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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
ダーツの軌跡/9
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「神ですよ」
涼介が言い終わる前に、崇剛はさえぎった、その先を聞きたくない――いや誰にも聞こえないようにするために。さらに言葉を重ねる。
「私は神父ですから……」
今ここが神さえも見ていないところならば、崇剛は力なく床に崩れ落ち、悲痛で張り裂けそうな胸を押さえ、一人うずくまったかもしれない。
夢と涼介の言葉を足し算したら、そこから導き出されることはもう、策略家の頭脳にはっきりと浮かび上がっていた。
愛していると寝言もしくは、夢魘で言ったという可能性が98.87%――
それならば、次はそちらの言葉を使って、情報をさらに引き出しましょうか。
ことは深刻なのです――。
感情に流されている時ではないのだ。涼介の言葉の真相を早くつかまないと、取り返しのつかないことになるかもしれないのだ。その可能性が少しでもある以上、崇剛はどこまでも冷酷に、これ以上情報が漏洩しないよう最新の注意を払って、調べるしかないのだ。
優雅に微笑んでいる主人を前にして、執事はあきれた顔をしながら、いつもの癖が思わず出た。
「この、自虐神父!」
「ありがとうございます」
なぜかお礼を言う崇剛だった。彼が足を優雅に組み替えると、服の擦れる音が静かになった部屋に響いた。
会話は一旦終了したような形となっていて、策略家は次の機会をうかがおうとしていたが、ひどく反省した執事が自ら口を開いた。
「致死量は知ってる。いろいろ調べてるうちに覚えたんだ」
中心街から見上げた小高い丘に建つ、洋風の建物。それだけでも目立つのに、祓いの館とも呼ばれているベルダージュ荘。医者のいない時代に、病気が治る治らないとの噂はどうやっても広がるものだ。
「時々、冷やかしてくる客がいるだろう? そいつらを、追い払うために使おうと思ったことはある……」
深く反省している涼介の隣で、崇剛の冷静な水色の瞳はついっと細められた。認めたならば、もうひとつの関連する事実が起きた経緯について是非知りたいところだ。
(涼介にはきちんと懺悔していただきましょう)
主人に執事が叱られるの図が決定してしまった。そうして、もうひとつのこととは……。
去年の五月七日、金曜日、十四時四十七分十八秒――。
国立氏が以下のように、私に聞いてきました。
『毒盛りでお化けさん、ノックアウトできんのか?』
涼介がしていたのですね。
ですが、涼介が国立氏に話すのはおかしいです。
ふたりが顔を合わせるのは、屋敷だけです。
挨拶をする程度で、話しているところを見たことがありません。
そうなると、違うルートで国立氏――すなわち、聖霊寮へ情報が渡ったという可能性が出てきます。
今から六つ前の涼介の言葉――毒として本当に使ったことはない。
涼介に嘘をつくという傾向はありません。
こちらから導き出せること……。
屋敷の誰かが情報を漏洩したという可能性が99.99%――出てきます。
ここまでの思考時間、約二秒。主人としてはとても見過ごせる出来事ではなかったが、回りくどい彼はまずこうした。先の尖った氷柱で刺しような冷たい芯のある声で、崇剛はわざと言う。
「毒を使うことは到底、許される行為ではありませんよ」
「あぁ……」
突き放すような冷たさを持った声色に、涼介は胸の前で両腕を組んで唇を噛みしめた。
崇剛はあごに指を当てて、氷の刃で切るような鋭く冷たい視線を涼介へ送った。流暢に話す主人らしくなく、無言のまま時が過ぎ始めた。
「…………」
(こちらで、私が怒っているように、涼介に見えるという可能性が76.45%――)
水面下で密かに展開している罠。涼介がそれに気づくことはなかった。返事が返ってこないことを不思議に思い、思わず崇剛の顔を見ると、刺殺しそうな氷柱の視線と、涼介のベビーブルーの瞳はぶつかった。
「もしかして……」
罠にうっかりはまって、執事は主人の特徴をすっかり忘れてまった。
「怒ってるのか?」
「えぇ」
策略的な主人は珍しく優雅な笑みを消したままで短くうなずいた――いや嘘を平然とついた。
(いいえ、怒っていませんよ。感情を常に冷静な頭脳で押さえ込んでいる私には、怒るということは起きません)
涼介が言い終わる前に、崇剛はさえぎった、その先を聞きたくない――いや誰にも聞こえないようにするために。さらに言葉を重ねる。
「私は神父ですから……」
今ここが神さえも見ていないところならば、崇剛は力なく床に崩れ落ち、悲痛で張り裂けそうな胸を押さえ、一人うずくまったかもしれない。
夢と涼介の言葉を足し算したら、そこから導き出されることはもう、策略家の頭脳にはっきりと浮かび上がっていた。
愛していると寝言もしくは、夢魘で言ったという可能性が98.87%――
それならば、次はそちらの言葉を使って、情報をさらに引き出しましょうか。
ことは深刻なのです――。
感情に流されている時ではないのだ。涼介の言葉の真相を早くつかまないと、取り返しのつかないことになるかもしれないのだ。その可能性が少しでもある以上、崇剛はどこまでも冷酷に、これ以上情報が漏洩しないよう最新の注意を払って、調べるしかないのだ。
優雅に微笑んでいる主人を前にして、執事はあきれた顔をしながら、いつもの癖が思わず出た。
「この、自虐神父!」
「ありがとうございます」
なぜかお礼を言う崇剛だった。彼が足を優雅に組み替えると、服の擦れる音が静かになった部屋に響いた。
会話は一旦終了したような形となっていて、策略家は次の機会をうかがおうとしていたが、ひどく反省した執事が自ら口を開いた。
「致死量は知ってる。いろいろ調べてるうちに覚えたんだ」
中心街から見上げた小高い丘に建つ、洋風の建物。それだけでも目立つのに、祓いの館とも呼ばれているベルダージュ荘。医者のいない時代に、病気が治る治らないとの噂はどうやっても広がるものだ。
「時々、冷やかしてくる客がいるだろう? そいつらを、追い払うために使おうと思ったことはある……」
深く反省している涼介の隣で、崇剛の冷静な水色の瞳はついっと細められた。認めたならば、もうひとつの関連する事実が起きた経緯について是非知りたいところだ。
(涼介にはきちんと懺悔していただきましょう)
主人に執事が叱られるの図が決定してしまった。そうして、もうひとつのこととは……。
去年の五月七日、金曜日、十四時四十七分十八秒――。
国立氏が以下のように、私に聞いてきました。
『毒盛りでお化けさん、ノックアウトできんのか?』
涼介がしていたのですね。
ですが、涼介が国立氏に話すのはおかしいです。
ふたりが顔を合わせるのは、屋敷だけです。
挨拶をする程度で、話しているところを見たことがありません。
そうなると、違うルートで国立氏――すなわち、聖霊寮へ情報が渡ったという可能性が出てきます。
今から六つ前の涼介の言葉――毒として本当に使ったことはない。
涼介に嘘をつくという傾向はありません。
こちらから導き出せること……。
屋敷の誰かが情報を漏洩したという可能性が99.99%――出てきます。
ここまでの思考時間、約二秒。主人としてはとても見過ごせる出来事ではなかったが、回りくどい彼はまずこうした。先の尖った氷柱で刺しような冷たい芯のある声で、崇剛はわざと言う。
「毒を使うことは到底、許される行為ではありませんよ」
「あぁ……」
突き放すような冷たさを持った声色に、涼介は胸の前で両腕を組んで唇を噛みしめた。
崇剛はあごに指を当てて、氷の刃で切るような鋭く冷たい視線を涼介へ送った。流暢に話す主人らしくなく、無言のまま時が過ぎ始めた。
「…………」
(こちらで、私が怒っているように、涼介に見えるという可能性が76.45%――)
水面下で密かに展開している罠。涼介がそれに気づくことはなかった。返事が返ってこないことを不思議に思い、思わず崇剛の顔を見ると、刺殺しそうな氷柱の視線と、涼介のベビーブルーの瞳はぶつかった。
「もしかして……」
罠にうっかりはまって、執事は主人の特徴をすっかり忘れてまった。
「怒ってるのか?」
「えぇ」
策略的な主人は珍しく優雅な笑みを消したままで短くうなずいた――いや嘘を平然とついた。
(いいえ、怒っていませんよ。感情を常に冷静な頭脳で押さえ込んでいる私には、怒るということは起きません)
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