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最後の恋は神さまとでした

お前の女に会わせて/4

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 それに、おまけの倫礼は自分の生活で手一杯だ。話をする必要もないと思っていて、遠くから眺めるのかと思っていたのに、焉貴が話しかけたのだ。

 おまけの倫礼が他人の性格を当てることなど、蓮にとっては大して驚くことでもない。小説のモデルに神を使うということは、その神をプロファイリングできる手段を持っているということなのだから。

 それはおまけの過去の記憶にはっきりと残っていた。

「気の流れを読んだんだ」
「武術とかで使うやつね?」
「そうだ」

 アーティストである蓮にも要求される話だ。どんなものでも気の流れという見えないエネルギーがあるのだそうだ。それはそのものの性質などを形作ると言う。

 肉体では脳の視覚を司る部分を使って、見えないものも見るらしく、霊も神さまも気の流れも周波数が違う。それがこの理論だ。

 おまけはそれをわけて使っている時もあるが、ほとんどは無意識のうちに切り替えているようだった。

 すうっと風の揺れと靴音が戻ってきた。時を止めていた焉貴は力を無効化した。

「えぇ、そうです」

 焉貴が自身の性格について返事を返すと、倫礼は何も気づかず、さっきと時間がつながっているものと信じて疑わず、笑顔で微笑んだ。

「そうですか。蓮のことよろしくお願いします」
「こちらこそ」

 焉貴が言うと、守護神でない神は人間の女から完全に離れた。蓮は呑気に散歩している倫礼の背中を刺殺しそうなほどにらんだ。

「お前が偉そうに頼むことじゃない」

 こんな蓮の態度は初めて見るものだった。焉貴は生徒を指導するように、言葉を重ねる。

「それはいいから、大人になって。神さまになっちゃって。魂がないにしては上出来じゃん?」
「…………」

 銀の長い前髪も鋭利なスミレ色の瞳も、すらっとした体躯もみじろぎひとつもしなかった。これはよく見る態度で、焉貴はささっと翻訳する。

「リアクションなし。それって、お前も認めてることね」
「…………」

 返事を返してこないのが、肯定している証拠だった。焉貴は思う。今はここにいないもう一人の蓮の妻を。さっき家にきた時に話をした。

「でもさ、本体あっちと違うね、性格がさ」
「置かれている環境が違うから、違いが出るんだ」
「そう?」

 全てを記憶していて、無意識の策略までしてくる男に聞き返されて、蓮はおまけの倫礼から視線を外した。

「他にどんな理由がある?」

 本体はサバサバとした性格で、暗さなど持ってもいない。ハキハキとよく話して、挑発的なことを時々言ってくる。

 それなのに、公園を一人で散歩しているおまけは、地球でいうところの女っぽいところはないが、どちらかというとちょっと暗めだ。それは鬱のせいなのかもしれないが、ハキハキとは話さない。それに、挑発的なことはほとんど言わない。

 それとも、病気のせいなのか。自分がいなくなることがわかっているから、何事にも前向きになれないのか。

 蓮が思考の迷路から出られなくなりそうだった時、おまけの倫礼の心の声が聞こえてきた。

「見た目はちょっとよくわからなかったけど……。素敵な人――じゃなくて神さまだったな。会えたことに感謝だ」

 後ろ向きとはやはり思えない。蓮はそう判断したが、焉貴はおまけの問題点を聞き指摘した。

「視力は弱いのね」
「イメージがないから、わかりづらいんだ」

 守護神として、倫礼の見え方を見てみると、実写というよりはアニメ的に見えているようだった。

 春の日差しに目を細めて、焉貴は「そう」と短くうなずいて、陛下が座す城を中心とした首都の街へ想いを馳せる。

「霊感占いってやったことないけど、人間でもすごいね」

 占い師という職業はもちろん存在していた。神さまも人として生きていて、霊感の強い者もいて、それを人の役に立てている人間はいた。同様に神職に就いている人も大勢いた。

 おまけの倫礼が遠ざかってゆくのを見送って、蓮は分身をして、神界に焉貴と一緒に戻ってきた。

 本家のすぐ隣に建てた自宅で、庭を眺めながらデリバリーで取り寄せたティーセットで、男ふたり親友としてくつろぐ。
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