上 下
667 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Nightmare/4

しおりを挟む
 そのあとを大人の長い足で、崇剛は足早に追っていくと、祭壇から二列目の参列席に、いつも見慣れている執事の大きな背中があった。

 走り寄ってきた息子に気づき、父は真正面から振り返った。

「……あ、あぁ。崇剛? 瞬が呼びにいったのか?」
「うん」

 茶色のロングブーツは瞬のすぐ後ろで止まった。

「どうかしたのですか?」

 そう聞く主人の胸の内は、

(あなたが教会へくるのは、私に用がある時だけでした、今まで。おかしいです)

 執事は主人と違って、神父でも信心深い性格でもなかった。いつもはつらつとしている涼介のベビーブルーの瞳は陰りがあった。

「あぁ……それなんだが……」

 白いホワイトジーンズをギュッとつかんでいる息子に視線を向け、父は戸惑う。

(誰にも相談できなくてな。内容が内容だけに……)

 執事はそれっきり黙ってしまった。主人はあごに手を当て、涼介の態度を元に模索する。

(瞬がいると話ができない内容みたいです。そうですね、こうしましょうか)

 神父が小さな子供の前でかがむと、紺の髪が肩からターコイズブルーの細いリボンと一緒に子供の頭の上に降ってきた。

「瞬? 私があなたのパパのことを治します。ですが、約束をひとつしてくれますか?」

 主人は解決するために、子供に嘘をつくことを心の中で懺悔した。瞬はそれに気づくことなく、不思議そうな顔をする。

「やくそく?」
「えぇ、そちらが守れないと、みんなが困ってしまうかもしれません」

 純真無垢という宇宙が広がる小さなベビーブルーの瞳と、冷静な水色のそれは縦の線を描いてぶつかった。

(瞬も私も困ります。涼介自身もです。さらに、他の使用人や召使いもです。なぜなら、涼介は執事なのですから)

 瞬は元気よく右手を上げた。

「まもる!」

 策略的な主人は小さな住人の前へしゃがみ込み、同じ目線になって、みんなが幸せになる罠を仕掛けた。

「それでは、これから私が言うことを、きちんと聞いてください」
「わかった」
「教会から外へ出て、最初に会った人にこちらのように言ってください」

 屋敷の者への伝言――

 流暢に話す崇剛の言葉に、小さな子供は少しついていけなくなりそうになった。

「ん……?」

 瞬はまぶたをパチパチと瞬かせた。

「あなたと遊ぶように、私が言っていたと。わかりましたか?」
「んー?」

 頭をフル回転させている瞬を今も見ている、崇剛は優雅に微笑んでいた。

(私からの命令です、あなたと遊ぶように。涼介との話が終わるまで、他のどなたかに見ていてもらってください。子供ひとり放っておくわけにはいきませんからね)

 瞬は自分の腕に反対の肘を乗せて、頬を手の甲に当て少し考えた。

「えっと……ぼくとあそんでって、せんせいがいってた?」

「そうです」崇剛はいつもと違い、本当に優しく微笑んで、小さな天使の頭をなでた。

「よくわかりましたね。ひとりで言えますか?」
「はーい!」

 遊びという楽しみに惹かれ、瞬は右手を大きく上げ、元気よく返事をした。

「それでは、遊んできてください」

「わかったー!」瞬は無邪気に微笑み、手を大きく振る。「パパ、はやく、げんきになってね」

 聖堂からパタパタと走り出て行った瞬。ドアを開けっ放しで出ていってしまった。茶色のロングブーツは足早に身廊を戻りながら、

「あなたが遊びに飽きてしまう前に、何とか解決しなくてはいけませんね」

 ドアをきちんと閉めて、祭壇近くの席へ再び戻ってきた。

 茶色のロングブーツを身廊に残すように横向きで座り、主人は神経質な横顔を執事へ見せる形を取った。

 静かになった聖堂の高い天井まで届くように、遊線が螺旋を描く優雅な声が響き渡る。

「昨夜から今朝にかけて、何かがあったのですね?」

 知らないはずの主人に言い当てられたと思って、執事は少しだけ目を大きくした。

「どうして、わかったんだ?」

 今のは軽い罠で、涼介自身が認めた形になっていた。崇剛は理論的に流暢に言葉を紡ぐ。

「昨夜、眠る前はあなたの様子はおかしくありませんでした。ですが、今朝から様子がおかしくなりました。そちらは、眠っている間に何かあったという可能性が非常に高くなります。違いますか?」

 感覚人間――執事は何とか理論武装の主人の話についていき、納得の声を上げた。

「あ、あぁ……そういうことか。お前の考え方って難しいけど、簡単に当てられるんだな、俺が言わなくても……」

 今初めて、冷静な水色の瞳は、執事の素直で正直なベビーブルーの瞳へ向けられた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

4人の王子に囲まれて

*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。 4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって…… 4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー! 鈴木結衣(Yui Suzuki) 高1 156cm 39kg シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。 母の再婚によって4人の義兄ができる。 矢神 琉生(Ryusei yagami) 26歳 178cm 結衣の義兄の長男。 面倒見がよく優しい。 近くのクリニックの先生をしている。 矢神 秀(Shu yagami) 24歳 172cm 結衣の義兄の次男。 優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。 結衣と大雅が通うS高の数学教師。 矢神 瑛斗(Eito yagami) 22歳 177cm 結衣の義兄の三男。 優しいけどちょっぴりSな一面も!? 今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。 矢神 大雅(Taiga yagami) 高3 182cm 結衣の義兄の四男。 学校からも目をつけられているヤンキー。 結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。 *注 医療の知識等はございません。    ご了承くださいませ。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。 『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』 一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜合体編〜♡

x頭金x
恋愛
♡ちょっとHなショートショートつめ合わせ♡

処理中です...