をのんびりと戻しながら、孔明は女子高生のスカートの中を口にした。
「……黒だ」
「違うわっ! 紫!」
猛抗議した颯茄は、影になってきちんと見えなかったのだろうと勝手に判断した。だが、孔明の次の言葉はこうだった。
「あぁ、自分で答えちゃったぁ~。ボク、見てないんだけどなぁ~」
罠だった。颯茄は両手で頭を抱えて、悲鳴じみた声をとどろかせる。
「やられた~!」
「いや~! 何でふたりでしてるんですか!」
ここは学校の屋上だ。今は昼休みだ。しかも、ただのクラスメイトだ。膝枕で動きをなぜか封じられた颯茄は、何とかこの状況を打破しようとすると、凛とした儚げな声が小さくつぶやいた。
「君は暖かい……」
「え……?」
ヴァイオレットの瞳は長いまつ毛のついたまぶたに隠されていて、今にも眠ってしまいそうな月。
颯茄は違和感を強く持った。蝉は鳴いていないが、蜃気楼ができるほど熱せられた遠くのコンクリート。盛夏とまではいかないが深い青の空。
(何で、あったかいなんてわざわざ言うんだろう? 冬ならまだわかるけど、今七月だよね? どういう意味なんだろう?)
暑いはずなのに、寒気がする。真逆の感覚。颯茄はぼうっと包み紙を開けて、サンドイッチを食べようとしたが、奇妙な何か……何か……。何かに似ている、どこかでこの感覚は味わったことがある。今感じていることは、どこで……。
沈んでいたものが水面に浮かび上がってくるように、颯茄の脳裏に輪郭をくっきりと持った。誰もいないはずなのに、視線を感じる墓地――
肝試しみたいな気持ちになっている颯茄の耳に、孔明の間延びした声が入り込んできた。
「月~?」
「おや? いきなり呼び捨てですか~? 僕も負けませんよ~。孔明、何ですか~?」
同じ膝の上を右と左で共有している男子高校生に、提供者の女子高校生はツッコミを入れた。
「何でそこを張り合うんですか!」
だが、答えることもなく、髪が長い王子と転校生は勝手に話し始める。
「夜はきちんと寝てるの?」
「えぇ、寝ていますよ」
「そう。夢を見たりする?」
「えぇ、します」
「どんな夢?」
「それが、いつも同じ夢なんです~」
やけに引っかかった。颯茄は食べるのも忘れて、ふたりの会話に耳を傾ける。
「同じ夢?」
月は目を閉じたまま、鈴をシャンと鳴らしたような声で「えぇ」と相づちを打ち、
「夏の日の公園で、僕に弟は実際にいないのに、夢の中には出てくるんです」
頬に触れる夏風がやけに遠くなり、颯茄は蝉時雨に包まれた真昼の見知らぬ公園に、空想世界で立っていた。月の続きを話す声が聞こえてくる。
「ボールで遊んでいるんですが、いつも途中で視界が真っ暗になって、大きな物音が聞こえて、そこで終わるんです~」
学校の屋上へと意識は戻ってきて、月のような綺麗な横顔を見せて、目を閉じたままの月を颯茄は見下ろした。
「それは、いつから見てるの?」
「幼い頃からです」
聞いてきた割には、孔明は返事もせず、それ以上追求もせず、三人の会話はそこで途切れた。睡魔はとうとう眠り王子を夢の世界へと連れ去った。
「……ZZZ」
颯茄はコンクリートの上に散らばったサンドイッチの包み紙を拾い上げながら、ため息をついた。
「あぁ、結局食べないで寝てしまった……」
食事もまともにしない。それほどの眠気。死線の境目でかろうじて生きている。颯茄はそう思うと、少しだけ視界が涙でにじんだ。それでも昼食を拾い集めて、紙袋へ入れると、孔明が話しかけてきた。
「颯ちゃん?」
「ん?」
「薬か何かを飲んでるって言ってなかった?」
「あぁ、言ってたけど……。飲んだ覚えがないのに、数は減ってるって」
「そう」
腕組みしたっきり、孔明は何も言わなくなった。
今聞いた夢の話もさっぱりだった。颯茄はまた途方にくれそうになるのを、原動力に無理やり変換して考え続ける
「どうすればわかるのかな?」
雲ひとつない青空が聡明な瑠璃紺色の瞳を明るく染める。
(月がいるところで、話さない方がいいかもしれない)
女子の膝の上で、他の男子の寝息を近くで聞く。そうそうないシチュエーション。
だが、孔明の心のうちはかなり深刻だった。今までの話をごまかすような言葉が、陽だまりみたいな柔らかな声で出てくる。
「こうすればいいかも~?」
「ん? どうするの?」
「颯ちゃん、パンツ見せて~?」
「見せないわっ!」
チェック柄のスカートの裾をめくられそうになって、颯茄は慌てて抑えた。空振りに終わった手をのんびりと戻しながら、孔明は女子高生のスカートの中を口にした。
「……黒だ」
「違うわっ! 紫!」
猛抗議した颯茄は、影になってきちんと見えなかったのだろうと勝手に判断した。だが、孔明の次の言葉はこうだった。
「あぁ、自分で答えちゃったぁ~。ボク、見てないんだけどなぁ~」
罠だった。颯茄は両手で頭を抱えて、悲鳴じみた声をとどろかせる。
「やられた~!」
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