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1:子供時代

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「なんで食べてないの!?」
俺はアラクの部屋で絶叫した。

数日前に持たせたジャーキーもそろそろ無くなるだろう、とアラクにジャーキーを出させたのだが、俺があげた時と全く同じ状態で返ってきた。しかも、ジャーキーの袋はご丁寧にもアラクの部屋の唯一の鍵付き引き出しから出てきたのだ。
おやつを食べずにとっておく犬──というのは前世のテレビで見たことがあるが、それを人間がするなんて信じられない。
アラクは俺の声にびくりと肩を跳ねさせ、伺うように俺を見てくる。
(って、何怒鳴ってるんだ。落ち着け、俺)

言われてみれば、アラクに渡しはしたけど「これからも食べていい」とは言ってなかった。
俺の意地悪で「何勝手に食ってるんだ」と罵られることを恐れたのだろうか。これではだめだと深呼吸して、俺はアラクにリードをつけながら言った。
「いくら《犬》と言えど、俺の飼い犬がそんなに貧相だと困る。毎日必ず5つは食べろ。命令だ!」
俺の言葉に、アラクはぱちぱちと瞬きをして、それから頷いた。


俺のアラクと友達作戦は、地道に、それでいて着実に進んでいた。
まず、これまで通りにアラクに振る舞うものの、アラクの尊厳を損なう命令はしないようにした。夕方、一緒にいる時もボール遊びやかけっこをするようになった。
そして徐々にアラクのお世話をしてゆく。それは「ブラッシングしてやろう」だとか「撫でてやろう」だとか、あくまでも俺と親近感を感じそうなスキンシップ。アラクに疑われないためにも、徐々に、徐々に。この悪役王子、お世話したい気分になったのかな~という感じの地道な変化。
それは来月の俺の快気祝いのティーパーティーで、アラクを犬から人間扱いにする為だ。

この俺がいきなりアラクを人間扱いしようものなら、子供時代に禍根を残し、アラクは大人になっても「あの頃はお世話になったな」と復讐されかねない。だから犬扱いでもスキンシップをたくさんこなして愛犬扱いにして、そうして俺がアラクを気に入っていることにしてから、俺はティーパーティーで『お気に入りの人間は普通犬扱いをしない』という当然のことを知った風に見せかけて、アラクとの関係をやり直すというものだ。
あくまでも悪気はなかったし、犬扱いも愛ゆえであると。きっと俺と年も変わらないアラクは、大人になったら詳しいことも忘れて(あんなこともあったな)と流してくれるに違いない。
「よしよ~し」
だから俺は今日もアラクのサラサラの髪をブラッシングし、ジャーキーを与え、その来る日に向けて胸を高鳴らせるのであった。
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