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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Disturbed information/12
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墓地のような薄気味悪い空間――聖霊寮。今日は風もなく、いつもよりよどんだ空気が重くのしかかる。相変わらず全体的にやる気がなく黄ばんだ部屋だった。
あれから何日かかけて、数少ない聖霊師に何度も次々と事情聴取させたが、ほとんど証拠が出てこなかった。
国立の口元からは、ミニシガリロの青白い煙が上がっていて、調書をトランプを持つみたいに何枚も同時に見比べている。
「れって、どうなってやがる? ハーフかよ!」
捜査は行き詰まり。国立はイラッとして、スチールデスクを足でドカンと横蹴りした。
死んだような目をした同僚たちが一斉に顔を上げたが、そんなことには構わず、国立は調書十枚を右手から左へ抜き取っては、同じ欄を鋭いブルーグレーの瞳に順に映していった。
「聖霊師十人中、五人が邪さん、五人が正さんって言ってやがる……」
持っていた資料を頭上へ、やっていられるかと言うように放り投げた。吸い終えた葉巻を灰皿に投げ置く。
黄ばんだ天井からハラハラと舞い落ちる紙の雪を、体中で受け止めながらシガーケースを取り出し、流れるような仕草でミニシガリロを抜き取り、ケースの中身はカラになった。
火をつけ、散らばった資料を一枚、ぐしゃぐしゃに引き裂きそうな勢いでつかみ取る。
「他に手がかりなし……ってか。空欄だらけだろ、この調書」
国立のまわりの床には、白紙に近い状態の調書が何枚も降り積もっていた。くわえ葉巻をして、帽子のツバをぐっと下げた。
他の聖霊師が誰も見ることのできなかった、元の夢の内容を思い出すために、目をそっと閉じる。
「てめえ自身が斬られた。悲鳴、断末魔……。『返して……』、血の匂い」
回転椅子に浅く腰掛け、後ろへ勢いよく引く。両足を机の上にどかっと乱暴に置いて、さらに考えをめぐらす。
「過去世の記憶ってか? たらよ、聖霊師のひとりやふたりぐらい、見抜いてもおかしくねえだろ」
こんな事件は初めてだった。メシアを持っていなくとも、情報を見逃すような聖霊師は聖霊寮では取引していない。
「過去に何がありやがった?」
国立はいつの間にか、乾いた砂漠に立っていた――。じりじりと焼き尽くすような太陽を浴びながら、砂に足を取られがちに進もうとする。
遠くの蜃気楼かと思えば、それは髑髏が空中を横滑りして自分へ群れをなして向かってくる。
両腕で顔を覆ったが衝撃はなく、ケタケタと嘲笑う声が耳のすぐそばを通り抜けてゆく。
結界の張っていないこの部屋で、精神は誰かに地獄へと持っていかれるようだったが、足を乱暴に組み直して現実へと戻ってきた。
「れによ、おかしくねえか? てめえが斬られてんだろ。のに、他のやつの悲鳴が聞こえてくるって……。どんな死に方しやがったんだ? 恩田の野郎」
情報は少なく、矛盾している出来事。
「死んだやつも含めで、どいつが邪さんで正さんなんだ? お化けさんの事件は死んだら罪に問われねえんじゃねえんだよ。何がどうなってやがる?」
捜査は暗礁に乗りかけていて、国立は珍しくため息混じりにうなった。
「わかりやがらねぇ。Disturbed information/撹乱された情報ってか……」
今回の事件は頼らないと決めていたが、頭の中であの男がうろつく。貴族的な物腰で優雅な笑みと冷静な水色の瞳を持つ、中性的な男が。
「やっこさんなら、わかんだろうな。がよ……」
国立の男らしい手はジーパンのポケットへと伸びていき、急に声に出さなくなった。
(会う時は気をつけねえとな。オレの心が――)
何かを取り出そうとすると、真っ暗な視界に聞き慣れた若い男の声が突き刺さった。
「――兄貴!」
ブルーグレーの鋭い眼光はさっと開かれた。
「あぁ? 何か動きがあったのか?」
あれから何日かかけて、数少ない聖霊師に何度も次々と事情聴取させたが、ほとんど証拠が出てこなかった。
国立の口元からは、ミニシガリロの青白い煙が上がっていて、調書をトランプを持つみたいに何枚も同時に見比べている。
「れって、どうなってやがる? ハーフかよ!」
捜査は行き詰まり。国立はイラッとして、スチールデスクを足でドカンと横蹴りした。
死んだような目をした同僚たちが一斉に顔を上げたが、そんなことには構わず、国立は調書十枚を右手から左へ抜き取っては、同じ欄を鋭いブルーグレーの瞳に順に映していった。
「聖霊師十人中、五人が邪さん、五人が正さんって言ってやがる……」
持っていた資料を頭上へ、やっていられるかと言うように放り投げた。吸い終えた葉巻を灰皿に投げ置く。
黄ばんだ天井からハラハラと舞い落ちる紙の雪を、体中で受け止めながらシガーケースを取り出し、流れるような仕草でミニシガリロを抜き取り、ケースの中身はカラになった。
火をつけ、散らばった資料を一枚、ぐしゃぐしゃに引き裂きそうな勢いでつかみ取る。
「他に手がかりなし……ってか。空欄だらけだろ、この調書」
国立のまわりの床には、白紙に近い状態の調書が何枚も降り積もっていた。くわえ葉巻をして、帽子のツバをぐっと下げた。
他の聖霊師が誰も見ることのできなかった、元の夢の内容を思い出すために、目をそっと閉じる。
「てめえ自身が斬られた。悲鳴、断末魔……。『返して……』、血の匂い」
回転椅子に浅く腰掛け、後ろへ勢いよく引く。両足を机の上にどかっと乱暴に置いて、さらに考えをめぐらす。
「過去世の記憶ってか? たらよ、聖霊師のひとりやふたりぐらい、見抜いてもおかしくねえだろ」
こんな事件は初めてだった。メシアを持っていなくとも、情報を見逃すような聖霊師は聖霊寮では取引していない。
「過去に何がありやがった?」
国立はいつの間にか、乾いた砂漠に立っていた――。じりじりと焼き尽くすような太陽を浴びながら、砂に足を取られがちに進もうとする。
遠くの蜃気楼かと思えば、それは髑髏が空中を横滑りして自分へ群れをなして向かってくる。
両腕で顔を覆ったが衝撃はなく、ケタケタと嘲笑う声が耳のすぐそばを通り抜けてゆく。
結界の張っていないこの部屋で、精神は誰かに地獄へと持っていかれるようだったが、足を乱暴に組み直して現実へと戻ってきた。
「れによ、おかしくねえか? てめえが斬られてんだろ。のに、他のやつの悲鳴が聞こえてくるって……。どんな死に方しやがったんだ? 恩田の野郎」
情報は少なく、矛盾している出来事。
「死んだやつも含めで、どいつが邪さんで正さんなんだ? お化けさんの事件は死んだら罪に問われねえんじゃねえんだよ。何がどうなってやがる?」
捜査は暗礁に乗りかけていて、国立は珍しくため息混じりにうなった。
「わかりやがらねぇ。Disturbed information/撹乱された情報ってか……」
今回の事件は頼らないと決めていたが、頭の中であの男がうろつく。貴族的な物腰で優雅な笑みと冷静な水色の瞳を持つ、中性的な男が。
「やっこさんなら、わかんだろうな。がよ……」
国立の男らしい手はジーパンのポケットへと伸びていき、急に声に出さなくなった。
(会う時は気をつけねえとな。オレの心が――)
何かを取り出そうとすると、真っ暗な視界に聞き慣れた若い男の声が突き刺さった。
「――兄貴!」
ブルーグレーの鋭い眼光はさっと開かれた。
「あぁ? 何か動きがあったのか?」
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