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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Karma-因果応報-/7

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 嘘をつくというデータが過去にある限り、本当のことを言うという可能性は必然と、正直に話す人より下がってしまうものだ。

 崇剛の心の湖は凪だったが、さらに質問を重ねた。故意に情報を渡さないようにしていないかと思って。

「そちらだけですか?」
「は、はい……。(あとは、疑われるからな)」

 ここまできても、態度を変えない犯人を前にして、聖霊師はチェスという事情聴衆の盤上へ、犯人を強引に引きずり上げた。

 まずは一手目――ポーンという疑問形を、優雅さは含むが非常に冷たい声で放った。

「なぜ、あなたは嘘をつかれるのですか?」

 この男は改心するつもりはないのか――

 元は落ち着きなく視線をあちこちへやった。

「え、え……? (ど、どうして、嘘だって知ってるんだ……?)」

 前回訪問した時のことを、元は覚えていなかった。知るはずのない自分の夢の内容を、崇剛は当ててきたのだ。

 優雅な聖霊師には嘘は通じないと、きちんと理解していなかった。

 合理的に物事を進めるために、何の躊躇もなく容疑者に、メシア保有者であることをカミングアウトした。

「私には神から授かった千里眼という人の心や過去世、霊や天使などを見る力があります。ですから、あなたの見た夢は見えますし、思ったことは聞こえますよ」

 元は尊敬に値しない人物だと判断し、崇剛の言葉遣いは敬うものから、丁寧語へレベルを引き下げられた。

「…………。(そ、それって……)」

 嘘やごまかしだらけの人生を送ってきた、元は言葉をなくした。崇剛にはかまっている暇はなかった。

「時間がありません。あなたという原因を軸にして、たくさんの人が死ぬ可能性があるのです。一秒でも早く解決できる方法を選ぶ――そちらが犠牲者が出ない可能性が一番高いのです」
「…………」

 壊れた機械みたいに、動きも思考も止まってしまった元。

 今は優しさなどという感情を微塵も使う気のない、崇剛は相手の言葉を待たず、さらなる一手――基本の疑問形を打った。

「答えてください。なぜ、正直に全てを言わないのですか?」
「そ、それは……あ、あの……。(お、思ってることもバレる……ひゃあっ!)」

 元を自分の手元を見たり、崇剛をうかがうを繰り返しながら、決断することもできず、自分のターンは終了してしまった。

 このチェスはただのゲームではない。現実だ。ルールなど存在しない。ターン中に手を打たなくても、時間がくれば、相手のターンへ勝手に移ってしまう。

 崇剛は組んでいた両手をとき、茶色のロングブーツの足を優雅に組み替えた。

 待っていても時間の無駄であるという可能性が99.99%――
 仕方がありませんね。
 私から話を進めていきましょう。

 崇剛の絶対優勢で、全て聖霊師のターンで診察は進んでゆくこととなった。

「宇田川家は加瀬幕府を治めていた武将の家名です。そちらへ、あなたは日本刀を献上しようとしたのではありませんか?」

 神からの赦しが得られ、崇剛に元の前世の出来事も関わった人々も、何もかもが明らかになった。

 冷静な頭脳に、次から次へと浮かんでは消えてゆく、百五十六人の犠牲者の名前、姿形。そうして、邪神界か正神界かの審神者が、瑠璃とラジュのふたりの共同作業で行われながら、表面上の会話は普通に展開してゆく。

 崇剛は守護霊と天使から言われた情報を、冷静な頭脳というデータバンクに的確に整理していきながら、容疑者へ投げかけた質問の返事を待った。

 しかし、元は言い淀むだけ、

「そ、それは……」
(確かに、宇田川家に献上するとか言ってた……)

 言葉にならないことばかりの元。殺人犯の前世の情報が絶え間なく入り込んでくる、崇剛の中性的な唇から、完成したパズルの詳細が診療室に舞い始めた。

「あなたの前世は、今から三百六十三年から三百十二年前で、三百四十八年前から死ぬまで、鍛冶屋を営んでいました」
「あ、あぁ……」

 戸惑い気味にうなずいた元は、鍛冶屋がどんな職業がきちんと理解していなかった。

(だから、鉄を打ってたのか。で、でも、何でそれが悪霊と関係するんだ?)
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