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いいみず、わるいみず。
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パッと明るくなった。すごいたくさんの何かが、すごーい音をだしている。ハッキリ言わしてもらうけど、うるさい!
僕の上にいる何かが「あれは、みんな人間だよ」って教えてくれた。
「君はだれ?」と聞いてみる。すると「オレは君をぶら下げる首かけリボン」と答えた。
僕は今、いっぱいの人間?達に囲まれて、ちょっとだけ高い場所にいる。隣はもっと高いし、そのまた隣は僕より低い。
すると何かが僕を掴んで上げた。「今度はなに?」首かけリボンさんに聞いてみる。首かけリボンさんは「今、君を掴んでいるのは人間の女の子の手」って教えてくれた。
「いたたっ!痛いよ!」
すごく痛くて、僕はまた首かけリボンさんに聞いた。
「女の子は何をしてるの?」
首かけリボンさんは笑いながら答える。
「歯で噛んでるねー」
ったく、たまったもんじゃない!プンプンだよ!
歯って憎らしいヤツが僕から離れると、女の子はじっと僕を見つめる。
「こんにちわ、わたしは目って名前なの」
いきなり、目さんが挨拶してきた。
「わがはいは鼻であるぞよ」
「さっきは噛んでごめんね。ウチは口言うねん」
わー、みんないい人そう。僕もみんなに挨拶しようとしたけど(僕はだれ?)名前が分からない。
突然、鼻さんが叫んだ。
「おい!力が入って奥が痛い!今日はあの娘がやってくるぞい!」
目さんも叫ぶ。
「あー、ホント!あの娘が奥から走ってきた!」
(あの娘ってだれ?)たずねたかったけど、それより前に、その娘が僕に落ちてきた。
ちょっと暖かくてキラキラして、すごくカワイイ娘。僕は自分の上に乗っかってる娘に聞いた。
「君はだれ?」
娘は笑顔で答える。
「わたし?わたしは、いいみずって名前だよ」
とてもドキドキする。僕は、いいみずさんをとても大好きになった。
だけど、せっかく仲良くなれたのに、いいみずさんは「さよなら」と言って僕の上からいなくなってしまった。
目さんが言った。
「わたしは、あの娘をよく知ってるけど、いつ現れるか分からないの」
「そっか」
何だか、しょんぼりだ。
それから僕は広いどこかに連れていかれた。なんか、いっぱい並んでる場所に斜めに傾けて置かれる。
「新入りさん、こんにちわ」
一番端から声がする。僕は聞いた。「君はだれ?」
「ボクは、いっとうしょうって書いた丸い紙のメダルだよ」
その次に並ぶ誰かの声もした。
「オレっちは、優勝って書いた賞状だっぺ」
みんな次々に自己紹介してきて追いつかない。えっと、黒くて太くて大きいのがタテさん。ノッポでスマートでデンって立ってるのがトロフィーさん。
最後に僕の隣りに、おんなじ傾いて並ぶ誰かが控えめに自己紹介した。
「えっと、わっちは銅メダルでありんす」
よく見ると、銅メダルさんと僕は似ている。いや似てるというより、模様と色が違うだけでソックリだ。
僕は、みんなから自分が【銀メダル】だと教えてもらった。
「どうして、みんなは自分を知ってるの?」ってたずねると、みんなはこう言った。
「この部屋には長老のカメ吉じいさんがいるからだよ。物知りで何でも教えてくれるんだ」
長老のカメ吉じいさんは、少し離れた場所の透明な水槽って中にいる。年寄りだからあまり動かないようだ。
僕はカメ吉じいさんに挨拶した。
「僕は銀メダルです!宜しく!」
カメ吉じいさんは少し不恰好だけど、まあるい形をしている。みんなが「カメ吉じいさんは怖がりだから、人間が水槽を叩くと、まあるい中に顔を隠しちゃうんだよ」って笑いながら教えてくれた。
様子を見ていると、カメ吉じいさんは、顔をユルリとコチラに向ける。
「君は新しいメダルじゃね?」
遠いのに、すぐ近くで声が聞こえる。みんなはカメ吉じいさんはテレパシーってヤツで会話をすると教えてくれた。凄いぞ、カメ吉じいさん!
カメ吉じいさんは「お前が、この中で一番エラい!」と言う。
どうやら僕はオリンピックって大会の銀メダルらしい。更に詳しく聞くと、みんなは、この部屋に住む『アンリちゃん』って女の子がマラソンで走ったから連れてこられたそうだ。僕もそうだとタテさんは言う。
端っこの紙でできたメダル君なんかアンリちゃんが幼稚園の時に、かけっこで連れてこられたそうだ。紙だからヨレヨレ。「当時は一人ぼっちで寂しかったなあ~」と昔を語った。
小学生、中学生、高校生、大学生時代、よく分からないけど、それぞれみーんないる。
その後、誰が一番エラいのか会議が始まった。カメ吉じいさんは僕が一番エラいって言っていた。
でも、銀だから一番じゃないと嫌味を言われ、優勝じゃないって、一番と優勝が僕をバカにするんだ。アタマにくる!
「まあまあ、落ちつくのじゃ」
カメ吉じいさんの声がした。
「問題は大会の大きさじゃよ」
優勝のトロフィーさんが、顔をしかめる。
「大きさ?」
「そうじゃ、銀メダルはオリンピックって世界大会じゃからな」
例え優勝や一位でも、みんなの大会は小さい。やっぱり僕が一番エラいんだ。
「えっ、へん!」
僕はエラぶって胸を張った。
そんなこんなで月日は流れ、僕はみんなと話すのが楽しくなって、みんなといるのが大好きになった。エバることなんか忘れちゃうぐらいだ。
ところがある日、アンリちゃんが久しぶりに部屋に現れて、紙のメダル君を箱に落とした。それだけじゃなくて、みんな四角い大きな箱に次々と連れていかれる。
「嫌でありんす!」
隣の銅メダルさんも箱につめられて、いよいよ僕の順番がきた。
アンリちゃんは僕を手に持って、じっと見つめた。
久しぶりの鼻さんが叫ぶ。
「あっ、またくるぞよ!」
目さんも叫んだ。
「あー、忙しいったらありゃしない!今日もあの娘が走ってくる」
(あの娘?)ハッと思い出した僕はドキドキした。(あの娘だ!また、あの娘に会える!!)
アンリちゃんの目からキラキラした娘が僕に落ちてくる。今度はいっぱい落ちてきて、僕はビショ濡れだ。
「やあ、こんにちわ」
僕は娘に話しかける。
「また、会えたね」
すると、娘は怖い顔をして僕を睨んだ。
「アンタだれ?アンタなんか知らない」
(どうして?僕を覚えていないの?)僕は娘に聞いた?「君はだれ?」
不機嫌そうに答える娘。
「あたいは、わるいみず」
確か僕が会ったのは、いいみずさんだ。名前が違う。彼女は違う。キラキラした姿は似ていても、よく見ると表情が違った。
それを最後に、僕は暗い箱につめられた。
ずっと、ずーと暗い箱の中で、みんなは重なり合って落ち込んで口も聞かない。だから僕も喋るのをやめたんだ。
だけど、またみんなで明るい場所で笑いたい。
どこからか、カメ吉じいさんの低い声がする。
「みんなよく聞け、アンリちゃんはもう走れないし歩けない。交通事故で足が動かなくなってしまった」
(走れないし歩けない?)
(ウソ……だろ)
ザワつき始める箱の中。みんなが暗い声で言った。「きっと、もう明るい場所には出れないよ」
「そうだね……」
みんなと一緒。僕も全て諦めた。もう、ずっと暗い場所にいるんだと沈んだ。
あれから、どのぐらい経ったんだろう?もう、遠い昔のような気がする。
そんな日々が続いたある日、突然、箱が開いて明るくなった。
忘れていた明るい世界。眩しい、凄く眩しい!
白い手が伸びてきて、次々にみんなが光の中に吸い込まれて消えてゆく。
(みんな、どこに行くの?待って、行かないで!怖いよ!)
いよいよ僕の順番だ。上から伸びてきた手が僕を掴み上げた。だけど、そこにいたのは……。
アンリちゃん?アンリちゃんが僕を見ている。
突然、鼻さんが叫んだ。
「おい、くるぞよ!」
目さんも叫ぶ。
「きたきた、あの娘が走ってくるよーっ!」
きっと、わるいみずだ。僕はビクビクしながら娘を待つ。
やがてキラキラ輝きながら、娘が僕の上にポタポタ落ちてきた。とてもキレイだ。だけど……。
僕は恐る恐る娘の顔を見た。娘はニッコリと笑っている。怖い顔じゃなくて優しい表情をしていた。
僕は娘に聞いた。
「君はだれ?」
にこやかに答える娘。
「久しぶりだね。わたしは、いいみず、だよ」
(うわーっ!)
(やったーっ!)
(また会えた!!)
どうしようもなく嬉しくてハシャギまくる僕。
その後、僕は、みんなと一緒に元の場所に戻ることができた。ホッと安心できる位置と場所。
でも、前とは違うことが一つある。なぜか僕の横に新入りがいることだ。
そいつは生意気そうで、金色にピカピカ輝いている。まだ自分が誰かも知らないらしい。
「おい、オレ様はだれだ?」
金色のヤツが大声で怒鳴るように聞いた。
カメ吉じいさんが水槽の中でモゾモゾ動く。カメ吉じいさんはこう言った。
「アンタは、パラリンピックの金メダルじゃよ」
紙のメダル君が叫ぶ。
「えっ、てことは一番エラいの?」
カメ吉じいさんは珍しく首を横に早く振った。
「いや、違う!アンリちゃんは、お前達を獲得するために一生懸命に走って、毎日、毎日、走って走って努力して……走ってもダメな日は泣いて、それでもまた努力して……」
カメ吉じいさんの声が変だ。震えている。僕も、みんなも静かにカメ吉じいさんの言葉を待つ。
「だけど、今度はダメじゃ、倒れてしまった。けどな、アンリちゃんは強い娘で、涙を拭いて、また立ち上がって走りだしたんじゃ!そんなアンリちゃんが獲得したお前達は、彼女にとったら努力の宝物じゃ!人生そのものなんじゃ!そんなお前達に順位などない!みんな一番で、みんながエラい!優勝の花丸じゃ!!」
カメ吉じいさんの言うことは、正直に言って半分も分からない。でも、とても大切なことを言っている。それだけは、こんな僕にも分かった。
最後の『みんなが一番で、みんながエラい!優勝の花丸じゃ!!』だけ意味が分かって嬉しくなる。
みんなにも、そこだけ分かったのか
「いやっほーい!!」
明るい場所で、全員がすごく喜んでいる。もちろん、僕だってバンザイしたいぐらいだ。
誰が一番じゃなくて、みんなと明るい場所で、みんなとお喋りできて、それが一番嬉しかった。
隣の金メダルは不満そうだけど、大丈夫!みんなと打ちとけるのはすぐだ。
だって、みんな優しいし、気のいい楽しいヤツらばかりだからさ。
アンリちゃんがニコニコしながら僕らを眺めている。
笑顔のアンリちゃん、大好きだよ。
僕はまた、アンリちゃんから、いいみずさんが落ちると信じてる。だってアンリちゃんは必死に頑張って僕らを集めてくれたんだから。
会いたいな、いいみずさん……。
きっと、あの娘が落ちるたびに僕らは仲間を増やすんだろうな。
僕は今、密かに計画していることがある。今度いいみずさんに会ったら絶対に告白しようと心に決めた。
僕の上にいる何かが「あれは、みんな人間だよ」って教えてくれた。
「君はだれ?」と聞いてみる。すると「オレは君をぶら下げる首かけリボン」と答えた。
僕は今、いっぱいの人間?達に囲まれて、ちょっとだけ高い場所にいる。隣はもっと高いし、そのまた隣は僕より低い。
すると何かが僕を掴んで上げた。「今度はなに?」首かけリボンさんに聞いてみる。首かけリボンさんは「今、君を掴んでいるのは人間の女の子の手」って教えてくれた。
「いたたっ!痛いよ!」
すごく痛くて、僕はまた首かけリボンさんに聞いた。
「女の子は何をしてるの?」
首かけリボンさんは笑いながら答える。
「歯で噛んでるねー」
ったく、たまったもんじゃない!プンプンだよ!
歯って憎らしいヤツが僕から離れると、女の子はじっと僕を見つめる。
「こんにちわ、わたしは目って名前なの」
いきなり、目さんが挨拶してきた。
「わがはいは鼻であるぞよ」
「さっきは噛んでごめんね。ウチは口言うねん」
わー、みんないい人そう。僕もみんなに挨拶しようとしたけど(僕はだれ?)名前が分からない。
突然、鼻さんが叫んだ。
「おい!力が入って奥が痛い!今日はあの娘がやってくるぞい!」
目さんも叫ぶ。
「あー、ホント!あの娘が奥から走ってきた!」
(あの娘ってだれ?)たずねたかったけど、それより前に、その娘が僕に落ちてきた。
ちょっと暖かくてキラキラして、すごくカワイイ娘。僕は自分の上に乗っかってる娘に聞いた。
「君はだれ?」
娘は笑顔で答える。
「わたし?わたしは、いいみずって名前だよ」
とてもドキドキする。僕は、いいみずさんをとても大好きになった。
だけど、せっかく仲良くなれたのに、いいみずさんは「さよなら」と言って僕の上からいなくなってしまった。
目さんが言った。
「わたしは、あの娘をよく知ってるけど、いつ現れるか分からないの」
「そっか」
何だか、しょんぼりだ。
それから僕は広いどこかに連れていかれた。なんか、いっぱい並んでる場所に斜めに傾けて置かれる。
「新入りさん、こんにちわ」
一番端から声がする。僕は聞いた。「君はだれ?」
「ボクは、いっとうしょうって書いた丸い紙のメダルだよ」
その次に並ぶ誰かの声もした。
「オレっちは、優勝って書いた賞状だっぺ」
みんな次々に自己紹介してきて追いつかない。えっと、黒くて太くて大きいのがタテさん。ノッポでスマートでデンって立ってるのがトロフィーさん。
最後に僕の隣りに、おんなじ傾いて並ぶ誰かが控えめに自己紹介した。
「えっと、わっちは銅メダルでありんす」
よく見ると、銅メダルさんと僕は似ている。いや似てるというより、模様と色が違うだけでソックリだ。
僕は、みんなから自分が【銀メダル】だと教えてもらった。
「どうして、みんなは自分を知ってるの?」ってたずねると、みんなはこう言った。
「この部屋には長老のカメ吉じいさんがいるからだよ。物知りで何でも教えてくれるんだ」
長老のカメ吉じいさんは、少し離れた場所の透明な水槽って中にいる。年寄りだからあまり動かないようだ。
僕はカメ吉じいさんに挨拶した。
「僕は銀メダルです!宜しく!」
カメ吉じいさんは少し不恰好だけど、まあるい形をしている。みんなが「カメ吉じいさんは怖がりだから、人間が水槽を叩くと、まあるい中に顔を隠しちゃうんだよ」って笑いながら教えてくれた。
様子を見ていると、カメ吉じいさんは、顔をユルリとコチラに向ける。
「君は新しいメダルじゃね?」
遠いのに、すぐ近くで声が聞こえる。みんなはカメ吉じいさんはテレパシーってヤツで会話をすると教えてくれた。凄いぞ、カメ吉じいさん!
カメ吉じいさんは「お前が、この中で一番エラい!」と言う。
どうやら僕はオリンピックって大会の銀メダルらしい。更に詳しく聞くと、みんなは、この部屋に住む『アンリちゃん』って女の子がマラソンで走ったから連れてこられたそうだ。僕もそうだとタテさんは言う。
端っこの紙でできたメダル君なんかアンリちゃんが幼稚園の時に、かけっこで連れてこられたそうだ。紙だからヨレヨレ。「当時は一人ぼっちで寂しかったなあ~」と昔を語った。
小学生、中学生、高校生、大学生時代、よく分からないけど、それぞれみーんないる。
その後、誰が一番エラいのか会議が始まった。カメ吉じいさんは僕が一番エラいって言っていた。
でも、銀だから一番じゃないと嫌味を言われ、優勝じゃないって、一番と優勝が僕をバカにするんだ。アタマにくる!
「まあまあ、落ちつくのじゃ」
カメ吉じいさんの声がした。
「問題は大会の大きさじゃよ」
優勝のトロフィーさんが、顔をしかめる。
「大きさ?」
「そうじゃ、銀メダルはオリンピックって世界大会じゃからな」
例え優勝や一位でも、みんなの大会は小さい。やっぱり僕が一番エラいんだ。
「えっ、へん!」
僕はエラぶって胸を張った。
そんなこんなで月日は流れ、僕はみんなと話すのが楽しくなって、みんなといるのが大好きになった。エバることなんか忘れちゃうぐらいだ。
ところがある日、アンリちゃんが久しぶりに部屋に現れて、紙のメダル君を箱に落とした。それだけじゃなくて、みんな四角い大きな箱に次々と連れていかれる。
「嫌でありんす!」
隣の銅メダルさんも箱につめられて、いよいよ僕の順番がきた。
アンリちゃんは僕を手に持って、じっと見つめた。
久しぶりの鼻さんが叫ぶ。
「あっ、またくるぞよ!」
目さんも叫んだ。
「あー、忙しいったらありゃしない!今日もあの娘が走ってくる」
(あの娘?)ハッと思い出した僕はドキドキした。(あの娘だ!また、あの娘に会える!!)
アンリちゃんの目からキラキラした娘が僕に落ちてくる。今度はいっぱい落ちてきて、僕はビショ濡れだ。
「やあ、こんにちわ」
僕は娘に話しかける。
「また、会えたね」
すると、娘は怖い顔をして僕を睨んだ。
「アンタだれ?アンタなんか知らない」
(どうして?僕を覚えていないの?)僕は娘に聞いた?「君はだれ?」
不機嫌そうに答える娘。
「あたいは、わるいみず」
確か僕が会ったのは、いいみずさんだ。名前が違う。彼女は違う。キラキラした姿は似ていても、よく見ると表情が違った。
それを最後に、僕は暗い箱につめられた。
ずっと、ずーと暗い箱の中で、みんなは重なり合って落ち込んで口も聞かない。だから僕も喋るのをやめたんだ。
だけど、またみんなで明るい場所で笑いたい。
どこからか、カメ吉じいさんの低い声がする。
「みんなよく聞け、アンリちゃんはもう走れないし歩けない。交通事故で足が動かなくなってしまった」
(走れないし歩けない?)
(ウソ……だろ)
ザワつき始める箱の中。みんなが暗い声で言った。「きっと、もう明るい場所には出れないよ」
「そうだね……」
みんなと一緒。僕も全て諦めた。もう、ずっと暗い場所にいるんだと沈んだ。
あれから、どのぐらい経ったんだろう?もう、遠い昔のような気がする。
そんな日々が続いたある日、突然、箱が開いて明るくなった。
忘れていた明るい世界。眩しい、凄く眩しい!
白い手が伸びてきて、次々にみんなが光の中に吸い込まれて消えてゆく。
(みんな、どこに行くの?待って、行かないで!怖いよ!)
いよいよ僕の順番だ。上から伸びてきた手が僕を掴み上げた。だけど、そこにいたのは……。
アンリちゃん?アンリちゃんが僕を見ている。
突然、鼻さんが叫んだ。
「おい、くるぞよ!」
目さんも叫ぶ。
「きたきた、あの娘が走ってくるよーっ!」
きっと、わるいみずだ。僕はビクビクしながら娘を待つ。
やがてキラキラ輝きながら、娘が僕の上にポタポタ落ちてきた。とてもキレイだ。だけど……。
僕は恐る恐る娘の顔を見た。娘はニッコリと笑っている。怖い顔じゃなくて優しい表情をしていた。
僕は娘に聞いた。
「君はだれ?」
にこやかに答える娘。
「久しぶりだね。わたしは、いいみず、だよ」
(うわーっ!)
(やったーっ!)
(また会えた!!)
どうしようもなく嬉しくてハシャギまくる僕。
その後、僕は、みんなと一緒に元の場所に戻ることができた。ホッと安心できる位置と場所。
でも、前とは違うことが一つある。なぜか僕の横に新入りがいることだ。
そいつは生意気そうで、金色にピカピカ輝いている。まだ自分が誰かも知らないらしい。
「おい、オレ様はだれだ?」
金色のヤツが大声で怒鳴るように聞いた。
カメ吉じいさんが水槽の中でモゾモゾ動く。カメ吉じいさんはこう言った。
「アンタは、パラリンピックの金メダルじゃよ」
紙のメダル君が叫ぶ。
「えっ、てことは一番エラいの?」
カメ吉じいさんは珍しく首を横に早く振った。
「いや、違う!アンリちゃんは、お前達を獲得するために一生懸命に走って、毎日、毎日、走って走って努力して……走ってもダメな日は泣いて、それでもまた努力して……」
カメ吉じいさんの声が変だ。震えている。僕も、みんなも静かにカメ吉じいさんの言葉を待つ。
「だけど、今度はダメじゃ、倒れてしまった。けどな、アンリちゃんは強い娘で、涙を拭いて、また立ち上がって走りだしたんじゃ!そんなアンリちゃんが獲得したお前達は、彼女にとったら努力の宝物じゃ!人生そのものなんじゃ!そんなお前達に順位などない!みんな一番で、みんながエラい!優勝の花丸じゃ!!」
カメ吉じいさんの言うことは、正直に言って半分も分からない。でも、とても大切なことを言っている。それだけは、こんな僕にも分かった。
最後の『みんなが一番で、みんながエラい!優勝の花丸じゃ!!』だけ意味が分かって嬉しくなる。
みんなにも、そこだけ分かったのか
「いやっほーい!!」
明るい場所で、全員がすごく喜んでいる。もちろん、僕だってバンザイしたいぐらいだ。
誰が一番じゃなくて、みんなと明るい場所で、みんなとお喋りできて、それが一番嬉しかった。
隣の金メダルは不満そうだけど、大丈夫!みんなと打ちとけるのはすぐだ。
だって、みんな優しいし、気のいい楽しいヤツらばかりだからさ。
アンリちゃんがニコニコしながら僕らを眺めている。
笑顔のアンリちゃん、大好きだよ。
僕はまた、アンリちゃんから、いいみずさんが落ちると信じてる。だってアンリちゃんは必死に頑張って僕らを集めてくれたんだから。
会いたいな、いいみずさん……。
きっと、あの娘が落ちるたびに僕らは仲間を増やすんだろうな。
僕は今、密かに計画していることがある。今度いいみずさんに会ったら絶対に告白しようと心に決めた。
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