561 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
主人は執事をアグレッシブに叱りたい/2
しおりを挟む
いつでも記憶をスムーズに取り出せるように、崇剛はインデックスをつけようとする。思考しながら利き手を、ズボンのポケットに入れようとしたが、
「っ!」
傷口がぶつかって、うめき声が思わずもれた。神父は自室で静かに懺悔をする。
「冷静な判断を欠き、感情に流された私への、神のお導きなのかもしれませんね」
かなり深い傷で、不自由している千里眼の持ち主は、ポケットから浮かび上がってくる数字の羅列を読み取った。
(91235……九時十二分三十五秒)
その時、頭上を斜め上から、屋敷へ向かってくる小さな光のようなものを見つけた。
「何でしょう? 金色の光……。どちらへ向かっていくのでしょう?」
常人には決して見えるものではなく、千里眼を持っている者か、もしくは特殊な能力を持っていないと見えないものだった。
崇剛は驚くこともなく、その光の動きを心の目で追っていたが、ベルダージュ荘の屋根に吸い込まれるように消えた。
「こちらの屋敷へ入りました。どのような意味があるのでしょう?」
包帯で巻かれた右手をあごに当て、冷静な思考回路をすぐに展開する。膨大な量のデータが頭の中に流れ出し、一致するものをすぐに見つけた。
「私の寝室にある本棚――右側の上から二段目」
隣の部屋に今まさしく立っているように、崇剛は一冊の本を取り出し、ページを頭の中で開こうとする。
「隣国、紅璃庵――。そちらの国の古武術――合気。体の気の流れとテコの原理、そうして、心霊的駆け引きを必要とする護身術」
ページの端に視線を落としたまま、パラパラとめくってゆく。
「そちらの本の、百八十九ページに記載されていた。体の気の流れ――。部位によって、人の気の流れ――色、性質は違う」
医学書のような人体の絵が描かれたページをよく開いて、心の目でしっかりと見つめる。
「金の気の流れ……それは人を惑わすもの。その人のあたり一帯にオーラのようにかかる。もうひとつは直感――天啓」
パタンと本を閉じで、崇剛の冷静な頭脳は隣室の寝室から意識を戻し、結論づけた。
「今のは一直線でした。すなわち、後者であるという可能性が98.97%――」
四月の終わりにしては、暖かすぎる風を感じて、綺麗に晴れ渡った空のさらに遠くを見ようとする。
「直感――天啓を与えられるのは天使、神のみです。受けるのは人。屋敷で直感の働く人間……」
今日も十分な陽を受けられない、あの旧聖堂で悪霊と戦闘して倒れ、気がつくと寝室に横になっている。
何時間も放置されることなく、いつも無事で戻ってきている。こんなことが起きるのは、直感できる人物がいるからだ。
「涼介であるという可能性が一番高く、99.78%――。何かあったのかもしれませんね」
部屋へ振り向くために、茶色のロングブーツが床の上でねじれようとした時、ドアがノックされた。
「はい?」
「崇剛、今ちょっといいか?」
策略的な主人にとって、わかりやす過ぎるくらい、正直で素直な執事の声が廊下からやってきた。
「えぇ、構いませんよ」
崇剛はある程度の予測をつける。
(私に関係することを、直感したみたいです)
その胸の内はそっと隠しておき、細い指がドアノブを回し、手前へ引くと、いつもの元気はなく、気まずそうな顔をした涼介が立っていた。
「お前に……言ってなかったことがあった」
執事はドキマギしていた。
(さっき、伝えたほうがいい気がしたんだ。どうしてだかわからないけど……)
対する主人はどこまでも平常心で、冷静な水色の瞳から入ってきた、執事の全てを一瞬にして記憶した。
右手にメモを持っているみたいです。
従って、あちらのことを私に伝えにきたという可能性が97.67%――
困った人ですね、あなたは――
それはほんの一瞬で、執事に気づかれないように、主人は素知らぬふりで相づちをただ打った。
「そうですか」
背中で揺れる紺の髪で感じる。今も開け放ったままの部屋の窓から見上げた青空を。
天啓を受けている以上、今回の件は重要なことであるという可能性が98.87%――
同時に以下の可能性が出てきます。
誰かが死ぬ、もしくは邪神界へ行ってしまう。
そちらを、涼介は私に伝えなかった……。
冷静な水色の瞳に、悪戯好きな少年と同じ光が密かに宿った。
「っ!」
傷口がぶつかって、うめき声が思わずもれた。神父は自室で静かに懺悔をする。
「冷静な判断を欠き、感情に流された私への、神のお導きなのかもしれませんね」
かなり深い傷で、不自由している千里眼の持ち主は、ポケットから浮かび上がってくる数字の羅列を読み取った。
(91235……九時十二分三十五秒)
その時、頭上を斜め上から、屋敷へ向かってくる小さな光のようなものを見つけた。
「何でしょう? 金色の光……。どちらへ向かっていくのでしょう?」
常人には決して見えるものではなく、千里眼を持っている者か、もしくは特殊な能力を持っていないと見えないものだった。
崇剛は驚くこともなく、その光の動きを心の目で追っていたが、ベルダージュ荘の屋根に吸い込まれるように消えた。
「こちらの屋敷へ入りました。どのような意味があるのでしょう?」
包帯で巻かれた右手をあごに当て、冷静な思考回路をすぐに展開する。膨大な量のデータが頭の中に流れ出し、一致するものをすぐに見つけた。
「私の寝室にある本棚――右側の上から二段目」
隣の部屋に今まさしく立っているように、崇剛は一冊の本を取り出し、ページを頭の中で開こうとする。
「隣国、紅璃庵――。そちらの国の古武術――合気。体の気の流れとテコの原理、そうして、心霊的駆け引きを必要とする護身術」
ページの端に視線を落としたまま、パラパラとめくってゆく。
「そちらの本の、百八十九ページに記載されていた。体の気の流れ――。部位によって、人の気の流れ――色、性質は違う」
医学書のような人体の絵が描かれたページをよく開いて、心の目でしっかりと見つめる。
「金の気の流れ……それは人を惑わすもの。その人のあたり一帯にオーラのようにかかる。もうひとつは直感――天啓」
パタンと本を閉じで、崇剛の冷静な頭脳は隣室の寝室から意識を戻し、結論づけた。
「今のは一直線でした。すなわち、後者であるという可能性が98.97%――」
四月の終わりにしては、暖かすぎる風を感じて、綺麗に晴れ渡った空のさらに遠くを見ようとする。
「直感――天啓を与えられるのは天使、神のみです。受けるのは人。屋敷で直感の働く人間……」
今日も十分な陽を受けられない、あの旧聖堂で悪霊と戦闘して倒れ、気がつくと寝室に横になっている。
何時間も放置されることなく、いつも無事で戻ってきている。こんなことが起きるのは、直感できる人物がいるからだ。
「涼介であるという可能性が一番高く、99.78%――。何かあったのかもしれませんね」
部屋へ振り向くために、茶色のロングブーツが床の上でねじれようとした時、ドアがノックされた。
「はい?」
「崇剛、今ちょっといいか?」
策略的な主人にとって、わかりやす過ぎるくらい、正直で素直な執事の声が廊下からやってきた。
「えぇ、構いませんよ」
崇剛はある程度の予測をつける。
(私に関係することを、直感したみたいです)
その胸の内はそっと隠しておき、細い指がドアノブを回し、手前へ引くと、いつもの元気はなく、気まずそうな顔をした涼介が立っていた。
「お前に……言ってなかったことがあった」
執事はドキマギしていた。
(さっき、伝えたほうがいい気がしたんだ。どうしてだかわからないけど……)
対する主人はどこまでも平常心で、冷静な水色の瞳から入ってきた、執事の全てを一瞬にして記憶した。
右手にメモを持っているみたいです。
従って、あちらのことを私に伝えにきたという可能性が97.67%――
困った人ですね、あなたは――
それはほんの一瞬で、執事に気づかれないように、主人は素知らぬふりで相づちをただ打った。
「そうですか」
背中で揺れる紺の髪で感じる。今も開け放ったままの部屋の窓から見上げた青空を。
天啓を受けている以上、今回の件は重要なことであるという可能性が98.87%――
同時に以下の可能性が出てきます。
誰かが死ぬ、もしくは邪神界へ行ってしまう。
そちらを、涼介は私に伝えなかった……。
冷静な水色の瞳に、悪戯好きな少年と同じ光が密かに宿った。
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
4人の王子に囲まれて
*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。
4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって……
4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー!
鈴木結衣(Yui Suzuki)
高1 156cm 39kg
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。
母の再婚によって4人の義兄ができる。
矢神 琉生(Ryusei yagami)
26歳 178cm
結衣の義兄の長男。
面倒見がよく優しい。
近くのクリニックの先生をしている。
矢神 秀(Shu yagami)
24歳 172cm
結衣の義兄の次男。
優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。
結衣と大雅が通うS高の数学教師。
矢神 瑛斗(Eito yagami)
22歳 177cm
結衣の義兄の三男。
優しいけどちょっぴりSな一面も!?
今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。
矢神 大雅(Taiga yagami)
高3 182cm
結衣の義兄の四男。
学校からも目をつけられているヤンキー。
結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。
*注 医療の知識等はございません。
ご了承くださいませ。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜
月嶋ゆのん
恋愛
志木 茉莉愛(しき まりあ)は図書館で司書として働いている二十七歳。
ある日の帰り道、見慣れない建物を見かけた茉莉愛は導かれるように店内へ。
そこは雑貨屋のようで、様々な雑貨が所狭しと並んでいる中、見つけた小さいオルゴールが気になり、音色を聞こうとゼンマイを回し音を鳴らすと、突然強い揺れが起き、驚いた茉莉愛は手にしていたオルゴールを落としてしまう。
すると、辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った茉莉愛はそのまま意識を失った。
茉莉愛が目覚めると森の中で、酷く困惑する。
そこへ現れたのは三人の青年だった。
行くあてのない茉莉愛は彼らに促されるまま森を抜け彼らの住む屋敷へやって来て詳しい話を聞くと、ここは自分が住んでいた世界とは別世界だという事を知る事になる。
そして、暫く屋敷で世話になる事になった茉莉愛だが、そこでさらなる事実を知る事になる。
――助けてくれた青年たちは皆、人間ではなくヴァンパイアだったのだ。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
義母ですが、若返って15歳から人生やり直したらなぜか溺愛されてます
富士とまと
恋愛
25歳で行き遅れとして実家の伯爵家を追い出されるように、父親より3つ年上の辺境伯に後妻として嫁がされました。
5歳の義息子と3歳の義娘の面倒を見て12年が過ぎ、二人の子供も成人して義母としての役割も終わったときに、亡き夫の形見として「若返りの薬」を渡されました。
15歳からの人生やり直し?義娘と同級生として王立学園へ通うことに。
初めての学校、はじめての社交界、はじめての……。
よし、学園で義娘と義息子のよきパートナー探しのお手伝いをしますよ!お義母様に任せてください!
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる