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ベッドに誘って

生き返る:独健の場合

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 颯茄は二杯目のグラスを開けようとすると、独健がやってきた。

「何か相談ごとないか?」
「え?」

 急に核心をつくようなことを言う――。

「最近、悩んでるだろう?」
「んー」

 それでも、うなずかない妻。だからと言って、独健は引かない。

「食べる量が、さらに少なくなってる」
「葉巻と酒で補ってますから」
「それじゃ、いい案も浮かばないだろう?」
「それもそうですね」
「特製の肉料理作ってやった。ちゃんと食え」
「うわ、美味しそう。いただきます」

 颯茄は好物を出されて、観念した。ナイフとフォークで綺麗に肉を切って、次々と口へ運ぶ。しばらくすると、皿はカラ。

「ごちそうさまでした」
「全部食べたな、えらいえらい」

 独健は颯茄に頭に手を伸ばそうとした。彼女は間一髪のところでそれをよける。

「っ……」
「頭撫でるのは禁止だったな」
「はい、そうです。なぜだかわからないんですけど、嫌なんです」

 妻は頭を触られるのが大の苦手。独健は気を取り直して、

「デッキにランタン用意したから、一緒に行かないか?」
「行きます!」

 木でできたバケツに氷と一緒に入っていたペットボトルを、独健は取り出し、颯茄に差し出した。

「ほら、太陽印の水だ」
「飲むだけで、魂から元気になれるって、やつですね」

 少し角度をつけたデッキチェアに座り、颯茄は嬉しそうに受け取る。

「そうだ。お前のために、ネットで用意したんだぞ」
「ありがとうございます」

 プシュッと開けて、ゴクゴクと一気飲みする勢いで飲み、颯茄は気分爽快になった。

「ぷはーっ! うまいっ、生き返る~~!」
「死んでるけどな」
「そう、死んでますけど、生き返るんです、この味」

 ここは天国。魂の世界。それでも、こうやって生き返る心地のするものはあるのだ。

 隣に腰掛けた独健は、一口飲み話を切り出した。

「何で悩んでるんだ?」
「旦那さんたちに、ベッドに誘われる言葉です」
「ぶっ!」

 独健はジュースを吹き出し、颯茄は少しだけ起き上がった。

「どうしました?」
「ゲホゲホッ!」

 咳き込む独健。颯茄は近くにあったおしぼりを差し出し、不思議そうな顔をする。

「あ、あれ? 何か地雷踏みました?」
「あ、いや……夫婦なんだって思ってな。心はつながってる」
「あぁ、何だかよくわからないですけど、そうですね!」

 独健といると、颯茄は細かいことを気にせずにいられるのだ。これが夫婦の力。

「それなら、今から俺が言う言葉を参考にすればいい」
「え……?」

 きょとんとした颯茄の前で、独健はもっともらしく咳払いするのだが、恥ずかしくなって言葉がもつれた。

「こほん! こ、今夜は忘れられない夜にしてやる」

 らしくない独健に、颯茄は少しだけ笑う。

「ふふっ。ありがとうございます」
「じゃなくて、本当にするんだ」

 独健に真摯な眼差しに、颯茄は戸惑ったが、みるみる顔が明るくなった。

「え? じゃあ、あの久しぶりに、ワオっ! が楽しめるんですね」
「楽しませてやる」

 夫婦の暗号。

「じゃあ、どこかの部屋に――」
「俺の部屋だ。行くぞ」

 独健は颯茄の言葉をさえぎって、瞬間移動で彼女を連れ去った。テーブルの上にはまだ泡が立ち上るペットボトル二本が取り残されていた。
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