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最後の恋は神さまとでした

父上の優しさと厳しさ/4

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 おまけの倫礼の人生経験をはるかに上回る、三歳児が登場してきた。それなのに、彼女はここが気になった。

「あれ? じゃあ、今まで霊界にいたの?」

 帝河はゲラゲラ笑いながら、

「姉ちゃん、会話の順番めちゃくちゃだな」
「そう?」

 感覚人間――倫礼は自分が何を話してきたのか、すっかり忘れてしまっていた。嬉しくて仕方がなく、気分が舞い上がっていたのだ。

 苦笑した帝河は、腕枕するように頭に両腕をやる。

「まぁいいか。説明してやんぞ。界会の会長いるだろ?」
「あぁ、一番大きい出版権を扱う団体ね。お笑い好きのおじいさん」
「幽霊の時は、あそこにずっといたぞ」

 帝河が幽霊なら、波動しか受けていない自分は幽霊ではないかと思いながら、弟が恵まれた運命の中で生きていて、よかったとほっと胸をなで下ろした。

「そうか。じゃあ、いい大人や子供たちに囲まれて、四百年近くそれなりに無事に生きてきたんだね」
「おう、お陰でよ、邪神界には行かなかったぞ」

 悪の世界を広めようと、小さな子供の連れ去り事件が霊界ではあとを立たなかったのだ。そんな理不尽な状況でも、正神界へ戻れば地獄へと落ちてしまう。

 それに比べれば、平和な世に中になったと、帝河は思った。

「で、俺探されてたらしいんだよな?」

 人間から神へと上がり、離れ離れの家族を探す神さまも大勢いた。もちろん、新しい規則の中で、家族だった人々の存在が抹消されていることは多かった。

 だがしかし、類は友を呼ぶという言葉がある通り、意外とまわりの人も同じ霊層ということもあるのだ。たとえ、邪神界であったとしても、真実の愛に触れれば、改心してしまうものだ。

 倫礼は帝河を抱きかかえて、膝の上に寄せた。

「自分で上がってきたんじゃなくて?」

 こんな小さな体でよく一人きりで生きてきたものだと、姉は大いに感心した。

昨今さっこん、霊界の整備もよくされて、帝河が見つかったのだ」

 倫礼が振り返ると、父と母が寄り添って、にっこり微笑んでいる姿があった。両親から見れば、四百年ぶりに叶った、わが娘と息子のツーショットなのだ。

 トゲトゲに見える黒髪だったが、なでてみると少し柔らかかった。大きな兄弟は全員弟も妹も含めて家を出てしまってひとりきりだったが、倫礼は一緒に暮らす兄弟ができて本当に嬉しかった。

「もしかしてあれですか? 以前ありましたけど、胎児のまま亡くなった人の記憶は親から消されてしまうから、思い出せなかった……」

 いろいろと神さまの事情について知ってはいるが、気分で話している姉に、小さな弟からしっかりツッコミ。

「他のやつの話持ち出して、頭固くなってっから話おかしくなってんだぞ。姉ちゃん、人生っつうのは柔軟に生きていったほうが何かといいぞ」

 四百年の歴史は伊達じゃなかった。

「確かにそうだ。歳重ねれば、重ねるほど硬くなっていくって言うもんね? 柔らかくいる努力は大切だね!」
「おう!」

 ノリノリで話している、すぐに打ち解けてしまった姉と弟を、両親は幸せそうに見守る。

 倫礼もそれなりに、三十七年の人生は歩んでいたのだった。

「子供の頃できてたことができなくなるのは、硬くなるからだって、さっきの気の流れの話で学んだよ」
「知恵は使えよ! 出し惜しみすんなって。人生あっという間だぞ」

 三歳なのに、身に染みる言葉だった。

 まだ四十前。いつまで生きるのかは知らないが、二桁ということは十分あり得る。多く見積もっても百何歳だ。四百年はやはり違うと、姉はつくづく思った。

「そうだね。じゃあ、これからよろしくね」

 手を差し出すと、帝河の小さな手が握り返してきた。ブンブンと勢いをつけて縦に何度も振った。生きている世界は違うが、姉弟きょうだいとしての再会を祝して。
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