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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

夕闇を翔る死装束/2

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 ――窓からこぼれ落ちる月影が、男ふたりだけの部屋を妖艶に愛撫するように青を散らす。

 肉体の交わりを否応なしでも匂わすベッド。

 と、

 中性的で策略的な主人。

 の間へと、いつ間にか涼介は立たされていた、どんな罠にはめられたのかも知らずのうちに。それはまさしく大人の悪戯だった。

 感覚人間の執事が妄想すると、主人の言動に一貫性がなくなってしまう。しかも、崇剛の性格を無視したまま、勝手に作られた性衝動の中で、物事が矛盾だらけで進んでゆく。

 仰向けに倒れるように、崇剛の細く神経質な手が、男らしい涼介の肩を押す。その力はレースのカーテンを扱うような軽いもの。

 のはずだったが、涼介のゴツいアーミーブーツはかかとをベッドに引っかけ、

「っ!」

 天井を仰ぎ見る形で簡単に後ろへと倒れ、シーツの海へと無抵抗なまでに投げ込まれた。

 突然の出来事に思わずつむったまぶた。ベッドがギシッと軋み揺れた音で、純粋なベビーブルーの瞳は姿を現す。

 しかし、もう遅かった。

 少し日に焼け頬の両脇は、月桂げっけいで妖しく煌く策略的な主人のロイヤルブルーサファイアのカフスボタンで拘束されていたのだ。

 純潔なホワイトジーンズを履いた両足の間には、崇剛のロングブーツに包まれた片膝が、体の内側をけがすように腰近くへ入れられた。

 開け放たれた窓から夜風が強く吹き込み、ローチェストに置いてあった花瓶が倒れ、赤い薔薇の花がこれからの涼介を案じするように、床に敷いてある絨毯の上に力なく落ち、花びらが砕け散った。

 几帳面な主人はいつもならばすぐに直そうとするのに、もうすでに狂気なうたげに興じていて見向きもしない。冷静な水色の瞳は優雅に微笑み、サディスティックな聖句を口にした。

「それでは、こちらで、私に強制的に従っていただきましょうか?」

 感覚で妄想中の執事の中では、この言葉はこう訳されるのだった。

(あなたの体を通して、色欲という快楽を、私に与えていただけませんか?)

 完全に大人の話へ自ら墜ちて――いや自爆してしまっていた。

 女性を連想させるような紺の長い髪を、抑制するように縛っていたターコイズブルーのリボン。

 持ち主の神経質な手で無防備に抜き取られ、執事の顔に滑らかなのにコシがあるそれが、重力に逆らえずさらさらっと落ちた。

 崇剛はリボンを半分に慣れた感じで折りたたみ、中央に結び目をつける。女性に見えるのに、腕力は男性そのものだった。

 涼介の両手首を合掌せるようにして、紐と化しているリボンをそこへぐるぐると巻きつけて一度縛った。

 力が加わりすぎないように直角に端を中央へ通す。いわゆる、手錠縛りだ。

 市中引き回しという責め苦の末に強制的な処刑方法。見せしめでありながら、同時にエロスをも生み出す緊縛法。

 優雅な主人に手際よく両手の自由を奪われてしまった執事は、焦燥感という火に下からじりじりと炙られるような緊迫感で戸惑い気味に問いかけた。

「お、お前、これは何だ?」

 と言いながら、心の中はこう思っている。

(お前、どうして、こんな縛り方を知ってるんだ?)

 執事が本当に知りたいことはこれだった。主人の意外な能力を知りたい。そう願ったが、それは叶えられることなく、涼介の両腕は、崇剛の綺麗な手で頭上へ追いやられた。

 片手でベッドに押さえつけられたまま、主人の指先は執事の男らしい頬を、わざとゾクゾクさせるように、触れるか触れないかの絶妙なタッチで行ったり来たりする。

 性奴隷というなぐさみものにしてしまうように、乱れた髪の崇剛は涼介を見下ろした。

「何だと思いますか?」

 すぐさま妄想中の執事の中で、意味深に翻訳される。

(行き止まりへとあなたを導きましょうか?)

 それなのに、感覚人間はなぜか、崇剛の思考回路を器用に再現――少数点以下二桁まできっちり計算した。

 こちらの方法で、あなたが私の望むままになるという可能性が98.98%――

 まだまだ妄想は続く。亮介は拘束されていない両足で抗おうとする。

 しかし、瞬発力なら負けず劣らず、主人にもあったのだ。ベッドの下へ落としたままだった、もう片方の足が、崇剛によって男ふたりだけのシーツへと招き上げられた。
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