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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

夜に閉じ込められた聖女/3

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「女性の方が倒れてしまって、神殿の廊下が大変なことになるんです~。他の方が通れなくなり、仕事が中断してしまうんです」

 嘘のような本当の話が天国で勃発していた。神様が指をくわえて見ているはずもなく、いろいろな角度から検証された結果、ラジュの半径五十センチ以内ですれ違うと気絶するようだった。

 神殿の廊下はかなり広いのだが、気絶した女性天使たちで足の踏み場がなくなり、救護しようと男性天使たちはあたふたする。そうして、仕事はとどこおってしまうということだ。

 それが毎日で、神様も頭が痛い限りだった。しかし、ラジュ本人も相当困っており、わざとやっているわけでもない。さらには原因が不明。

 邪神界が勢いを増している時代では、彼一人でも仕事からはずすわけにもいかず、だからと言って防御策もなく、みんなが被害に遭い続けるという、無差別テロと言っても過言ではなかった。

 悪と戦っている以上、切実なる現象である。ラジュも救護をと願い出たいところだが、自身がその場から立ち去らないと、女たちが目を覚さないわけで、彼は彼で肩身の狭い想いをする――いや邪悪な天使はそれはそれだと平然と乗り越え、次の仕事を淡々とするのだった。

 瑠璃はドレッサーの椅子から立ち上がり、姿鏡の前へ歩いて行った。女の子のたしなみとして服のヨレを直す。

「お主、何か策を張っておるであろう?」

 鏡の中には白と朱を基調にした巫女服ドレスを着る少女が立っていた。漆黒の腰ほどまで長い髪。眉の上でパツンとそろえられている前髪。

 若草色のくりっとした瞳。体は小さいのに、内側から感じられる年月は百年を思わせる威厳だった。

 巫女服の袖口は大きく布が取られ、腰から下は西洋ドレスのようにふわっと広がっている。足元は黒網紐の白いショートブーツ。

 具現化していないラジュだが、瑠璃にはしっかりと鏡で見て取れた。無慈悲極まりない天使が女性に罠を張っているのではという質問に対して、ラジュはにっこり微笑んでこんなことを口にする。

「おや? そのような手があるんですか? 是非とも教えていただきたいですね。そちらを使って、瑠璃さんを手中に収めましょうか~?」

 瑠璃は漆黒の髪を両手でさっと払いのけ、レースのカーテンか何かがしなやかに広がり落ちるように小さな背中が覆われた。

 聖女を平然と誘惑してくる天使へ向かって冷たく言い放つ。

「知っておったとしても、お主には教えんわっ!」

 瑠璃が激怒するという、いつも通りのオチを迎えて、ラジュはくすりと笑った。

「以前、気の流れがどうとか言われたことがありましたが、そちらが関係しているのかもしれませんね~。人を惹きつける気の流れがあるとかないとか……」
「お主また……」

 あぁ言えばこう言うで、返答が流暢に返ってきてしまう策略天使を前にして、瑠璃はため息をついて、百年前に死んだ時のことをふと思い出した――

    *

 短い一生を終え、滅んだ肉体から魂が抜け出た。それでも、涙をボロボロとこぼしながら、この世に留まりたくて動けずにいると、ラジュ天使がさっきのように現れた。

 そうして、今も昔も変わらないおどけた感じで、凛とした澄んだ女性的な柔らかさを持つ声で話しかけてきた。

「おや~? 未練ですか~?」
「…………」

 もう重力を感じなくなってしまった体で、涙に濡れた頬を上げた。

 そこには、にっこり微笑んだ背が高く金髪の優しそうな女性かと見間違うような男が立っていた。頭の上には天使の証である金の輪っか。背中には立派な翼を持っていた。

「天使……?」

 ラジュはすっと姿を消し、すぐに背後から絹のような柔らかい声が紡がれた。

「未練を持つと、地縛霊となり地獄行きです。霊層は一気に一番下へ落ちてしまいますよ~」
「地獄……?」

 瑠璃はくるっと反転して、キラキラと聖なる光を放っている天使を見つけた。彼はまた姿を消し、背後から「うふふふっ」と含み笑いが聞こえてくる。

「軽い未練を残して、成仏したとしても霊層は下がります。神から見れば長い年月の一区間でしかないんですから、人の一生とは。すぐに心の整理をつけて次の人生へと進む、こちらが正しい輪廻転生です」
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