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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

天使が訪れる時/14

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 さっきと変わらず、魂が存在しているものだと、神に思わされたまま、崇剛に普通に話しかけてきた。

「先生……」

 神が肉体を滅ぼさない限り、人は人。魂が入っていまいが、存在している以上、魂が入っている人と同じように接することが当たり前。

 神父は尊敬の念を持って、優雅に先を促した。

「えぇ」
「千恵には会えますか? お礼を言いたいんです」

 既に手遅れだった――。

 恩田 元として会うことはもうできない。それが真実だ。存在していなかったことになるとは、彼女の記憶からも過去として忘れ去られるのだ。

 己が自分勝手に――悪に生きてきたばかりに、半年前に他界してしまった女は無惨な最期を遂げた。

 霊層の違うふたりが会うことは決して赦されていない。

 元が望んでいるような形では、もう会えないが、曖昧にすることもできない。だからといって、気休めという嘘をつくのは誠意に欠ける。

「そうですね?」

 崇剛は千里眼を使って、神から与えられた力で、できる限り未来を見た。

 だがしかし、さっき成仏してしまった男が、千恵に会う場面は見つからなかった。心の中で、聖霊師は天使に問いかける。

「いかがですか? シズキ天使」

 腹の前で両腕を組むシズキの、綺麗な手にあるアーマーリングが鋭い銀の光を放ちながら、トントンと腕に叩きつけられていたが、やがてピタリと止まった。

「俺に見えている未来の範疇でもめぐり合えない。霊層が違いすぎる。あっちは十段んだ。こいつが努力している間に、向こうはさらに努力を重ねて、天使の域へと上り、神世にたどりつく。会いたければ、はいつくばって、死ぬ気で努力するがいい」

 このままを伝えるわけにはいかない――。

「そうですか」崇剛は相づちをついて、「そうですね? こうしましょうか」あっという間に、優しさという嘘を組み立てた。

「今はまだわかりませんが、めぐり会える時がくるかもしれませんよ」

 神が見ている未来には、可能性が残っているのではないかと、聖霊師は望みを託した。

「そうですか。ありがとうございました」

 半年前とは違い、礼儀正しく頭を下げた元の前で、崇剛の後れ毛はゆっくり横へ揺れた。

「いいえ、私は何もしていませんよ。あなたご自身のお力です。あなたが決心して、こちらへいらっしゃったのです」

 元は唇を軽く噛んで、物悲しく床をしばらく見つめていたが、やがて椅子から立ち上がり、

「失礼します」

 頭を下げて出て行こうとしたが、崇剛の優雅な声が引き止めた。

「ちょっと待っていてくださいますか?」
「あぁ、はい……」

 神父はエレガントに椅子から立ち上がり、診療用のベッドの横まで行き、片膝を立てて、金庫の前に座り込んだ。

 全てを記憶する冷静な頭脳で、一番新しい暗証番号を簡単に引き寄せ、ロックを解除しようとする。

 患者からの謝礼はいつも中身を確認せず、次々に中へしまってしまう金庫。難なく開けられた中から、必要な分を手でつかみ、崇剛は元のそばまで歩いてきた。

「こちらをどうぞ、お使いください」
「こ、これは、先生の金じゃないですか?」

 差し出された封筒を見て、元はびっくりして、それを押し返した。

 かがんだために、ターコイズブルーのリボンで束ねた髪は、崇剛の左肩から胸にかけて落ちてしまっていた。

 払いのけることもせず、神に選ばれし者として、神父として当然の行いをしようと、崇剛はした。

「お金は神が人に与えるものです。ですから、神のものなのです。私は一時的に預かっているだけです。あなたのように困っている方に渡す役目でしかありません。ですから、あなたにこちらは差し上げます」

 打算もなく、見返りも期待しない、本当の親切な心に出会い、元は涙で瞳を潤ませながら、封筒を大切に受け取った。

「い……いつか、必ず……返します」

 痩せこけてしまった患者の頬に、涙が伝ってゆくのを、冷静な瞳に映しつつ、崇剛は首を横へゆっくりと振った。

「ですから、私には返さなくていいのです。私のものではなく、神があなたに与えてくださったものなのですから」
「あ……ありがとうございます」

 元は生まれて初めて、神に感謝の言葉を口にした――。
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