518 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
ダーツの軌跡/12
しおりを挟む
大人の隠語に勘違いさせられた涼介の表情は驚愕に染まった。
「おっ! お前自身って……それって!!」
無防備に壁を背にして座っている執事。主人は標的を追い詰めるように素早くかがみ寄り、壁を右腕で、
ドン!
と強く叩いた。そのままそこに居残り、崇剛が肌身離さず持っているロザリオが胸の上で飛び跳ね、魔除けのローズマリーの香りがほとばしった。
ラジュ天使からの情報――壁ドンです。
いつもの言葉遣いでは、効果が出ないという可能性が98.78%――
ですから、こうしましょう。
お互いの髪が交わるほど顔を近づけた。冷静という名のにらみを効かせ、氷の刃で水色の瞳で標的である、ベビーブルーの瞳をのぞき込んだ。
今まで見せたこともない真顔で、崇剛は同性の涼介に向かって、優雅だが今にも押しつぶしてしまうような非常に威圧感のある声で、こんな言葉を浴びせた。
「お前、瞬に毒の話しただろう?」
今目の前にいる男の子供が、聖霊寮に情報を流した本人なのだ。崇剛の中で推理が精巧な頭脳に浮かんでいた。
涼介が聖霊寮に直接話すのはおかしいです。
評判が落ちることにつながるのは、少し考えればわかります。
涼介はどなたにも毒は使っていない。
こちらの時点で、屋敷関係者以外の人間はまず消えます。
涼介は執事です。
部下である他の使用人や召使に毒の話をするのは不自然です。
そうなると、残りふたり。
瑠璃は霊感がなければ、見ることも話すこともできません。
従って、瞬しか残らないのです――
だが、崇剛の胸の内ではかなりの違和感が生じていた。
(しかしながら、言い慣れませんね、こちらの言葉遣いは)
紺の後れ毛が崇剛の神経質な頬に、壁ドンの衝撃で艶やかにまとわりついていた。急接近してきた主人のギャップにびっくりして、涼介は言いよどみ、視線を彷徨わせる。
「ど、どうして……?」
執事は色々言いたいことが他にもあったが、パニック寸前で言葉にならなかった。
(俺が男のお前に、壁ドンされてるんだ! しかも、お前、言葉遣いまでおかしくなってる。今まで、そんな言葉使ったことなかっただろう!)
主人は左腕も壁について、執事が逃げられないように、ロイヤルブルーサファイアのカフスボタンで両側から拘束した。
崇剛はさらに顔を近づけ、涼介の瞳の奥をじっと見つめる。主人と執事という主従関係を思いっきり匂わす、威圧感のある優雅な声で言ってのけた。
「俺がお前のこと知らないわけないだろう――?」
今日どこかで聞いたことがある言葉だったが、心臓がバクバクと早鐘を打っている執事は気づかなかった。
感情を冷静な頭脳で抑え込める崇剛は、涼介に噛みつきそうな位置でエレガントに微笑む。
本日、十四時三十八分二十五秒過ぎ――
私とあなたが会話を始めてから、三十一番目――
あなたが私に言った言葉と一字一句同じです。
やはり言い慣れませんね。
何重にも罠を仕掛けられ、涼介はしどろもどろになりながら、崇剛に情報を渡してしまった。
「ど、どうしてそれを知ってるんだ?」
混乱している頭で必死に考えようとする、毒の話を瞬に教えたと、崇剛が知っている原因を。
(瞬が話した……? いや、それはない。『崇剛には言うなよ』って約束した。あいつは約束はきちんと守る。千里眼……でも、使わないって、お前さっき言ってたよな。本当にどうなってる?)
情報引き出しに成功した崇剛は、壁ドンをしたまま優雅に微笑んだ。
(やはりそうなのですね。瞬から聖霊寮へ情報が渡り、国立氏が私に質問してきたという不確定という可能性から、事実であるという可能性に変わり、そちらの可能性が99.99%です)
確認するためにわざと質問されたと気づいていない涼介を、崇剛は壁ドンから解放した。執事が聞いてきたことを無効化する言葉を、策略的な主人は口にする。
「先ほど約束しましたよ。許しを得たいのなら私の言うことを十個聞くと。ですから、あなたからの質問を私は受けつけません。まだ七個目です。あと三つ残っています」
「おっ! お前自身って……それって!!」
無防備に壁を背にして座っている執事。主人は標的を追い詰めるように素早くかがみ寄り、壁を右腕で、
ドン!
と強く叩いた。そのままそこに居残り、崇剛が肌身離さず持っているロザリオが胸の上で飛び跳ね、魔除けのローズマリーの香りがほとばしった。
ラジュ天使からの情報――壁ドンです。
いつもの言葉遣いでは、効果が出ないという可能性が98.78%――
ですから、こうしましょう。
お互いの髪が交わるほど顔を近づけた。冷静という名のにらみを効かせ、氷の刃で水色の瞳で標的である、ベビーブルーの瞳をのぞき込んだ。
今まで見せたこともない真顔で、崇剛は同性の涼介に向かって、優雅だが今にも押しつぶしてしまうような非常に威圧感のある声で、こんな言葉を浴びせた。
「お前、瞬に毒の話しただろう?」
今目の前にいる男の子供が、聖霊寮に情報を流した本人なのだ。崇剛の中で推理が精巧な頭脳に浮かんでいた。
涼介が聖霊寮に直接話すのはおかしいです。
評判が落ちることにつながるのは、少し考えればわかります。
涼介はどなたにも毒は使っていない。
こちらの時点で、屋敷関係者以外の人間はまず消えます。
涼介は執事です。
部下である他の使用人や召使に毒の話をするのは不自然です。
そうなると、残りふたり。
瑠璃は霊感がなければ、見ることも話すこともできません。
従って、瞬しか残らないのです――
だが、崇剛の胸の内ではかなりの違和感が生じていた。
(しかしながら、言い慣れませんね、こちらの言葉遣いは)
紺の後れ毛が崇剛の神経質な頬に、壁ドンの衝撃で艶やかにまとわりついていた。急接近してきた主人のギャップにびっくりして、涼介は言いよどみ、視線を彷徨わせる。
「ど、どうして……?」
執事は色々言いたいことが他にもあったが、パニック寸前で言葉にならなかった。
(俺が男のお前に、壁ドンされてるんだ! しかも、お前、言葉遣いまでおかしくなってる。今まで、そんな言葉使ったことなかっただろう!)
主人は左腕も壁について、執事が逃げられないように、ロイヤルブルーサファイアのカフスボタンで両側から拘束した。
崇剛はさらに顔を近づけ、涼介の瞳の奥をじっと見つめる。主人と執事という主従関係を思いっきり匂わす、威圧感のある優雅な声で言ってのけた。
「俺がお前のこと知らないわけないだろう――?」
今日どこかで聞いたことがある言葉だったが、心臓がバクバクと早鐘を打っている執事は気づかなかった。
感情を冷静な頭脳で抑え込める崇剛は、涼介に噛みつきそうな位置でエレガントに微笑む。
本日、十四時三十八分二十五秒過ぎ――
私とあなたが会話を始めてから、三十一番目――
あなたが私に言った言葉と一字一句同じです。
やはり言い慣れませんね。
何重にも罠を仕掛けられ、涼介はしどろもどろになりながら、崇剛に情報を渡してしまった。
「ど、どうしてそれを知ってるんだ?」
混乱している頭で必死に考えようとする、毒の話を瞬に教えたと、崇剛が知っている原因を。
(瞬が話した……? いや、それはない。『崇剛には言うなよ』って約束した。あいつは約束はきちんと守る。千里眼……でも、使わないって、お前さっき言ってたよな。本当にどうなってる?)
情報引き出しに成功した崇剛は、壁ドンをしたまま優雅に微笑んだ。
(やはりそうなのですね。瞬から聖霊寮へ情報が渡り、国立氏が私に質問してきたという不確定という可能性から、事実であるという可能性に変わり、そちらの可能性が99.99%です)
確認するためにわざと質問されたと気づいていない涼介を、崇剛は壁ドンから解放した。執事が聞いてきたことを無効化する言葉を、策略的な主人は口にする。
「先ほど約束しましたよ。許しを得たいのなら私の言うことを十個聞くと。ですから、あなたからの質問を私は受けつけません。まだ七個目です。あと三つ残っています」
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
4人の王子に囲まれて
*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。
4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって……
4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー!
鈴木結衣(Yui Suzuki)
高1 156cm 39kg
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。
母の再婚によって4人の義兄ができる。
矢神 琉生(Ryusei yagami)
26歳 178cm
結衣の義兄の長男。
面倒見がよく優しい。
近くのクリニックの先生をしている。
矢神 秀(Shu yagami)
24歳 172cm
結衣の義兄の次男。
優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。
結衣と大雅が通うS高の数学教師。
矢神 瑛斗(Eito yagami)
22歳 177cm
結衣の義兄の三男。
優しいけどちょっぴりSな一面も!?
今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。
矢神 大雅(Taiga yagami)
高3 182cm
結衣の義兄の四男。
学校からも目をつけられているヤンキー。
結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。
*注 医療の知識等はございません。
ご了承くださいませ。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
義母ですが、若返って15歳から人生やり直したらなぜか溺愛されてます
富士とまと
恋愛
25歳で行き遅れとして実家の伯爵家を追い出されるように、父親より3つ年上の辺境伯に後妻として嫁がされました。
5歳の義息子と3歳の義娘の面倒を見て12年が過ぎ、二人の子供も成人して義母としての役割も終わったときに、亡き夫の形見として「若返りの薬」を渡されました。
15歳からの人生やり直し?義娘と同級生として王立学園へ通うことに。
初めての学校、はじめての社交界、はじめての……。
よし、学園で義娘と義息子のよきパートナー探しのお手伝いをしますよ!お義母様に任せてください!
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる