726 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Time of judgement/22
しおりを挟む
そんなやり取りが、味方の本陣で行われているとはつゆ知らず、クリュダは化石にまだまだ夢中。敵に背中をトントンを叩かれたのに、振り返りもせず、
「ですから、待っていていただけますか? もう少しで見つかるかもしれないんです。もう少し掘ってみると出てくるかもしれません」
物腰低く断りを入れると、シャベルを動かして、まわりに幾重にも群がっている敵に武器代わりのものが当たり続ける。
「うわぁっ!」
「ぎゃあああっ!」
「ぐはっ!」
悲鳴が上がっては、魂が浄化されるがしばらく繰り返される。
クリュダは敵に囲まれているというのに、ボケという盾で無傷だった。しかし、これはラジュの策であり、地中に埋まっているはずもなく、クリュダの収穫はゼロ。
さっと立ち上がって、クリュダはひとり乱戦している戦場に静かに佇む。
「どちらにもありませんね。一度戻って、ラジュさんに詳しい場所を――」
その時だった。二百三十五センチもある背の高いクリュダの腰のあたりをトントンと叩かれたのは。
「はい?」振り向くと、誰かの手のひらが見え、
「こちらを差し上げます」
ひらひらとした四角いものが目の前に飛び込んできた。
「こちらはっ!」
クリュダは思わず息を飲んだ――
*
本陣では今度、ナールがピンチを迎えていた。
「大鎌戻ってこなくなちゃったね」
手裏剣みたいに投げていた武器は、手を大きく上へかかげても、うんともすんとも帰ってこなくなった。
腕組みしながら、シズキはバカにしたように超不機嫌に言ってのける。
「当たり前だ。何度も投げていたら、敵も戻るのを阻止してくるの決まっているだろう」
どんなことにも限界はある。抑え込む力が強ければ、天使であっても、自分に戻ってくる機能がついていたとしても、思い通りにならないのが世の常。
ナールは山吹色のボブ髪をけだるくかき上げ、街でナンパでもするように軽薄的に言った。
「そうね。じゃあ、こうしちゃう?」
パチンと指を鳴らすが、何も起きず、
「?」
シズキは油差しの効いていない人形みたいに、ギギーっと首を横へ傾け、銀の長い前髪が落ちて、両眼があらわになった。
ちょうどその時、敵の陣地で、耳をつんざくような女たちの悲鳴がにわかに上がった。
「きゃああっっ!?」
それと同時に、空中を飛んでくるのではなく、ナールの手元に大鎌がいつの間にか戻ってきていた。
「?」
シズキの首はさらに傾く。何が起きているのかわからなくて。
「よっ!」
ナールは力むような声を上げて、空中を真っ二つに切るように、大鎌を横向きで投げた。
シュルシュルシュル!
風を切る音がして、敵の体に容赦なく、大きな三日月形の刃物が切り込み、バタバタと人が無差別に倒れ、浄化されてゆく。
しかしやはり、ナールが手を大きくかかげでも、武器は戻ってこなかった。
改善すべき点は、武器を投げない方法ではないのか――。シズキはそう思いつつ、腕組みしながら戦場を眺めていると、敵は今度、何かを手にしたようだった。男がそれをじっと見つめる。
「何だ?」
すると、別の男の兵が興奮気味に吠えた。
「うほっー!」
「おい、見せろよ!」
「こっちもこっちも!」
戦闘中にもかかわらず、男どもが群れをなして、何かを見ているようで、その表情はみなニヤニヤしていた。
「?」
さっきからどうも何かがおかしいようで、シズキはさらに首を傾げた。その隣で、ナールは慣れた感じで、大鎌を手裏剣のようにして再び戦場を走らせる。
そうしてまた、武器は戻ってこなくなってしまった。
不思議がっているシズキとは裏腹に、ナールは絶好調で、右手を斜め上に向かって伸ばし、スーパーハイテンションで叫ぶ。
「はい、次です!」
パチンと指を鳴らすと、ガラスの破片が突き刺さるような鋭い悲鳴が幾重にも轟いた。
「きゃあぁぁっっ!」
「何これ!」
喜んでいる感じではなく、まるで不気味なものにでも出会ってしまったような驚き方に、シズキには見えた。
「ですから、待っていていただけますか? もう少しで見つかるかもしれないんです。もう少し掘ってみると出てくるかもしれません」
物腰低く断りを入れると、シャベルを動かして、まわりに幾重にも群がっている敵に武器代わりのものが当たり続ける。
「うわぁっ!」
「ぎゃあああっ!」
「ぐはっ!」
悲鳴が上がっては、魂が浄化されるがしばらく繰り返される。
クリュダは敵に囲まれているというのに、ボケという盾で無傷だった。しかし、これはラジュの策であり、地中に埋まっているはずもなく、クリュダの収穫はゼロ。
さっと立ち上がって、クリュダはひとり乱戦している戦場に静かに佇む。
「どちらにもありませんね。一度戻って、ラジュさんに詳しい場所を――」
その時だった。二百三十五センチもある背の高いクリュダの腰のあたりをトントンと叩かれたのは。
「はい?」振り向くと、誰かの手のひらが見え、
「こちらを差し上げます」
ひらひらとした四角いものが目の前に飛び込んできた。
「こちらはっ!」
クリュダは思わず息を飲んだ――
*
本陣では今度、ナールがピンチを迎えていた。
「大鎌戻ってこなくなちゃったね」
手裏剣みたいに投げていた武器は、手を大きく上へかかげても、うんともすんとも帰ってこなくなった。
腕組みしながら、シズキはバカにしたように超不機嫌に言ってのける。
「当たり前だ。何度も投げていたら、敵も戻るのを阻止してくるの決まっているだろう」
どんなことにも限界はある。抑え込む力が強ければ、天使であっても、自分に戻ってくる機能がついていたとしても、思い通りにならないのが世の常。
ナールは山吹色のボブ髪をけだるくかき上げ、街でナンパでもするように軽薄的に言った。
「そうね。じゃあ、こうしちゃう?」
パチンと指を鳴らすが、何も起きず、
「?」
シズキは油差しの効いていない人形みたいに、ギギーっと首を横へ傾け、銀の長い前髪が落ちて、両眼があらわになった。
ちょうどその時、敵の陣地で、耳をつんざくような女たちの悲鳴がにわかに上がった。
「きゃああっっ!?」
それと同時に、空中を飛んでくるのではなく、ナールの手元に大鎌がいつの間にか戻ってきていた。
「?」
シズキの首はさらに傾く。何が起きているのかわからなくて。
「よっ!」
ナールは力むような声を上げて、空中を真っ二つに切るように、大鎌を横向きで投げた。
シュルシュルシュル!
風を切る音がして、敵の体に容赦なく、大きな三日月形の刃物が切り込み、バタバタと人が無差別に倒れ、浄化されてゆく。
しかしやはり、ナールが手を大きくかかげでも、武器は戻ってこなかった。
改善すべき点は、武器を投げない方法ではないのか――。シズキはそう思いつつ、腕組みしながら戦場を眺めていると、敵は今度、何かを手にしたようだった。男がそれをじっと見つめる。
「何だ?」
すると、別の男の兵が興奮気味に吠えた。
「うほっー!」
「おい、見せろよ!」
「こっちもこっちも!」
戦闘中にもかかわらず、男どもが群れをなして、何かを見ているようで、その表情はみなニヤニヤしていた。
「?」
さっきからどうも何かがおかしいようで、シズキはさらに首を傾げた。その隣で、ナールは慣れた感じで、大鎌を手裏剣のようにして再び戦場を走らせる。
そうしてまた、武器は戻ってこなくなってしまった。
不思議がっているシズキとは裏腹に、ナールは絶好調で、右手を斜め上に向かって伸ばし、スーパーハイテンションで叫ぶ。
「はい、次です!」
パチンと指を鳴らすと、ガラスの破片が突き刺さるような鋭い悲鳴が幾重にも轟いた。
「きゃあぁぁっっ!」
「何これ!」
喜んでいる感じではなく、まるで不気味なものにでも出会ってしまったような驚き方に、シズキには見えた。
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
4人の王子に囲まれて
*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。
4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって……
4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー!
鈴木結衣(Yui Suzuki)
高1 156cm 39kg
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。
母の再婚によって4人の義兄ができる。
矢神 琉生(Ryusei yagami)
26歳 178cm
結衣の義兄の長男。
面倒見がよく優しい。
近くのクリニックの先生をしている。
矢神 秀(Shu yagami)
24歳 172cm
結衣の義兄の次男。
優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。
結衣と大雅が通うS高の数学教師。
矢神 瑛斗(Eito yagami)
22歳 177cm
結衣の義兄の三男。
優しいけどちょっぴりSな一面も!?
今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。
矢神 大雅(Taiga yagami)
高3 182cm
結衣の義兄の四男。
学校からも目をつけられているヤンキー。
結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。
*注 医療の知識等はございません。
ご了承くださいませ。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜
月嶋ゆのん
恋愛
志木 茉莉愛(しき まりあ)は図書館で司書として働いている二十七歳。
ある日の帰り道、見慣れない建物を見かけた茉莉愛は導かれるように店内へ。
そこは雑貨屋のようで、様々な雑貨が所狭しと並んでいる中、見つけた小さいオルゴールが気になり、音色を聞こうとゼンマイを回し音を鳴らすと、突然強い揺れが起き、驚いた茉莉愛は手にしていたオルゴールを落としてしまう。
すると、辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った茉莉愛はそのまま意識を失った。
茉莉愛が目覚めると森の中で、酷く困惑する。
そこへ現れたのは三人の青年だった。
行くあてのない茉莉愛は彼らに促されるまま森を抜け彼らの住む屋敷へやって来て詳しい話を聞くと、ここは自分が住んでいた世界とは別世界だという事を知る事になる。
そして、暫く屋敷で世話になる事になった茉莉愛だが、そこでさらなる事実を知る事になる。
――助けてくれた青年たちは皆、人間ではなくヴァンパイアだったのだ。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
義母ですが、若返って15歳から人生やり直したらなぜか溺愛されてます
富士とまと
恋愛
25歳で行き遅れとして実家の伯爵家を追い出されるように、父親より3つ年上の辺境伯に後妻として嫁がされました。
5歳の義息子と3歳の義娘の面倒を見て12年が過ぎ、二人の子供も成人して義母としての役割も終わったときに、亡き夫の形見として「若返りの薬」を渡されました。
15歳からの人生やり直し?義娘と同級生として王立学園へ通うことに。
初めての学校、はじめての社交界、はじめての……。
よし、学園で義娘と義息子のよきパートナー探しのお手伝いをしますよ!お義母様に任せてください!
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる