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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

心霊探偵と心霊刑事/3

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 国立は勢いよく葉巻の灰を灰皿になすりつけたが、一言言ってやりたくなった。もっと簡単な方法があると。

「千里眼で見やがれ! ごちゃごちゃ頭で考えて楽しんでんじゃねえ。てめえ、エクスプロイダーだ!」
「えぇ、構いませんよ」

 プロレスの技を振られたのに、聖霊師はしれっと了承した。国立の部下のように構えるわけでもなく、崇剛はソファーの上でロングブーツの足をスマートに組み替えただけだった。

 刑事と探偵の緊張感は氷が溶けるように一気に緩む。

「元気そうじゃねえか」
「えぇ、お陰さまで」

 紅茶を一口飲み、崇剛はくすくす笑った。不浄な聖霊寮の空気を浄化するように。
 
 ふたりはいつの間にか、血湧き肉踊るリングを眺める観客席に座っていた――。

 歓声に紛れながら、アナウンサーが興奮冷めやらぬ感じで叫ぶ。

「エクスプロイダーだ!」

 真っ白い人形がリングの上で揉め合っている。顔はへのへのもへじで、一人が相手の側面をつかみ取り、背中をブリッジさせて、リングへ沈めた。歓声に一気に火がつき、ギブアップのゴングが鳴り響く。

 応接セットに座っている崇剛と国立が今ここで、本当に技を体現したら、大人気ない破壊が行われるに違いがなかった。

 できない技を口走って、それに優雅に答えるという。心霊探偵と心霊刑事の非常にマニアックな――ふたりにしかわからない笑いがこの先々で、聖霊寮の一角で旋風のように巻き起こる。

 ひとしきり笑い終えたところで、崇剛が優雅な声で情報収集に入ったが、

「聖霊寮にはたくさんの事件があります。なぜ、こちらの事件を選ばれたのですか?」
「バットなフィーリングがしやがったからよ」

 してやったというように、国立は口の端でニヤリとした。さっきからずっと隠していた、包帯を巻いた右手を反射的に出し、崇剛は手の甲を唇に当てて、何も言えなくなり、彼なりの大爆笑を始めた。

「…………」

 崇剛は国立の横文字攻撃に弱いのだ。肩を小刻みに震わせながら、笑っている崇剛の包帯を巻いた手を見つけて、国立は急に真剣な顔つきになった。

「それ、どうしやがった?」

 上品に笑っているこの男は、可能性で全てを測ってくる。それは、他の人よりも慎重ということだ。それなのに怪我をしているとなると、何かがあったと勘づいて当然だった。

 崇剛は急に笑うのをやめて、右手を左手で隠すように包み込んだ。冷静な水色の瞳はついっと細められていたが、優雅な笑みに紛れて、国立は気づかなかった。

 聖女と愛のもつれで、怪我をした――。それが本当のことだ。

 だかしかし、崇剛は国立の態度に小さな違和感を抱いて、嘘にならない別の言い方をわざとした。

「こちらは……ダガーの扱いを間違っただけですよ」

 実際に、自身で選択した結果が、刃先を握るという行為だったのだ。まだ質問が飛んでくるようなら、刃に触ったのだと言えばいい。

 いつも流暢に話してくる策略家らしからぬ、言葉の途中で詰まったような言い方だったが、国立は素知らぬふりで、ソファーにだるくもたれかかった。

「お前さんでも、失敗すんのか」

 珍しく下手な嘘をつくと、国立は思った。同時にらしくないとも。霊界とつながるダガーで怪我をするとなると、勘の鋭い刑事には見当がついた。

(瑠璃お嬢と、何かありやがったな)

 屋敷に住む執事でさえ、直感でたぶんそうだと気づいたことなのに、なぜか刑事が探偵のプラベートを知っている。

 もちろんそれは、ふたりの表面上の言動には出ていない。しかし、崇剛はそんな些細なことが、0.01のズレとして気になるのだ。だからこそ、わざと曖昧な返事を返した。

「そうかもしれませんね」

 今までのデータを並べると、国立の態度が重要な意味を持ってくるのだ。崇剛は慎重にことを進めようとする。

 事件以外のことも、情報を引き出しましょうか。
 国立氏は、私よりも年齢が六歳上です。
 人生経験も豊富で、職業柄、心理的駆け引きにも非常に優れています。
 ですから、涼介と同じ簡単な罠には引っかかりません。
 従って、別の方法を取り、情報を手に入れさせていただきましょう。
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