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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Karma-因果応報-/6

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 茶色のロングブーツが中へ一歩踏み入れると、小さく縮こまっていた背中はガバッと立ち上がり、頬は痩せこけ目は落ち窪み、骸骨のような顔になってしまった元が、媚を売るような目を向けた。

「せ、先生!」

 崇剛の怪我をしている右手へ飛びつこうとした。他人の傷のことなどお構いなしで、自分のことばかりが優先。聖霊師は左の手のひらを元の前へ突き出した。

「落ち着いてください。話はきちんと聞きますから」
「は、はい……」

 元は木の椅子にストンと腰を下ろした。

 崇剛は座り心地のよい診療室の椅子に身を預ける。

 机の右側にはビクスドールのような、巫女服ドレスを着た、漆黒の長い髪を持つ少女が、白いショートブーツの足を組んで腰掛けた。

 左側の机の縁には、聖なる白いローブを着た長い金の髪を揺らす、にっこりと微笑んでいる女性的な、男性天使が金の輪っかと両翼をたたんだ状態で、腰で机へもたれかかっていた。

 神秘的な聖女と天使の間に、紺の長い女性的な髪と、中性的な整った顔立ちの崇剛が構えていた。

 腰元には聖なるダガーの柄が隠されていて、シルクの滑らかなブラウスの下には肌身離さず持っている銀のロザリオ。

 瑠璃色の貴族服には魔除のローズマリーを潜ませ、ロイヤルブルーサファイアのカフスボタンが気品を讃える。

 茶色のロングブーツの足をスマートに組み、魂の浄化をするには最強とも呼ばれる三人が対峙していた。

 崇剛は肘掛に両肘をついて、胸の前で両手をエレガントに組み、元の変わり果てた姿を前にしても、同情などという相手を卑下するものにつながる、可能性のあるものには手を出さなかった。

 今世で最初の事件が起きたのは……。
 二十年前、四月十二日、日曜日。十七時十六分二十五秒――
 真里さんの転落死亡事故です。
 ですが、そちらだけでは、ご自身で気づくのは難しいかもしれません。
 しかしながら、二回目、霧子さんの転落死亡事故。
 十四年前、四月十一日、日曜日。十七時十六分十二秒――
 そちらで、気づくべきだったのかもしれませんね。
 十四年間、見て見ぬ振り――いいえ。
 お金が欲しいがために、利用し続けた結果なのかもしれません。

 哀れな道化師としか言いようのない容疑者。エレガントな心霊探偵は感情などという曖昧なものを決して交えず、事実を事実として受け止めただけだった。

 春の穏やかな風が入り込む診療室は、嵐の前の静けさ。国立が忠告した通り、ルールはルールの崇剛の血も涙もない説教が繰り広げられるのだった。

 聖霊師側は三人がそろっていたが、元に見えているのは崇剛だけで、必死の形相で話の順番は支離滅裂だった。

「た、助けて欲しいんです!」

 理論から外れた言葉――名詞が抜けている。ルールから外れている、0.01のズレ。崇剛は非合理的だと思ったが、今はひとまず冷静に対処して、的確に質問を投げかけた。

「言葉がいつくか抜けているみたいですよ。何か状況が変わられたのですか?」

 何かが起きたから、聖霊寮の国立の元へ行って、ベルダージュ荘にやってきた。それを説明するのは大人として当然だ。

「先生、助けてください!」

 自分のことが最優先。人の話も聞いていない元。コミュニケーション能力まで、悪霊に奪われたかのようだった。

 骸骨みたいになてしまった元から、崇剛は視線をまったくそらさず、短く先を促した。

「えぇ、ですから?」

 聖霊師は心の中で、容疑者に最後通告する。

 あなたは今、同じ内容の言葉を二度言いました。
 こちらのままでは、時間がかかり非合理的です。
 ですから、千里眼を使いましょう。

 最終兵器を持ち出した、崇剛の脳裏に様々な音と映像が流れ始めた。そんな感覚が存在しているとは知らない元は、今にも崇剛に突進するような勢いで、

「夢の内容が変わったんです!」
「どのように変わりましたか?」

 正直に話すようになったのかと、崇剛は待ってみたが、元の説明は穴だらけで、感覚的過ぎた。

「夜、茂みに隠れて、赤い線が縦に出るんです。あとは何かを打ってるもので……」
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