542 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
血塗られた夜の宴/4
しおりを挟む
順調に会話は進んでいるように思えたが、全てを記憶する策略家には事実に大きなズレが生じていた。
「…………」
聖霊師をひとり置き去りにして、天使と聖女で話は続いてゆく。
「ラジュ、何をじゃ?」
「こちらへ手を伸ばしてほしいと言ったんですが……」
「崇剛、お主、何をしとるのじゃ?」
若草色の瞳は濃い緑色の瞳となっていた。未だ優雅な笑みは崩れないまま、崇剛の遊線が螺旋を描く芯のある声が薄闇に舞う。
「どのような意味ですか? そちらの言葉は」
疑問形に疑問形を投げかけ、相手からの要求を無効化した。そうして、返事を待った。
「…………」
生暖かい風が何度か吹いたが、誰も返してこなかった。崇剛はほんの一、二秒のこの時間に、出来事を一度整理した。
問いかけたのに、誰も何も言ってこない。
おかしい――。
私が問いかけて、ラジュ天使と瑠璃が何も返してこないという可能性は6.43%――
コミニュケーションの取れない方々ではありません。
いつでもどんな時でも、三十二年間ずっと、この三人でやってきたのだ。会話の流れもデジタルに記憶している。
瑠璃がした『お主、何しに参ったのだ?』の質問。
そちらへ対しての返答で、ラジュ天使が口にする可能性が一番高い言葉は――
『今日は、〇〇で、瑠璃さんを手中に収めようかと思いましてね?』です。
聖女は天使に百年間ずっと口説かれっぱなしで、崇剛が罠を仕掛けて聞き出そうとするたび、少女は憤慨して地団駄を踏むのだ。それを見るのが、崇剛の趣味のひとつなのである。
従って、今目の間にいる瑠璃も偽物であるという可能性が87.98%――
目の前にいる、ラジュ天使が偽物であるという可能性は上がり、85.43%――
これらから判断して、以下の可能性が、92.34%出てきます。
彼らは、邪神界の者である――
急いでいるのに、会話が途切れてしまったことにイラついて、瑠璃が空中で地団駄を踏んで憤慨した。
「遊んでいる場合ではなかろう!」
幼い少女の声が、死を意味する霊界に鋭く響き渡った。激情という名の獣が暴れ出しそうになったが、冷静な頭脳が氷の刃で見事に押さえ込む。
涼介が私の気持ちを知ってしまったことで、邪神界の者が作戦の中に、瑠璃を使うという可能性が98.98%――
さっそく使ってきたみたいです。
冷酷なほどどこまでもデジタルだったが、自身の守護霊に特別な感情を抱いてしまった、策士の思考回路が少しだけ乱れた。いや、まるで誰かに操られているように0.01の狂いが生じた。
屋根の上――外に立つ全身白の服を着た男。大きな三日月型の刃物――大鎌が鋭い光を背中で放つ。
何か重要なことを、必要なデータとして拾い上げないまま、崇剛は敵へと向かってゆく。
私は彼女を守りたい。
彼女を……邪神界が狙ってくるという可能性は87.56%――
そちらの可能性を低くするためには……。
私ひとりで乗り切れる方法を探し出せばいい。
ここまでの思考時間、約一秒。偽物の瑠璃が遊んでいないで、ラジュの言うことを聞けと言う言葉に、崇剛はこう返す。
「なぜ、そのように思われるのですか?」
戦うことを決めた聖霊師は、素早く作戦を立ててゆく。
勝つために必要なもの。
肉体を持ったままでは、敵に勝てるという可能性は38.76%――
非常に低い……。
ですから、先ほどの幽体離脱を使います。
しかしながら、私だけでは発生させられません。
ですから、そちらを発生させる方法を考えなくてはいけません。
三日と十一時間十九分三十二秒前。
すなわち、四月十八日、月曜日、十三時四十三分二十六秒過ぎ。
旧聖堂の時と同じ方法を使います――
その時だった、ラジュと瑠璃の間――少し離れた背後に、白い着物を着た女が現れたのは。
死装束の女――。
「…………」
聖霊師をひとり置き去りにして、天使と聖女で話は続いてゆく。
「ラジュ、何をじゃ?」
「こちらへ手を伸ばしてほしいと言ったんですが……」
「崇剛、お主、何をしとるのじゃ?」
若草色の瞳は濃い緑色の瞳となっていた。未だ優雅な笑みは崩れないまま、崇剛の遊線が螺旋を描く芯のある声が薄闇に舞う。
「どのような意味ですか? そちらの言葉は」
疑問形に疑問形を投げかけ、相手からの要求を無効化した。そうして、返事を待った。
「…………」
生暖かい風が何度か吹いたが、誰も返してこなかった。崇剛はほんの一、二秒のこの時間に、出来事を一度整理した。
問いかけたのに、誰も何も言ってこない。
おかしい――。
私が問いかけて、ラジュ天使と瑠璃が何も返してこないという可能性は6.43%――
コミニュケーションの取れない方々ではありません。
いつでもどんな時でも、三十二年間ずっと、この三人でやってきたのだ。会話の流れもデジタルに記憶している。
瑠璃がした『お主、何しに参ったのだ?』の質問。
そちらへ対しての返答で、ラジュ天使が口にする可能性が一番高い言葉は――
『今日は、〇〇で、瑠璃さんを手中に収めようかと思いましてね?』です。
聖女は天使に百年間ずっと口説かれっぱなしで、崇剛が罠を仕掛けて聞き出そうとするたび、少女は憤慨して地団駄を踏むのだ。それを見るのが、崇剛の趣味のひとつなのである。
従って、今目の間にいる瑠璃も偽物であるという可能性が87.98%――
目の前にいる、ラジュ天使が偽物であるという可能性は上がり、85.43%――
これらから判断して、以下の可能性が、92.34%出てきます。
彼らは、邪神界の者である――
急いでいるのに、会話が途切れてしまったことにイラついて、瑠璃が空中で地団駄を踏んで憤慨した。
「遊んでいる場合ではなかろう!」
幼い少女の声が、死を意味する霊界に鋭く響き渡った。激情という名の獣が暴れ出しそうになったが、冷静な頭脳が氷の刃で見事に押さえ込む。
涼介が私の気持ちを知ってしまったことで、邪神界の者が作戦の中に、瑠璃を使うという可能性が98.98%――
さっそく使ってきたみたいです。
冷酷なほどどこまでもデジタルだったが、自身の守護霊に特別な感情を抱いてしまった、策士の思考回路が少しだけ乱れた。いや、まるで誰かに操られているように0.01の狂いが生じた。
屋根の上――外に立つ全身白の服を着た男。大きな三日月型の刃物――大鎌が鋭い光を背中で放つ。
何か重要なことを、必要なデータとして拾い上げないまま、崇剛は敵へと向かってゆく。
私は彼女を守りたい。
彼女を……邪神界が狙ってくるという可能性は87.56%――
そちらの可能性を低くするためには……。
私ひとりで乗り切れる方法を探し出せばいい。
ここまでの思考時間、約一秒。偽物の瑠璃が遊んでいないで、ラジュの言うことを聞けと言う言葉に、崇剛はこう返す。
「なぜ、そのように思われるのですか?」
戦うことを決めた聖霊師は、素早く作戦を立ててゆく。
勝つために必要なもの。
肉体を持ったままでは、敵に勝てるという可能性は38.76%――
非常に低い……。
ですから、先ほどの幽体離脱を使います。
しかしながら、私だけでは発生させられません。
ですから、そちらを発生させる方法を考えなくてはいけません。
三日と十一時間十九分三十二秒前。
すなわち、四月十八日、月曜日、十三時四十三分二十六秒過ぎ。
旧聖堂の時と同じ方法を使います――
その時だった、ラジュと瑠璃の間――少し離れた背後に、白い着物を着た女が現れたのは。
死装束の女――。
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
4人の王子に囲まれて
*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。
4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって……
4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー!
鈴木結衣(Yui Suzuki)
高1 156cm 39kg
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。
母の再婚によって4人の義兄ができる。
矢神 琉生(Ryusei yagami)
26歳 178cm
結衣の義兄の長男。
面倒見がよく優しい。
近くのクリニックの先生をしている。
矢神 秀(Shu yagami)
24歳 172cm
結衣の義兄の次男。
優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。
結衣と大雅が通うS高の数学教師。
矢神 瑛斗(Eito yagami)
22歳 177cm
結衣の義兄の三男。
優しいけどちょっぴりSな一面も!?
今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。
矢神 大雅(Taiga yagami)
高3 182cm
結衣の義兄の四男。
学校からも目をつけられているヤンキー。
結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。
*注 医療の知識等はございません。
ご了承くださいませ。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
義母ですが、若返って15歳から人生やり直したらなぜか溺愛されてます
富士とまと
恋愛
25歳で行き遅れとして実家の伯爵家を追い出されるように、父親より3つ年上の辺境伯に後妻として嫁がされました。
5歳の義息子と3歳の義娘の面倒を見て12年が過ぎ、二人の子供も成人して義母としての役割も終わったときに、亡き夫の形見として「若返りの薬」を渡されました。
15歳からの人生やり直し?義娘と同級生として王立学園へ通うことに。
初めての学校、はじめての社交界、はじめての……。
よし、学園で義娘と義息子のよきパートナー探しのお手伝いをしますよ!お義母様に任せてください!
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる