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最後の恋は神さまとでした

従兄弟と仕事と秘密と/2

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 苦肉の策――笑いの落ちとして、隊長は浮遊してマイクの位置まで登った。バーコード頭の実はイケメンなのに、親父のふりをしている男は、わざとらしく咳払いをして話し始める。

「え~、私たち躾隊は、国家の環境維持を陛下から任された機関でございます。新しい社会の中で、対応不足のところがまだまだあり、私たちを必要とされる一般市民の方はたくさんおります。え~ですから、できるだけ早く解決できるよう、常日頃考え、邁進まいしんしてまいりましょう。それでは本日から入隊された方、共に任務に励みましょう。よろしくお願いいたします」

 新任隊員の任命式が終わり、たくさん集まっていた隊員たちはそれぞれの任務へ向かい始めた。少し遠くの城の入り口から、女性たちが次々に出てきて、停車していたリムジンのまわりに整列し始めた。

「あれは?」

 城のそばに暮らす生活をしているが、それぞれの家の敷地は地球何個分という広さであり、いちいち動きを監視しているものでもない。夕霧命は女性たちが並ぶという現象が単に気になった。

 同じ隊の先輩が、犬の顔でのぞき込んできた。

「どうした? 紀花」
「あれは何かの団体ですか?」

 指を差すと、弓形の目が同じ方向へ向き、先輩が何かと見極めると、夕霧命へ向き直った。

煌輝こうき隊だ」
「こうきたい?」

 ある意味、自分たちの躾隊より有名だが、女性しか所属できない隊。先輩は毛に覆われた両腕を組んで、うんうんと何度もうなずく。

「そうか。まだこの世界に生まれたばかりだったな。女王陛下の侍女たちだ。つまりは、女王陛下の荷物を持ったり、身の回りのことを代わりにする係だな」
「そうですか。ありがとうございます」

 夕霧命がお礼を言うと同時に、女王陛下を乗せたリムジンが玄関ローターリーから正門へと走り出した。侍女たちが動き出した中で、一人の女が無感情、無動のはしばみ色の瞳に目を止めた。夕霧命は思う。

(あの女は母に似ている……)

 立ち姿から振り返り方、視線の動かし方までそっくり。しばらく視線を動かさないでいると、女が色っぽく微笑んだ。

(俺を見ている……?)

 他の隊員の声が耳に入って、止まっていたような時間は再び動き出した。

    *

 夕霧命の話は終わった。恋がどんなものか知りたい光命。庭の景色を眺めながら、足を優雅に組み替えして、物憂げに頬杖をつく。

 人を愛することはとても素晴らしく、尊いものだと、両親から教えられた。それは言葉の時もあれば、態度や相手を思いやる気持ちでもあった。

 それが、従兄弟の身に近づいているのであれば、ぜひとも結ばれて幸せになってほしいと、光命は願うのだった。だからこそ、彼なりの質問を投げかける。

「目が合ったのは何回ですか?」
「見かけるたび、毎回だ」

 瞬発力のある光命とは反対に、いつでも後手後手。導き出した可能性通り、まだ行動していないと言う。ただの従兄弟として、今度は自分がエールを送る番だ。光命はそう思った。

「それならば、気持ちを伝えてはいかがですか?」
「何て言えばいい?」

 恋愛に興味などほとんどなったが、突然出逢ってしまい、模範となるものが、夕霧命にはどこにもなかった。

「あなたらしく、そのままを伝えればよいのではありませんか?」
「そうする」

 夕霧命が結婚をしたとしたら、遊びにいく家は変わるのだろう。話す内容も変わるのだろう。そうなれば、新しい可能性を導き出すために、日々が今よりも鮮やかな色を持つだろう。

 何よりも人として、誰かが幸せになることは、見ていて気持ちのいいものだ。自分も幸せになる。光命はシャンパンの酔いと従兄弟の恋に身を任せ、至福の時に浸る。

 恋の話を最初にしてきたのは光命だった。それなのに、自分の好きな人の話を今はしている。夕霧命は地鳴りのような低い声を、夏の夜の空気にじませた。

「お前は?」
「私はどなたも愛していませんよ」

 音楽事務所には、女性アーティストはたくさんいる。廊下で出会い、話などもするが、光命の中で恋愛をするという可能性の数値は0.01%も上がることはなかった。同僚の結婚式へ招待されることが多くても。

 他の宇宙へゆく飛行船が赤いランプを点滅させながら、摩天楼の合間を飛んでゆく。あっという間に大人になった自分たちと同じように、世の中は目まぐるしい変化を遂げている。

 次々に新しい宇宙が開拓され、国は広がり続けているが、今では、陛下の霊層は上がり、自分たちの神々の世界へとどんどん登っている。科学技術は著しい発展を見せ、あの飛行船の輸送時間の大幅な短縮が繰り返されている。

 上の世界からこの世界へ、魂を磨くための修業として、生まれ変わる者が増えてきているという話はよく聞く。成長し続ける世の中。その首都。しかも中心である城のすぐ隣に屋敷がある光命と夕霧命だったが、彼らの生活は他の誰とも違っていなかった――平等だった。
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