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最後の恋は神さまとでした
おまけの打ち上げ/1
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ガヤガヤとした喧騒の中で、颯茄の声が際立った。
「今日の打ち上げは、おまけで流すので、そのつもりで話してください」
「はーい!」
旦那たち十人がうなずくと、食器のぶつかる音がした。颯茄はまわりを見渡しながら、
「それでは、みなさん、『最後の恋は神さまとでした』が完成アンド試写会終わりました。お疲れ様でした」
「お疲れ様」
パチパチと、拍手が巻き起こる。
「いや~、やっぱり、十人もいると、話長くなりますね」
「よくやった」
旦那たちから感心されたが、颯茄は頭に照れたように手を当て、謙虚に言い切った。
「いやいや、みんなの話を聞けたからこそ、作品になったわけですからね」
ナプキンを膝の上に乗せて、食事の準備をする。それぞれの前にあるワイングラス二つには、水とワインが注がれた。
「と言うことで、今日は食事をしながら、少し話を聞いていこうかと思います」
颯茄は綺麗に盛り付けられた皿を眺め回す。じゃがいものポタージュスープに、シーザーサラダ。メインはヒレステーキ。肉食の彼女にはこれ以上ないメニューだった。今は食べたいのをぐっと堪えて話を進める。
「物語に出てきた順で聞いていきましょうか?」
「オッケ~」
旦那たちはそう言うと、それぞれ食事を始めた。かちゃかちゃと食器の鳴る音がして、彼らは舌鼓を打つ。颯茄も肉をひと切れ口の中に入れて、思わずまぶたを閉じて味覚に翻弄される。ごくんと飲み込むと、
「プロローグの部分は抜きにして、本編からなので、最初、悪が倒された時に惑星から長い間見ていた、明から」
ふられた明引呼は、ナイフとフォークを脇へ置いた。
「オレと月の話はもう少し色々あったんだけどよ」
「ま、話長くなりますからね。ところで、どんなものがあったんですか?」
「変装して、茶しにいくっつう」
旦那たちが顔を見合わせて、変装と小さく言い合う。
「それ、考えたのって、月さんですか?」
「当たり前だろ」
兄貴はいつだって堂々としているから、兄貴なのだ。お上品に食べている渦中の人に、颯茄は話を振った。
「どうして、そんなこと考えたんですか?」
「気持ちが盛り上がるかと思ったんです。隠れて会った方が……」
「ああ、そういう愛の演出ですか。どうなったんですか?」
妻は単純に気になった。夫ふたりがお忍びデートをしているところが。
「かえって目立っちまうから、一回で終わったぜ」
「あははははっ……!」
食卓から笑い声が上がった。妻は微妙な顔をする。
「月さん、本当に失敗すること好きですね」
失敗するとわかっていて、わざとやってみた。もしかしたら、成功することもあるかと思って。そんなところだろうと、妻は思った。
「じゃあ、貴増参さん。何かありますか?」
「僕はほとんど書いていただいちゃったので……」
「こんな感じでよかったですか?」
妻は焼き立てパンをつまみながら、作者としてほっとする。
「細かいことはたくさんあります。ですが、それは夫夫の思い出話にしたいですから、みんなには内緒です」
「確かに」
旦那たちから納得の声が上がった。颯茄はナプキンで汚れた手を拭く。
「まあ、ね。これ、結構、重要なところが書いてなかったりするんですよ。最初は書いてあったんですけど、ちょっと社会的に問題有りになってしまうかな? とか、そこは明るみに出さなくても、ってな感じで、カットした仕上がりになってます」
最後の最後で変更になった箇所。陛下の部下の人が直接家を訪れてまで、注意勧告を受けた内容だった。光命は食べる手を止めて、ワイングラスを傾ける。
「書かなくてよかったのだと思いますよ」
「ですね」
颯茄は椅子の上で器用に小躍りして、つけわせの野菜をパクッと口の中へ入れた。
「じゃあ、次は、月さん」
「僕はもう少し明引呼とのデートシーンを入れて欲しかったです」
時間の都合上カットされてしまったシーンだった。颯茄は頬杖をついてまったりとする。
「毎回、どんな話をしてたんですか?」
「今日の打ち上げは、おまけで流すので、そのつもりで話してください」
「はーい!」
旦那たち十人がうなずくと、食器のぶつかる音がした。颯茄はまわりを見渡しながら、
「それでは、みなさん、『最後の恋は神さまとでした』が完成アンド試写会終わりました。お疲れ様でした」
「お疲れ様」
パチパチと、拍手が巻き起こる。
「いや~、やっぱり、十人もいると、話長くなりますね」
「よくやった」
旦那たちから感心されたが、颯茄は頭に照れたように手を当て、謙虚に言い切った。
「いやいや、みんなの話を聞けたからこそ、作品になったわけですからね」
ナプキンを膝の上に乗せて、食事の準備をする。それぞれの前にあるワイングラス二つには、水とワインが注がれた。
「と言うことで、今日は食事をしながら、少し話を聞いていこうかと思います」
颯茄は綺麗に盛り付けられた皿を眺め回す。じゃがいものポタージュスープに、シーザーサラダ。メインはヒレステーキ。肉食の彼女にはこれ以上ないメニューだった。今は食べたいのをぐっと堪えて話を進める。
「物語に出てきた順で聞いていきましょうか?」
「オッケ~」
旦那たちはそう言うと、それぞれ食事を始めた。かちゃかちゃと食器の鳴る音がして、彼らは舌鼓を打つ。颯茄も肉をひと切れ口の中に入れて、思わずまぶたを閉じて味覚に翻弄される。ごくんと飲み込むと、
「プロローグの部分は抜きにして、本編からなので、最初、悪が倒された時に惑星から長い間見ていた、明から」
ふられた明引呼は、ナイフとフォークを脇へ置いた。
「オレと月の話はもう少し色々あったんだけどよ」
「ま、話長くなりますからね。ところで、どんなものがあったんですか?」
「変装して、茶しにいくっつう」
旦那たちが顔を見合わせて、変装と小さく言い合う。
「それ、考えたのって、月さんですか?」
「当たり前だろ」
兄貴はいつだって堂々としているから、兄貴なのだ。お上品に食べている渦中の人に、颯茄は話を振った。
「どうして、そんなこと考えたんですか?」
「気持ちが盛り上がるかと思ったんです。隠れて会った方が……」
「ああ、そういう愛の演出ですか。どうなったんですか?」
妻は単純に気になった。夫ふたりがお忍びデートをしているところが。
「かえって目立っちまうから、一回で終わったぜ」
「あははははっ……!」
食卓から笑い声が上がった。妻は微妙な顔をする。
「月さん、本当に失敗すること好きですね」
失敗するとわかっていて、わざとやってみた。もしかしたら、成功することもあるかと思って。そんなところだろうと、妻は思った。
「じゃあ、貴増参さん。何かありますか?」
「僕はほとんど書いていただいちゃったので……」
「こんな感じでよかったですか?」
妻は焼き立てパンをつまみながら、作者としてほっとする。
「細かいことはたくさんあります。ですが、それは夫夫の思い出話にしたいですから、みんなには内緒です」
「確かに」
旦那たちから納得の声が上がった。颯茄はナプキンで汚れた手を拭く。
「まあ、ね。これ、結構、重要なところが書いてなかったりするんですよ。最初は書いてあったんですけど、ちょっと社会的に問題有りになってしまうかな? とか、そこは明るみに出さなくても、ってな感じで、カットした仕上がりになってます」
最後の最後で変更になった箇所。陛下の部下の人が直接家を訪れてまで、注意勧告を受けた内容だった。光命は食べる手を止めて、ワイングラスを傾ける。
「書かなくてよかったのだと思いますよ」
「ですね」
颯茄は椅子の上で器用に小躍りして、つけわせの野菜をパクッと口の中へ入れた。
「じゃあ、次は、月さん」
「僕はもう少し明引呼とのデートシーンを入れて欲しかったです」
時間の都合上カットされてしまったシーンだった。颯茄は頬杖をついてまったりとする。
「毎回、どんな話をしてたんですか?」
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