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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Disturbed information/4

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 国立は思い浮かべる。聖霊寮の応接セットにやってきては、高貴な花を咲かせてゆく、あの中性的な男の性格が几帳面であり、重箱の隅をつつくように、事細かに追求してくることを。

最悪バッドな時にゃ、崇剛に情報渡さなきゃならねぇからよ。やっこさん、日付から秒数まで要求してくるからよ)

 あの男ときたら、ルールはルールだと言って引かないのだ。ミニシガリロの青白い煙を大きく吐き出して、

「それ、いつからだ?」

 女は少しだけ考えた。今は四月の半ばに差し掛かろうとしている。記憶はずいぶん曖昧になっていたが、それでも何とか思い出して、正直に告げた。

「三月の下旬……だったと思います」
「そうか……?」

 国立はうなずいたものの、引っ掛かりを覚えた。心霊刑事はしばらく考えていたが、策略家とは違って全てを記憶しているわけではない。結局答えにたどり着けなかった。

 最後だと言うように、国立は別れの言葉を捨て置く。

「じゃあ、連れてくぜ」

 刑事たちが動こうとすると、女の凛とした声が店に響き渡った。

「待ってください」
「あぁ?」

 心霊刑事が視線を上げると、揺るぎのない焦げ茶色の女の瞳と、国立の鋭い眼光が絡み合ったまま、がっちりと動かなくなった。

「引く気はないのですね?」

 見た目ではわからない魂の事件。この女は邪神界なのか、それとも正神界なのか。

「てめえはどっちだ? 場合によっちゃ、てめえもしょっぴくぜ」

 目の前で繰り広げられている修羅場の、間に立つ位置で見ていた、元は恐怖で唇を震わせていた。やがて、女が静かに口を開いた。

「どうしても、連れてゆくおつもりですか?」
「白なら、すぐ返すぜ」

 正神界なら釈放。それが聖霊寮のルールだ。

「わかりました」

 元の妻は足掻くことをやめて、さっきからずっと自分の足にしがみついている夫のそばでかがみ込み、怯え切っている彼の横顔に、真剣な眼差しをやった。

「――あなたを信じています、どのような状況になろうとも……」

 国立は親指だけをジーパンの両ポケットに突っ込み、両肘をひし形に曲げて、首だけで後ろへ振り返る。

「連れてけ」

 セピア色のアンティークな背景に、男らしく仁王立ちし、日に焼けた横顔。カウボーイハットからはみ出した、藤色の長い横髪から切り込むような、意志の強いブルーグレーの瞳。

 ガッチリとした背の高い、ウェスタンスタイルの男は、まるで映画のポスターのようにポーズを決めているようだった。部下が男のロマンみたいな風景に目を輝かせる。

「兄貴、格好いいっす!」

 場違いな感動をして、確保を逃しそうな若い男に、国立は雑な声を上げた。

「何やってんだ? パクリ損ねんだろ!」

 口の端でニヤリとし、思わず口癖が出る。

「てめえ、ジャーマン スープレックスだ!」
「おっす!」

 兄貴の背中を拝みながら、若い男は技を受ける構えを取り、気合を入れた。心霊刑事のウェスタンブーツは、あきれたようにかちゃかちゃと鳴り、店の入り口へ振り返った。

「ジョークだ。背中向けてるてめえにできるか! アホ」

 帽子のツバを人差し指で上げて、思いっきり滑った前振りを、兄貴自らしっかりと拾う。

「てめえのバックをオレが取って、背中でブリッジするようにリングに沈めんだろ! 立ち位置逆だろ!」

 兄貴の背後にある、出入り口近くに若いのが真正面を向けて立っていた。再現不可能な技で、兄貴の笑いだったのにスルーしてしまった若いのは、申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。

「すまないっす……」

 部下は気を取り直して片腕を大きく上げると、国立がさっき外に待機させていた男たちが、店の中へズカズカと入ってきて、怯え切っている元の両脇をつかみ上げた。

「うわっ!」

 もがき続け抵抗していたが、そのまま古びた床の上を引きずられ始めた。心霊刑事とすれ違いざまに一旦止まった。

 無実を訴えかけるように拘束された犯人が、必死の形相で懇願する。

「わ、私は何もしてません!」

 骨董屋の狭い空間に、悲鳴にも似た声が響き渡った。商売が繁盛しているわけではないが、平和な日常に突如割って入った逮捕劇。

 心霊関係の事件の真相に数々と出会ってきた国立は、元のシャツの襟元をつかんで、自分へと力強く引っ張りよせる。

「ぐ、ぐふっ! く~っ!」

 首に食い込みそうな服を、指先で必死に引きはがそうとする元。お互いの息がかかるほど、国立は顔を近づけて、ドスの効いた声で吐き捨てるように言った。

虚言そらごとはいくらでもつけんぜ」
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