531 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Disturbed information/7
しおりを挟む
スパーのかちゃかちゃという音と、カツンカツンと尖ったそれが交代と言うようにすれ違うと、国立と入れ替わりに、女らしい体の曲線美が思いっきり出た、マーメイドラインの黒いドレスが、元の前に輪郭をすうっと現した。
頭までかけられた涅色のレースは背中を覆い、足元まであった。それを引きずる形で、ヒールを鳴らしながら、元が拘束されている牢屋の鉄格子の近くまで歩み出た。
元が顔を上げたそこにいたのは、天使でもシスターでもなく、魔術師のような怪しい女だった。
頭に金のチェーンが円を描き、ひたいの真正面に十字架のヘッドが下がっていた。口元は黒い布で隠され、元から見えるのは目元だけ。いかにも占い師みたいな女は、まるで別世界を見るような焦点の合わない瞳をした。
「それでは見ます」
元は鉄格子から離れた場所で、視線を落ち着くなく彷徨わせる。
「え、えぇっ!? な、何をですか?」
国立と話している時よりも、ディープにスピリチュアルな世界へと入ってしまって、容疑者の意見はスルーしたままことは進んでゆく。
「過去世と魂です」
「はい……?」
元は顔を不思議そうに突き出した。
「こちらへきてください」
女性的なラインの見える黒い服を着ている女に手招きされて、元は警戒心を弱めた。
(女なら大丈夫か)
国立と違って、物を蹴ったり投げつけたりもせず、元は見た目で人を判断して、にっこり微笑んで軽くうなずいた。
「わかりました」
鉄格子へ足取り軽やかに近づていった。目元しか見えない女はくぐもった声で断りを入れる。
「肩に触れます」
「はい……」
女は片手で元の肩に触れると、目をすうっと閉じ、聖霊師として霊視を始めた。静かで重い時間が、気が遠くなるほどの長さで過ぎていった。
*
聖霊師の事情徴収が終わると、調査資料に記入する。そうして、次の聖霊師を元のところへ連れていき、国立は席をはずすを何度も繰り返し、逮捕から二日目の夕方を迎えていた。
待ち時間――。不浄な聖霊寮の回転椅子に浅く座り、心霊刑事は組んだ両足を机の上にどさっと乱暴に乗せた。カウボーイハットを頭にかぶせ、昼寝をするように目を閉じ、真っ暗な視界で思い返す。
(恩田に会って、フィーリングしたんだけどよ。今回の件は今までのヤマん中でワーストだ。がよ、それが何なのか――)
関係ないはずの寮の空気までが、深い谷底へ落とすようにまとわりついてくるようだった。あえていうなら、人の憎悪が渦巻く地獄への底という名が相応しかった。
国立は浅い妄想へ落とされた――。真っ赤な血の池に真っ逆さまに沈んでゆく。はい上がろうともがいでも、足を下から引っ張られ、それを振り切っても上から押さえつけられる。逃げ場のない血生臭い――
そこで、バタバタと近づいてくる足音とともに、若い男の声が割って入ってきた。
「――兄貴、大変っす!」
「あぁ?」
帽子を手でつかみ取り、血の池から正常な日常へ戻った。ブルーグレーの鋭い眼光の先には、いつも自分を慕ってくれる二十代前半の男が立っていた。
「恩田 元の……」
そこまで言って、若い男は国立の耳元でそっと告げた。内容は短かったが、心霊刑事は暮れゆく、窓からのオレンジ色の空を見上げて、珍しく盛大にため息をついた。
「……遅かったのか?」
国立は気づくと、水辺に座っていた――。見渡す限り真っ赤な彼岸花が血のように咲き乱れている。
奥にある平屋の縁側で、破れた障子戸に力なくもたれかかり、口から血を大量に流し倒れている女が傀儡のように座っていた。
節々のはっきりした手で、藤色の短髪をガシガシをかき上げる。どうもさっきからあの世に引き込まれ気味の精神を呼び戻すように。
「あの女、常世に向かって、カウントダウンに入ってやがる……」
頭までかけられた涅色のレースは背中を覆い、足元まであった。それを引きずる形で、ヒールを鳴らしながら、元が拘束されている牢屋の鉄格子の近くまで歩み出た。
元が顔を上げたそこにいたのは、天使でもシスターでもなく、魔術師のような怪しい女だった。
頭に金のチェーンが円を描き、ひたいの真正面に十字架のヘッドが下がっていた。口元は黒い布で隠され、元から見えるのは目元だけ。いかにも占い師みたいな女は、まるで別世界を見るような焦点の合わない瞳をした。
「それでは見ます」
元は鉄格子から離れた場所で、視線を落ち着くなく彷徨わせる。
「え、えぇっ!? な、何をですか?」
国立と話している時よりも、ディープにスピリチュアルな世界へと入ってしまって、容疑者の意見はスルーしたままことは進んでゆく。
「過去世と魂です」
「はい……?」
元は顔を不思議そうに突き出した。
「こちらへきてください」
女性的なラインの見える黒い服を着ている女に手招きされて、元は警戒心を弱めた。
(女なら大丈夫か)
国立と違って、物を蹴ったり投げつけたりもせず、元は見た目で人を判断して、にっこり微笑んで軽くうなずいた。
「わかりました」
鉄格子へ足取り軽やかに近づていった。目元しか見えない女はくぐもった声で断りを入れる。
「肩に触れます」
「はい……」
女は片手で元の肩に触れると、目をすうっと閉じ、聖霊師として霊視を始めた。静かで重い時間が、気が遠くなるほどの長さで過ぎていった。
*
聖霊師の事情徴収が終わると、調査資料に記入する。そうして、次の聖霊師を元のところへ連れていき、国立は席をはずすを何度も繰り返し、逮捕から二日目の夕方を迎えていた。
待ち時間――。不浄な聖霊寮の回転椅子に浅く座り、心霊刑事は組んだ両足を机の上にどさっと乱暴に乗せた。カウボーイハットを頭にかぶせ、昼寝をするように目を閉じ、真っ暗な視界で思い返す。
(恩田に会って、フィーリングしたんだけどよ。今回の件は今までのヤマん中でワーストだ。がよ、それが何なのか――)
関係ないはずの寮の空気までが、深い谷底へ落とすようにまとわりついてくるようだった。あえていうなら、人の憎悪が渦巻く地獄への底という名が相応しかった。
国立は浅い妄想へ落とされた――。真っ赤な血の池に真っ逆さまに沈んでゆく。はい上がろうともがいでも、足を下から引っ張られ、それを振り切っても上から押さえつけられる。逃げ場のない血生臭い――
そこで、バタバタと近づいてくる足音とともに、若い男の声が割って入ってきた。
「――兄貴、大変っす!」
「あぁ?」
帽子を手でつかみ取り、血の池から正常な日常へ戻った。ブルーグレーの鋭い眼光の先には、いつも自分を慕ってくれる二十代前半の男が立っていた。
「恩田 元の……」
そこまで言って、若い男は国立の耳元でそっと告げた。内容は短かったが、心霊刑事は暮れゆく、窓からのオレンジ色の空を見上げて、珍しく盛大にため息をついた。
「……遅かったのか?」
国立は気づくと、水辺に座っていた――。見渡す限り真っ赤な彼岸花が血のように咲き乱れている。
奥にある平屋の縁側で、破れた障子戸に力なくもたれかかり、口から血を大量に流し倒れている女が傀儡のように座っていた。
節々のはっきりした手で、藤色の短髪をガシガシをかき上げる。どうもさっきからあの世に引き込まれ気味の精神を呼び戻すように。
「あの女、常世に向かって、カウントダウンに入ってやがる……」
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
4人の王子に囲まれて
*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。
4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって……
4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー!
鈴木結衣(Yui Suzuki)
高1 156cm 39kg
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。
母の再婚によって4人の義兄ができる。
矢神 琉生(Ryusei yagami)
26歳 178cm
結衣の義兄の長男。
面倒見がよく優しい。
近くのクリニックの先生をしている。
矢神 秀(Shu yagami)
24歳 172cm
結衣の義兄の次男。
優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。
結衣と大雅が通うS高の数学教師。
矢神 瑛斗(Eito yagami)
22歳 177cm
結衣の義兄の三男。
優しいけどちょっぴりSな一面も!?
今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。
矢神 大雅(Taiga yagami)
高3 182cm
結衣の義兄の四男。
学校からも目をつけられているヤンキー。
結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。
*注 医療の知識等はございません。
ご了承くださいませ。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜
月嶋ゆのん
恋愛
志木 茉莉愛(しき まりあ)は図書館で司書として働いている二十七歳。
ある日の帰り道、見慣れない建物を見かけた茉莉愛は導かれるように店内へ。
そこは雑貨屋のようで、様々な雑貨が所狭しと並んでいる中、見つけた小さいオルゴールが気になり、音色を聞こうとゼンマイを回し音を鳴らすと、突然強い揺れが起き、驚いた茉莉愛は手にしていたオルゴールを落としてしまう。
すると、辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った茉莉愛はそのまま意識を失った。
茉莉愛が目覚めると森の中で、酷く困惑する。
そこへ現れたのは三人の青年だった。
行くあてのない茉莉愛は彼らに促されるまま森を抜け彼らの住む屋敷へやって来て詳しい話を聞くと、ここは自分が住んでいた世界とは別世界だという事を知る事になる。
そして、暫く屋敷で世話になる事になった茉莉愛だが、そこでさらなる事実を知る事になる。
――助けてくれた青年たちは皆、人間ではなくヴァンパイアだったのだ。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
義母ですが、若返って15歳から人生やり直したらなぜか溺愛されてます
富士とまと
恋愛
25歳で行き遅れとして実家の伯爵家を追い出されるように、父親より3つ年上の辺境伯に後妻として嫁がされました。
5歳の義息子と3歳の義娘の面倒を見て12年が過ぎ、二人の子供も成人して義母としての役割も終わったときに、亡き夫の形見として「若返りの薬」を渡されました。
15歳からの人生やり直し?義娘と同級生として王立学園へ通うことに。
初めての学校、はじめての社交界、はじめての……。
よし、学園で義娘と義息子のよきパートナー探しのお手伝いをしますよ!お義母様に任せてください!
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる