上 下
105 / 967
リレーするキスのパズルピース

ラブレターと瞬間移動/2

しおりを挟む
 左手のシルバーリングがカチャカチャと金属音をかき鳴らしながら取り出し、そのまま耳に当てるのかと思いきや、すっと消え去った。次に、携帯電話が現れると、なぜか、ウェスタンブーツの上に。そのまま、ボールを蹴り上げるように、長いジーパンの足とスパーが動き、ヒューッと山を描いて、振動し続けているものが頭の上へ飛んできた。

「タイミングよすぎんだよな。どうやって、計算してやがんだ?」

 そのまま通話にすればよかったものの、余計なアクションが入っていた。電話の向こうから聞こえてきた第一声はこれだった。

「は~い!」

 砂埃舞う農場で、ウェスタンスタイルでかっこよく、しゃがれた声で渋く決めていた兄貴とは、対照的な軽いノリの言葉。

 その声色こわいろは陽だまりみたいな穏やかさがあり、誰が聞いても好青年だと太鼓判を押すほどのものだった。

あき、ボクのラブレター読んでくれた?」

 犯人自ら出頭。

「てめえ、今さらどういうつもりだ? こんなのくれやがってよ」

 ガサツな声は絞り出すようにうなって、ガツンとウェスタンブーツが丸テーブルの足を強く蹴りつけた。

 子供が楽しくて仕方がないというように笑い声をふふっともらして、

「こういうつもり……」

 電話の相手の人差し指が、目の下に当てられ、思いっきり下へ引っ張られた、あっかんべーをするように舌を出して。

「ベー、悪戯だよ~」

 好青年というイメージをおとりにした、悪戯坊主という確信犯だった。だが、対する兄貴は大人な対応で軽くクリア。しかし、語尾に、わざとらしくカウンターパンチをつけ足した。

「そんなことしてねぇで、てめぇ、ワークどうしたんだよ? ビッグ先生ティーチャーさんよ」

 電話の向こうで薄地の白い袖口が、携帯を持ったことによって、スルスルと腕を滑り落ちて、素肌を見せてゆく。

 男は陽だまりみたいな柔らかな声で平常をよそおい、言葉の後半でやり返してきた、自分の名前を呼んでもらえなかったことに対して。

「今は待機中だよ。孔雀大明王兄貴」

 太いシルバーリングは、苛立いらだたしげにロッキングチェアーの肘掛けにコツコツとたたきつけられた。

「その名前で呼ぶんじゃねぇよ。それは役職名なんだよな。しかも、最後ファイナルに兄貴つけやがって。思いっきり異様ミスマッチになってやがんだよ」

 ソファーに気だるそうにもたれかかっていた腕に綺麗な頬を預けると、サラサラと背中で何かが動いた。そして、この男の甘々な言い回しが出てくる。

「そう? ちょっと前までは、そう呼んでたのに、何が変えさせちゃったのかなあ~?」

 藤色の剛毛は、節々のはっきりした指先で、引っ張られたり、からまされたりしながら弄ばれる。

「わかり切ってること聞いてきやがって。孔明、てめえまた何かしてやがんだろ?」

 孔明と呼ばれた男はソファーの肘掛けにもたれていた手から頬を離し、背中から漆黒の細い線をすうっと引っ張っては、指先からなめらかな絹が落ちるように、スルスルと胸の前にしなやかに寄り添わせる。

「何のことかなあ~?」

 瑠璃紺色の二つのものが首を傾げたために、左斜めになって立ち止まった。その先で、結び直されたピンクの布に包まれた四角いもの――昼食の空腹を満たしたカラのお弁当箱は静かにアフターファイブならず、アフター昼休みを楽しんでいた。

 夏風に煽られた大木の群れが、まるで大海原のように、鋭いアッシュグレーの瞳に映っている。

「またシラ切りやがって。あん時みてえに、オレをサプライズさせるつもりじゃねえだろうな?」
「何か驚いちゃったの~?」

 はぐらかそうとしやがって。お弁当の下にはさまっているラブレターをスパーで切り裂くように、ウェスタンブーツは丸テーブルの上にドカッと乱暴に上げられた。

「オレのワークが年末の繁忙期で忙しいからよ、延期してたのに、てめえが先にきてやがって。しかも、てめえの名前は知っててもよ、話したこともなかったんだよ。混乱させやがって。によ、これ以上はあん時はダメだって、ボスからくぎ刺されてただろうがよ。それを突破しやがって、何しやがったんだよ?」
「あれ~? ボク、そんなことしたかなあ~?」

 背中から漆黒の長い髪を引っ張ってきて、聡明な瑠璃紺色の瞳に映す、孔明の表情はまったく微笑んでおらず、一ミリの隙も見逃さないというような計算し尽くされた、精密、精巧、冷静、異彩、非凡……どんな言葉でも足りないほど。とにかく頭がいいという言葉を総なめにするくらいだった。

 電話という死角。話す言葉と雰囲気とは違う、本性を一人きりの空間でかもし出している男。孔明の足は色気が匂い出て仕方がないというように、ソファーの上で組み直された。

「てめえのその頭使って、何かしやがったんだろ?」

 鋭いアッシュグレーの眼光は、刃物で切り込むようにガンを飛ばす、電話の向こうにいる相手の手強さを知っているために。

 頭高く結い上げた漆黒の髪。そこに添えられていた細い縄みたいな髪飾りを指先にくるくると巻きつけ、目の前の窓に広がる景色を孔明は眺める。

 だがしかし、それは脳という記憶の引き出しに、きちんと整理される情報収集という名の視線。

「ボクは彼に素直に気持ちを伝えただけだったんだけど……。他の人が勝手に動いちゃったのかなあ~?」

 不道徳で不誠実だったなら、兄貴は許さなかった。しかし、孔明の言っていることは手段には問題があるが、結果オーライだったので明引呼はスルーした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

4人の王子に囲まれて

*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。 4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって…… 4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー! 鈴木結衣(Yui Suzuki) 高1 156cm 39kg シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。 母の再婚によって4人の義兄ができる。 矢神 琉生(Ryusei yagami) 26歳 178cm 結衣の義兄の長男。 面倒見がよく優しい。 近くのクリニックの先生をしている。 矢神 秀(Shu yagami) 24歳 172cm 結衣の義兄の次男。 優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。 結衣と大雅が通うS高の数学教師。 矢神 瑛斗(Eito yagami) 22歳 177cm 結衣の義兄の三男。 優しいけどちょっぴりSな一面も!? 今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。 矢神 大雅(Taiga yagami) 高3 182cm 結衣の義兄の四男。 学校からも目をつけられているヤンキー。 結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。 *注 医療の知識等はございません。    ご了承くださいませ。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

義母ですが、若返って15歳から人生やり直したらなぜか溺愛されてます

富士とまと
恋愛
25歳で行き遅れとして実家の伯爵家を追い出されるように、父親より3つ年上の辺境伯に後妻として嫁がされました。 5歳の義息子と3歳の義娘の面倒を見て12年が過ぎ、二人の子供も成人して義母としての役割も終わったときに、亡き夫の形見として「若返りの薬」を渡されました。 15歳からの人生やり直し?義娘と同級生として王立学園へ通うことに。 初めての学校、はじめての社交界、はじめての……。 よし、学園で義娘と義息子のよきパートナー探しのお手伝いをしますよ!お義母様に任せてください!

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

処理中です...