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夏に咲く。
しおりを挟むその花は細く弱い茎を伸ばす小さな花弁でした。自分の周囲を囲んでいる花は背丈が高く、大きな花弁を広げています。
向日葵は太陽に向かって咲きます。太陽の光が向日葵達に黄色い花弁を咲かせる力を与えてくれるのです。
その向日葵は小さいため、他の向日葵達の隙間からしか光を貰うことができません。だから元気になれないのです。
向日葵の女の子は自分に絶望して、いつの間にか萎れたよう土に顔を向けるようになりました。
◆
春の訪れを教えてくれるのは春風です。春風は並ぶ桜の木達に春を教えに吹きました。
「桜さん春がきますよ。そろそろ花を咲かせる準備をしてください」
「春がくるって」
その声を聞いて桜達は蕾を膨らませます。
しかし、その桜並木には【変わり者】だと、春風に嫌われている桜の男の子がいました。
春風は、その桜の木だけには春の訪れを知らせません。なので、春がきても、その桜だけは春を知らず、花弁を咲かせることができませんでした。
どうして僕だけ咲けないんだろう?
桜並木の横には畑が広がっています。その畑の向こうには、たくさんの向日葵が咲いていました。
ある日、桜の男の子は向日葵に目を向けます。彼が偶然に見つけたのは、一人だけ下を向いている小さな向日葵でした。
桜は向日葵に大声で叫びます。
「君だけ、どうして下を向いているの?」
俯いている向日葵に桜の声は届きません。すると他の向日葵から声が聞こえてきました。
「あー、太陽さんは元気をくれるわ」
太陽さん?桜は向日葵達が顔を向けている方を見上げます。空には眩しく光る太陽がいました。
向日葵達は太陽の光を浴びて気持ちよさそう。風に大きな花弁をゆったりと揺らしています。でも、小さな向日葵は影になり、光があたっていませんでした。
しょんぼりして、今にも枯れてしまいそうな向日葵。
彼は考えました。どうしたら、あの向日葵を元気にできるのだろう、と。
「よし、決めた!」
桜は決心し、必死に頑張って蕾を膨らませようとしました。ですが一度も蕾を膨らませたことのない桜には、とても難しいことです。
それを見ていた夏風が桜に吹きました。
「桜くん、頑張れ!頑張れ!」
夏風の応援を受けて、彼は一生懸命に頑張ります。その時、桜に一つだけ蕾が生まれました。その蕾がみんなに声をかけます。
「みんな、春だよ。起きて」
蕾達は次々に膨らみ始めました。そして蕾は開いて薄紅の花弁を咲かせます。
満開に咲きほこる桜。
でも、彼は自分を見てガッカリしました。なぜかというと、自分が咲いたら太陽になると思いこんでいたからです。
太陽と違う。これじゃ、あの向日葵を照らせない。元気をあげられない。
悲しくなり、桜はわんわんと泣きました。桜の涙が花弁達を濡らします。その花弁に太陽の光があたり、全部の花弁達がキラキラと輝きました。涙桜は、まるで太陽のようです。
「あっ……」
あまりの眩しさに向日葵は桜に顔を向けました。
桜から風に乗って声が聞こえてきます。
「下を向くな、頑張れ、頑張れ!」
向日葵は桜に向かって花弁を広げます。彼女に桜の気持ちが伝わったのです。
小さな向日葵には、相変わらず太陽の光を浴びることは僅かにしかできません。
でも、その向日葵は小さくても雨にも嵐にも負けない元気な花になりました。
それは、なぜか?
自分に気づいて、励ましてくれる桜がいるから。桜のために向日葵は懸命に咲くのです。
笑顔の桜、強く咲く向日葵。
桜と向日葵は、遠く離れていても互いを思い合う親友になりました。
輝いて咲く桜。その噂はたちまち広がり、人間達が彼を見に訪れます。
夏のお花見。
「春に咲かずに夏に咲くなんて、変わり者の桜だね」
人々は彼を見て、ふふっと笑います。
その桜は大の人気者になりました。
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