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最後の恋は神さまとでした
気づいた時にはそばにいた/4
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十二歳、中学二年生の二学期。秋空に飛行船が銀の線を引いて飛んでゆく。青々とした学校の芝生に、光命と夕霧命は寝転がって、草の隙間からお互いの声を聞いていた。
「夕霧、地球という場所があることは習っただろう?」
「肉体を持って人間が修業をしているところだ」
「そこには、太陽というものがあるらしいんだ」
「どこで知った?」
学校で習っていないことを言い出した従兄弟を見ようとしたが、腕枕をしている腕に隠れていて叶わなかった。
「ネットに地球についての研究論文を載せたサイトがあってね。それで知った」
「論文……」
従兄弟の学力は学年の中で一番を常に貫いていて、とうとう飛び級するみたいなレベルまで行っていた。
「この世界には太陽がないのに、空は明るいだろう?」
「夜は暗い」
夕霧命は気づいたいなかった。話に罠が張られていて、話題を自分からではなく、相手から引き出すように仕向けられていたと。光命はうなずく。
「そうなんだ、そこが問題なんだ。地球では太陽が地上を照らさなくなると、夜になるらしい。そこで、疑問が浮かぶ。なぜ太陽がないこの世界でも、夕方がやってきて夜になって、朝がくるのか。その原理を知りたい」
「理科の先生には聞かなかったのか?」
「聞いたけど、まだ研究が進んでいないらしい」
何だか話がおかしかった。研究者が書いた論文だ。一教師である学校の先生が知るはずがない。いつもなら、光命がその点を突っ込んでくるはずなのに、夕霧命は真っ直ぐな性格でそのまま話を進めてしまった。
「それなら、結果が出るまで待つしかない」
「そうか」
いつもの従兄弟なら、こんな可能性があるとか何とか言って、食い下がってくるのに、納得しているかわからないが、ただのうなずきはどうやってもおかしかった。
夕霧命は上半身だけ起き上がって、すぐ隣にいる光命を見下ろした。
「どうかしたか?」
「いや、何でもない」
大人になりかけている冷静な水色の瞳は答えるとすぐに、視線をそらして、草の音を鳴らしながら、自分と同じように起き上がった。
部活動をする生徒たちをグラウンドに眺めながら、光命は今の自分のことを考える。
(これはどういうことなんだろう? 夕霧のそばによると、ドキドキして、嬉しいと思う。この気持ちは待っていても答えが出ない可能性が非常に高い)
小さい頃だって、そばにいた。それなのに、最近おかしいのだ。
(父や母に聞いてみたけど、わからないと言っていた)
特に気にした様子もない夕霧命を視界の端でうかがって、光命は可能性を導き出す。
(君に関係することだと思うんだ。それならば、答えが出ないものを君に聞いて困らせるより、まずは他で調べてみてからにしよう)
ポケットに入れていた携帯電話を細い指先で、誰にも気づかれないように触れた。
(ネットで調べよう)
記憶を消された少年ふたりには何の対策もなく罪もなく、思春期を迎えるのだった。
*
マンションの床の上で、澄藍は足を伸ばして柔軟体操をしていた。体が硬くなると、心も硬くなるという考えのもとに前屈をしていると、コウがいつも通り現れた。
「これからの子供の成長が大きく変わった」
「どんなふうになるの?」
指先で、足を包み込むように触りながら、体が伸びてゆく気持ちよさに、澄藍は思う存分ひたる。
「全員生まれてから二ヶ月ごとに、五歳まで歳を取ってゆく」
「ということは、十ヶ月で五歳になるってことだね?」
数字に強い彼女には簡単すぎる計算だった。
「そうだ。さらに二ヶ月後の、誕生日に一歳から五歳までの誕生日会をまとめてやる」
「いいね。みんなで仲良く誕生日パーティー」
法律もあるが、見知らぬ子供でもすぐに仲良くなって、協力している姿を澄藍は今までも見てきた。ということは、学校に通っていれば、クラスメイトが友達を呼んで、そのまた友達を呼んで、大賑わいのパーティーになるだろうと容易に想像がついた。
「そうだろう? で、そのあとは六百八十七年でひとつ歳を取る」
成長速度が急激に変わる、五歳という境界線。
「ということは、五歳で一旦成長が止まるから、小学校一年生が莫大的に増える?」
「そうだ。何十兆になる日も近い」
新たな疑問が出てきて、澄藍は手のツボ押しをしながら問いかけた。
「同じ五歳でも、今年生まれた子と去年生まれた子ができるよね? それって、兄弟になるの?」
六百八十七年も経ったら、一年目に生まれた子と最後の年に生まれた子は大きな差が出る。しかし、コウは銀の長い髪を横へ揺らした。
「兄と弟という歳の差を表すことはない。一年間の中で生まれたんだから」
「じゃあ、どうするの?」
「ただの兄弟だ」
双子でもない。双子や三つ子はいる。同じタイミングで生まれてきた子供がそうだ。しかし、誕生日が違うとなると、そうとしか言いようがなかった。
「そういうところも、人間の世界と違うね。上下関係がないただの兄弟がいるなんて」
「夕霧、地球という場所があることは習っただろう?」
「肉体を持って人間が修業をしているところだ」
「そこには、太陽というものがあるらしいんだ」
「どこで知った?」
学校で習っていないことを言い出した従兄弟を見ようとしたが、腕枕をしている腕に隠れていて叶わなかった。
「ネットに地球についての研究論文を載せたサイトがあってね。それで知った」
「論文……」
従兄弟の学力は学年の中で一番を常に貫いていて、とうとう飛び級するみたいなレベルまで行っていた。
「この世界には太陽がないのに、空は明るいだろう?」
「夜は暗い」
夕霧命は気づいたいなかった。話に罠が張られていて、話題を自分からではなく、相手から引き出すように仕向けられていたと。光命はうなずく。
「そうなんだ、そこが問題なんだ。地球では太陽が地上を照らさなくなると、夜になるらしい。そこで、疑問が浮かぶ。なぜ太陽がないこの世界でも、夕方がやってきて夜になって、朝がくるのか。その原理を知りたい」
「理科の先生には聞かなかったのか?」
「聞いたけど、まだ研究が進んでいないらしい」
何だか話がおかしかった。研究者が書いた論文だ。一教師である学校の先生が知るはずがない。いつもなら、光命がその点を突っ込んでくるはずなのに、夕霧命は真っ直ぐな性格でそのまま話を進めてしまった。
「それなら、結果が出るまで待つしかない」
「そうか」
いつもの従兄弟なら、こんな可能性があるとか何とか言って、食い下がってくるのに、納得しているかわからないが、ただのうなずきはどうやってもおかしかった。
夕霧命は上半身だけ起き上がって、すぐ隣にいる光命を見下ろした。
「どうかしたか?」
「いや、何でもない」
大人になりかけている冷静な水色の瞳は答えるとすぐに、視線をそらして、草の音を鳴らしながら、自分と同じように起き上がった。
部活動をする生徒たちをグラウンドに眺めながら、光命は今の自分のことを考える。
(これはどういうことなんだろう? 夕霧のそばによると、ドキドキして、嬉しいと思う。この気持ちは待っていても答えが出ない可能性が非常に高い)
小さい頃だって、そばにいた。それなのに、最近おかしいのだ。
(父や母に聞いてみたけど、わからないと言っていた)
特に気にした様子もない夕霧命を視界の端でうかがって、光命は可能性を導き出す。
(君に関係することだと思うんだ。それならば、答えが出ないものを君に聞いて困らせるより、まずは他で調べてみてからにしよう)
ポケットに入れていた携帯電話を細い指先で、誰にも気づかれないように触れた。
(ネットで調べよう)
記憶を消された少年ふたりには何の対策もなく罪もなく、思春期を迎えるのだった。
*
マンションの床の上で、澄藍は足を伸ばして柔軟体操をしていた。体が硬くなると、心も硬くなるという考えのもとに前屈をしていると、コウがいつも通り現れた。
「これからの子供の成長が大きく変わった」
「どんなふうになるの?」
指先で、足を包み込むように触りながら、体が伸びてゆく気持ちよさに、澄藍は思う存分ひたる。
「全員生まれてから二ヶ月ごとに、五歳まで歳を取ってゆく」
「ということは、十ヶ月で五歳になるってことだね?」
数字に強い彼女には簡単すぎる計算だった。
「そうだ。さらに二ヶ月後の、誕生日に一歳から五歳までの誕生日会をまとめてやる」
「いいね。みんなで仲良く誕生日パーティー」
法律もあるが、見知らぬ子供でもすぐに仲良くなって、協力している姿を澄藍は今までも見てきた。ということは、学校に通っていれば、クラスメイトが友達を呼んで、そのまた友達を呼んで、大賑わいのパーティーになるだろうと容易に想像がついた。
「そうだろう? で、そのあとは六百八十七年でひとつ歳を取る」
成長速度が急激に変わる、五歳という境界線。
「ということは、五歳で一旦成長が止まるから、小学校一年生が莫大的に増える?」
「そうだ。何十兆になる日も近い」
新たな疑問が出てきて、澄藍は手のツボ押しをしながら問いかけた。
「同じ五歳でも、今年生まれた子と去年生まれた子ができるよね? それって、兄弟になるの?」
六百八十七年も経ったら、一年目に生まれた子と最後の年に生まれた子は大きな差が出る。しかし、コウは銀の長い髪を横へ揺らした。
「兄と弟という歳の差を表すことはない。一年間の中で生まれたんだから」
「じゃあ、どうするの?」
「ただの兄弟だ」
双子でもない。双子や三つ子はいる。同じタイミングで生まれてきた子供がそうだ。しかし、誕生日が違うとなると、そうとしか言いようがなかった。
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