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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Nightmare/12

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「ふーん、世界って広いんだな。みんな生活しながら守ってくれてるんだな。ありがたいな」

 涼介の声が耳から入り込んだ。デジタルに速やかに、崇剛は現実へ意識が戻ってきた、その時――

 シャーン!

 鈴のが強くなったような響きが、崇剛の心のうちに広がった。天井という物理的法則を無視して、ひとりの存在が聖堂へ降りてきた。

「今、降臨されましたよ」
「ど、どこにいる?」

 キョロキョロしている涼介の背後に、冷静な水色の瞳は向いていた。

「すぐ後ろに立っていらっしゃいます。守護する方は、大抵背後にいらっしゃいますよ」

 涼介は振り返ってみたが、青いステンドグラスが滝のように流れるているだけだった。

「名前は?」
「アドス天使です」
「崇剛のは金髪でローブを着てるらしいよな。どんな感じの天使だ?」

 神経質な指はあごに当てられ、「そうですね……?」直視するのではなく、あくまでも霊感という視野で、天使の容姿を観察する。

「坊主に近い紫の短髪をしていらっしゃいます」
「うん」

 涼介はうなずきながら、頭の中で想像してみた。

「瞳は人懐っこそうなあま色をしています」
「うんうん、優しそうだな。さっきまで何してたんだ?」

 いい予感を覚えた涼介に、崇剛の遊線が螺旋を描く優雅な声が闇に葬り去ろうとした。

わら人形と釘――を人々に配っていたそうです」

「え……」涼介は目が点になり、電光石火の如く、その単語から連想できる物事を思い出した。

 ずしりと背後に、悪霊でも憑いたかのような感覚に襲われる。

「それって、人形の中に髪を入れて、夜中に神社に行って釘で打つ……うしの刻参り……」

 霊感がない――盲目とはある種の恐怖心を招きやすい。涼介は背中に冷たい何かがつうっと落ちていき、ひどい寒気を覚えた。

「……人を呪う天使?」

 黒魔術だ――。感覚的な執事の発想は、理論派の主人には十分笑いの渦を巻き起こすレベルの高さで、崇剛はくすりと笑った。

「そのような方は天使にはなれませんよ」
「確かにそうだ――っていうか、それじゃ、安心して人間が生きていけないな」

 ほっと胸をなで下ろして、涼介はさらに奥深くへと進んでゆく。

「じゃあ、何でそんなものを配ってるんだ?」
「神の教えを広めるためだそうです」

 今度は違う物事を、涼介は思い浮かべた。

「何だか怪しすぎるな……」

 まるで三人で話しているように、崇剛は普通に翻訳する。

「以前は、つぼや聖水を配っていたそうです」
「詐欺じゃないのか……?」

 涼介は自分にしか聞こえないように、極力小さな声で言った。が、天使には丸聞こえだった。

 配っている――と伝えているのに、金銭が発生する話に、執事が取り違えているのが、崇剛と天使はおかしくて、顔を見合わせて少しだけ微笑んだ。

「密教のおさだそうですよ」
「怪しさ全開だ……」

 やはり世界は広かったと、涼介は改めて思い知らされた。気を取り直して、話題を変えてみる。

「服装はやっぱり、ローブなのか?」
「いいえ、修験者しゅげんじゃの格好をしていますよ。足元はワラジに足袋です」

 まさしく密教徒だった。

「白なのか?」
「えぇ、天使は全員白で統一されているみたいです」

 涼介は一番気になっていることを、天使に問うてみた。

「夢のことはどう言ってる?」

「こちらのように言っています」崇剛はそう言うと、水色の瞳から冷静さは消え去って、人懐っこそうなものに変わった。

「友達から恋愛に発展することはないっす。あくまでも・・・・・あくまでも・・・・・……あくまでも・・・・・ないっす!」

 カウンターパンチ並みに、涼介は速攻反論した。

「いや、それだけ念を押されると、かえってそうなるみたいに聞こえる!」

 俺はストレートだ――。今すぐここで、涼介は大声で表明したい気持ちに駆られた。

「そうなった時は、新しい人生観が開けるってことで、いいことじゃないっすか!」
「どこまでも前向きなんだな」

 ひまわり色の髪をかき上げて、涼介は守護天使の前に屈した。

「そうかもしれませんね」

 優雅に微笑んだ崇剛から視線をはずして、涼介は見えない天使に向かって、頭を丁寧に下げた。

「それじゃ、今日も一日よろしくお願いします」

 参列席からさっと立ち上がり、さっきまでの不安はどこへやらで、執事は主人にさわやかに微笑む。

「崇剛、サンキュウな」
「どうしたしまして」

 崇剛は手も足もといて、後れ毛を気品高く耳にかけた。アドス天使はこの世から姿を消して、涼介のアーミーブーツが身廊を歩き出す。 

「さぁ、瞬を迎えに行って、仕事だ仕事!」

 ようやく、ベルダージュ荘が平穏に動き出そうとしていた。

 崇剛はそのまま居残り、ガタイのいい執事の背中を聖堂から出ていくまで見送っていた。

「涼介は気にならないみたいです――」

 人の夢を共有する。崇剛にとっては疑問だらけで、時間が許す限り思案してみたくなった。

 畏敬を感じさせるビリビリとした空気が、天と地上を一本の線でつなぐような聖堂の高い丸天井を見上げた。
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