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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Disturbed information/3

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「逮捕状はあるんですか?」

 スパーをかちゃかちゃと鳴らしながら、国立はカウンターへ正面を再び向け、斜め前に倒れるような格好で両肘でもたれかかり、吐き捨てるように笑った。

「少し遅延レイトしててな」

 墓場は何もかもが死んでいて、花形の罪科寮とは違って、自身の損得優先のお偉方はなかなか動かないのだ。

 もう少し待つようなら、出直すしかないところだったが、開けっ放しにしていた店の入り口から、国立を慕ってやまない二十代の若い男が一枚の紙を持って、勢いよく滑るように入ってきた。

「兄貴、遅れったす!」

 国立は女と対峙しながら、手を頭の脇へ持っていき、崇剛がダガーを持つように人差し指と中指を広げた。

「よこせ」

 くわえたままのミニシガリロの脇から、ボソボソと言葉がもれ出る。

「先に動いてりゃ、しょっぴくの少しでも早くなんだろ。少しでもレイトすりゃ、邪さんにソウル持ってかれちまうからよ」

 絶妙のタイミングで、一枚の紙が細い線を引っかくように、指と指の間に置かれた。

「ジャスト!」

 しゃがれた声が響き、指で紙を挟み、パラパラと宙で見せつけるように舞わせながら、逮捕状の文面を女の正面へ持っていった。

「見ろよ」

 文章を読み始めた女は、どんどん信じられない顔になってゆく。

「…………」

 吐き捨てるように鼻で笑い、国立は女をにらんだまま、ガサツな声で一言忠告してやった。

「お前さん、この男に殺されるぜ」

 人は偶然だというが、邪神界の人間が身内を殺すなどよくある話だった。心霊刑事として駆け抜けてきた一年で、事故や病気に見せかけて殺したなど、世の中にはゴロゴロと転がっていた。

 元の妻は紙面から顔をさっと上げて、心霊刑事の鋭い眼光をもろともせず、こっちもこっちできっとにらみ返してやった。

「この人がそんなことをするはずがありません!」

 カウンターに深く頬杖をつくと、国立の羽根型のペンダントヘッドが木に当たって、ゴトンと鈍い音と立てた。

「旦那から聞いてねぇのか? 過去に三人死んでんぜ?」

 今もガクガクブルブル震えている気の弱そうな男の過去には、闇が隠されていたのだった。女はそれでも怯むことなく、言い返そうとしたが、

「あちらは、全て事故――」

 その言葉をさえぎって、国立はカウボーイハットのツバをわざと下ろし、ギリギリのラインを狙って、鋭い眼光をさらに強調させるような位置でにらんだ。

「殺人未遂が一件。れって、お前さんも落ちたってことだろ? 同じ場所からよ」
「調べたんですか?」

 女が聞き返すと、認めたと一緒になった。

「そりゃそうだろ? 三人も死んでんだからよ」

 あの膨大な資料の山から抜き出した、この事件は今もまだこうやって続いている。犯人が地獄へといかない限り、また誰かが犠牲になるのだ。

 女は自分にしがみつくようにしている夫の頭を優しくなでる。

「主人は私のことを気遣ってくれました。落ちやすい場所だからと、それに……」

 妻が夫を愛する気持ちは本物だと、国立は思いながら先を促した。

「れに?」
「主人と私は距離をきちんと開けて歩いてました。たとえ突き落とすにしても、手は届きません」

 先に死んでいる三人とも同じだった。元の手の届く位置にはいなかった。足を滑らせて落ちたのだろうと、判断するしかなかった。しかしそれが、四人も手にかける事件へと発展してしまった落ち度だった。

 今こうして話している間も、どこに仲間が潜んでいるかわからない。単独犯とも限らない。国立は神経を研ぎ澄ましながら、見えているものだけを見て話している女に問いかける。

「届かせる方法があったら?」
「物理的に無理です」
「可能にできる方法があったら?」
「そんな方法があるんですか?」
「れを、調べんだろ?」

 真相にたどり着かなければ、次もまた人が死ぬかもしれないのだ。女は反論する言葉をなくし、自分の足元でうずくまっている夫を心配そうに見つめた。

「…………」

 細い首元に異変を見つけて、数々の事件を解決してきた心霊刑事は、嫌な予感を覚えた。

「そのアザも落ちた時についたのか? 首にずいぶんついてんな。お化けさんに、首でも締められたみてえだ」

 転落してできたアザかと思ったが、女は隠すように手をそこへ当てた。

「……こちらは違います」 
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