375 / 967
最後の恋は神さまとでした
もっと自由に羽ばたけ/6
しおりを挟む
心を愛するのに、それがない。
何を愛せばいいのだ。
いや自分たちから見れば、そこに誰もいないのではないか。
おまけの倫礼が空っぽになった日から今も続いているルールを、焉貴は孔明に聞かせた。
「地球を守護してるやつしか知らない情報なのね。ある一定以上の霊層がない肉体には魂は宿らせてないんだってさ。悪意のあるやつに選択権与えたって、悪意しか起こさないじゃん。だから、魂は引き上げたんだって」
「そうだね。罪を重ねるだけなら、陛下だってみんなのために、戻したほうがいいと判断されるよね……」
孔明にとって驚きだった。私塾の仕事に追われ、地上のことなど忘れていて、まわりに守護をしている人間もいなかった。いや話す人もいなかった。ずいぶんと様変わりしてしまった地球。焉貴に身を乗り出した。
「それはいつからだったの?」
「そこまでは俺も聞いてないけど? 守護神やってないからさ」
焉貴は思う。邪神界の爪痕は地球には今も残っているのだと。だがしかしそれは、広い宇宙から見てみれば、点よりも小さなことなのだ。地上に重きが置かれていない何よりの証拠だ。
お互いが逆立ちするように、黄緑色の瞳と瑠璃紺色のそれは一直線に交わる。
「ただ、その人間、かなり強い霊感持ってて俺たち見えてさ、それを考慮されて、奥さんの魂の波動受けてんの。いつか消滅するって、自分で知ってても生きてんの」
「そうなんだ……」
孔明は静かに言って、黄金色のススキの原を眺めた。
地球で生きてきた自分なら、いつか消える運命をどう思うのだろう。自身が築き上げたことが無になる。
それを知ってもなお、自ら命を絶たずに生きている、人間の女は何を頼りに生きているのだろう。
ぼうっと遠くを見つめている孔明の顔を、焉貴は下から見上げた。本当はこの会話は罠だったのだ。
「お前、どう思う?」
「どういうこと?」
「その女、理論じゃなくて、感覚なのね」
「ボクの好みは理論派の頭のいい人。だから好きにならない」
「お前のことは、人から聞いて知ってたらしいんだけど、今はもう忘れてる」
「そう」
全く関係ないと同意義だと、孔明は思った。焉貴は遠くの空を飛んでゆく、宇宙船が引いてゆく銀の線を目で追う。
「お前がそいつのこと好きだったら、さっきの理論成立に近くなんだけど、違うってことね?」
「焉貴も好きじゃないって――」
孔明の言葉の途中で、焉貴に何かが空から降ってきたようだった。それは金色の流れ星のような気の流れ。しかし、霊感を持っているか、何か特殊なことをしていない限り見ることのできないもの。
焉貴は無意識の直感で、いきなり考えが変わった。
「おかしいね?」
「何が?」
大きな運命の歯車の中で、神界に住む彼らは導かれるまま進んでゆく。
「その仮の魂持ってる女のこと、俺何とも想ってなかったのに、今頃好きだ――と思うなんてさ。普通こうじゃん?」
孔明や蓮、妻に気軽に声をかけているが、焉貴は決して惚れやすいタイプの男ではなかった。どちらかというと、恋に興味のない人物だ。その証拠に、三百億年も結婚しなかったのだから。
「どう?」
焉貴がいきなり考えを変えることなど、孔明にとってはよくあることだ。というか、自分も素早く変えることは多々ある。
「好きだって気づかないまま過ごしてたのに、今気づいた」
そして、膝枕をしている男はこんな不思議なことを言う。
「――なのに、新しく好きになるなんて、しばらく会ってもいないのに……。距離感も何も変わってないのに……。好きになったりすんの?」
本体の倫礼のことは多少気があっても、性格が微妙に違う、おまけの倫礼は何とも思っていなかった。ネガティブで自己主張が弱い。神界で好まれる女のタイプとはまるっきり逆だった。
「でも、好きになってるなら、事実としてもう確定だね」
孔明は風で乱れてしまった漆黒の髪を手で背中へ払いのける。焉貴の裸足が床の冷たさに心地よさを感じて、黄緑色の瞳はまぶたに隠された。
「そうね。何の意味があんのかわかんないけどさ」
もうひとつの恋が本人に会えないまま、焉貴のうちと孔明の前で静かに始まった。公園に散歩に行っていた、何もかもずばりと当ててくる女。彼女が変化でも遂げる何かでも起きたのか。
孔明はぽつりつぶやく。
「人間の女性か……」
自分たちとは生きている世界が違う。合理主義だけで考えれば、その女の肉体が滅んでから動き出すことも考えられる。
恋する軍師は考える。焉貴と結婚をするならば、蓮とその妻と子供との仲が要求される。焉貴の妻と子供ともだ。つまりは、恋をすればするほど、戦いは難しくなってゆくのだ。
全員が全員を好きになる作戦。孔明はひとまず、銀の長い前髪を持ち、鋭利なスミレ色の瞳を見せるR&Bアーティストを、性的な対象として見られるのか想像してみた。答えは簡単だった。
聡明な瑠璃紺色の瞳は晴れ渡る空を見上げる。張飛が住む宇宙へと飛んでゆく宇宙船に乗って、親友――片思いの男に恋を仕掛けにゆく日はそう遠くはないだろう。
何を愛せばいいのだ。
いや自分たちから見れば、そこに誰もいないのではないか。
おまけの倫礼が空っぽになった日から今も続いているルールを、焉貴は孔明に聞かせた。
「地球を守護してるやつしか知らない情報なのね。ある一定以上の霊層がない肉体には魂は宿らせてないんだってさ。悪意のあるやつに選択権与えたって、悪意しか起こさないじゃん。だから、魂は引き上げたんだって」
「そうだね。罪を重ねるだけなら、陛下だってみんなのために、戻したほうがいいと判断されるよね……」
孔明にとって驚きだった。私塾の仕事に追われ、地上のことなど忘れていて、まわりに守護をしている人間もいなかった。いや話す人もいなかった。ずいぶんと様変わりしてしまった地球。焉貴に身を乗り出した。
「それはいつからだったの?」
「そこまでは俺も聞いてないけど? 守護神やってないからさ」
焉貴は思う。邪神界の爪痕は地球には今も残っているのだと。だがしかしそれは、広い宇宙から見てみれば、点よりも小さなことなのだ。地上に重きが置かれていない何よりの証拠だ。
お互いが逆立ちするように、黄緑色の瞳と瑠璃紺色のそれは一直線に交わる。
「ただ、その人間、かなり強い霊感持ってて俺たち見えてさ、それを考慮されて、奥さんの魂の波動受けてんの。いつか消滅するって、自分で知ってても生きてんの」
「そうなんだ……」
孔明は静かに言って、黄金色のススキの原を眺めた。
地球で生きてきた自分なら、いつか消える運命をどう思うのだろう。自身が築き上げたことが無になる。
それを知ってもなお、自ら命を絶たずに生きている、人間の女は何を頼りに生きているのだろう。
ぼうっと遠くを見つめている孔明の顔を、焉貴は下から見上げた。本当はこの会話は罠だったのだ。
「お前、どう思う?」
「どういうこと?」
「その女、理論じゃなくて、感覚なのね」
「ボクの好みは理論派の頭のいい人。だから好きにならない」
「お前のことは、人から聞いて知ってたらしいんだけど、今はもう忘れてる」
「そう」
全く関係ないと同意義だと、孔明は思った。焉貴は遠くの空を飛んでゆく、宇宙船が引いてゆく銀の線を目で追う。
「お前がそいつのこと好きだったら、さっきの理論成立に近くなんだけど、違うってことね?」
「焉貴も好きじゃないって――」
孔明の言葉の途中で、焉貴に何かが空から降ってきたようだった。それは金色の流れ星のような気の流れ。しかし、霊感を持っているか、何か特殊なことをしていない限り見ることのできないもの。
焉貴は無意識の直感で、いきなり考えが変わった。
「おかしいね?」
「何が?」
大きな運命の歯車の中で、神界に住む彼らは導かれるまま進んでゆく。
「その仮の魂持ってる女のこと、俺何とも想ってなかったのに、今頃好きだ――と思うなんてさ。普通こうじゃん?」
孔明や蓮、妻に気軽に声をかけているが、焉貴は決して惚れやすいタイプの男ではなかった。どちらかというと、恋に興味のない人物だ。その証拠に、三百億年も結婚しなかったのだから。
「どう?」
焉貴がいきなり考えを変えることなど、孔明にとってはよくあることだ。というか、自分も素早く変えることは多々ある。
「好きだって気づかないまま過ごしてたのに、今気づいた」
そして、膝枕をしている男はこんな不思議なことを言う。
「――なのに、新しく好きになるなんて、しばらく会ってもいないのに……。距離感も何も変わってないのに……。好きになったりすんの?」
本体の倫礼のことは多少気があっても、性格が微妙に違う、おまけの倫礼は何とも思っていなかった。ネガティブで自己主張が弱い。神界で好まれる女のタイプとはまるっきり逆だった。
「でも、好きになってるなら、事実としてもう確定だね」
孔明は風で乱れてしまった漆黒の髪を手で背中へ払いのける。焉貴の裸足が床の冷たさに心地よさを感じて、黄緑色の瞳はまぶたに隠された。
「そうね。何の意味があんのかわかんないけどさ」
もうひとつの恋が本人に会えないまま、焉貴のうちと孔明の前で静かに始まった。公園に散歩に行っていた、何もかもずばりと当ててくる女。彼女が変化でも遂げる何かでも起きたのか。
孔明はぽつりつぶやく。
「人間の女性か……」
自分たちとは生きている世界が違う。合理主義だけで考えれば、その女の肉体が滅んでから動き出すことも考えられる。
恋する軍師は考える。焉貴と結婚をするならば、蓮とその妻と子供との仲が要求される。焉貴の妻と子供ともだ。つまりは、恋をすればするほど、戦いは難しくなってゆくのだ。
全員が全員を好きになる作戦。孔明はひとまず、銀の長い前髪を持ち、鋭利なスミレ色の瞳を見せるR&Bアーティストを、性的な対象として見られるのか想像してみた。答えは簡単だった。
聡明な瑠璃紺色の瞳は晴れ渡る空を見上げる。張飛が住む宇宙へと飛んでゆく宇宙船に乗って、親友――片思いの男に恋を仕掛けにゆく日はそう遠くはないだろう。
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
4人の王子に囲まれて
*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。
4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって……
4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー!
鈴木結衣(Yui Suzuki)
高1 156cm 39kg
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。
母の再婚によって4人の義兄ができる。
矢神 琉生(Ryusei yagami)
26歳 178cm
結衣の義兄の長男。
面倒見がよく優しい。
近くのクリニックの先生をしている。
矢神 秀(Shu yagami)
24歳 172cm
結衣の義兄の次男。
優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。
結衣と大雅が通うS高の数学教師。
矢神 瑛斗(Eito yagami)
22歳 177cm
結衣の義兄の三男。
優しいけどちょっぴりSな一面も!?
今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。
矢神 大雅(Taiga yagami)
高3 182cm
結衣の義兄の四男。
学校からも目をつけられているヤンキー。
結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。
*注 医療の知識等はございません。
ご了承くださいませ。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜
月嶋ゆのん
恋愛
志木 茉莉愛(しき まりあ)は図書館で司書として働いている二十七歳。
ある日の帰り道、見慣れない建物を見かけた茉莉愛は導かれるように店内へ。
そこは雑貨屋のようで、様々な雑貨が所狭しと並んでいる中、見つけた小さいオルゴールが気になり、音色を聞こうとゼンマイを回し音を鳴らすと、突然強い揺れが起き、驚いた茉莉愛は手にしていたオルゴールを落としてしまう。
すると、辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った茉莉愛はそのまま意識を失った。
茉莉愛が目覚めると森の中で、酷く困惑する。
そこへ現れたのは三人の青年だった。
行くあてのない茉莉愛は彼らに促されるまま森を抜け彼らの住む屋敷へやって来て詳しい話を聞くと、ここは自分が住んでいた世界とは別世界だという事を知る事になる。
そして、暫く屋敷で世話になる事になった茉莉愛だが、そこでさらなる事実を知る事になる。
――助けてくれた青年たちは皆、人間ではなくヴァンパイアだったのだ。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
義母ですが、若返って15歳から人生やり直したらなぜか溺愛されてます
富士とまと
恋愛
25歳で行き遅れとして実家の伯爵家を追い出されるように、父親より3つ年上の辺境伯に後妻として嫁がされました。
5歳の義息子と3歳の義娘の面倒を見て12年が過ぎ、二人の子供も成人して義母としての役割も終わったときに、亡き夫の形見として「若返りの薬」を渡されました。
15歳からの人生やり直し?義娘と同級生として王立学園へ通うことに。
初めての学校、はじめての社交界、はじめての……。
よし、学園で義娘と義息子のよきパートナー探しのお手伝いをしますよ!お義母様に任せてください!
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる