562 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
主人は執事をアグレッシブに叱りたい/3
しおりを挟む
従って、あなたには懺悔――していただきます。
ことは重大かもしれません。
ですから、あなたには今までで、一番困っていただきましょうか。
そうですね?
まずは、こうしましょう。
ここまでの思考回路、約一秒――。今までになく、アグレッシブな罠の香りが思いっきりしていたが、それを悟られないように、策略家は標的を部屋へ招き入れる。
「中へ入ってください、話を聞きますから」
「あぁ、わかった」
涼介のアーミーブーツが無防備に主人の部屋に入った。崇剛はドアを閉め、それを背にして優雅に微笑む。
すると、カチャンという、鉄と木がぶつかり合う音がして、前を向いたままの涼介は異変を感じた。
(ん? 何の音だ?)
標的の横をロングブーツの気品ある歩みが通り過ぎ、涼介があとに続く。執事の気配を線の細い背中で感じながら、崇剛は今部屋の中にあるものをもう一度確認するのだった。
紅茶。
新聞紙。
ソファー。
包帯。
髪を束ねているリボン。
窓。
カーテン。
風。
絨毯。
右手の怪我。
涼介の手の中にある紙――
何をどう使えば、どう動くのか。つまりは、執事を懺悔させることができるのか。崇剛の脳裏であっという間に作戦は練られ、ドアからソファーへと歩く間に組み立てられた。
(これらで出来ること……。まずは、そちらの情報からいただきましょうか)
主人の歩みは紅茶を楽しんでいたソファーの手前で止まり、執事に振り返った。
「ソファーの左側へ、座ってください」
(右手を怪我している私が動きやすいように、左側へ座っていただきます)
感覚的な執事は腰掛けながら、手に持っていた紙をテーブルの上へ無造作に置いた。
(そちらに書いてある内容を見せていだたきます)
視力がかなり弱い崇剛からは、ただの白い紙にしか見えなかったが、千里眼を使って、一瞬のうちに冷静な頭脳へデジタル化して記録した。
そちらのお名前は……、
先週の、四月十九日火曜日、九時七分四十五秒に、初めての連絡をされた方です。
同日の十五時半に予約されていました。
しかしながら、約束の時刻になってもいらっしゃらず、連絡もつかない状態でした。
ですが、つくようになったみたいです――
素知らぬ振りで、執事と同じソファーの右側に、策略的な主人は座った。そうして、左側が涼介、右側が崇剛となった。
怪我をしていない左手で紅茶のカップを取り、崇剛は中性的な唇に近づける。
朝食時から五度も同じことを、涼介は私に聞いてきています。
そちらを、今でも聞きたがっているという可能性が78.65%――
こちらの質問をさせましょう。
次の私の言葉は、あちらにします。
こうやって、主人はわざと言葉を言わず、ベルガモットの香りをただただ楽しんだ。
「…………」
話を聞くと言ったのに、そんな気配のない主人。感覚で動いている執事はうっかり罠にはまって、朝から気になって仕方がない質問を、策略家の思惑通りしてしまった。
「その手、本当にどうしたんだ?」
心優しい執事は表情を曇らせた。
(お前が話さないなんて、おかしいだろう。朝から何度も聞いてるのに答えない)
聞いてしまいたかった。そうしたら、崇剛が取り乱すほどの心の傷が少しは癒えるのではないかと、涼介は思った。
(それって、瑠璃様と何かあってことだろう? 断られたんだろう、違うか?)
感覚的執事は直感を使って、主人の真相にそれなりに近づいていた。
しかし、崇剛と涼介は次元の違う場所を歩いているようだった。軌道の違う彗星のように近づいてはすれ違って遠ざかるみたいなズレ。
ことは重大かもしれません。
ですから、あなたには今までで、一番困っていただきましょうか。
そうですね?
まずは、こうしましょう。
ここまでの思考回路、約一秒――。今までになく、アグレッシブな罠の香りが思いっきりしていたが、それを悟られないように、策略家は標的を部屋へ招き入れる。
「中へ入ってください、話を聞きますから」
「あぁ、わかった」
涼介のアーミーブーツが無防備に主人の部屋に入った。崇剛はドアを閉め、それを背にして優雅に微笑む。
すると、カチャンという、鉄と木がぶつかり合う音がして、前を向いたままの涼介は異変を感じた。
(ん? 何の音だ?)
標的の横をロングブーツの気品ある歩みが通り過ぎ、涼介があとに続く。執事の気配を線の細い背中で感じながら、崇剛は今部屋の中にあるものをもう一度確認するのだった。
紅茶。
新聞紙。
ソファー。
包帯。
髪を束ねているリボン。
窓。
カーテン。
風。
絨毯。
右手の怪我。
涼介の手の中にある紙――
何をどう使えば、どう動くのか。つまりは、執事を懺悔させることができるのか。崇剛の脳裏であっという間に作戦は練られ、ドアからソファーへと歩く間に組み立てられた。
(これらで出来ること……。まずは、そちらの情報からいただきましょうか)
主人の歩みは紅茶を楽しんでいたソファーの手前で止まり、執事に振り返った。
「ソファーの左側へ、座ってください」
(右手を怪我している私が動きやすいように、左側へ座っていただきます)
感覚的な執事は腰掛けながら、手に持っていた紙をテーブルの上へ無造作に置いた。
(そちらに書いてある内容を見せていだたきます)
視力がかなり弱い崇剛からは、ただの白い紙にしか見えなかったが、千里眼を使って、一瞬のうちに冷静な頭脳へデジタル化して記録した。
そちらのお名前は……、
先週の、四月十九日火曜日、九時七分四十五秒に、初めての連絡をされた方です。
同日の十五時半に予約されていました。
しかしながら、約束の時刻になってもいらっしゃらず、連絡もつかない状態でした。
ですが、つくようになったみたいです――
素知らぬ振りで、執事と同じソファーの右側に、策略的な主人は座った。そうして、左側が涼介、右側が崇剛となった。
怪我をしていない左手で紅茶のカップを取り、崇剛は中性的な唇に近づける。
朝食時から五度も同じことを、涼介は私に聞いてきています。
そちらを、今でも聞きたがっているという可能性が78.65%――
こちらの質問をさせましょう。
次の私の言葉は、あちらにします。
こうやって、主人はわざと言葉を言わず、ベルガモットの香りをただただ楽しんだ。
「…………」
話を聞くと言ったのに、そんな気配のない主人。感覚で動いている執事はうっかり罠にはまって、朝から気になって仕方がない質問を、策略家の思惑通りしてしまった。
「その手、本当にどうしたんだ?」
心優しい執事は表情を曇らせた。
(お前が話さないなんて、おかしいだろう。朝から何度も聞いてるのに答えない)
聞いてしまいたかった。そうしたら、崇剛が取り乱すほどの心の傷が少しは癒えるのではないかと、涼介は思った。
(それって、瑠璃様と何かあってことだろう? 断られたんだろう、違うか?)
感覚的執事は直感を使って、主人の真相にそれなりに近づいていた。
しかし、崇剛と涼介は次元の違う場所を歩いているようだった。軌道の違う彗星のように近づいてはすれ違って遠ざかるみたいなズレ。
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
4人の王子に囲まれて
*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。
4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって……
4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー!
鈴木結衣(Yui Suzuki)
高1 156cm 39kg
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。
母の再婚によって4人の義兄ができる。
矢神 琉生(Ryusei yagami)
26歳 178cm
結衣の義兄の長男。
面倒見がよく優しい。
近くのクリニックの先生をしている。
矢神 秀(Shu yagami)
24歳 172cm
結衣の義兄の次男。
優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。
結衣と大雅が通うS高の数学教師。
矢神 瑛斗(Eito yagami)
22歳 177cm
結衣の義兄の三男。
優しいけどちょっぴりSな一面も!?
今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。
矢神 大雅(Taiga yagami)
高3 182cm
結衣の義兄の四男。
学校からも目をつけられているヤンキー。
結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。
*注 医療の知識等はございません。
ご了承くださいませ。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
義母ですが、若返って15歳から人生やり直したらなぜか溺愛されてます
富士とまと
恋愛
25歳で行き遅れとして実家の伯爵家を追い出されるように、父親より3つ年上の辺境伯に後妻として嫁がされました。
5歳の義息子と3歳の義娘の面倒を見て12年が過ぎ、二人の子供も成人して義母としての役割も終わったときに、亡き夫の形見として「若返りの薬」を渡されました。
15歳からの人生やり直し?義娘と同級生として王立学園へ通うことに。
初めての学校、はじめての社交界、はじめての……。
よし、学園で義娘と義息子のよきパートナー探しのお手伝いをしますよ!お義母様に任せてください!
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる