上 下
745 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜

刑事は探偵に告げる/8

しおりを挟む
 霊感で悟った国立は、藤色の少し長めの短髪をさらっと揺らし、反射的に首を動かした。

「オレの背中攻めてくんなって。エスだな」

 瑠璃は浮遊したまま、国立の真正面に瞬間移動した。

「お主、そろそろ、霊感を磨いたらどうじゃ?」

 それでも、国立には聞き取ることはできなかった。この世の人間は崇剛とふたりだけ。霊的な存在がいるのはわかっているが、何が起きているのかが知れない。

 ウェスタンブーツは左右に回るをして、何とか今の状況を理解しようとするが、

「誰か、通訳いねえのか?」

 霊感がないものはない。受け取るアンテナが発達していないのだから、いくら霊界から告げても伝わらない。

 ラジュが最初に呼んだ――直感――天啓を与えたのは国立。焦りに焦っている心霊刑事をアドスは不憫ふびんに思う。

「どうするっすか? 国立さんまで呼んで、話通じないっすよ?」
「僕は今でよかったと思いもいますよ。これからのことを考えると」

 クリュダがにっこり微笑むと、乙葉親子の守護天使をしているアドスとクリュダは仲良く以心伝心で、アドスはすぐに納得した。

「そうっすか。クリュダさんがそう言うなら、俺っちは涼介さんとこに戻るっす」
「僕も先に戻ります。瞬がお腹を空かせているかも知れませんからね」

 聖戦争も終わり、通常モードへ戻る天使たち。アドスが先に瞬間移動でいなくなり、クリュダは国立の前に浮遊している漆黒の長い髪を持つ聖女に注意をした。

「瑠璃さん、早く体を休めたほうがいいです。寝不足はお肌の天敵・・です」

 アドスがスッと戻ってきて、

「合ってる気もするっすけど、微妙にズレてるっす。それを言うなら、大敵・・っす」
「そうとも言います。おやすみなさい」

 クリュダは気にした様子もなく、ボケ倒したまま消え去っていった。

「何じゃ? 何かあるのかの? 知っておる素ぶりじゃの。守護霊が知らぬことかの?」

 瑠璃がキョロキョロしていると、ラジュがゆるゆる~っと言葉をつけ加えた。

「風通しが良くなりますよ~」
「何のことじゃ?」

 八歳の聖女は何が起きているのか――いや、大人の話についていけず、不思議そうな顔をするばかり。

 ナールは山吹色のボブ髪をけだるくかき上げ「やっぱり疲れるね。これもちょっと考えないとダメね」今回の戦闘にダメ出しをして、すうっと天へと帰っていった。

「何を考えるのじゃ?」

 知りたがっている聖女に向かって、トラップ天使はいつものお遊び言葉を口にした。

「今日はベッドドンで、瑠璃さんを手中に納めようかと思いましてね?」
「お主のことなど、我の眼中にないわ!」

 聖女の憤慨した声が、旧聖堂に響き渡った。

「ベッドドンとは何じゃ?」

 こうして、瑠璃はラジュの思惑通り、話を巻かれてしまった。

 国立と正体不明になっている崇剛を、百年の重みを感じさせる若草色の瞳で交互に見ながら、

「とにかく、我は眠るぞ。また寝不足じゃ」

 昼夜逆転している眠り姫は大きなあくびをして、旧聖堂から姿をすうっと消した。

 トラップ天使と聖女が遊んでいる間に、国立は崇剛を抱きかかえて、雑木林の中を早足で歩き出していた。

 子供がいなくなったのを確認して、さっきから怒りで形のいい眉をピクつかせていたシズキの鋭利なスミレ色の瞳が射殺しそうに、サファイアブルーの瞳をにらみつけた。

「貴様、ロリコンだろう。あんなクソガキを口説くとはな。あっちは八歳だ」
「おや~? いけませんか~?」

 ラジュは正々堂々と認め、無感情、無動のカーキ色の瞳へ視線を向けた。

「カミエも瑠璃さん狙いですよ~。私とは理由は違いますが……」

 恋のトライアングルどころか、瑠璃は瞬を好きで、瞬は瑠璃が好き。両想いのふたり。そこへ天使ふたりが横入りしようとしている。複雑化している人間関係。

 だったが、カミエは藁人形でも日本刀で切り捨てるように、地鳴りのように低い声で言った。

「行く」

 瑠璃に構っている暇はない。守護の仕事が山積みなのだから。そうして、天使三人が消え去った旧聖堂は、魔除けのローズマリーの香りを少しだけ残しながら、いつも通り悪霊が集う夜を迎えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

4人の王子に囲まれて

*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。 4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって…… 4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー! 鈴木結衣(Yui Suzuki) 高1 156cm 39kg シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。 母の再婚によって4人の義兄ができる。 矢神 琉生(Ryusei yagami) 26歳 178cm 結衣の義兄の長男。 面倒見がよく優しい。 近くのクリニックの先生をしている。 矢神 秀(Shu yagami) 24歳 172cm 結衣の義兄の次男。 優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。 結衣と大雅が通うS高の数学教師。 矢神 瑛斗(Eito yagami) 22歳 177cm 結衣の義兄の三男。 優しいけどちょっぴりSな一面も!? 今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。 矢神 大雅(Taiga yagami) 高3 182cm 結衣の義兄の四男。 学校からも目をつけられているヤンキー。 結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。 *注 医療の知識等はございません。    ご了承くださいませ。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。 『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』 一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜合体編〜♡

x頭金x
恋愛
♡ちょっとHなショートショートつめ合わせ♡

処理中です...