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最後の恋は神さまとでした

夏休みのパパたちは三角関係/3

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 そして、もうひとつのテーマパーク。親の瞬間移動のお陰で遠く離れていても、海から山へと行ける子供たちがアトラクションに乗っているのを、一緒に見ているパパ友に、貴増参は声をかけた。

「明引呼は何か悩みがありませんか?」

 そうそうおしゃべりでもなく、かといって寡黙でもなく、そこらへんの加減に気をつけていたつもりだったが、明引呼はあきれたように鼻で笑う。

「ふっ! てめえには嘘は通用しねえな」
「二千年も一緒にいちゃいますからね。おわかり・・・・です」

 順調に話が進みやしない。

「ったくよ、ボケてきやがって。お見通し・・・・だろ?」

 貴増参は咳払いをして、気まずそうにうなずいた。

「んんっ! そうとも言います」
「ま、いいか」

 明引呼は柵に気怠そうに両腕をかけて、アッシュグレーの瞳はどこか遠くを見つめ始めた。

「前の統治から解放されて、仕事にできることっつって考えてよ、魂の研究をするところで働いたけどよ。やっぱ、じっとして、淡々と作業すんのむいてねえんだろな」
「君は行動力がありますからね」
「でよ、転職すっかって考えたんだよ」

 神さまも色々と人生あるのである。

「目星はついてるんですか?」
「野郎どもがよ、一緒に何かしてえって言ったんだよな」

 邪神界が倒された日。男たちが声をかけて去っていったのを、明引呼は思い出していた。貴増参も同じように柵に腕をかけ、余暇を楽しむ王子のような優しい笑みを見せる。

「そうなると、みんなで何かをする仕事ということになります」
「浮かばねえんだよな。あいつらと一緒にやる仕事がよ」

 火山をテーマにしたパーク。会話が途切れた男ふたりの間に地鳴りが響き、地面が揺れたりをランダムに繰り返す。

 優しさに満ちたピンクの瞳は少しだけ陰り、

「君は昔から駆け引きが上手でした。城へきていた同じ傾向を持つ方で、貿易関係の仕事をしてる方がいます」

 邪神界の者が人間の霊を引っ張り込もうとした時、穏便に追い返していたのを、貴増参は何度もそばで見てきた。明引呼は立ち上がる際にくるっと反転して、今度は腰で柵にもたれかかった。

「新しく開拓された宇宙のやつと交渉して、物資とか交換する仕事だろ?」
「えぇ、そうです。それをしてみては?」

 暮れてゆく空に、山頂からのマグマがオレンジ色をにじませていた。明引呼は胸ポケットからシガーケースを取り出して、タバコサイズの葉巻――ミニシガリロを口にくわえる。

「どうせやるならよ。一発当ててみてえんだよな」
「さすが、野郎どもに愛される兄貴です」

 さりげなく驚くようなことを言ってくる貴増参の隣で、ジェットライターで火をつけられた葉巻は、青白い煙を上げた。

「愛されてんじゃねえんだよ。慕われるだろ」

 動じることなく、貴増参は少しだけ振り返って、視界の端に明引呼の藤色をした短髪を映した。

「ついつい本音が……」
「どいつの本音だよ?」

 明引呼は少しだけ後ろへ背をそらし、敏腕刑事が犯人に迫るように鋭いアッシュグレーの眼光で、優男の横顔に切り込んだ。それなのに、貴増参はニッコリ微笑み、顔の横で手をバイバイと振る。

「それはまた来週です」

 しかし、男ふたりの瞳はすれ違うような位置で、真摯にしばらく交わったままだった。

「…………」
「…………」

 世界がふたりきりで切り取られたみたいに、パークに流れる音楽も風景も何もかもが透明な幕の向こう側にある。唯一動いているのは、葉巻の青白い煙だけ。どこまでも続いていきそうな沈黙だったが、

「パパっ!」

 お互いを呼ぶ子供の声で、ふたりは我に返った。ウェスタンブーツのスパーはカシャっと金属音を歪ませて、再びアトラクションへ振り返った。愛しているのが本音だと言う優男に、明引呼は軽くパンチを放つ。

「ボケ倒しやがって、話元に戻せや」
「一発当てる、とはどのような職種ですか?」

 吸い殻を空へポイッと投げると、自動回収システムで、販売会社の工場へと行き、再利用の運命をたどった。

 転職先の話が、遊園地で現実的に続いてゆく。

「食う肉があんだろ?」
「えぇ」
「あれよ、ある日疑問に思ったんだよな」
「どう思っちゃったんですか?」

 アッシュグレーの鋭い瞳はパークのあちこちを歩く、人間以外の人々に向けられた。

「牛さんも豚さんも鶏さんも、オレらと同じように、言葉しゃべって家族がいんだろ? 食っちまったら、殺人事件が起きちまうだろ」
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