上 下
739 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜

刑事は探偵に告げる/2

しおりを挟む
「うふふふっ、この戦いが終わる前に、地獄のシステムの入れ替えは終わっています~。敵の軍を動かして、浄化するだけの戦いでした~。ですが、嘘をつけない方のために、偽の情報をわざと伝えましたよ」

 トラップ天使なりにきちんと神の意思をまっとうしていた、策という名の罠を用いて。

 白い修験者の姿をしている、アドスは数珠じゅずをした手で、紫色の短髪をくしゃくしゃにかき上げた。

「敵が弱すぎったっす」
「勝っちゃうと、次出てきちゃうからね。手加減すんの大変」

 ナールのマダラ模様の声を聞いて、崇剛はすうっと真顔に戻った。最後に戦況をひっくり返したのは、立派な両翼と光る輪っかを頭に乗せている天使みたいな男だ。

 どんなルートで神の戦略を、ナールは聞いていたのだろうか。いや、いつから知っていたのだろうか。

 崇剛の中で疑問が渦巻いているのに構わず、天使たちの話は続いてゆく。

 白いロングコートを風になびかせながら、シズキの鋭利なスミレ色の瞳は、今は神の結界によって見えなくなってしまった敵陣へ向けられていた。

「あの程度とは邪神界は所詮、脳みそが砂粒大の集まりだな。劣勢に見せかけていたに決まっているだろう。正神界は慌てて準備をしたという想定内で戦っていたんだからな」

 慌てて陣を整えたような振りをして、相手に好機だと思わせる――。見事なまでに完璧な神の策だった。

 カミエは嬉しそうに目を細め、袴の袖に包まれた両腕を腰のあたりで組み、地鳴りのような低い声で言う。

「いい修業になった」
「いい演技の練習になりました」

 クリュダがにっこりと微笑むと、天使と霊の陣営全員が目が点になった。

「違ってない?」

    *

 ――――庭崎市の中心街を抜けて、実りの秋の匂いが広がる田園風景を、一台の自動車が猛スピードで走り抜けていた。

 小高い丘の上に見える赤煉瓦の二階建ての洋館。そこへ続く坂道を自動車は登り始める。

 胸の前で組まれた両腕には、太いシルバーリング六つがつけられており、人差し指がトントンと落ち着きなく、迷彩柄のシャツを着た腕に打ちつけられていた。

    *

 ――――残り火のような夕日があと一筋で、旧聖堂から消えてしまう時間帯。見えているのはこの世だけで、霊界での出来事は音ばかりが聞こえていたダルレシアン 。

 彼は声がしたほうへ、聡明な瑠璃紺色の瞳を向けて、ふんわりと微笑んだ。

「どうやって勝ったの?」

 ラジュは人差し指をこめかみに突き立て、今までにないほど困った顔をする。

「それが、神からそちらは教えていただけないんです~」

 ニコニコのまぶたは片目だけ開いて、彫りの深い無機質な表情をしているナールをじっと見ていた。

「何、お前?」

 赤い目がみんなのほうへ向いた。

 崇剛は思う。言い逃れはできない。さっき、指をパチンと鳴らしているのを、この目でしかと見たのだから。

 ダルレシアンは漆黒の長い髪を、つうっとすくように斜め上に伸ばし、弄びながら、じっとりとまとわりつくように聞いた。

「ナールが敵とボクたちの場所を入れ替えた……のかな?」

 意識が薄れていく間に感じた遠心力のあと、敵陣に火の玉が落ちていったのは、そう考えるのが妥当だろう。どんな原理かは理論的に説明はできないが。

「先ほど、武器と他のものを交換していましたからね。どのような力なのですか?」

 あごに指を当てたまま、崇剛はナールを逃さないと言うように凝視したが、当の本人から出てきた言葉は摩訶不思議だった。

「魔法?」
「えぇっ?」

 後ろに控えていた全員が驚きの声を上げるが、ナールは真顔で言う。

「いつの間にかそうなってた?」
「はぁ?」

 物言いたげな顔をして、全員の視線が集中していたが、ナールはどこ吹く風で、街でナンパでもするように軽薄的に微笑む。

「俺さ、理論派なのよ。直感は使わないことにしてんの。はずれる時あるじゃん? でもさ、気づくと使ってるんだよね。だから、それも神さまのお導きってことで、全然いいじゃん? 結果オーライなんだし」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

4人の王子に囲まれて

*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。 4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって…… 4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー! 鈴木結衣(Yui Suzuki) 高1 156cm 39kg シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。 母の再婚によって4人の義兄ができる。 矢神 琉生(Ryusei yagami) 26歳 178cm 結衣の義兄の長男。 面倒見がよく優しい。 近くのクリニックの先生をしている。 矢神 秀(Shu yagami) 24歳 172cm 結衣の義兄の次男。 優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。 結衣と大雅が通うS高の数学教師。 矢神 瑛斗(Eito yagami) 22歳 177cm 結衣の義兄の三男。 優しいけどちょっぴりSな一面も!? 今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。 矢神 大雅(Taiga yagami) 高3 182cm 結衣の義兄の四男。 学校からも目をつけられているヤンキー。 結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。 *注 医療の知識等はございません。    ご了承くださいませ。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜

月嶋ゆのん
恋愛
志木 茉莉愛(しき まりあ)は図書館で司書として働いている二十七歳。 ある日の帰り道、見慣れない建物を見かけた茉莉愛は導かれるように店内へ。 そこは雑貨屋のようで、様々な雑貨が所狭しと並んでいる中、見つけた小さいオルゴールが気になり、音色を聞こうとゼンマイを回し音を鳴らすと、突然強い揺れが起き、驚いた茉莉愛は手にしていたオルゴールを落としてしまう。 すると、辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った茉莉愛はそのまま意識を失った。 茉莉愛が目覚めると森の中で、酷く困惑する。 そこへ現れたのは三人の青年だった。 行くあてのない茉莉愛は彼らに促されるまま森を抜け彼らの住む屋敷へやって来て詳しい話を聞くと、ここは自分が住んでいた世界とは別世界だという事を知る事になる。 そして、暫く屋敷で世話になる事になった茉莉愛だが、そこでさらなる事実を知る事になる。 ――助けてくれた青年たちは皆、人間ではなくヴァンパイアだったのだ。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

義母ですが、若返って15歳から人生やり直したらなぜか溺愛されてます

富士とまと
恋愛
25歳で行き遅れとして実家の伯爵家を追い出されるように、父親より3つ年上の辺境伯に後妻として嫁がされました。 5歳の義息子と3歳の義娘の面倒を見て12年が過ぎ、二人の子供も成人して義母としての役割も終わったときに、亡き夫の形見として「若返りの薬」を渡されました。 15歳からの人生やり直し?義娘と同級生として王立学園へ通うことに。 初めての学校、はじめての社交界、はじめての……。 よし、学園で義娘と義息子のよきパートナー探しのお手伝いをしますよ!お義母様に任せてください!

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です。 2024年12月12日 私生活に余裕が出たため、投稿再開します。 それにあたって一部を再編集します。 設定や話の流れに変更はありません。

処理中です...