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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Time of judgement/9
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悪霊たちの戦闘は数あれど、陣を組んでの戦争は初めの崇剛。敵の狙いは自分と隣に立っている教祖のダルレシアン。
ただ守られるためだけにここにいるわけではない。戦うためにここにいる。
しかし、策士の性分で、さっきからデータ収集をすることに時間を費やしていた。 崇剛は風で乱れた後れ毛を、神経質な指先で耳にかけた。戦場を見つめたまま、ダルレシアンに問いかける。
「どのような魔法が使えるのですか?」
遊線が螺旋を描く優雅な声は、ふと吹いてきた強風に煽られ、宙へ飛んでいった。
邪神界の敵陣はあと数十メーターまでと迫っている。ダルレシアンは大きな手に持っていたタロットカードをローブのポケットに無造作に入れた。
「ん~?」
聡明な瑠璃紺色の瞳には、秋の日差しが入り込む旧聖堂だけが映っていた。吹いてくる風と枝から飛び立つ鳥の鳴き声しか聞こえない。
ただそれだけだが、メシア保有者として、霊界の荒野で繰り広げられている武器がぶつかり合う音や、地鳴りのような靴音、悲鳴がさっきからひっきりなしに耳に入り込んでいた。
人間である自身が思い浮かべれば、結界の張っていない今では敵に情報漏洩しかねない。それは命取りになるかもしれない。
ダルレシアンは脳裏に鮮明に浮かべもせず、ただ曖昧な言い方をした。
「大抵のことはできるよ」
「そうですか」崇剛はどうとでも取れる相づちを打ち、あごに指を当てて思案し始めたが、
(そうですね……? あちらで……こちらのようにしましょうか?)
本人にしか理解できない思考回路で、作戦を組み立てた。
しかしこれでは、さっき会ったばかりのダルレシアンに意思表示ができない。優雅な策略家は最低限な言葉で伝えた。
「ものを移動させる魔法は使えますか?」
魔法攻撃――
崇剛とダルレシアンの最初の一手だ。
教祖はまた自分の爪を見つめて、気のない振りをして、話が混乱しないように罠は仕掛けず今は正直に問われたことに応える。
「できるよ。瞬間移動でボクはここにきたからね」
「そうですか」
「それで、何を動かしたいの?」
ダルレシアンのクールな視線を受けて、崇剛は戦場へと冷静な水色の瞳を向けた。
「あちらを持ち上げて欲しいのですが、お願いできますか?」
ダルレシアンの視界には、ひびわれたステンドグラスと倒れかけた祭壇があるだけで、
「ん~? あれ?」
これ以上は具体的に何をとは言えない。
意思の疎通がスムーズにいかない間にも、崇剛の千里眼では敵勢が濁流のように押し寄せてくる様が映っていた。
「えぇ、できますか?」
「OK~」
ダルレシアンの中で土砂降りのように降り続いていた可能性の数値はピタリと、たったひとつのことに照準が定められた――崇剛の作戦を読み切った。
さっきよりも近づいている敵から、崇剛は視線をそらさないまま、猛吹雪を感じさせる冷たい笑みで、作戦を遂行する。
「それでは、前方百八十度にかけてください」
「All right~!」
ダルレシアンは春風のようにふんわりと微笑んだ。
「タイミングを合わせてください」
自然と緊張感がふたりに張り詰める。敵を直視できる崇剛はカウントダウンを始めた。
「三、二、一、お願いします」
「Up!」
ダルレシアンが人差し指を上へ上げる仕草をすると、突進してきた敵が一斉に空中へ持ち上がった。
「うわぁっ!」
後方から続々とやってきていた敵兵は、味方の異変に一瞬ひるんだが、失った勢いを奮い立たせ、崇剛とダルレシアンを目指して走り込んできた。
千里眼の能力が発揮される。持ち上がった敵の縦の距離――十メートルという数値がはっきりと浮かぶ。
ダルレシアンの漆黒の長い髪が横から吹いてきた風に吹かれ、少し遅れて崇剛の紺のそれも揺れて、十メートルという距離を敵が詰めてくるのを、冷静に待ち続ける。
あと五メートル……。崇剛の脳裏でカウントダウンが始まる。あと二メートル、一メートル。持ち上がっている敵の最前線へと、後ろからきた軍が完全に重なった。
崇剛の中性的な唇が動いた。
「解いてください」
「OK!」
ダルレシアンが言われた通り魔法の効力をなくすと、持ち上がっていた敵は、後からきた軍勢の上に、砂袋でも落ちるように重くどさっと落下した。
「うわぁぁっっ!」
「うぎゃあぁぁっっ!」
人が上からいきなり降ってくる。何も知らずに走り込んできた地面にいる敵はもちろん、落とされた敵もひとたまりもなかった。
ただ守られるためだけにここにいるわけではない。戦うためにここにいる。
しかし、策士の性分で、さっきからデータ収集をすることに時間を費やしていた。 崇剛は風で乱れた後れ毛を、神経質な指先で耳にかけた。戦場を見つめたまま、ダルレシアンに問いかける。
「どのような魔法が使えるのですか?」
遊線が螺旋を描く優雅な声は、ふと吹いてきた強風に煽られ、宙へ飛んでいった。
邪神界の敵陣はあと数十メーターまでと迫っている。ダルレシアンは大きな手に持っていたタロットカードをローブのポケットに無造作に入れた。
「ん~?」
聡明な瑠璃紺色の瞳には、秋の日差しが入り込む旧聖堂だけが映っていた。吹いてくる風と枝から飛び立つ鳥の鳴き声しか聞こえない。
ただそれだけだが、メシア保有者として、霊界の荒野で繰り広げられている武器がぶつかり合う音や、地鳴りのような靴音、悲鳴がさっきからひっきりなしに耳に入り込んでいた。
人間である自身が思い浮かべれば、結界の張っていない今では敵に情報漏洩しかねない。それは命取りになるかもしれない。
ダルレシアンは脳裏に鮮明に浮かべもせず、ただ曖昧な言い方をした。
「大抵のことはできるよ」
「そうですか」崇剛はどうとでも取れる相づちを打ち、あごに指を当てて思案し始めたが、
(そうですね……? あちらで……こちらのようにしましょうか?)
本人にしか理解できない思考回路で、作戦を組み立てた。
しかしこれでは、さっき会ったばかりのダルレシアンに意思表示ができない。優雅な策略家は最低限な言葉で伝えた。
「ものを移動させる魔法は使えますか?」
魔法攻撃――
崇剛とダルレシアンの最初の一手だ。
教祖はまた自分の爪を見つめて、気のない振りをして、話が混乱しないように罠は仕掛けず今は正直に問われたことに応える。
「できるよ。瞬間移動でボクはここにきたからね」
「そうですか」
「それで、何を動かしたいの?」
ダルレシアンのクールな視線を受けて、崇剛は戦場へと冷静な水色の瞳を向けた。
「あちらを持ち上げて欲しいのですが、お願いできますか?」
ダルレシアンの視界には、ひびわれたステンドグラスと倒れかけた祭壇があるだけで、
「ん~? あれ?」
これ以上は具体的に何をとは言えない。
意思の疎通がスムーズにいかない間にも、崇剛の千里眼では敵勢が濁流のように押し寄せてくる様が映っていた。
「えぇ、できますか?」
「OK~」
ダルレシアンの中で土砂降りのように降り続いていた可能性の数値はピタリと、たったひとつのことに照準が定められた――崇剛の作戦を読み切った。
さっきよりも近づいている敵から、崇剛は視線をそらさないまま、猛吹雪を感じさせる冷たい笑みで、作戦を遂行する。
「それでは、前方百八十度にかけてください」
「All right~!」
ダルレシアンは春風のようにふんわりと微笑んだ。
「タイミングを合わせてください」
自然と緊張感がふたりに張り詰める。敵を直視できる崇剛はカウントダウンを始めた。
「三、二、一、お願いします」
「Up!」
ダルレシアンが人差し指を上へ上げる仕草をすると、突進してきた敵が一斉に空中へ持ち上がった。
「うわぁっ!」
後方から続々とやってきていた敵兵は、味方の異変に一瞬ひるんだが、失った勢いを奮い立たせ、崇剛とダルレシアンを目指して走り込んできた。
千里眼の能力が発揮される。持ち上がった敵の縦の距離――十メートルという数値がはっきりと浮かぶ。
ダルレシアンの漆黒の長い髪が横から吹いてきた風に吹かれ、少し遅れて崇剛の紺のそれも揺れて、十メートルという距離を敵が詰めてくるのを、冷静に待ち続ける。
あと五メートル……。崇剛の脳裏でカウントダウンが始まる。あと二メートル、一メートル。持ち上がっている敵の最前線へと、後ろからきた軍が完全に重なった。
崇剛の中性的な唇が動いた。
「解いてください」
「OK!」
ダルレシアンが言われた通り魔法の効力をなくすと、持ち上がっていた敵は、後からきた軍勢の上に、砂袋でも落ちるように重くどさっと落下した。
「うわぁぁっっ!」
「うぎゃあぁぁっっ!」
人が上からいきなり降ってくる。何も知らずに走り込んできた地面にいる敵はもちろん、落とされた敵もひとたまりもなかった。
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