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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
魔導師と迎える朝/4
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男がひとり、自分のベッドに横向きに倒れ込んでいる。しかも、今日会ったばかりの異国からきた男。そんなことよりも、崇剛はシュトライツ王国のことを知りたがった。
「あなたは犯人が王家の中のどなたか目星がついていたのではありませんか?」
「蜂の巣をつつくってことかも?」
「今から七個前の私の質問にまだ答えていませんよ」
どのように動かしたのですか――?
「ボクが拘束される前に――」
こんな答え方をする男ではない。銅色の懐中時計を、自分の爪を見るふりをして時刻を確認――インデックスをつけているのだから。崇剛は逃さなかった。
「何月何日の何時何分ですか?」
「三月二十四日、木曜日の十一時三十六分二十五秒」
「そうですか」
崇剛が瑠璃の夢を見て、目を覚ました時刻からたった二秒前だった。
教祖はあの立派な教団の建物の中で、誰とどこで会って会議室へ向かったのか、脳裏に鮮明に蘇らせていた。
「重鎮を集めて、ボクは王族制を廃止し、国民を救おうという話をした。それが、スパイによって王家にもれ出たってこと。でも、情報を漏洩させて、王家を動かすのが目的なんだから、その通りになって成功したよ」
教祖に王様が誘い込まれた結果が、民衆による暗殺だった。神に反則とまで言わしめる頭脳の奥では、国王が死ぬという可能性はあったのだろう。いや、真の目的だったのかもしれない。
遠い異国の出来事で、発展途上の花冠国で生きている崇剛は単純に知りたがった。
「シュトライツの政治はどのような情勢だったのですか?」
聡明な瑠璃紺色の瞳は影を落とした。カチカチと置き時計が時を刻む音に、ダルレシアンの声が混じり始める。
「千年以上も続いた王制は完全に腐敗してたよ。貧富の差は広がるばかりで、科学技術の特許は王族が全て持ってゆく。最低限の生活は保証されてたけど、国王が変わってからは悪化していったよ。いつの時代だって、悪政は長く続かないという歴史を忘れてしまったのかな? 王様たちは」
皮肉めいた言葉が、静かな夜にぽつんと寂しげに浮き彫りになった。シュトライツ国王は決して君子ではなかった。過去から何も学ばなかったのだから。
崇剛の中で、シュトライツに関する情報が滝のように流れていた。
「そのような話は、新聞には一度も載ったことがありませんでした。国家規模で、外国へ情報が漏洩するのを阻止していたのかもしれませんね」
「科学技術は世界に輸出されてるのにね。この国には電気はないみたいだけど……」
「主に首都にですが、ありますよ」
「その技術を売ったお金は、国民には使われなかった。それがシュトライツ王家に不平不満が募った最大の原因だった」
「そうですか」
神のご決断は、王族制の廃止だった。だからこそ、魔導師に力を貸したのだ。決して、ダルレシアンひとりの力ではない。
「なぜ、あなたはシュトライツに残らず、花冠国へやってきたのですか? あなたが国を治めるという選択肢もあったのではありませんか?」
腕枕をしながら、ダルレシアンは天井にできた青白い光をじっと見つめていた。
「ボクは自分でもわかってる。王の器じゃないって。いろんな人と話す機会がボクにはあった。他に為政者にふさわしい人はたくさんいた。ボクはどちらかというと、王のそばに支える参謀が適してる」
崇剛が予測したように、教祖は私利私欲で動く人間ではなかった。
「キミも覚えがあるかもしれないけど、幼い頃ってメシアの力が暴走しただろう?」
「えぇ」崇剛の神経質な手が毛布の上に下されると、ダルレシアンは中性的な横顔を見上げた。
「キミにはどんなことが起きたの?」
「聞くつもりのないものが聞こえたり、見るつもりのないものが見えたりして、無知ゆえに、それらを他の方に伝えて、人を傷つけた時もありましたよ」
激情の海が少しだけ波立つ――。
「ボクも似たようなもので、突然知らない場所に立っていたり、物を動かすつもりはないのに、食器を飛ばして割ってしまったりした」
「そうですか」
「子供には強すぎる力なのかもしれないね」
「そうかもしれませんね」
千里眼の持ち主と魔導師にとっては苦い思い出だ。
「あなたは犯人が王家の中のどなたか目星がついていたのではありませんか?」
「蜂の巣をつつくってことかも?」
「今から七個前の私の質問にまだ答えていませんよ」
どのように動かしたのですか――?
「ボクが拘束される前に――」
こんな答え方をする男ではない。銅色の懐中時計を、自分の爪を見るふりをして時刻を確認――インデックスをつけているのだから。崇剛は逃さなかった。
「何月何日の何時何分ですか?」
「三月二十四日、木曜日の十一時三十六分二十五秒」
「そうですか」
崇剛が瑠璃の夢を見て、目を覚ました時刻からたった二秒前だった。
教祖はあの立派な教団の建物の中で、誰とどこで会って会議室へ向かったのか、脳裏に鮮明に蘇らせていた。
「重鎮を集めて、ボクは王族制を廃止し、国民を救おうという話をした。それが、スパイによって王家にもれ出たってこと。でも、情報を漏洩させて、王家を動かすのが目的なんだから、その通りになって成功したよ」
教祖に王様が誘い込まれた結果が、民衆による暗殺だった。神に反則とまで言わしめる頭脳の奥では、国王が死ぬという可能性はあったのだろう。いや、真の目的だったのかもしれない。
遠い異国の出来事で、発展途上の花冠国で生きている崇剛は単純に知りたがった。
「シュトライツの政治はどのような情勢だったのですか?」
聡明な瑠璃紺色の瞳は影を落とした。カチカチと置き時計が時を刻む音に、ダルレシアンの声が混じり始める。
「千年以上も続いた王制は完全に腐敗してたよ。貧富の差は広がるばかりで、科学技術の特許は王族が全て持ってゆく。最低限の生活は保証されてたけど、国王が変わってからは悪化していったよ。いつの時代だって、悪政は長く続かないという歴史を忘れてしまったのかな? 王様たちは」
皮肉めいた言葉が、静かな夜にぽつんと寂しげに浮き彫りになった。シュトライツ国王は決して君子ではなかった。過去から何も学ばなかったのだから。
崇剛の中で、シュトライツに関する情報が滝のように流れていた。
「そのような話は、新聞には一度も載ったことがありませんでした。国家規模で、外国へ情報が漏洩するのを阻止していたのかもしれませんね」
「科学技術は世界に輸出されてるのにね。この国には電気はないみたいだけど……」
「主に首都にですが、ありますよ」
「その技術を売ったお金は、国民には使われなかった。それがシュトライツ王家に不平不満が募った最大の原因だった」
「そうですか」
神のご決断は、王族制の廃止だった。だからこそ、魔導師に力を貸したのだ。決して、ダルレシアンひとりの力ではない。
「なぜ、あなたはシュトライツに残らず、花冠国へやってきたのですか? あなたが国を治めるという選択肢もあったのではありませんか?」
腕枕をしながら、ダルレシアンは天井にできた青白い光をじっと見つめていた。
「ボクは自分でもわかってる。王の器じゃないって。いろんな人と話す機会がボクにはあった。他に為政者にふさわしい人はたくさんいた。ボクはどちらかというと、王のそばに支える参謀が適してる」
崇剛が予測したように、教祖は私利私欲で動く人間ではなかった。
「キミも覚えがあるかもしれないけど、幼い頃ってメシアの力が暴走しただろう?」
「えぇ」崇剛の神経質な手が毛布の上に下されると、ダルレシアンは中性的な横顔を見上げた。
「キミにはどんなことが起きたの?」
「聞くつもりのないものが聞こえたり、見るつもりのないものが見えたりして、無知ゆえに、それらを他の方に伝えて、人を傷つけた時もありましたよ」
激情の海が少しだけ波立つ――。
「ボクも似たようなもので、突然知らない場所に立っていたり、物を動かすつもりはないのに、食器を飛ばして割ってしまったりした」
「そうですか」
「子供には強すぎる力なのかもしれないね」
「そうかもしれませんね」
千里眼の持ち主と魔導師にとっては苦い思い出だ。
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